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第十四章 第四話 海の魔物

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


甲板部……甲板員の人が働く部署。航海中は、ワッチ体制(4時間当直・3交代を1日2回繰り返し)となる。

停泊中は、原則的に朝8時から17時までの勤務となります。停泊期間の業務は、主に船体保守・点検・整備作業を行います。時に船長もサビ打ち・塗装作業等を行う事もある。


可溶性……物質が液体中にとけこむことのできる性質。


幹細胞……分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されている 。


凝固蛋白……タンパク質が固まったもの?


凝血塊……血液の塊のことである。


血漿……血液 に含まれる液体成分の一つで、血液55%をしめる。血液を試験管にとって遠心沈殿すると、下の方に赤い塊りができ、上澄は淡黄色の液体になる。


血小板……血液に含まれる細胞成分の一種である。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に集合してその傷口をふさぎ(血小板凝集) 、止血する作用を持つ。


コラーゲン……皮膚や腱・軟骨などを構成する繊維状のたんぱく質で、人体のたんぱく質全体の約30%を占める。ゼラチンの原料としても知られる。人の皮膚・血管・じん帯・腱・軟骨などの組織を構成する繊維状のたんぱく質です。人間の場合、体内に存在するすべてのたんぱく質の約30%を占めており、そのうちの40%は皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、血管や内臓など全身の組織にも広く分布しています。コラーゲンを構成するアミノ酸の生成にはビタミンCが必要なため、ビタミンCが不足するとコラーゲンの合成が出来なくなり、壊血病を引き起こします。またビタミンAもコラーゲンの再構築に関わっています。


塵旋風……つむじ風のこと。


感覚神経……知覚神経ともいう。末梢神経の一つ。運動神経に対するもので,各種の感覚受容器からの感覚情報 (インパルス) を中枢神経に送る役目をもつ求心性神経である。嗅覚器官から出る嗅神経のように神経全体が感覚性のものもあるが,普通は遠心性神経と混合して末梢神経を構成している。感覚情報の伝わり方は感覚器官の種類によってかなり相違がみられるが,感覚神経の神経細胞 (ニューロン) から中枢に入った情報は,神経細胞と神経細胞の接合部であるいくつかのシナプスを経て最終的には大脳皮質の感覚野に達し,そこで感覚が成り立っている。


正電荷……正電気,陽電気,陽電荷ともいう。正の値の電荷 。陽子の電荷は正電荷である。


セロトニン……生理活性アミンの一。生体内でトリプトファンから合成され,脳・脾臓・胃腸・血清中に多く含まれる。脳の神経伝達などに作用するとともに,精神を安定させる作用もある。


線維芽細胞……結合組織を構成する細胞の1つ。コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す。細胞小器官が豊富であり、核小体が明瞭な楕円形の核を有し、細胞質は塩基好性を示す。


単核球……白血球の一種で、最も大きなタイプの白血球である。マクロファージや、樹状細胞に分化することができる。


電荷……粒子や物体が帯びている電気の量であり、また電磁場から受ける作用の大きさを規定する物理量である。


トロンビン……血液の凝固に関わる酵素セリンプロテアーゼの一種。


トロンボプラスチン……血液凝固に関与する因子の一つで,リポタンパク質。カルシウム-イオンの存在下でプロトロンビンをトロンビンに変える。


貪食作用……体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用である。


フィブリン……血液凝固に関連するタンパク質のフィブリノゲンが分解され活性化したものである。


フィブリノゲン……血液凝固の最終段階で網状の不溶性物質フィブリンとなり、血球や血小板が集まってできた塊(血栓)のすき間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出ないようにしている。 このため、フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなり、止血されにくくなる(出血傾向)。


不溶性……液体に溶解しない性質。


プロトビン……血漿中に含まれるタンパク質の一種。体組織が破壊された際などに「トロンビン」へ変化し、血液凝固を起こす機能を持つ。


マクロファージ……白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性 の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす 。


