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*奇跡が起きた

別視点

私は、オーギュスタン。オーギュスタン・ポール・クレマン。売れない画家だ。身体が弱い私は、絵を安く売ることで細々とお金を稼いで、なんとか家族を養っている。しかし、所詮は売れない画家だ。家族にはお金のことで、苦労をかけている。


私は元は貴族の生まれだ。しかしお金のない男爵家であったし、五男というどうでもいい立場で、しかも病弱。どこかの貴族の婿養子に、という話が出る事もなく、成人後すぐに家を出された。無事私は平民となったわけだ。そこで平民の妻と出会い、妻に支えられて唯一才能のあった絵の道に進んだ。そして私は可愛い女の子に恵まれて、だというのに妻子二人に貧しい暮らしをさせてしまう自分が情け無い。


そんな中でも、私は絵を描く。家族の絵だ。これが私に描ける、優しい世界。私にはこれしかない。


アトリエにこもっていると、普段アトリエには近寄らないで私の仕事を応援してくれている妻が慌てた様子で入ってきた。


「あなた!大変よ!」


「どうした!?何かあったのかい!?」


「あなたの絵を、買いたいって!お貴族様が!」


「え…?ほ、本当かい!?それは…嬉しいなぁ…」


お貴族様に認められた。そんなことより、私の優しい世界を認めてくれた人がいたということ。それが胸をじんわり満たす。


「いつものギャラリーのご店主が、お貴族様をここに案内したいって!いいかしら?」


「もちろんだよ!精一杯のおもてなしをしようね!」


「ええ!」


そして小さなお客様がきた。まだ年端もいかぬ女の子だが、きっと身分の高い方だろう。立ち振る舞いでわかる。


「ご機嫌よう。私はセレスト・エヴァ・シャロン。公爵家の娘よ。貴方が画家さん?」


「はい」


「ギャラリーにあった絵は全部買わせてもらったのだけど、アトリエにある絵も見せてくれる?」


「ぜ、全部!?あ、ありがとうございます!」


ご店主が見えないところで、そっと妻に絵の売り上げを渡している。妻は目を点にしている。それはそうだ。安売りしているとはいえ、全部売れたならかなりの額になる。


「アトリエはこちらです」


「ありがとう」


セレスト様は、アトリエの絵を一通り全部見て、言った。


「ここにある絵を、全部頂くわ。お代はこれでいいかしら」


セレスト様から差し出された袋には、金貨が山積みに。これは…男爵家にいた頃ですら見た事ないぞ…。もしかして、うちの事情を知って同情されている?それは…そういうことなら、お断りしよう。


「こ、こんなには…いただけません…」


「あら、そう?じゃあ、これからも描いた絵をうちの屋敷に納めてもらうって形ならどうかしら?」


「え?」


「その分の前払いってことで。私、貴方の絵を気に入ったの。どう?」


「それは…つまりそれは…」


パトロンになってくださると…?


「是非、よろしくおねがいします!」


「よかった。よろしくね」


「はい!ありがとうございます!」


これで妻に苦労をかけずに済む。これで娘を将来イストワール学園に入れてあげられる。ああ、神様!こんな幸せは他にありません!ありがとうございます!

オーギュスタン、セレストの真意には気付かず

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