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第3話

「そもそも、宰相閣下とは何者なのてしょうか?」


いまいち宰相の素性を把握しきれていないトムグリンは、何気なく大公閣下へと質問してみた。


「まあ、知らぬのも当然かもしれんな。」


大公閣下はそう言いながら、見事に禿げあがった頭をつるりと撫でる。


因みに、少し前まではフサフサとまではいかないものの、その頭には毛髪が存在していた。


今のような頭になったのは、ほんの数年くらい前の話だろう。そういえば、あの男が宰相に任ぜられたのもそのくらいのタイミングだった。


「奴は辺境の男爵家出身でな。錬金術士としての才を発揮して王都の大学院にまで通っておった。嫡男だが父親が健在なうちは実家に戻る気もなかったのであろう。しかし、ある時に人を食らう魔物···ブラッディベアの群れが大挙して領内を暴れまわり、多くの領民たちが相次いで襲われる事件があった。」


「その話は聞いたことがあります。確か犠牲者は千を超えたとか···」


「そうだ。王国内でも稀に見る凄惨な魔物の厄災(ディザスター)として恐怖を歴史に刻んだ瞬間だ。当時は男爵家を始め、王国や周辺の領から増援された騎士たちが対応した。しかし、いずれも大きな被害を受け、解決にこぎつけることはできなかったのだ。」


トムグリンはごくっと生唾を飲み込んだ。


貴族とは、有事の際に先頭に立って敵を排除する役目を担っている。魔物だけでなく、近隣諸国との国境に関しても同じだ。


先だっての戦争は大公閣下の側近におさまることができたため、運良く回避することができた。しかし、この先も平穏無事でいられるかはわからないのである。


「そんな凶暴なブラッディベアたちをどうやって退けたのですか?」


「その立役者が奴だ。今の宰相トゥクトゥ・ソリッドバッドが、帰省して過去に例のない討伐劇を演じた。」


「まさか、宰相閣下が一騎当千の猛者だったとか···」


「いいや、奴が行ったのは大規模な錬金術というものだ。そのときにブラッディベアの生息域に単身で赴き、奪毛を錬成で行ったらしい。」


「···だ、奪毛ですか?」


「そうだ、奪毛だ。」


「脱毛ではなく?」


「皆がそう思うだろうが、奪毛だ。」


「···············。」


「事後に現場検証を行った者から聞いたが、あれは抜けるといった生やさしいものじゃなかったそうだ。」


「奪毛して、凍死させたと?」


「いや、時期は春で冬眠から目覚めた直後だからこそ起こった厄災(ディザスター)だった。」


冬眠明けは空腹のため、雑食で特に肉食を好むブラッディベアは獰猛になる。


「では、ブラッディベアの死因とは?」


「そこがわからんのだ。ブラッディベアの毛を奪ったからといって、すぐに命にまで関わることはないだろうに。」


「詳細が気になりますね。」


「奴とゆっくりと話す機会があれば一度聞いてみたいと思っていた。しかし、それよりも先の戦争での交渉術にも興味を持たん訳にはいかないだろう。」


「こちらへ侵攻を始めた周辺諸国のすべてと停戦協定を結んだあれですね。」


「そうだ。しかも、相手はプライドが高く頑固なドワーフやエルフまでいる。何をどうしてあのような終結に持っていけたのか謎でしかない。結果的に我が国はほとんど犠牲を出すこともなかった。」


「何か、他の国々にとって魅力のある交換条件でもあったのでしょうか?」


「そんなものあるわけがない。この国は産業も資源も特筆すべきものは何もないのだ。他国がすぐに首を縦に振ること事態がおかしい。」


「それも錬金術でしょうか?」


「まさか。錬金術は等価交換が基本だ。原資のないものなど錬成できん。」


「それは確かに···」


ふたりの会話がそこまで進んだときにドアをノックする音が聞こえた。


「ご主人様、急ぎの封書が王城より届いております。」


入ってきたのは家令だった。


「王城?」


「はい。宰相のトゥクトゥ・ソリッドバッド閣下からのようです。」


「···························。」


ケトル大公は、噂をすれば何とやらと思いながらペーパーナイフで封書を開けるのだった。





「お時間を頂戴できて幸いです。」


時の宰相は、相変わらず微笑みを浮かべた表情で腰の低さを見せていた。


「こちらこそ、わざわざ来ていただけるとは思わなかった。」


貴族の爵位としてはケトル大公の方が圧倒的に上である。公爵よりも上、公領という独立国家を持つ一国一城の主といえばわかりやすい。


しかし、宰相という役職は国の舵取りをする要であり、こと政に関しては国王と同等といえる権限を有していた。


いかに大公といえど、そこは横柄な物言いはできないのである。





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