大脳……中枢神経系の一部である。頭蓋骨の直下に位置し、ヒトでは非常に発達している。大きく分けると次の三つの構造に分けられる。


大脳皮質……大脳の表面に広がる、神経細胞の灰白質の薄い層。その厚さは場所によって違うが、1.5mmから4.0mmほどで、大脳基底核と呼ばれる灰白質の周りを覆っている。

知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司り、神経細胞は規則正しい層構造で整然と並んでいる。


 俺の性癖の話からしばらく経ったあと、出航の準備が完了したようで、俺たちは甲板に出た。


「それではデーヴィッド王子、改めて自己紹介をいたします。ワシはフォーカス、アリシア号の船長を務めております。セプテム大陸に到着するまでの間は、ワシが安全な船旅になるように全力を尽くします。それでは……ゴホン」


 自己紹介をしたあと、フォーカスさんは一度咳払いをする。


「やろう共!出航だ!碇を上げろ!帆を張れ!」


「イェッサー!」


 年を感じさせないほどの力強い声を上げ、フォーカスさんは乗組員に指示を出す。


 すると、甲板部の人が返事をして作業を始めた。


 海底に突き刺さった碇が上げられ、畳まれていた帆が張られると、アリシア号はセプテム大陸の北側に向けて舵をとられた。


「あとは皆さんの好きにしてくれて構いません。客室に戻って休むなり、海を眺めるなりして船旅を楽しんでください。ですが、操舵室にはけして入られませんように」


 フォーカスさんから注意事項を聞かされて解散となると、俺は船の上から海を眺めることにした。


 海面は綺麗なオーシャンブルーで、思わず飛び込みたくなる。


 そして雲が少ない晴れ模様の空には、空中を飛び回る海鳥たちがグルグルと旋回していた。


 おそらく、あの辺に餌となる魚の群れでもいるのだろう。


 どんな行動に出るのか観察していると、一匹の鳥が海の中にダイブして数秒後に浮上する。


 海鳥の嘴には捉えた魚が咥えられ、そのまま飛び去っていく。


 鳥の飛び去る方向を見ると、オルレアン大陸に向かって行った。


 いつの間にか、俺の故郷であるオルレアン大陸が小さくなっている。


 もしかしたら、二度と帰ってくることがないかもしれない故郷を見ると、なんだか寂しさに近いものが感じた。


 俺はもう一度海面を見る。


 海の底にいるのか、黒い影のようなものが視界に入った。


 影の大きさからして、海の中に住む大型の生き物なのだろうか?


 そういえば、オルレアン大陸はレイラ、セプテム大陸は別の魔王が領土にしており、配下の魔物が暮らしているが、海の場合はどうなのだろうか?


「どうしたのだ?そんなに難しい顔をして」


 海について考え事をしていると、隣にレイラがやってきた。


 ちょうどいい機会だし、この際彼女に聞いてみよう。


「なぁ、大陸によって魔王がその場所を領土にしているじゃないか?海の場合はどうなんだ?」


「海か?海を縄張りにする魔物を余は生み出したことがないゆえ、詳しくはないのだが、海にも魔物がいるのは事実だ。それがセプテム大陸の魔王の配下なのかはわからないが、噂によると海には海王と呼ばれる魔王が縄張りにしているという。実際に余はみたことがないので噂を信じてはいないが、どちらにしても海の魔物がこの船を攻撃してくる可能性はゼロではない」


「最悪の場合は海の中での戦闘に発展するかもしれないという訳か。上手いところセプテム大陸に着くまでは、魔物の襲撃がなければいいのだが」


「今から気を張っていても仕方がなかろう。フォーカスたち海の男が、海の様子を常に窺っているのだ。何か様子が可笑しければ、そのときに教えてくれるはずである。今は船旅を楽しめ」


 確かに、実際に起きるかどうかわからないことに対して、不安がってはいけない。


 気を張りすぎていては、疲れていざというときに戦えなくなる可能性だって十分考えられる。


 最低限の警戒をしつつ、何か起きたときに対処する。


 これぐらいの心構えぐらいが、ちょうどいいのだろう。


「確かにそうだな。ありがとう」


 レイラにお礼を言い、客室に戻ろうとして歩いたときだ。


 船が動いておらず、その場に留まっていることに気づく。


 何かトラブルが発生したのか?


