グレイと打ち解けようと思います
グレイは表情筋が死んでいる
グレイは堅い。
いや、元奴隷なのだし、仕方がないとは思うのだけれど。元気がないし、堅いし、子供はもっと笑って過ごすべきだと思う。
というわけで、グレイを笑わせる作戦、開始!
「グレイ、布団が吹っ飛んだ!」
「…はい。面白いと思います、お嬢様」
駄々滑りだよぅ…。シリルが必死に笑うのを堪えている。違う、私はそういう笑いは狙ってないし、シリルじゃなくグレイを笑わせたいんだよ。
「フェリベール様、グレイを押さえて!」
「え?お、おう」
フェリベール様がグレイを抑え込む。グレイはなすがままだ。
「こちょこちょ!どうだ!」
「…すみません、俺、そういうのあまり感じない方で。くすぐったくなくてすみません」
「…ちぇー」
「んじゃ次兄上やるか!」
「え?僕に喧嘩を売るの?フェリ。いいよ、買ってあげよう」
何故か王族二人の喧嘩祭りに発展。さらにそこからみんな巻き込まれ大乱闘に。その後グレイが呼んできたリリーとプラムに大目玉。ごめんなさい。
「うーん」
「どうしたの?セレスト。ため息なんて吐いて」
グレイがトイレ休憩に行っている間、一人で悶々とグレイを笑わせる作戦を考えていると、いつのまにかリシャール様が隣にいて頭を撫でてくれました。
「リシャール様、どうしたらグレイは笑ってくれるでしょうか」
「うん?ああ、なるほど。最近のセレストの奇行はそれが理由か」
「奇行って…」
ひどい。
「ああ、ごめんごめん。そんなに不貞腐れないでおくれ」
頭を撫でられる。私はこれに弱い。
「もう。リシャール様ったら。それより良い案はありますか?」
「そうだなぁ。喜ぶことをしてあげると良いよ。例えば、今更になるけど歓迎会をするとか」
「!」
それだ!
「リシャール様!ありがとうございます!やりましょう、歓迎会!」
「悩みが解消したようでなによりだよ」
私はリリーとプラムに頼み、別館で歓迎会を開く準備をしてもらった。飾り付けや紅茶の準備、お菓子やケーキ、プレゼントする花束やおもちゃなどの手配。必要なお金は充分に渡したけれど、それでも二人では忙しかっただろう。チップももちろん渡したけれど、二人には本当にお世話になりっぱなしだ。
そして迎えた歓迎会、グレイ一人の歓迎会となると逆に色々遠慮が出るだろうし、リシャール様とフェリベール様、パトリックとアンナ、グレイの五人の歓迎会ということにした。
みんなでクラッカーを鳴らして、わいわいと歓迎会を始める。そしてみんなに花束とおもちゃのプレゼントをして、いざグレイにも渡そうとした時、グレイが突然泣き出した。
「え!?グレイ!?どうしたの!?」
私はわたわたと慌てるばかりだったが、リシャール様とパトリックがグレイの背を撫で宥めてくれて、なんとか聞き出したところによると、私のグレイを笑わせる作戦はグレイにバレていたらしい。その上で、助けられただけでなくそこまでしていただくなんて恐れ多いと。うーん。
「グレイ、そんなに難しく考えることないよ。私はただグレイともっと仲良くなりたいだけなんだし。グレイにもっと幸せになってほしいだけなんだよ」
私がそういうと余計にグレイは泣きじゃくる。なんで!?
「セレストもこう言っているんだし、君ももうちょっと甘えてみればいいんじゃない?僕の婚約者は信用できる可愛い子だよ?」
「お姉様が仲良くなりたいって言ってるんだから従うのが従者だと思うよ」
「僕も君と仲良くなりたいな」
「てか俺たちもう友達だろ。そんな気にすんなよ」
「えっと…新参者の私ですが、お嬢様の優しさは本物だと思いますよ。だから、安心して委ねてしまう方がいいかと」
グレイはそこまで慰められてようやく泣き止んだ。そして…ふんわりと花が咲くように微笑んだ。
「お嬢様、俺、未熟者だけど。頑張る。お嬢様を守れるように頑張る。お嬢様が笑顔で暮らせるように頑張る。だから、側に置いてくれますか?」
「…もちろん!」
こうしてグレイともっと打ち解けることが出来ました。
グレイが笑えるようになりました