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装備制限<王>~知られざる真実……じゃないだろ!そーいうことは先に言え~


 誰にも開けられなかった王櫃の封印が解かれた。

 それこそがギルダースが王の直系である証。

 沈黙が広がる中――。


 僕は僕より背の高い王櫃によじ登り、よっこいしょ!

 箱の中にダイブ!

 尾羽を揺らしつつ中身の確認を開始したのだが。

 アランティアがうげ!? っと口を開き叫んでいた。


「ちょちょちょ! なにやってるんすか、マカロニさん!?」

『は? 王の魔術を回収するに決まってるだろう?』

「いやいやいや! この空気でよくそんな堂々と横取りできますね? ふつーは気を遣って、ここはギルダースさんに中の確認をして貰う流れでしょうが!」


 それはふつーの状況での話である。


『アホか! 今がどーいう状況か分かってるのか!? 天地創造の時代から神なんてやってる”創世の女神”とやりあう時に、空気なんて読んでる暇があるわけないだろう! 遊びじゃないんだぞ!』

「そ、そりゃそうっすけど……」

『国のゴタゴタやら王家のスキャンダルなんて後でやれ!』


 僕の正論に賛同するようにメンチカツも衣色の獣毛を揺らし。


『ま、そういうこったな。それで、王家の魔術ってのはどんなだったんだ相棒』

『とりあえず……これが、たぶん王族連中あいつらの魔術式を妨害している契約書だな』


 ギルダースを無能扱いしていた王族連中の魔術が封印されていたのは確実。


 そして人類の種族適性は個ではなく群れ。

 軍隊や騎士団など、いわゆる群れになればなるほど強い種族だとは、今までの経験から予想はできている。

 更に王族とは基本的に指揮官職であり、支援職バッファー


 封印されている王族の魔術を解除するのは良作。

 家臣という群れを操作し強化する、集団バッファーを確保できることになる。

 王の直系ではない彼らだが、分家の王家や末端王家の血は母親も持っているのだろう――少しでも王の血が入っていれば王族は王族だ。


 あくまでも能力特性としては<王族>をちゃんと保有している、と思われる。


 これは問題ないのだが……。

 僕は王族の魔術を封印している契約書の印章と名を確認し、ついジト目を作ってしまう。


 王族の魔術を封印する契約を神と結んだのは、現国王だったようなのだ。

 そしてこの契約書をここに封印したのは、このダンジョン都市を管理する君主ハイン。

 共犯だったのだろう。


 なにやらここでも僕らがあずかり知らぬところで動きがあったのだろうが……これはギルダースが追放されるときの話。

 ようするに昔の事だ、今僕が掘り返す必要もない。


 というか、面倒だから関わり合いたくない。

 事実を公表するのは大陸の危機を救った後でいい。

 具体的には僕が利益を回収した後で、この大陸をすたこらさっさとした後でいい!


 なので王の玉璽を回収しながら僕は契約書にフリッパーを乗せ、ペペペペ!

 王と女神との契約書に介入するべく、僕は全力でスキルを発動!


『僕の詐欺師のスキル<私文書偽造>で書き換えて……っと! よーし! 成功だ! これで君主ハインが朝の女神ペルセポネーの指示で封印していた、王族の魔術封印は解けたはずだ。誰でもいい、ちょっと試してみてくれ』

「それではわたしが――いと慈悲深き朝の輝きを……」


 僕の言葉を確認するように第二王子ジャスティンが手を翳し。

 詠唱。

 手のひらの先から、朝の陽ざしを感じさせる陽光を発生させていた。


 これは朝の女神の魔術。

 朝属性の<照明魔術>だろう。


「たしかに、魔術が発動できるようになっておりますね」

『おまえらも自分の出自やら今後について色々とあるだろうが、そーいう面倒なのは女神との戦いが終わった後にしろよ? この国の連中がぐだぐだ言いだしたら”僕は無条件で抜けてもいい”って契約をしてあるからな?』


 王族に思うところはあるだろうが、今は全力で対処にあたれ。

 周囲にもそう伝える意図のある言葉だと察したのだろう――。

 第二王子ジャスティンは恭しく頷き。


「分かりました、マカロニ陛下がそうおっしゃるのでしたら、本当にそういう契約をしていたのでしょう。わたしもそういうことにしておきます。聞いての通りだ、おまえたちそれぞれに思いはあるだろうが、ついてきてくれるな?」


