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04 新しい頭


 入学式が終わるといよいよ授業が始まった。学園に入学するまでの間で魔法科学に触れられる者はほとんどいない。そのため全員が初心者で知らないことだらけだ。サボろうなんて考える余裕はなく、授業においていかれないように必死にかじりつく日々を送っていた。


「リリス様は絵画の頭にしたんすね」

「メリルは……液体、かしら?」


 入学式後に学園から、入学試験で上位100名に入った者には頭のカタログを与えられた。今回貰えなかった人たちも順にカタログを渡されるらしい。

 リリスティアは額縁に飾られた空の絵画を。メリルは液体のような水の塊のような丸いものが3つほど浮かんでいる頭を手に入れた。


「その、エリクが図形が浮かんでいるタイプだったから……自分も似た感じのやつがよくて」


 そう言うと水色だったメリルの頭は、桃色へと変化した。


「ふふ、メリルったら顔が真っ赤よ?」

「そんなこと言って騙されないっすよ?自分以外に顔は見えない。これ常識っす」


 ふふん!と得意げにメリルは言う。しかしリリスティアの顔を見ると、目をこすり二度見した。


「……リリス様の空の色が変わってる…………ま、まさか……!?」

「あら、桃色だったメリルの頭と違って、私の頭は何色なのかしら?」

「〜〜〜〜っ!あ、穴があったら自分の頭を埋めてやりたいっすぅ!」


 なんだか微笑ましいとリリスティアはくすくす笑う。そんなリリスティアの頭は穏やかな空を描いていた。



「号外だよ〜!新入生が一発目に選ぶイカす頭特集〜!!!」


 教室に向かう途中の廊下で、男子生徒が紙を配っていた。しかし話のわりに頭は校章のままだ。


「あれ、なんすかね?結構人だかりができてるっすけど」


 メリルと共に男子生徒の元へ進んでいく。すると声に釣られたのか、自分たちのように人が集まってきた。しかし男子生徒には悪いが、見なくてもわかる。歯車、シルクハット、動物辺りが上位なのだろう。あとは花なんかも入っていそうだ。

 

「頭選びはセンスの見せ所!上級生とか見てると、カスタムかっこいいっ!!ってなるよね〜!」

「なるなる!だけどアーロは校章のままじゃん!いつになったら変えるの〜?」

「あははっ。バレちゃったか。僕もそのうち変えたいとは思っているんだけど、こうしていきなり始まるライブ感を大切にしたくて変えられないんだ」

「確かにアーロの0距離配信は急に始まるもんね」

「居合わせたらラッキーだよな!おれも楽しみにしてるぜ!!」

「おっと嬉しいお言葉をありがとう!君は確か……前々回にもいてくれたよね。嬉しいよ」


 アーロと呼ばれた男子生徒はその場に居合わせたファンに対し、にこやかに対応した。


「へ〜すごいっすね……最近普及し始めた通信技術を使って配信?してる人がいるって聞いたことがあるっすけど、リリス様は見たことありますか?」


 頭を見ただけではわからなかったが、声を聞いてようやくわかった。アーロ・ブラウンは配信活動を行っているイケカネの攻略対象だ。 


「ええ、彼の配信も何度か見たことがあるわ。気になるなら今度一緒に見ましょう?」

「ほんとっすか!?」

「ふふ、それじゃあ紅茶とクッキーを用意しておくわね」


 母に持たされたクッキーがまだ残っている。メリルは紅茶が好きだろうか?ミルクもあったほうがいいかもしれない。なにせ久しぶりの部屋への招待であるし、学園に来てからは初めてのことだ。リリスティアは友達が部屋に遊びに来るというイベントに、頭を柔らかな桃色の空へと変えた。 



「色々見てたら僕もちょっと弄ってみたくなっちゃった!だけどカタログは随時変わるみたいだから要チェック!それに、ランキングはどんでん返しが付き物だからね!みんな〜!次回をお楽しみにっ☆」

