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第十四章 第一話 フォーカスとアリシア号

 今回のワード解説


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。

 翌日、俺たちは城の前で父さんたちと別れの挨拶を交わした。


「デーヴィッド、ワタシが言いたいことはわかっていると思うが、セプテム大陸の魔王と戦うのはいい。だけどむりだけはしてくれるなよ。ときには逃げる勇気が必要だ」


「その言葉は聞き飽きたよ。でもありがとう」


「少ないですが、旅の路銀にしてください」


 母さんが手に持っていた麻袋を俺に手渡し、それを受け取る。


 ずっしりとした重さがある。


 もしかしたら紙幣ではなく、硬貨なのだろうか?


 本当は直ぐにでも開けて中に入っている金額を確認したいが、その場で開けるのはエチケットに反するだろうと思い、グッと堪える。


「確認してくれて構わないですよ」


 中身を確認することを母さんが許可してくれたので、俺は麻袋を開けて確認する。


 中には太陽光に反射して光輝く金色の塊が三つ入っていた。


「これは金塊!」


「うそ!本当に!」


「あたしにも見せてよ」


「わたしも見たいです」


 俺の持つ袋に女性陣は群がる。


 金には美しい輝きの見た目と採掘量の少なさから、高い希少性がある。


 今まで発掘された金の総量は十八・三万トンで、残りは約五・三万トンしかないだろうと言われている。


 大部分が発掘困難の場所にあり、枯渇する日が近い貴重な資源だ。


 そのため金の価値は上がっていく傾向にある。


 形のある資産として、貴族や王族といった金持ちが所持している物だ。


「ありがとう。金に困ったときにでも換金させてもらうよ」


 おそらく、見た目どおりの二十四金だろう。


 金には金の保有量によって、価値や用途が異なる。


 この国では金の純度を二十四分率で表され、二十四が一番純度は高く、続いて二十二、十八、十四、十と下がっていく。


 純金に一番近い二十四金は、価値としてはとても高いが、強度が低く、取り扱いが非常に難しい代物だ。


 それに一番価値が高くとも、高騰し続ける訳ではない。


 世界中で取引されている金の価格が、情勢によって買取価格に変動がおきるのだ。


 こんなケースは物体そのものである金塊ではめったに起きないが、国の傾き具合によっては一日で価値がゼロになることもある。


 ハイリスクハイリターンで、取り扱いが非常に難しい。


 とにかく、これは本当にお金に困ったときの最終手段にしておこう。


「見るのはもうお終い」


 俺は金塊の入っている麻袋の紐を引っ張って閉じると、カレンのもつアイテムボックスの中に入れる。


 アイテムボックスの中なら、金塊を紛失させることもないだろう。


「フォーカスには話をつけておる。スキンヘッドの男だ」


「わかったありがとう」


 両親にお礼を言って俺たちは跳ね橋を渡ると、城下町からラ・シャリテの岬に向かった。


 森を抜け、平原を歩くと視界に塔のような建物が映る。


「灯台が見えてきたのです」


 目印となる建物を見つけ、アリスが走り出す。


「おい、あんまり走ると転んでしま……」


 注意を促そうとするが時すでに遅い、アリスは何かに躓いたようで、その場でダイブするかのように倒れる。


「アリスちゃん大丈夫?」


 心配したエミが彼女に駆け寄る。


 俺も駆け足でアリスに近づいた。


 立ち上がったアリスはエミに顔を見せるが、服は汚れ、顔や足には砂がついていた。


 しかし、見た感じはケガをしている様子はなさそうだ。


 彼女は生まれながらのアルビノであり、肌が弱いせいで外にいるときはローブを着ないといけないが、それが彼女の身体を守ってくれた。


 不幸中の幸いに俺は安堵する。


 アリスの顔についている砂をエミが拭い、綺麗にするとアリスは笑みを浮かべる。


「転んでしまいましたが、これぐらいでアリスは泣かないのです」


「本当に偉いわ。アリスちゃん。今度は転んでしまわないように手を繋ぎましょう」


「はいなのです」


 二人は手を繋ぎ、岬に向けて歩き出す。


 その姿は本当の姉妹のように見え、とても微笑ましい。


 平原を歩いていると白銀の鎧と黒いローブを着ている二人組が俺たちに気づき、こちらに向かってくる。


 そして俺たちの前に来ると片膝をついて頭を垂れた。


「レイラ様お待ちしておりました」


「ついにセプテム大陸に赴き、あの憎き男を殺す日が来ましたね。ジルはいつでも準備ができております」


「ランスロット卿にジル軍師、よくぞ参られた。そして心がバラバラになってしまった同士をもう一度結束させたことを、余は喜んでおる」


「勿体なきお言葉、俺たちはレイラ様の配下として当然のことをしたまで」


「ランスロット卿の言うとおり、我々は当たり前のことをしただけです。これから先も、あなた様に忠誠を誓います」


「うむ。では共に参ろうぞ」


 ランスロットとジルを旅の仲間に加え、俺たちは八人パーティーでセプテム大陸を目指す。


 ラ・シャリテの岬に到達すると、俺はフォーカスさんを探した。


 スキンヘッドということで、見つけやすそうな特徴であったが、この近くには人が見当たらない。


 灯台の中にいるのだろうか?


