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23 共通ルート終了


『こほん。──すっかり見入ってしまい止めるのを忘れていましたが、これにて共通ルートは終了です』


 なんだか懐かしい声だと、リリスティアは目を覚ました。


『お久しぶりです。人の子らよ』


 目の前には、足首まで伸びたブロンド色の髪の女性──女神が立っていた。

 しかし前回とは違い、何もなかった真っ白な空間には美しい湖と木々が生まれていた。 


「あれだけ殺風景だったのに、どういう心境の変化かしら?」


 しかも前回のリリスティアの不満が聞こえていたのか、今度は話せるようになっている。

 これは……、夢の中という認識でいいのだろうか。


『自分へのご褒美的なやつです。……まあ、人の子を招くのにアレは少々何もなさすぎでしたが。

 なんにせよお疲れ様です。おかげでアナタたちの活躍を楽しく見させてもらいました!』


 少々どころではなかったと思いながら、リリスティアは隣にいたセーラを見つめる。 


「騙し討ちのような形で転生させておいて、よく言うわ」


 不機嫌そうなセーラの言葉に同調し、「女神様ってもっと偉大なもののように考えていたのだけれど、実物はそうでもないのね」と付け足す。


『あれ?ひょっとして女神の味方はいない感じ……?』


「「自業自得よ」」


『こ、……これでも一応女神なのにぃ〜!!』


 美しいだけで、威厳の欠片も感じられない女神に、へりくだる気など起きなかった。



***


 「こういうときの逆ハーレム狙いの子って、攻略対象にかわいこぶるのがテンプレだけれど、貴女は違うのね」というリリスティアの言葉に、セーラは少し苛立ちを含めた声で反論する。


「はあ?そんなイケカネを落とすような真似を、わたしがするわけないでしょ?」


 「セーラはそんなことしない!」と目をギラつかせたセーラは、やはり解釈違いには厳しいようだ。好きな作品の登場人物に成り代わった苦労を感じる。

 

 あまり刺激するのは悪手だと、リリスティアは曖昧に微笑み、「そういえば……」と続けた。


「キアレスを知らない?それから、アーロも」

「二人がどうかした?」

「いえ、しばらく顔を見ていなくて……だけど、誰も知らないっていうのよ。てっきりシナリオに関わっているのかと思ったのだけれど、少なくとも共通ルートには関係ないみたいだし……」

「さあ?私は知らないわ」


 本当に心当たりがない様子で、けれど別になにか思うところがあるのか、セーラは「だけど……」と静かに呟いた。


「キアレスはともかく、アーロはよく死んじゃうみたいだから、目を離したら危ないわよ」


「…………え?」


 いつの間にか死んでいるため、全キャラクリアした後でないと攻略できないのでは?という噂があったらしい。なんでも、発売後最速クリアを目指すタイプの人がそんなふうに言っていたんだとか。


(たとえクリアしていないとしても、個別ルートをやった人の言葉なら信憑性があるわね……)


 また一つ心配事が増えたと、リリスティアはため息をついた。 


(薄々不穏だとは思っていたけれど、死人が出るタイプの乙女ゲームだったのね。……先の展開がまったく読めないわ)


 人攫いに人身売買が横行している国だ。何も不思議ではない。しかし、遠目で見る分には平穏そのもので、危険があるとしても大怪我くらいしか考えられない。死ぬだなんてそんな──。


(というか、女神ったら、そうそうバッドエンドにはならないって言ってたのに、アレ嘘じゃない。まったくもう、適当なんだから)


 しかし、唯一可能性があるとすれば──、


 王族による処刑エンド(・・・・・・・・・・)一択だ。


──『君の返答次第では、君は勇者にだって罪人にだってなれるんだ』


(ニコラス王子のあの言葉……最悪死刑にするという脅しにも聞こえたわ)


 やはり最も警戒するべきはニコラスだと、リリスティアはごくりと喉を鳴らした。



***


 しょんぼりしている女神を前に二人で話をしていたのだが、ようやく女神が復活した。

 女神はわざとらしく大きな咳払いをして、二人に向き合う。


『まさか片やニコラス王子に見つかり、片や見つからずにその場をやり過ごすだなんて、女神はとても感服しました。

 実は王子に見つかるか見つからないかは、ゲームにおける超重要な分岐点だったんですよ』


 女神は満足げにそう言うと、『……まあ、セーラはそのことを知っていたようですけど』と付け加えた。


「は…………、?」


 思考が止まる。

 今、女神は何と言ったか。


「ちょ、ちょっと待って、……知ってたって…………知ってたってどういうこと?」


『言葉の通りですが……?』

 

 リリスティアの言葉に女神は首を傾げた。

 衝撃のあまり口が震え、思わずセーラの顔を見たが、セーラは女神の言葉など意に介さず平然としていた。


(っ…………!!私を庇ったわけではなく、初めからそのつもりだったの……!?)