 俺は慌てた様子を見せる甲板部の人に声をかける。


「おい、何が起きた」


「デーヴィッド王子、それが俺もよくわからないのです。船が止まってエンジンを確認したのですが、正常に動いていました。それなのに、船が動かなくなったのです」


 エンジントラブルでもないのに、船が止まった?


 それはどういうことだ。


「エンジン以外の部分も調べたのか?」


「はい、考えられる部分はすべて確認しました。ですが、どこにも異常がありません」


「デーヴィッド、いったい何が起きたの!」


「レイラ様、御無事ですか!」


 客室にいたカレンたちが、扉を開けて甲板に姿を見せる。


「エンジントラブルでもないのに船が止まった。何が起きてもいいように心構えをしておいてくれ」


 俺は危険を承知で船の端のほうに向かい、海を覗く。


 すると、さっき見えた黒い影が、先ほどよりも大きくなっていたのだ。


 もしかしてこの騒ぎを引き起こした張本人は、あの黒い影なのか。


「デーヴィッド王子危険です。下がってください」


 フォーカスさんが険しい顔つきで甲板に現れると、この場から離れるように注意を促す。


 彼の声が聞こえて振り返ったときだった。


 急に俺の周囲にだけ影が現れると、頭に水滴のようなものが落ちた感触が頭皮に伝わり、俺は見上げる。


 その瞬間、俺は驚いて目を大きく見開いた。


 今まで見たことがない大きさの触手が、頭上に現れたのだ。


 驚きと恐怖で身体が一時的に硬直してしまったのだろう。


 頭では逃げなければと分かっているのに、身体を動かすことができなかった。


 一瞬で俺の身体は触手に巻き付かれ、空中に持ち上げられる。


 触手が沈んでいく。


 俺を海の中に引きずり込もうとしている。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。スピードスター」


 ライリーが速度アップの魔法を唱える声が聞こえた瞬間、今度は一気に浮遊感を覚えたかと思うと一瞬で甲板に立っていた。


 彼女が剣で触手を切り裂き、落下した俺を抱きかかえて着地させてくれたのだろう。


 その証拠に切断された触手が、甲板の上で蠢いていた。


 触手は白く、吸盤のようなものには複数の牙のような棘がある。


 そして、棘には赤い液体が付着していた。


 その光景を見て、俺は自身の身体に視線を向ける。


 着ていた服は破れ、掴まれた腹部からは血が流れていた。


 まさか、触手に捕まれただけで肉を切られたのか?


 鼓動が激しくなるとともに、思い出したかのように痛みが走り、俺は膝をついた。


「デーヴィッドしっかりしな!(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ブラッドプリュース」


 ライリーの魔法により、破れた血管を修復しようと、血小板が塊になって血管壁に付着。


 次に凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下すると同時に、血小板や破れた組織からトロンボプラスチンが放出され、血漿の中にある凝固蛋白やカルシウムと作用して、血漿中のプロトロビンをトロンビンに変換。


 さらにトロンビンが可溶性のフィブリノゲンを、不溶性のフィブリンに変換され、フィブリンは細長い線維状の分子で集まって網目構成をつくる。


 そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊が生まれ、血管の傷を塞ぐ。


 そして血管から抜け出した単核球が貪食作用でマクロファージになると、さらに色々な化学物質を放出し、それが刺激になると線維芽細胞が呼び出されコラーゲンを作る。


 その後、線維芽細胞、毛細血管がコラーゲンを足場とし、この三者が欠損部を埋め、創面をくっつけて真皮に近い丈夫な組織を作り出した。


 そして骨髄から作り出された幹細胞が赤血球、血小板に分化し、最終的に成熟したものが血液中に放出され、失った血液を補う。


 ライリーの魔法の力で傷を完全に癒すと、俺は直ぐに立ち上がる。


「皆触手には気をつけろ!捕まれば肉を切り裂かれて俺みたいになる!フォーカスさんと甲板部の人は船の中に避難してください。ここは俺たちで追い払います」


「わかりました。この船を襲っているのは海に住む生き物であっても魔物の類です。くれぐれもお気をつけください。ワシは船が動けるようになったときに、すぐに脱出できるように操舵室で待機しております」


