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第4話

「ところで、その頭はどうされたのだ?」


以前王城で見かけた時は、短いとはいえ艶やかな黒髪であった宰相である。しかし、今日の髪型···というか髪がなかった。


今回の訪問は演舞会の事件に関する謝罪や説明であろうと考えており、王城からの封書に目を通してすぐに彼の訪問に応じたのである。


まさか謝罪のために髪を剃りあげたとでもいうのだろうか。


そうであれぱいささか残念でならない。


自分はこの若き宰相を興味深く見守っていた。


有事の際に常にこちらの度肝を抜く結果を出すその手腕に、どういった思考や判断があるのか見てみたかったのだ。


才能のなせる技か、はたまた明晰な頭脳による計略か、同じ為政者なら関心を持たずにはいられないだろう。


しかし、頭髪が抜け···恵まれない私の前で、髪を剃って詫びるという行為はどうなのだと思う。


ぶっちゃけ、何度剃ろうがおまえはまた生えてくるだろう。なんだそれは?嫌味でしかないとわからないのか?と言いたくなる。


そんな人の心の機微もわからんような奴に、自分は期待していたのだろうか。


「こんな話をご存知でしょうか?あるギルドが統計(アンケート)をとったそうです。」


んん?


何やら突然話を始めたぞ。


私の質問に対する返答はどうした?


無視するつもりなのか?


いや、ならばその髪型にしてきた意味がないではないか。


「自信と優越感に溢れると判断されるルックス···より強く男性的に見え、知的で狡猾な印象を植え付けられる髪型とは何かと。」


コイツは何を言っているのだ?


私はこの男の話の趣旨が読めなかった。


「··························。」


「別の角度から見てみましょう。」


無言でいる私を見ながら奴はさらに話を進めた。


そこには嘲笑や侮蔑するような表情は浮かんでいない。


「過去の偉人たちの肖像画を可能な限り想像してみてください。」


「···過去の偉人たちだと?」


「ええ。」


偉人の肖像画などあまり注視したことはなかった。


記憶をたどり、学生時代に目を通した書物や絵画を思い出す。


ハッとした。


頭の中に浮かぶのは···ハゲた奴ばかりだった。


私の表情を見て微笑んだ奴はさらに言葉を続けた。


「世界の様々な国では人相学や顔相学、骨相学なるものが発達しているそうです。あるタイプの人は知性に溢れ論理的思考力に優れている傾向にあり、さらに強運まで持っているとか。」


「······················。」


「あるタイプがどういった人のことか、聡明な大公閣下にはもうおわかりでしょう。」


「···ハゲか?」


「さすがです。」


「··························。」


コイツは本当に何なのだろうか。


ハゲている私にそのようなことを告げてどうするというのだ。


下手をするとケンカを売りに来たとしか思えないのだが···


「ある偉人たちの発言です。親愛なるハゲたちよ、ガッカリする必要はない。ハゲは自信を持っていて精力的だと。さらにハゲへの研究が盛んな某国の男性の13%がシェイブドヘッド、いわゆるスキンヘッドなのです。また、別の国では女性の半分以上がハゲをセクシーだと言っています。そんなハゲに私はなりたい。そう思ってやってみたわけですが、お気に触ったのでしょうか?」


···言葉が出なかった。


コイツは本当にどうかしているのではないだろうか。


まず、私に会いに来たのはそんな戯言を話すためではないはずだ。むしろ、機嫌を損ねるような仕込みをしてくるのは悪手ではないのか?


「貴殿は何を言っている?」


さすがにイラッとしてきた。


そろそろこの意味のない雑談を終わらせてやろうと思う。


演舞会の件でコイツを責めるのもどうかとは思っていたが、この無駄な時間を過ごさせた代償に少し虐めてやろうかと黒い感情がふつふつと出だしていた。


「大公閣下が、過去の私が行ったブラッディベア討伐について大変関心を持っていらっしゃるとうかがいました。せっかくの機会ですから、それを語らせていただこうかと思っております。この髪型はそのための布石だとお考えいただけましたら幸いです。」


「何?」


訝しげな顔をする私の前で、奴は指先同士を弾いて音を立てた。


いわゆる指パッチンというやつである。


すると、そのタイミングで奴の頭からみるみるうちに髪の毛が伸びだした。


「なっ!?」


「錬金術ですよ。」


文字通り、開いた口が塞がらなかった。


このような不可思議な現象を目の前で見せられるとは思いもよらなかったのである。


「れ、錬金術とは、錬成で何かを作り上げるものではなかったのか?」


髪が伸びるといった現象については百歩譲って錬金術だったとしよう。


しかし、先ほどまではその頭部に何もなかったのだ。これを見せるためにわざわざ剃ってきたとでもいうのだろうか?そして、錬金術は等価交換だという。何を対価として髪を錬成したのだろうか···私は、あわよくば自分の髪も錬成してもらえないかと、このときに淡い期待を抱いてしまった。


これがこの男の巧みな計略だとは思いもせずに···




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