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20 最後の攻略対象


──そもそも顔ありになるにはサルディア学園を卒業しなければならないとかいう頭のおかしな法律がある時点で疑問に思うべきだったのだ。



「言え。どうやってここに入ってきた。ここは王族と許された者しか立ち入ることはできないはずだ」


 嬉しくもなんともないイケメンからの壁ドンに、リリスティアとセーラは冷や汗をかき視線を反らした。


「その校章……学園の生徒か」


 レオポルドは縄張りに入ってきた侵入者を前にした肉食動物のように、リリスティアたちを威圧している。ピンと立った丸くて黒い耳にリリスティアの目は奪われた。


(こんなことを考えている場合じゃないけど……か、かわいいわ…………!)


 揺れる尻尾に合わせて視線を揺らす。

 それは確かに物珍しさからだったのかもしれない。しかしレオポルドの尻尾にはそれだけの力があった。

 

「ふん、じろじろ見やがって。……こいつが気になるんだろ?正直になれよ」


 少し小馬鹿にしたような表情でレオポルドは鼻を鳴らした。


 ごくり。

 本当に正直になってもいいのだろうか。 

 ほんっとうに正直になってもいいのだろうか。

 その思いでレオポルドの顔を見ると、何故かそのまま少し後ずさりをされた。……解せぬ。



(……ちょっと待って──、レオポルド王子の耳と尻尾を見ていることが伝わっているってことは、私達が真実の眼の持ち主だってこともバレてるってこと……!?)


 確かに普通見えないのなら動く耳や尻尾に反応はしない。何もないはずの空間をじろじろと見ていればそりゃあバレる。当然のことだ。


 ニコラスの不穏な言葉を思い出す。

──『ああ、彼女は危険だ。アルマコロンの名に懸けて、真実の眼を持つ先祖返りを僕たちでどうにか対処しなくてはならない』


 レオポルドはニコラスの弟だ。当然同じように考えている可能性は十分にある。


 つまりこの状況────リリスティアたちは既に詰んでいる。




 耳と尾が気になるんだろ?素直にそう言えよ。といったレオポルドの言葉に、セーラの「はい、とても気になります……!!」という声が響く。


「……は、?」


 セーラの、空気を壊すようなキラキラとした眼差しにレオポルドは間の抜けた声を出した。


「それは……どういう意味で────」


「どういう意味もなにも、ねこちゃんみたいでとっても可愛らしいです」


 その言葉に全面同意でリリスティアも必死に頷く。

 するとレオポルドは心底理解不能といった表情でこちらを見つめてくる。


「怖く、ないのか……?

 獣のようなこの耳が、尾が、……恐ろしくはないのか?」


 泣きそうな顔で静かに訴えるようにレオポルドは言った。


「はい。素敵だとは思いますけど……怖いとかは特には」


 その言葉にレオポルドは目を大きく見開き、わなわなと震えた。「どうかしましたか?」とセーラが顔を覗き込もうとすると、「気にするな」と後ろを向いた。 

 

「…………そんな風に言うのは兄上くらいなものだ」



(……あ)


 レオポルドの耳と尻尾に見惚れていて、すっかり忘れていた。これではセーラがレオポルドにおもしれー女だと思われたに違いない。


(不覚…………出遅れたわ)


 レオポルドには見えないように口角を上げるセーラを見て思う。──本当にセーラは抜け目ない。と。



***


 「他の誰かに見つかりでもしたら面倒だ。……ついて来い」と言われ、セーラと共にレオポルドについて回った。


「どうしてこうなったのよ」

「こっちの台詞ね」


 デジャブ。

 何故かリリスティアたちはレオポルドの部屋に招かれ、机を囲んでいた。


 部屋は広々としていて、家具も王族らしい高級感のある代物ばかりだ。どれだけ寝相が悪いんだ?と思うほどに大きなベッドに、そんなに服を持っていないだろう!と言いたくなるようなクローゼット。

 田舎者の下級貴族であるリリスティアでは信じられないような豪華な部屋だった。


 攻略するキャラによっては登場すらしないというレオポルド。ニコラスの弟でこの国の第二王子。だけれど学園で姿を見る者はほとんどいない、怪異のような存在だ。


 そんな彼がどうしてこんなところにいるのだろう。


「あのぅ〜あなたはここに住んでいるんですか?」


 下から、様子を伺うようにセーラは尋ねた。

「ああ。地上が苦手で基本的にここにいる」

「そうですか……」


 答えになっていない。

 王子様がどうしてここに?ということが聞きたかったのだが、それでは不十分だ。 

 レオポルドの返答は、少なくともリリスティアの知りたかった情報ではなかった。



「それにしても──、」


 レオポルドは頬杖をつきながら目を細めた。

 耳の下で結ばれた黒い髪が肩にかかっていて、尻尾のようだとリリスティアは思った。 


「今年はまだ学園に出てはいないというのに、よくおれが第二王子だとわかったな」


 それは……確かに。

 リリスティアとレオポルドに見つめられたセーラは少し慌てた様子で口を動かした。


「ええっと……ほら、溢れるオーラが違うといいますか王族の気品が見えちゃってるといいますか」


「フ、別に問い詰めようとは思っちゃいない。おおかたこいつ(・・・)を見ておれだとわかったんだろう」


 そう言ってレオポルドは耳と尻尾を触った。


「……耳なんて二つで十分だってのに、四つもありやがる」


 ファンタジー作品では耳が二つのものもあれば、四つのものもあるため疑問にすら思わなかったが、確かにレオポルドには動物の耳だけでなく人間の耳もついていた。 


「この耳も、尾も……後天的な先祖返りによるものだ。

 身体的に現れる先祖返りがどういう扱いを受けるか、全く知らないわけではないだろ?

 おまえたちと違って普通の感性ではこいつは怖がられる。……おかげさまで、ろくに地上を歩けもしない」


 悲しそうにそう言うレオポルドに、リリスティアの眉が下がった。


「そんな……っ!こんなにかわいいのにっ……!!」

「かわっ────!?」

「リリスティアもそう思いますよね?」

「えぇ、とても……その、愛らしいお姿だと思います」

「なっ────!?」


 驚きの表情のまま固まるレオポルドを二人して猛追する。かわいいかわいいと連呼し、その姿の有用性を長々と語った。


 するとレオポルドは手のひらで顔を抑え、消え入りそうな声で絞り出すように、「もういい…………もうやめてくれ」と顔を真っ赤に染めていた。 


 その姿にセーラと顔を見合わせ、再び「かわいい」と真顔で呟いてしまったのは、仕方のないことだとリリスティアは思う。


「はははっ!……本当に変なやつらだな」


 レオポルドは顔の赤みが引くと、心底おかしそうに笑った。


「…………おまえらみたいなやつがいるなら、たまには学園に顔を見せてもいいかもな」


 穏やかな顔をするレオポルドは、少しニコラスににていた。あまり似ていないと思っていた二人だが、やはり兄弟だ。目尻の下がり方がそっくりである。





コンコン


「レオ。ちょっといいかな?」


 ノックの音が聞こえると、扉ごしに男が話しかけてきた。


「っ!おまえたちはここに隠れろ──っ!」


 有無を言わせないレオポルドの手によって、リリスティアとセーラはクローゼットの中に押し込められた。


 暗がりの中、息を潜め、わずかな隙間から様子を伺う。この角度では相手の顔が見えない。移動してくれと思いながら、聞き覚えのある声だと首を傾げた。


 レオポルドは男に向き合うと、ほんの少し震える声で尋ねた。


「どうしたんですか?────兄上」



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