聖女様の育った孤児院へ慰問に行きます
リシャールとフェリベールが決意
「セレスト…」
「どうしたの?エステル」
もはやエステルと一緒にみんなで遊ぶのが当たり前になったある日、エステルが深刻そうな表情で私を呼ぶ。それまではしゃいでいたみんなも黙りエステルを心配そうに見つめます。
「…家族に会いたい」
「それは…」
「きゅう?」
エステルは孤児。両親はもうすでにこの世にいない。なんて声を掛ければいいんだろう。唯一の救いは何も知らない青月が無邪気にエステルの周りを飛んでいることくらいか。
「…エステル嬢、お墓詣りにでも行くかい?」
リシャール様が優しくエステルに声を掛けた。するとエステルはびっくりした顔をして首を横に振った。
「あ、ご、ごめんなさい!お父さんとお母さんに会いたいわけではなくて、孤児院の兄弟達に会いたくて…えっと、お墓詣りには定期的に行っているから…ありがとう、ごめんなさい」
「きゅう?きゅう!」
エステルの言葉にみんながほっとする。それくらいなら、お安い御用である。青月はわかっているのかいないのかエステルとハイタッチしている。
遊び時間が終了し、エステルと別れた後私は真っ直ぐには帰らず青月を連れて聖王猊下を訪ねた。忙しいだろうし怒られるかなと思ったけど、そんなことはなく部屋に通してもらえた。
「失礼します、聖王猊下」
「きゅう!」
「セレスト嬢、セイゲツ、いらっしゃい。エステルのことで何かあったのかな?」
聖王猊下は優しく微笑んでくれた。
「エステルが孤児院の兄弟達に会いたいらしくて。今度遊びに来る時、エステルを孤児院に連れて行ってもいいですか?」
「きゅー」
聖王猊下は少し考えて、頷いてくれた。
「あの子は聖女としての勉強があるし、頻繁に、というのはさすがに困るけれど。エステルが寂しがるならたまには会わせてあげないとね。その日のエステルの予定を変更しておこう。一日中遊んでおいで。でも、孤児院にドラゴンの子供を連れて行くのはおすすめしないから、その日はセイゲツにはお留守番させなさい」
「ありがとうございます!」
「きゅー?」
ー…
エステルとみんなと一緒に馬車に乗る。エステルは嬉しそうにニコニコと笑っている。やっぱり同じ孤児院で生活した子供達は特別なんだろうなぁ。ついでに言うと、青月は今日は我がシャロン家の屋敷でお留守番だ。不満そうにしていたが仕方がない。
「ありがとう、セレスト!」
「私は何もしてないよ。聖王猊下のおかげだよ」
「でも、聖王猊下がセレストのおかげで今日孤児院に帰らせてもらえるんだって言ってたよ?」
「私は聖王猊下にわがままを言っただけだよ」
「セレスト、本当にありがとう!」
そこまで言われるとむず痒い。本当にただ聖王猊下に許可を得ただけなのにな。
ー…
やっと孤児院にたどり着いた。孤児院は教会に併設されており、こぢんまりとした印象だ。
「みんなー!おーい!」
エステルが手を振って駆け出した。孤児院の子供達も駆け出して、エステルを取り囲む。
「エステル!帰ってきたの?」
「聖都はどうだった?」
「元気だったか?寂しくなかったか?」
「ドレス似合うね、エステル!まるで別人みたい!」
「今日はみんなと会ってきて良いって聖王猊下が送り出してくれたの!聖都はキラキラしてたよ!みんなに会いたいなって毎日ずっと寂しかった…。ドレスはね、聖王猊下がくださったの!」
エステルは嬉しそうに笑っている。うんうん、よきかなよきかな。
「…これが孤児院」
「初めてきたけど、なんか…」
「みんな、ぼろぼろの服を着てるね…奴隷ではないのに…」
「建物もぼろぼろ…」
みんながぽかんとしている。まあ、初めて見たならこの反応も仕方ないか。かくいう自分も初めてきたけど、『聖女は星の夢を見る』では、ヒロインであるエステルのシンデレラストーリーを盛り上げるために孤児の扱いがかなり厳しいと知っているので驚かない。
「どこの孤児院も運営費が足りなければこんなものだと思いますよ」