「見よデーヴィッド、御父上が言っていた船とはあれのことではないか?」


 レイラが指を差し、そちらに顔を向ける。


 堤防に沿って大きな船が泊められていた。


「あれかもしれないな」


 ここからは距離があり、はっきりと認識することができないが、数人が船の上で仕事をしているようだった。


「あそこにフォーカスさんがいるかもしれないな。行ってみよう」


 船に近づくとあることに気づいた。


 船首の先が女性の姿をしているが、そのモデルとなったであろう女性に心当たりがある。


「あれってお妃様じゃない?」


 カレンが船首のモデルとなったのは母さんではないかと言ってきた。


「やっぱりそう見えてしまうよな」


 どこからどう見ても母さんに酷似している。


 船首の女性像からして、名前も何となくではあるが予想ができた。


 船を見上げると積荷を運んでいる男性が見え、彼に声をかける。


「すみませーん。こちらにフォーカスさんはいませんか?」


 大きめの声を出し、男性に声をかけてみるが、どうやら届いてはいないようで振り向いてもくれない。


「これぐらいの声量ではむりか」


 さらに声を大きくする必要があるが、大声をだすとなると、あとで喉を傷めそうだ。


「カレン、悪いがあの魔法を俺に使ってくれないか」


「あれは洞窟の中だったからこそ、可能であったのよ。反射する壁がほとんどない外では、発動しても音が響く保証はないわ」


 俺は西の洞窟のときのように、自身の声を響かせて男たちに伝えようと考えたのだが、やっぱり音が響く環境ではない場所では、効果が薄いみたいだ。


 直接乗り込んで話しかけたほうが早いだろうか?


「そこにいるのはデーヴィッド王子ですかな?」


 後ろから男の声が聞こえ、俺は振り返る。


 スキンヘッドの頭に揉み上げと顎髭がつながっているジャンボジュニアと呼ばれる髭を生やしている男が、俺たちのほうに歩いてくる。


 顔や腕にはシミがあり、高齢者ということが一目でわかった。


 太陽光が頭部に反射し、光輝く。


「あなたがフォーカスさんですか?」


 俺は笑いが込み上げてくるのを我慢し、彼に本人であるか尋ねる。


「そうです。ワシがフォーカスです。もう一度訪ねますが、デーヴィッド王子で間違いありませんね」


「はい」


「話は王様から聞いております。どうぞ船にお上がりください。もう少しで出航の準備が完了すると思いますので」


 フォーカスさんに案内され、甲板に足を踏み入れる。


 海の上ということもあって、若干だが揺れを感じた。


 扉を開けて船の中に入り、寝室に案内される。


 寝室と言っても寝床はハンモックであり、部屋の中央には木製のテーブルが置かれていた。


「船旅の間はここで寝泊まりしてもらいます」


「王族の船にしては、寝床は庶民的だねぇ」


「はい。これは王様の趣味でして『船の中でまでベッドに寝るなど面白くない。すべてハンモックにしろ』と設計段階から言われておりました。ご不便をおかけするかと思いますがご辛抱くださいませ」


 丁寧に説明し、フォーカスさんは謝罪の言葉を述べる。


 そして壁にかけられている世界地図を剥がすと、テーブルの上に置いた。


「進路ですが、ガリア国の警備兵に見つかってしまうおそれがあります。なので、迂回するかたちで海を渡り、セプテム大陸の北側から上陸をしようかと思っております」


 世界地図に指を置き、フォーカスさんは船の進むルートをなぞりながら説明してくれた。


「こうやってみると、私たちの住んでいる大陸って小さいのね」


 カレンがオルレアン大陸とセプテム大陸を見比べ、大きさが違うことを指摘する。


 オルレアン大陸に比べ、セプテム大陸は陸地面積が広い。


 そのため人口も多く、人間以外の種族も住んでいる。


 確かセプテム大陸の北側は、エルフが住んでいると噂で聞いたことがあった。


「フォーカスさん、ひとつ質問をしていいですか?迂回する理由はわかったのですが、どうして北側なのですか?そこから上陸するということは、エルフの住む森を抜けなければいけなくなりますよ」


 他にもルートはあるはずなのに、どうして北側なのかを彼に聞く。


「皆さんもエルフのことは知っているかと思いますが、あの種族は人間とは違い寿命が長いです。なので、長年蓄積された知識があるかと思います。エルフたちと会い、セプテム大陸の魔王の情報を得ることができないかと考えました」


