奴隷の子を買います
セレスト、大きなお買い物
「もう一度言いましょう。この子を、私が買います」
みんなが目を点にした。まあ、そりゃあ私にそこまでする理由もないしね。でも、もう決めたことだから。
「こんなみすぼらしい奴隷を買ってくださるのですか?お幾らほどいただけるんでしょうか…?」
「これで十分でしょう?」
金貨三百枚を大男に投げつける。この国の貨幣の価値は、日本円に直すと銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円くらいだと思う。多分。突然の大金に大男は慌てて地面に這い蹲り落ちた金貨を拾い、私にへこへこ頭を下げた。そして奴隷の契約書を私に譲渡する。
私は奴隷の子供を連れてシャロン家に戻った。
「セレスト、思い切ったねぇ」
リシャール様が笑う。
「あんなのはした金ですから」
「まあ、セレストらしいんじゃないか?見てる分にはすっきりした」
フェリベール様は私の肩をばんばん叩く。リシャール様がその手をぺしっとはたき落した。
「お母様はともかく、お父様には怒られないかなぁ」
シリルは私を心配してくれた。
「まあ、その時はその時よ」
私はシリルに笑いかける。
「その時は僕も一緒に怒られるよ」
パトリックがそう言って微笑む。心強い。
リリーに頼んで、奴隷の子供に湯浴みをさせる。その間に、みんなでお父様の執務室に向かい事情を説明した。私達の話を聞いたお父様は、奴隷の子供を私の侍従にすると言った。特に怒られることもなく、奴隷の契約書を受け取られ、部屋に帰された。あんまりにもあっさりし過ぎていて、拍子抜けする。
「怒られなかったね」
「よかったじゃないか」
「いや、本当に良かったよ。怒られたら怖いし」
「そりゃあそうだな」
その後奴隷の子供が身綺麗にされて、プラムの子供の頃の服を着せられて出てきた。ボサボサだった髪の毛を短くされ、灰色の髪に灰色の瞳の結構な美少年がそこにいた。
「おー、見違えたな」
「ご機嫌よう。改めて、僕はリシャール・ルノー・イストワール。君の新しいご主人様の婚約者だよ、よろしくね」
「は、はい…」
小さな蚊の鳴くような声。でも、なかなかに美声である。
「ううん!えっと、こんにちは。私は貴方の新しい主人のセレスト・エヴァ・シャロンです!貴方にはこれから、奴隷ではなく侍従として私に仕えてもらいます。詳しくはリリーに聞いてね」
「はい、ご主人様…」
「貴方のお名前は?あと、ご主人様ではなくお嬢様。わかった?」
「はい、お嬢様。…グレイと申します、よろしくおねがいします」
「グレイね。よろしく!」
「私はリリーと申します。しばらく貴方の世話係兼教育係を務めます。よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
こうしてまた新たな出会いがありました。攻略対象ではない子と仲良くなるなんて、そういえば初めてなのでは?
金貨は高価なので投げつけちゃダメ