 セーラに助けられたことにより、何故……?という気持ちや恩義など、複雑な想いを抱いていたというのに。

 リリスティアの葛藤もすべて意味のないものだったというのか。


 ──また出遅れた。


 してやられたという気持ちと、咄嗟に動けなかった自分への情けなさから、リリスティアの頭はぐちゃぐちゃになっていた。


(情けない……情けないわ)


 リリスティアの拳を握る力が強くなる。

 ゲームの選択肢がなければ、所詮プレイヤーなどこの程度なのだ。だからこそ、セーラを凄いと羨む気持ちも出てくる。


「わたし、ゲームは少し前情報を入れてからプレイするタイプなの。攻略の仕方なんかも場合によっては調べるわ。

 遊び方なんて人それぞれだもの。完全に自力でやる必要もないでしょう?」


「それはそうだけど……」


(というか私もそのタイプだから何も言えないわ……)


 リリスティアは、バッドエンドやキャラの嫌がることをやりたくないタイプの人間であった。そのため初めから攻略情報を片手に、シナリオを完璧になぞるような遊び方をしていた。


『え〜二人ともナンセンスですねぇ〜女神は自力で隅から隅までやり尽くして、攻略サイトに記載する側の女神ですよ』


 わかってないなぁという口ぶりの女神をセーラは、「ちょっと黙ってて」と視線で黙らせる。


『はい…………というか人の子が女神に厳しいです』


 口をとがらせながらいじける女神を無視して、セーラはリリスティアに体を向ける。

 その表情は真剣そのもので、決戦に挑む前のプロの選手のようであった。


「わたしの野望を叶えるためには、あそこでニコラス王子に見つかるのは必須条件だった。だからあなたを押しのけて、わたしがあの舞台に立ったの」


 わかってる。わかってるつもりだった。

 セーラは初めから自分と歩み寄ろうとはしていなかったし、勝手に少し仲良くなれたと思い上がっていたのはリリスティアだ。

 だけど、だけどそれでも────、


「私、貴女に助けられたと思って、とても心配したのよ……?」


 心配した。あの時のセーラは、リリスティアの分まで一人で罪を背負い、処刑台に向かったようなものだった。

 庇われたと思うのは当然で、セーラがクローゼットの中から外に出てニコラスと対面したのを数秒後にようやく理解した時には、肝は冷えたし絶望した。


 セーラとリリスティアはもう何も知らない赤の他人ではないのだ。セーラが何を考えているのかはわからないし、何を成そうとしているのかも知らない。けれどそのために何でもやるし、自分だって偽るほどの覚悟があることも知っている。


 ──心配するに決まっている。




「……知らないわよ、そんなの」


 リリスティアから目を逸らし、セーラはぼそりと呟いた。その言葉が少し震えているように感じるのは、リリスティアの願望だろうか。


「それに最初から言ってる通り、あなたはわたしの野望を邪魔するライバルなの。……仲良くする気はさらさらないわ」


(あらためて言われると、くるものがあるわね……)


 自分で思うのと、本人から言われるのとでは雲泥の差だと自笑する。リリスティアは自分で思うよりもずっと、セーラを気に入っていたらしい。


「わたしはわたしの野望のために、この先に進む。それはきっと他人には理解されなくて、止められることだと思う。だけどそれでも私は、己の欲のままに動くわ。


 止めたかったら好きにすればいい。だけどわたしも負けない。負けられないの。


 ……前世からの夢よ。

 わたしは今、それが叶えられる世界にいる。だったらやれるだけのことはやるわ」


 






パチパチパチ


 女神の手を叩く音が響く。


『流石は女神の選んだプレイヤーたち。素晴らしい覚悟です』


「言っとくけど、あなたのことは嫌いよ」


『えぇ〜女神は結構アナタのことを気に入っているんですよ?なにせ転生前から感じるものがあって目をつけてたわけですし』


 女神は少しおちゃらけた調子でそう言った。

 そんな女神をセーラは軽く睨みつけている。


『ああ、でも誤解しないでくださいね?アナタが死んだのは完全なる事故なので。女神は一切関与していません』


「…………べつにそこは心配していないわ」


『それはよかったです』

 その言葉に、女神はにこりと微笑んだ。




『こほん。──改めて言いますが、これにて共通ルートは終了です』


 そう言うと、女神はナレーションさながらに語りだした。それはまるで、ゲームの語り手のようで、天の声のようだった。



────共通ルートを修了致しました。 


────二人の勇姿を女神はしかと見届けました。


────これより先の展開を読み込み中。


────読み込み中。


────読み込み中。


────読み込み中。





────検証。


────結果、女神はシナリオの破棄を望みます。



 そう言うと、女神の手から光が生まれ、リリスティアたちもそれに包まれた。

 乙女ゲームの世界を創造したと言っていたし、その応用で世界を創り直しているのだろう。


(…………きれい) 


 その光景にリリスティアは息を呑み、本当に女神だったのね……と失礼な感想を抱いた。

 セーラも黙ってこの光景を見つめている。




────シナリオを破棄しました。


────シナリオを破棄しました。



『ここはもう、乙女ゲームの世界ではなくなりました。シナリオなど存在しない、ただの現実です』




『それでは引き続き頑張ってください』



◇◆◇





 夢から覚めたセーラは、鏡の前で己に語りかけた。



「……リリスティア・クロード、


 わたしはあなたの妨害を乗り越えて、夢の世界を必ず実現させる」

 

 これは己への誓いだ。

 それくらいセーラにとっての野望は大切で、譲れないものだったのだ。


 そんな静かに燃え上がる闘志を、女神はこっそりと見つめながら、にやりと口角を上げた。



──『やっぱりアナタをヒロインに選んで正解でしたね』



 リリスティアとセーラの紡ぐ物語の続きを見るため、女神はお気に入りのツマミを取り出し、ビールの栓を開けて、そしてグラスに注いだ。


 ぷふぁ!という気持ちのいい声が何処かで響いたような気が、しないでもない。



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