 彼の説明を聞き、納得はした。


「その必要はないじゃない。レイラは魔王と面識があるのでしょう?」


「それは本当ですか?」


 カレンの説明に、フォーカスさんが驚き、レイラに尋ねる。


「そうであるが、なんと説明すればよいのか。謁見した場所は火山地帯というのは覚えておる。しかし不思議と記憶が朧気なのだ。出会った場所とセプテム大陸の魔王と出会ったいう事実は記憶としてはっきりとしておる。しかし、何故か容姿が思い出せぬのだ」


 レイラは頭を掻き毟りながら説明をしてくれた。


 肝心な部分だけが頭の中から抜け落ちている。


 それは、相手の何らかの魔法による影響なのか、それとも魔王との謁見の際に何かが起き、脳の防衛本能が無意識に働いて、意図的に海馬から記憶を引っ張り出せない障がいが起きているのか。


 どちらにせよ、セプテム大陸の魔王に関しては、肝心な部分の情報がないに等しい。


 フォーカスさんの説明どおりに、エルフから何かしらの情報を得るしかないだろう。


 だけど上手くいくだろうか?異種族との交流の経験はない。


 どうにかしてエルフの人たちと打ち解けなければ、情報を提供してもらうことは難しいかもしれない。


 卑しい人間相手なら金で解決するだろうが、自然と共に生きるエルフたちは、紙幣を渡しても効果は期待できないだろう。


「エルフの人となら、お話したことがあるのです」


「それは本当か!」


 コミュニケーション方法を考えていると、アリスがエルフと会話した経験があることを告げる。


「はいなのです。わたしのお父さんがエルフの人と友達だったので、時々遊びに行ったことがあります。なので、道案内できますよ。お父さんと仲が良かったエルフさんを覚えているので、きっと力になってくれるかと思います」


 まさかアリスの亡くなったご両親がエルフと知り合いだとは思わなかった。


 こんな小さな子に頼むのは心苦しいが、ここは彼女の力を借りるのがベストだ。


「わかった。なら、オルレアン大陸に上陸したら道案内を頼むよ」


「任せてくださいなのです」


 アリスは右手で拳を作り、自身の胸を軽く叩く。


「アリスちゃん、エルフってどんな姿なの?」


 エミがエルフの容姿について尋ねる。


 彼女はこことは違う星の出身だ。


 たぶんエルフについてはほとんど知らないはず。


「えーとですね、男女関係なく髪が長い人が多いです。髪は金髪で、スラリとした体型の人しかいなかったと思います。あと、耳の先は尖っていました」


「あたしの世界で描かれているエルフと同じなのね。やっぱり美形ばかりなの?」


「そうですね、かっこいい人や綺麗な人が多かったかと思います」


「そうなんだ。ありがとうアリスちゃん」


「どういたしましてなのです」


「アリスちゃんには難しい質問だから、デーヴィッドに聞きたいのだけど、どうしてエルフは長寿なの?」


 何の前触れもなく、急に話を振られて俺は戸惑う。


 別に知らないわけではない。


 どうやって説明するべきなのかを悩んだのだ。


 エミに言わせると、俺の説明は論理的すぎて一般人には理解しにくいらしい。


 教えることに関して下手な俺は、どこから話を切り出せばいいのかがわからなかった。


「もしかして知らないの?デーヴィッドにも知らないことがあるなんて意外ね」


「違う、もちろん知っているさ。ただ、この前の食事のときに、俺の説明は難しすぎて理解しにくいって言っていただろう?だから分かりやすく説明する方法を考えていたんだ」


「それなら何も考えないで教えてくれればいいじゃない。あたしには他の人とは違ってデーヴィッドの言いたいことを理解できるから」


 エミは、他の人とは違うという部分を強調しながら、俺に説明をするように促す。


 彼女の言葉を聞いたレイラとカレンは、何故か頬を膨らませた。


「レイラに比べたら、私のほうがデーヴィッドの説明を理解できるわよ。レッサーデーモンの音波攻撃による魔法封じの説明も、理解することができたもの」


「何を言う。余だってそれぐらいなら知っておる。それでは勝負といこうではないか、どちらがデーヴィッドの説明を聞き、他の人に分かりやすく教えることができるのかを」


「いいわよ。受けて立つわ」


「それあたしも参加していい?」


 二人の張り合いにエミは介入してくると、カレンとレイラは口を閉ざす。


 俺が、母さんは精霊でありながら、なぜ人に見えるのかを論理的に説明した際に、エミは要点を纏め、わかりやすいように皆の前で説明したことがある。


 その実績があるお陰で、彼女らは尻込みをしているのかもしれない。


「い、いいだろう。エミの参加も認めてやろう」


「そ、そうね。相手にとって不足ないわ」


 カレンとレイラは言葉を嚙みながらエミの参加を許すと、背を向けて二人でこそこそと何かを話し始めた。


 ここからでは二人が何を話しているのかはわからないが、そんな彼女たちの姿を見て、俺は小さく溜息を吐く。


 仲がいいのか悪いのか、わからないな。


 こうして第一回、誰がデーヴィッドの説明を一番理解し、わかりやすく説明できるのか大会が開催されることとなった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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