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第1話


周辺諸国との戦争が停戦を迎え、ついに我が国に平和が訪れた。


些細な誤解から大変な争いに発展したが、これでようやく落ち着くだろう。


あ、『我が国』と言ってますが、私は王ではありません。


錬金術士にして軍師、そして宰相なんかをやっています。大任を終え、これからは研究室へと戻って本業に力を注ぎたいところです。


ただ···血で血を洗う戦いが終わり、ようやく平和な生活をと思っていた矢先に国王陛下に呼ばれちゃったんですよね。


え?


宰相だから呼ばれてあたりまえ?


あ~


普通ならそうですよね。


でも、でもね。


あの国王って馬鹿なんですよ。


私がいないと何もできない。


あ、下の世話なんかはさすがにしなくても大丈夫ですよ。


国の舵取りができないってことです。


まあ、だから戦争とか政治なんぞ私に丸投げ。むしろ戦争の理由を作ったのはその国王なのです。


たぶん、アイツが口を出さなかったら何事もうまく···ん、んん。


そんなことはともかくとして、今回は何のために呼ばれたと思います?


こんな風に仰々しく呼び出されるときは決まってろくな事がないんですよ。思えばいろいろと丸投げしてくれたものです。


過去の例を反芻してみましょう。


まず、学生時代の彼からのお願いです。


「王位継承権者は自力でその地位を奪えと国王陛下に言われた。頼む、俺を国王に相応しい王子にしてくれ!学力は校内ワースト1位で素行不良ばかりだが···顔だけには自信がある。」


いや、顔なんぞどうでもエエわ!


そして、国王に即位してからのお願いはコレですよ。


「近隣諸国が同盟を組んで宣戦布告してきた。あとは任せるぞ。余は終戦までバカンスじゃ。」


···貴様、それでも国王かい!?


てな感じですわ。


そして、今日はいつにも増して嫌な予感がしていたのです。




~後宮~


わざわざ宮廷に呼び出されたと思ったら、誰もいねぇ···。


国王の居室に置かれた封筒が不吉なオーラを醸し出している。


そっとその封筒を摘むように持ち上げてみた。


時限式の魔法が起動して爆発なんてこともありえる世の中です。


私は恐る恐る封筒の裏表をじっくりと眺め、不審なものが仕込まれていないかしっかりと確認しました。


ちゃんと封蝋がしてあるのを見ると、陛下が自分で書いた手紙なのでしょう。


封蝋のシーリングスタンプは陛下の指輪なのですよ。偽造できないようにいつも身につけているもので、陛下のフルネームが旧書体で刻まれているのです。


表面には私の名前が記されているので、私宛ということに間違いはないでしょう。


ただ···その名前がトクトウ・スキンヘッドになっています。多言語で訳せばダブル禿頭(はげあたま)じゃないですか。私の名前はトゥクトゥ・ソリッドバッドなのですが···つきあいが長いのに私の名前を間違えるか普通。


というか、あのバカ野郎は人にイラだちを感じさせることに関しては天才的でしたから、これもそれでしょう。


いつかブッ殺···失礼。


封を開けて中身を確認します。


封書の文字は間違いなく陛下の直筆でした。ミミズがのたうち回って限界までねじれたようなものが書かれています。


もう慣れましたが、陛下の筆跡は誰が読んでも高度な暗号にしか見えません。


私とて内容を理解するためには解読に少し時間がかかったりするのですよ。


え···と···


『親睦のために今回の戦争に参加してくれた諸侯を演舞会に招待した。』


うん、それは知ってる。


さすがに国王として後処理、特に協力的だった諸侯とは深い縁を結ばなければならない。即位してからわずかなタイミングで戦争となったのだから、そこはきっちりとやっておかなければなりません。


『席に座ると臭かった···』


ん?


んん?


何を言ってるのかな?


『前に座るオッサンの頭が地肌ムキ出しだった。ハゲだ、ハゲの上にテカッた頭部から油脂の臭いが漂ってきている。臭い、臭過ぎる。』


「································。」


先を読むの怖いのですが···


『あまりの臭さに、そのハゲ頭にカカト落としを見舞ってしもうた。あとはよろしく···ああ、後で気がついたが、相手は我が王国領内一の武闘派イテマウド・ケトル卿だった。』


···あの野郎、マジで人生終わらせたる。


ケトル卿って、瞬間湯沸かし器の異名を持つ狂戦士(バーサーカー)の軍務大臣にして大公閣下じゃねぇか。


よくその場で報復されなかったな。


ん?


追伸?


『余のカカト落としが直撃したおかげで、ケトル卿は後ろを振り返らずに意識を落とした。目撃者にはトクトウ・スキンヘッドが実行犯だと証言するように圧をかけてあるので任せた。』


···ねえ、マジで一度死のうか?


腹立たしさを精一杯抑えて頭をフル回転させる。


「いますか?」


誰もいないはずの部屋でその一言を放った。


「ここに。」


「うぉっ!?」


気配すら感じさせずに俺の背後に立つ男。


直属の暗部である。


「これは失礼。」


この男は呼ぶといつも俺の死角に現れる。


最初は暗部らしい動きだなと思っていたのだが、実は人の目を直視できないコミュ障ではないかと思っていた。


「緊急指令です。陛下を探して確保しなさい。」


「屍でもよろしいですか?」


アホか、どこの誰が主君を屍にして拾って来いなどというか。


「生きたままで。」


「めんどうですね···あの方は素直に話を聞いてくれないじゃないですか。」


「陛下がひいきにしている吟遊詩人(地下アイドル)の女性がいます。彼女を後宮に入れる相談がしたいからすぐに戻れといえば大丈夫です。」


「それって嘘···ああ、わかりました。」


目力で圧を加えると、暗部の彼はいつも通り従順になりました。


「骨の一本や二本くらいはかまいませんよね···」


まだ言うか?


だから主君を負傷させないでください。





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