 第二王子は豪商の父のカリスマを継いでいるのだろう。

 家臣たちに異論はないようだ。

 一番まともな王子だけあり、指揮を任せても問題なさそうである。


 だが僕はじっとこいつらを眺め。


『おまえら、なんか勘違いしてないか?』

「と仰いますと」

『さっきのぐだぐだ言いだしたら抜けてもいいって契約。マジでしてあるからな? この場で面倒な話をしたら、本気で抜けるから気をつけろよ』


 え? と全員が僕を向くが知らん顔。

 アランティアが頬を掻きつつ告げる。


「あー……マカロニさんの場合はガチで抜けちゃうでしょうから、ほんとうに気を付けてくださいね?」

「し、承知いたしました――ところで、話題を逸らす意図はないのですが」

『ん? なんだよ』

「その王櫃に封印されていた王族の魔術というのは、何だったのでしょうか? 父上はどうやらその王櫃を実の息子であるギルダースに残した……我らの魔術封じの契約書とは別に、父君が残されていたギルダースへ託したなにかがあるのかと思うのですが」


 それこそが王家の秘宝ともいえるか。

 王櫃の中から顔を出した僕はニヒィ!


『まずは想定されていたアイテム、東大陸の民と王との契約魔術に使う玉璽ぎょくじだな。これは僕に必要ないからギルダースに渡すとして、本命はこれだ』

「ちょい待っちょくれペンギン陛下。ワイはこの国を継ぐつもりなぞ――」

『はい、警告!』


 王櫃の中から顔を出したままの僕は、ビシっとフリッパーでギルダースを指差し。


『ぐだぐだ言いだしたら抜けるって言ったよな? 今のは見逃すが、おまえだってこの契約の対象だからな! そーいうのは全部終わった後にしろ!』

「だぁああああああぁぁ! きさんの考えは見え見えじゃ! もしワイがこの国の王となったら、大きな土地を確保できたも同然っ。便利にこき使える、下請けを任せられる土地にしようとしてるだけじゃろう!」

『あぁぁぁ、あぁぁぁ! もし聞いちゃったら契約違反になるからなにもきこえませーん!』


 ギルダースが拳に青筋を浮かべ、こん糞ペンギンがっ……っと歯を剥き出しにしているが。

 この地下ダンジョンをワイン貯蔵庫……”カモノハシさんのワイン製造迷宮”に改造したいメンチカツは僕の味方。

 ヤクザ睨みでギルダースを見上げ。


『王様ぐらいいいじゃねえか、なんなら代わりにオレがなってやってもいいぜ?』


 ……。

 いや、それはそれで大問題だろう。

 だがメンチカツは自分の言葉に天命を見たのか。


 ふっとニヒルにカモノハシスマイルを浮かべ、ゴムクチバシをグワグワグワ!


『そうか、王様か。そうしたらオレも相棒と並べるからな――それも悪くねえ』


 政治を少しは知ってるアランティアが顔を引きつらせ、僕に向かい首を横にぶんぶんぶん!

 止めろ。

 いますぐにでもなんとかしろと、全力アピールである。


 おまえのせいだぞと僕はギルダースにアイコンタクトを送り。

 さすがにメンチカツが王になるのは問題外と判断したのだろう……王になりたくないギルダースは、三白眼を尖らせ、ぐぬぬぬぬぬ!

 しかしガハハハと笑い。


「ま、まあ! ワイも責任を果たさなければならんじゃろうからな! とにかくじゃこの話は全部終わった後、そーいうことじゃな?」

『おう! 王になりたくねえならすぐに言いな、オレがお前さんの代わりにやってやるよ』


 照れ臭そうに鼻を擦っているメンチカツさん的には――。

 ”しゃあねえから舎弟の代わりにやってやるよ”ぐらいの気分なのだろうが。

 悪意とか善意とか関係なく、こいつが国を率いたらまず間違いなく国は亡ぶ。


 なにしろこいつ、女神ダゴンがステータス振り分けでやらかしてるからなあ……。


 僕も話題を変える必要があるだろう。

 話を戻すように王櫃をガサガサゴソゴソ。


『あと封印されていたのは――魔術発動に必要な魔力消費を抑える<装飾品>に分類される魔道具だな』


 アランティアが、ん? っと眉間にしわを寄せ。


「王族の魔術が封印されてる筈っすよね?」

『それがこれなんだろう』

「どーいうことっすか?」

『歴代の王はおそらく魔力容量……最大MP(マリョクポイント)みたいなもんが極端に少なかったんだろう。だから代々の王の直系は、この魔道具を用いて魔術を発動できるようにしていた。直系のギルダースもこれを装備すれば問題解決、たぶん普通に王族として、王族の魔術を発動できるようになっていた筈だ――』