 それだけ伝えると、フォーカスさんと甲板部の人たちは船の中に避難していく。


「さて、どうしたものか」


 あの白い触手を持つ魔物が、おそらくこの船を止めている。


 なら、倒すまではいかなくとも、追い払うことができれば俺たちは助かる。


 相手は海の中だ。


 一見海の中は海洋生物にとっては安全地帯に思える。


 しかし、だからと言って必ず避難できるわけではない。


 やり方によっては、逆に逃げ場のない袋のネズミとなる。


 だけどタイミングが必須だ。


 先に魔法の発動条件を整える。


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダストデビル」


 温められた海面から上昇気流が生まれ、それに向かって強風が吹いて交わり、渦巻き状に回転が強まった塵旋風が発生する。


 塵旋風は海の水を巻き上げ、一瞬だけ敵の姿が視認できた。


 ダイオウイカのように大きいイカ型の魔物だ。


 見た目はスプラッシュスクイッドに似ている。


 スプラッシュスクイッドは、全長五十センチのイカの姿をした魔物だ。


 その名のとおり、敵に水飛沫を当て、相手が怯んだ隙に跳ねて体当たりを仕かけてくる。


 だが、仮にそうだとしたら大きすぎる。


 あれほどの巨大なスプラッシュスクイッドは聞いたことがない。


 敵を目視することができた。


 あとは触手が海面から出てくるのを待つだけ。


「エミ、海の中の魔物を焙り出すことができないか?」


 俺の質問に、彼女は腕を組んで考える素振りを見せる。


「難しいかもしれないわね。相手が大きすぎるわ。あたしが仮に魔法を使っても効果が薄いかもしれない。その理由としては、イカやタコといった生き物は神経が未発達だから痛みを感じにくいのよ」


