*奴隷から解放してくれた人
奴隷制度って逆に効率悪くなかったのかな?
俺は生まれながらに奴隷だった。親の顔も知らない。気付いた時には、鉱山で採掘作業をしていた。
寝る時間はたったの三時間。食事は一日二食で粗食だった。休憩も休日もない。お給料なんて当然ない。けれど、それに不満を持つことはなかった。だって、それ以外の生活なんて知らなかったから。
仲間はばったばったと過労で死んでいく。俺は特別丈夫だったのか、しぶとく生き残って採掘作業を続けていた。だけれど、そんな生活になんの意味があったのだろう。ただ、死にたくないから生きるだけの日々。
そんな生活の中に、突然光が差した。
シャロン公爵家とやらの、お嬢様がこの鉱山を買ったらしい。使用人とやらがお嬢様の代行として声高に宣言した。お貴族様は気まぐれでいいねぇと嫌味を言ったが、特別仕置を受けるでもなく。さらには、急に貴方方の待遇を改善すると言い出す。一体どう改善されるというのやら。
そう思っていたが、使用人とやらが声高に叫ぶ『睡眠時間を一日八時間くらいに。一日三食、栄養を考えた美味しい食事を提供。奴隷の身分も解放して平民として扱い、お給料も働いて成果を出した分だけ支払う。仕事中にも休み時間をきちんと設け、さらに週に一度お休みの日を設けゆっくり出来る日を作る』という有り得ない待遇は本当に実現された。
俺はもう、奴隷じゃない。一人の平民で、従業員だ。頑張れば頑張るほどお給料も貰える。だからこそ、頑張りたいと思った。頑張って、働いて…この鉱山を買って、俺たちの待遇を改善したお人好しに少しでも儲けさせてやりたい。だって、それくらいしか恩返しをする手段がないのだ。こんな誰にも望まれない、奴隷としてしか生きられなかったはずの俺たちに差した一条の光。絶対、この光だけは絶やしちゃダメなんだ。
ある日、お嬢様が初めて鉱山に訪れた。そして俺たちに言った。俺たちの採掘したサファイアを王室に献上したところ王妃陛下が大層お喜びになられたと。お嬢様は喜んでいた。
正直、王妃陛下がお喜びになろうが知ったこっちゃない。けれど、それでお嬢様がお喜びになるのは嬉しい。俺たちの採掘したサファイアがその役に立ったのは更に嬉しい。どうかこれから先も、もっともっと、お嬢様の役に立てますように。
この人はこれから幸せになるといいな