 もっとも、ギルダースは基礎レベルを大幅に上げることで最大魔力の限界値問題を克服。

 ふつーに魔術を使えるようになっているが……。

 まあ獣王でレベリングをするなんて例外中の例外だ。


 本来ならばこの魔道具を継承することで、ギルダースは王族として認められるという寸法だったのだろう。

 それが君主ハインと国王の計画だったのだと推測できる。

 そうなるとギルダースを追放した理由は……。


 まあ、暗殺を恐れたか……或いは、王がこの国を信用できなかったためか。


 代々の王が、自らの子供にこの消費魔力を抑える魔道具を継承していたのならば――今の国王とて同じはず。

 継承されるまでの間はおそらく、ギルダースと同じく無能と罵られていた事だろう。

 だからきっと、王様はこの国が嫌いなのだ。


 思い入れなどない母国にて、魔術なしの無能と言われ育ち。

 王位を継承した途端に周囲は手のひらを返し始め……。

 かつて自分を無能と罵った人間の心変わりに、失望したのではないだろうか。


 もしかしたら東大陸が沈みそうになっている今、この現状も……。

 ……。

 まあ憶測で語っても仕方がない。


 それよりもなによりも。

 この装飾品……腕輪状になっているのだが、たぶん僕のフリッパーにも装備できる。

 そしてこれは、魔術使用の際の消費魔力を”大幅に”減らす効果。


 装備制限は王であること。

 ただし、それがどの国とは指定されていない。

 つまり――。


 僕は周囲を見渡し――ササササ!

 そのまま腕輪をフリッパーにはめ――よし!

 やっぱり装備できる!


『なあギルダース。契約通りこれは僕が回収しちゃっていいんだろう?』

「好きにせい」


 よぉぉぉおおぉぉし!

 こいつ、この装備の価値に気付いていない!

 今現在、僕が抱えていた大きな問題を覚えているだろうか。


 逸話魔導書のうち二冊。

 三獣神と呼ばれる異世界神の力を借りる大魔術の致命的な欠陥。

 消費魔力がアホみたいに高い! 問題である。


 あの足枷がこれで解決する!


 朝の女神との戦いにおいても、かなりのアドバンテージとなるだろう。

 僕のペンギン顔に、ゲヘヘっと品のない笑みが浮かびかけていた――。

 その時だった。


『どうやら――本当に少しは勝機が生まれ始めたようですね』


 天から声が届いていた。

 この無駄な美声は間違いない、あの変人。

 主神レイドの声である。


 事情を知らぬ人間たちは神の声を聞いただけでバッドトリップ……重厚過ぎる神の声に中てられ<恐慌状態>に陥るが。

 僕がすかさず緊急結界を張り――メンチカツが範囲状態異常回復魔術で緊急治療。


 声だけでこれだ。

 これだから神って連中はっ。


『おっとすみません、急いでいたものでして――周囲への影響を計算に入れませんでした。お二人には感謝を』

『って! いったい何の用だよ!』

『朝の女神もやはり引く気はないそうなので、これから戦闘になるでしょう。彼女は真っ当な神性。あなたがたの命は取っても、死の世界を操る力で蘇生はしてくれるそうです』


 やはり良識のある女神はどっかの女神とは違うらしい。

 だが、それでは少し茶番のようだが。


『ご安心ください……というのも変な言い方ですね。ともあれ、お願いです。こちらでもできる範囲での協力をしますので絶対に勝ってください』

『ん? やっぱりあんたでも東大陸が沈むのは困るのか?』

『少しは困りますが、あくまでも少しですね。問題なのは彼女が勝ってしまった場合でしょう。マカロニさん……もしあなたが勝てば彼女も座に留まると約束してくれたのですが、そうでない場合……今回の騒動の責任を取って”創世の女神”の座から降りてしまうそうなので。それは少し以上に困った事態になるかと』


 おそらく今回の事件の原因は”神への願いと人類との契約”だ。


 朝の女神が敬虔な信徒の願いを叶えた結果、今の混乱が起きている。

 あくまでも人類の声に応えただけである。

 アシュトレトなら、ぬしらが悪い! 妾は知らぬ! で開き直って終わりの案件でもある。


 だがまじめな女神ならばそうもいかない。

 その責任を取るため、そして自らの信徒が起こした過ちならばそれを正すべく、信念をもって動いているのだろう。

 だからこそ東大陸の浄化とリセットを終えた後、騒動の責任を取り創世の女神から降りるといっているのだ。


 女神の加護が消失する。

 ようするに、朝属性の魔術が使えなくなる可能性もあるのか。

 まあ、問題と言えば問題だし茶番ではなくなるが。


 僕はあまり朝の女神の魔術を使っていない。

 わりとどーでもいいので、ついジト目で空を見上げてしまう。


『絶対に勝ってくださいって言うほどか?』

『この世界は彼女たちの加護で成り立っていますからね。朝の女神が座から降りると、この世界から永久に朝がなくなります』


 ……。

 は!?

 なんか糞面倒なことを言いだしたぞ、おい。


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