 

 アーロが移動したことで人だかりが消え、前に進めるだけの余裕ができた。


「私達もそろそろ行きましょうか」


 次の授業は魔法科学における魔石の役割だ。



***


 メリルと別れ、教室につくと空いている席に座る。


 サルディア学園は四年制で、年齢もバラバラだ。受験資格は顔ありなら12歳から20歳。しかし基本的に試験を受けるのは15歳から18歳だ。顔なしが合格することはよっぽどのことがない限りない。

 そのため学園にいる生徒のほとんどが15歳から22歳である。


 しかし例外は存在する。


「リリスティア、おじさんがこんな若者の中に混ざって浮いていないかな?」


 ジル・ブライド。確かに生徒の年齢から見ればおじさんだが、彼はまだ20代後半だ。


「自分で自分をおじさんだと言ったらもう終わりよ。顔なんてわからないんだから、言わなきゃわからないわ」

「それもそうか……うん。ちょっと自信ついたよ」


 ジルは頭のインクを黒から千草色へと変えると、コンコンと頭を鳴らした。


「でもまさか昔に会ったブライド家の人間がこんなにもしおらしくなっているだなんて、声をかけられた時は気づかなかったわ」


(しかも同学年だなんて、驚いたどころの騒ぎじゃないわよ)


 ゲームの攻略対象でもあるジルのことをリリスティアは知っていたが、ジルの過去のなど知らなかったため、結びつかなかったのだ。しかも共通ルートでそこまで目立った活躍をしていなかったこともあり、ジルに対してはゲームのキャラという認識は薄い。


「どうして学園に?」

「僕も大人になったんだ」

「ええ。それはわかっているわ」 

 

 むしろ今は子どもたちの中に紛れているけれど。とは言わないでおく。


「父が亡くなってね。父は死ぬまでずっと、僕にサルディア学園に行くように言っていたんだ」

「お父上が……そう、ならここへはお父上の祈願を果たすために?」

「それもあるけど……僕はどうして父がこの学園にこだわるのかを知りたくてここまで来たんだ」


 ジルの父──ドル・ブライドとリリスティアの父──モーゼス・クロードは仲が良く、リリスティア自身もブライド家で開かれるパーティにも何度か参加したことがあった。その時見かけたジルは今とは違い荒々しく、父親との折り合いも悪かった。

(お父様ったら、ジルを見て『昔のドルにそっくりだ』って言っていたわね)


「まあ、中々上手くいかず何度も落ちちゃって気づいたらこの歳になったんだけどね」


 あはは……とジルの乾いた笑いが溢れる。


「ということは未だに成人していないお兄さんってことかしら」

「リリスティア、それは言わない約束だろう?」

「ふふ、ごめんなさい。……でも成人していないと色々と制限がかかって不便でしょう?顔なしになることは考えなかったの?」


 いくら死んだ父親の祈願だからとはいえ、そう何度も落ちていたのでは心が折れてしまう。顔なしの貴族だって大勢いるのだから、顔なしとなり正式に成人してから家督を継ぐことも十分親孝行になっただろう。

 

「それでもね、諦められないんだよ」


 頭のインクは激しい意志を持ち、ぼこぼこと音を立てた。その色は情熱的な赤色だ。 

 

 たったの一言ですべてがわかってしまった。

 いい年して成人していない、顔なしでも顔ありでもない宙ぶらりんな状況にいながら、ジルの心は強い決意に満ちている。


「そう、なら私も負けないわ」


 ヒロインだけじゃあない。学園を無事に卒業することが目標のリリスティアにとって、ジルもまた等しくライバルの一人である。


(そういえば、自分のことをおじさんと言うわりに、ゲームでは口元にピアスを開けていたような……?)


 顔も若かったせいで、おじさんネタもヒロインには通じず冗談だと思われていた。

 おじさんを自称するならもう少しおじさんらしくしてほしいものだ。


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