「それは良くないな。まさか、ちゃんとした教育も受けてないんじゃ…」
リシャール様の表情が厳しい。
「多分そんな余裕ないですね。エステルが今必死になって勉強してるのも、そのせいかと」
リシャール様、静かにご立腹。怖い。
「…なんだよそれ。孤児院は十歳になったら出て行かなきゃいけないんだろ。それまでに手に職をつけないといけないのに、教育を受けることが出来ないって…どうするんだよ」
フェリベール様が困惑している。まあ、そりゃそうか。私もこの扱いはどうかと思うし。
「はい。そこが問題です。教育を受けることが出来ない孤児達は、十歳になると孤児院を卒業しなければなりません。住み込みで働ける場所を見つけられるのは運の良い何人かだけ。では、他の子は?…スラムに流れたり、奴隷に身を落とすのです」
パトリックが息を飲む。今にも泣きそうに瞳を揺らしている。
「そんな…そんなの酷いよ!」
「そうだね、パトリック。でも、孤児院の職員さんだってサボってるわけじゃないんだよ。一生懸命に働いて、その上で子供達を助けることが出来ないのが現状なんだよ」
みんなが俯く。うん、こういう話はしんどいよね。
「…決めた。僕はこの国の奴隷制を撤廃する。そして孤児院の制度を改革する。…今は具体的にどうすればいいかわからないけれど、国王になるまでにたくさん勉強して、必ずこの国を変えてみせる!」
リシャール様が誰にともなく宣言する。
「なら、俺は兄上の改革を支える。そのくらいの知識、すぐに吸収してやるさ」
フェリベール様も決意を口にする。
『聖女は星の夢を見る』のリシャールエンドとフェリベールエンドでは、奴隷制の撤廃と孤児院の制度の改革がエンディングで語られるって友達が言ってたなぁ。これも良い傾向ではあるよね。
「ねえ、セレスト。僕達にも何か出来ることはないかな?」
「んー。とりあえず、お金を寄付したり勉強道具を寄贈したり、勉強を直接教えてあげるとかかな。でも、勉強を直接教えるにしたって毎日は無理だし、勉強道具を寄贈しても教えてくれる人がいなければ意味がないし、寄付金が一番無難かなぁ。しばらく綺麗な服を着て、美味しいご飯が食べられるようになるはずだし」
「お小遣いを寄付してくる」
「僕も!」
「じゃあ、私も!」
イネスとパトリック、アンナが懐のお小遣いを握りしめて孤児院の職員さんの元へ向かう。リシャール様とフェリベール様は、特定の孤児院に自分達王族が寄付をすると貴族がこぞってその孤児院に寄付をして、他の孤児院の経営が厳しくなると予想しているのか寄付はしない模様。私も公爵令嬢だし、自重する。
職員さん達がイネスとパトリック、アンナにしきりに頭を下げている。うん、受け取ってもらえたんだね。よきかなよきかな。
そんなことをしていると、エステルから呼ばれる。孤児院の子供達を紹介され、私達も紹介された。そして鬼ごっこに隠れんぼ、花一匁やかごめかごめをみんなに説明して一緒に遊ぶ。珍しい遊びということで、孤児院の子供達も盛り上がって楽しく遊べた。そんなこんなで時間は過ぎて、もう中央教会にエステルと帰らないといけない時間に。
「エステル。みんなもごめんね。そろそろ時間だよ」
「…うん。みんな、またね」
「えー、エステルもう行っちゃうのかよー」
「次はいつ来れる?」
「エステルとまだ遊びたーい」
駄々をこねる子供達にエステルは困ったような、嬉しそうな顔をする。家族にこんなに愛されていたら、そりゃあ嬉しいよね。
「そんなに頻繁には無理だけど、またみんなで遊びにくるよ」
私が年少さん達の頭を撫でて宥める。みんな寂しそうだけれど納得はしてくれた。
「みんなで待ってるからまた来てね!」
「約束だよ、エステル!」
「うん、約束!」
こうして私達は馬車に乗って中央教会に。エステルは帰り際に寂しそうな表情を見せたものの、馬車に乗ると久しぶりに家族に会えて嬉しかったと微笑んだ。
孤児院の子供達も喜んでいたし、またみんなで行きたいな。
セレストは孤児院の子供達にも幸せになって欲しい