 確かにエミの言うとおりだ。


 人間や哺乳類は、脳の部分に大脳皮質という神経機関を持つが、痛覚を持つ動物は、細胞が刺激されると痛みの情報が、感覚神経から大脳に送られて痛いと感じる。


 つまり、感覚は大脳によって管理されているが、イカやタコにはこの大脳を形成する大脳皮質が存在していない。


 大脳皮質が存在していないということは、痛みを感じる神経が未発達ということだ。


 痛みを感じにくい以上は、失神魔法などを使ってもほとんど効果を発揮しないということになる。


 カレンの音の魔法は海の中までは届かないし、ここは相手の出方が窺うしかないだろう。


 様子を見ていると、スプラッシュスクイッドらしい攻撃を仕かけてきた。


 触手で水面を叩き、船の中に海水を飛ばす。


 面積が大きい分、飛んでくる海水の量がでかい。


 避ける間もなく、俺は海水を全身に浴びてしまった。


 海水で濡れた衣服が身体に張り付き、不純物の混じった水のせいでベタベタして不快感を覚える。


「皆大丈夫か!」


 俺は仲間たちに視線を向ける。


 鎧を装着ているランスロットとローブを着ているジルは問題なさそうだったが、女性陣たちは問題ありだった。


 俺のように服に海水が染み込み、肌に張り付いている。


 そのせいで服は透け、内側に来ている下着が丸見えの状態となる。


「ちょっと、デーヴィッド!こっち見ないで!」


「次、少しでもこっちを見る素振りをみせたら失神魔法をかけるわよ」


 カレンとエミは透けた下着を隠そうとして、腕を使って見られる範囲を少なくしていた。


 一瞬驚いてしまったが、邪な気持ちでドキドキしている場合ではない。


「海水を飛ばすとは、可愛い攻撃をするではないか」


 レイラが俺の横に並ぶ。


 彼女は海水を浴びて、髪が肌に張りつく感じになっているも、不自然なほどに着ている服だけは乾いていた。


「レイラ、お前も海水を浴びたはずだよな?どうして服が乾いている?」


「余の衣服は魔力で作り出しておる。なので、一瞬で乾いた服に変えることも可能だ」


 なるほど、これであのときのことも納得がいく。


 彼女の居城であるキャメロット城に寝泊まりをしていたころ、レイラが俺の部屋に忍び込んで横で寝ていたときに、ジルが部屋を訪れたときがあった。


 あのときは知らない間に、彼女が早着替えをして驚かされたが、そういうことだったのか。


「何だ?もしかしてがっかりしておるのか?そなたが望むのであれば、カレンたちのように透け下着姿になってもよいのだぞ」


「いいって…………そんなことをされたら目のやり場に困る」


 俺は恥かしくなり、レイラから視線を外すと小声で呟く。


「すまない。よく聞こえなかったのでもう一度言ってもらってもよいか?」


 独り言を聞かれたのか、レイラがもう一度言うように催促してくる。


「何でもない。ただの独り言だ。それよりも今は目の前の敵に集中しよう」


 どこから攻撃が仕かけられるのかわからない状況の中、俺は周囲を警戒する。


 水から飛び出す音が船首側から聞こえ、視線をそっちに向けると、触手が獲物を捕らえようと顔を出す。


 よし、今だ!


「食らいなさい。ファイヤーボール」


 この戦いに終止符を打つために、魔法の詠唱を始めようと思ったその瞬間、ジルがファイヤーボールを生み出し、触手にぶつける。


 火球に焼かれた触手は海の中に引っ込み、再び姿を晦ました。


 チャンスであったが仕方がない。


 俺の頭の中にある作戦は誰にも伝えていない。


 彼は自分で考えて最適な選択をしたに過ぎないのだ。


 そう自身に言い聞かせて、次のチャンスを待つ。


 しかし、先ほどのジルの攻撃を受けて敵は戦法を変えたのか、周囲から一斉に水飛沫の音が聞こえ複数の触手が現れる。


「皆、それぞれ応戦してくれ!ライリーはエミを庇いながら頼む」


 エミの魔法では、スプラッシュスクイッドにはほとんど通用しない。


 戦力外に近い状況では、この戦いには不向きだ。


 彼女のプライドがそれを許してくれるかはわからないが、これが最善の手だと俺は思う。


 それぞれが触手を相手にしている中、俺は残っている触手に向けて魔法の詠唱を唱える。


(まじな)いを用いて我が契約せしヴォルトに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよサンダーボルト!」


 先ほどのダストデビルで上昇気流を発生させたことにより、上空の雲の中にある小さい氷の粒と、霰や雹に成長した大きい氷の粒が衝突を繰り返すことで、この時摩擦が起き、静電気が発生すると蓄えきれなくなった電荷が、正電荷に誘導され落雷を引き起こす。


 雷は俺が相手をしている触手に直撃をすると、海水に濡れた触手は不純物の混じった水分子であるため、プラスの電荷とマイナスの電荷を伝って電気を流す。


 逃げ場ない雷が、海水塗れの触手を経由して本体に流れたのだろう。


 複数の触手は一斉に海の中に沈むと同時に船が前進を始める。


 スプラッシュスクイッドを倒したことで、船に張り付いていた触手が剥がれたようだ。


 これでようやく先に進むことができる。


 今までよりも船の速度が上がったような気がした。


 おそらくフォーカスさんが早くこの場から離れるように指示を出したのだろう。


 アリシア号は、この海域から逃げるようにしてセプテム大陸に向けて突き進んだ。



 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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