*ロクな死に方はできないはずだったのに
ある男のお話
スラム街は、汚いところだ。
風呂なんてとてもとても入れない。トイレもないので垂れ流し。盗みは当たり前、殺しもやる。そんな世界で生きていた俺は、当然ロクな死に方はできないだろうと思っていた。
だから、スラム街に流行病が蔓延して、もれなく俺もかかった時はやっぱりなと思った。誰にも手を差し伸べられることもなく、惨めに死ぬんだなと思った。
だから、グレイとか言う奴にポーション、状態回復ポーション、魔力回復ポーションを無理矢理大量に渡された時には俺はおそらく相当間抜けな顔を晒したと思う。
奴の言うところによると、このシャロン公爵領のお嬢様によるお慈悲だそうだ。
意味がわからない。なんだって今、急に?今まであんたらは俺達スラム街の貧民に興味なんてなかっただろうに。そういうと、奴は静かに首を横に振った。おそらくお嬢様は、今ようやく準備が整ったから手を差し伸べられたのだと。それまでは差し伸べたくても、無責任なことは出来ないから自重なさっていただけだと。
奴は言いたいだけ言って、他の貧民にポーションを配りに走った。…馬鹿な奴。配ったことにして、売っぱらっちまえばいいのに。
俺はもしかして本当は毒なんじゃねえかなと思った。いや、だって、状態回復ポーションとか魔力回復ポーションとかって普通のポーションと違ってかなり高いらしいし。実際俺もスって売っぱらった時かなり貰えたし。そんなもん配るか?普通。スラムを一掃したくて毒ばら撒いてるって方が納得出来る。
…けど、まあ、毒なら毒でいいかぁ。だって俺、どっちにしろもうすぐ流行病で死ぬもんなぁ。いっそ楽に死ねる毒ならラッキーだよな?
俺はグビッと状態回復ポーションを飲む。周りにいた奴らがぎょっとして俺を見る。
…なんだこりゃ。
身体がみるみるうちに楽になる。流行病の特徴として肌に出る斑点が消えて無くなる。
…は?本当に本物、なのか?
俺の様子を見て、周りの奴らも恐る恐る飲んだらしい。どいつもこいつも身体から斑点が消えてやがる。
じゃあ、ポーションは?ポーションも本物だっていうのかよ?ポーションを飲む。流行病で弱っていた体力が回復するのを感じる。
…ははは。なんだよ。本当に本物じゃねーか。
俺は速攻で大量に渡された状態回復ポーションを売りに表通りに向かう。売った金で公衆浴場に入り、服を買い、宿に泊まり、普通の飯を食い、日雇いの仕事をして金を稼いだ。魔力回復ポーションとポーションを使いまくって休みなく働いて。
俺はスラム街生活を抜け出せた。
幸せになれるかは本人次第




