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第十二章 第十話 新たな幕開け

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


凝固蛋白……タンパク質が固まったもの?


凝血塊……血液の塊のことである。


血漿……血液 に含まれる液体成分の一つで、血液55%をしめる。血液を試験管にとって遠心沈殿すると、下の方に赤い塊りができ、上澄は淡黄色の液体になる。


血小板……血液に含まれる細胞成分の一種である。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に集合してその傷口をふさぎ(血小板凝集) 、止血する作用を持つ。


血管壁……単層の内皮細胞からなっている。この血管壁の細胞間隙を通して、血液中と組織で、酸素と二酸化炭素の受け渡しや、栄養素の供給と老廃物の回収など物質交換を行っている。


コラーゲン……皮膚や腱・軟骨などを構成する繊維状のたんぱく質で、人体のたんぱく質全体の約30%を占める。ゼラチンの原料としても知られる。人の皮膚・血管・じん帯・腱・軟骨などの組織を構成する繊維状のたんぱく質です。人間の場合、体内に存在するすべてのたんぱく質の約30%を占めており、そのうちの40%は皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、血管や内臓など全身の組織にも広く分布しています。コラーゲンを構成するアミノ酸の生成にはビタミンCが必要なため、ビタミンCが不足するとコラーゲンの合成が出来なくなり、壊血病を引き起こします。またビタミンAもコラーゲンの再構築に関わっています。


アクトミオシン……精製した筋肉タンパク質のミオシンとアクチンの溶液を混合してできる複合体で,そのままではミオシンとアクチンが結合した状態にある.強い流動複屈折を示し,溶液の粘度は高く,電子顕微鏡像は枝分れした網状鏡像を示す。


溶性……物質が液体中にとけこむことのできる性質。


幹細胞……分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されている 。


上皮細胞……上皮細胞とは、体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」、外分泌腺を構成する「腺房細胞」や内分泌腺を構成する「腺細胞」などを総称した細胞。これら以外にも肝細胞や尿細管上皮など分泌や吸収機能を担う実質臓器の細胞も上皮に含められる。


セロトニン……生理活性アミンの一。生体内でトリプトファンから合成され,脳・脾臓・胃腸・血清中に多く含まれる。脳の神経伝達などに作用するとともに,精神を安定させる作用もある。


線維芽細胞……結合組織を構成する細胞の1つ。コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す。細胞小器官が豊富であり、核小体が明瞭な楕円形の核を有し、細胞質は塩基好性を示す。


単核球……白血球の一種で、最も大きなタイプの白血球である。マクロファージや、樹状細胞に分化することができる。


トロンビン……血液の凝固に関わる酵素セリンプロテアーゼの一種。


トロンボプラスチン……血液凝固に関与する因子の一つで,リポタンパク質。カルシウム-イオンの存在下でプロトロンビンをトロンビンに変える。


貪食作用……体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用である。


フィブリン……血液凝固に関連するタンパク質のフィブリノゲンが分解され活性化したものである。


フィブリノゲン……血液凝固の最終段階で網状の不溶性物質フィブリンとなり、血球や血小板が集まってできた塊(血栓)のすき間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出ないようにしている。 このため、フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなり、止血されにくくなる(出血傾向)。


プロトビン……血漿中に含まれるタンパク質の一種。体組織が破壊された際などに「トロンビン」へ変化し、血液凝固を起こす機能を持つ。


不溶性……液体に溶解しない性質。


マクロファージ……白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性 の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす 。


SDK……膜たんぱく質の一つ。

「皆お疲れ、今度こそ倒したよな」


 俺は仲間全員を労い、笑みを向ける。


 皆が難敵を倒して喜んでいる中、エミだけが難しい顔をしていた。


「エミどうかしたのか?」


「ううん、何でもない。ただ何かを忘れているような気がするのよ。この戦いにおいて、とても重要なことだったような気がするのだけど」


「おいおい演技の悪いことを言わないでくれよ」


「ごめん、ごめん。たぶん忘れるということは、たいしたことがないのよね。今の言葉は忘れて…………デーヴィッド危ない!」


 突然エミが俺を突き倒した。


 何が起きたのかがわからず、俺は上体を起こすと大きく目を見開いく。


 俺は悪い夢でも見ているのか?


 酒吞童子の頭が空中に浮かび、エミの肩に牙を突き立てていたのだ。


「エミ!」


「俺はここで死ぬわけにはいかない。せめて一人でも道連れにしてくれる」


 何故だ!条件は満たしたはず。なのに、どうして酒吞童子の頭だけが動いている?まだ完全に条件を満たしていないのか?


「あたし……は……大丈夫……だから……思い出した……わ。あたしの……いた……世界の……伝説には……首を斬った……酒吞童子の頭が……動いて牙を剥くの……これは……あたしが忘れていた……せい。だから……この役目は……あたしが……引き受けるわ」


 突きさされた箇所からはどくどくと鮮血が流れている。


 このままでは出血死してしまう。


 俺はあのときエミを守ると約束したんだ。


 絶対に彼女を殺させはしない。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーターカッター」


 空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


 そして今度は水の塊が加圧により、直径一ミリほどの厚さに形状を変えると、酒吞童子の頭部に飛ばす。


 勢いのある水が敵にヒットすると、酒吞童子の頭は光に包まれて消えた。


 あれはヘラクレスを倒した際にも起きた現象だ。


 今度こそ酒吞童子を倒した。


「エミ!」


 俺は彼女に駆け寄る。


 首にも牙が突き立てられていたようで、血が止まる気配がない。


 太い静脈を切られた。


 早くどうにかしないと命に係わる。


「エミしっかりしろ!大丈夫だ。すぐにそのケガを直してやる」


「むりよ……出血が酷いわ。意識が……朦朧として……いる。デーヴィッドあのね……あなたに……いいたいこと……が……あるの」


「もう喋るな!体力を失うだけだ」


「デーヴィッドよ。エミをどうにか助ける方法はないのか。こんな形で余のライバルを失う訳にはゆかぬ」


「方法はある。それはライリー自身にかかっている」


「あたいがどんな回復魔法を使えば良い!教えてくれ」


「まずは血管の修復からだ。そして傷を塞ぐ。だけどそれだけではエミに後遺症が残ってしまう。失った血液を作り、多くの赤血球が酸素を運ぶようにしなければならない」


 俺は知っている知識をライリーに教える。


 だけどこの魔法を使って治療をしたとしても、成功率は五十パーセントといったところだろう。


 最終的にはエミの体力次第だ。


 彼女が生きようとして抗わない限りは、傷は塞がっても目を開けることはない。


「取敢えずは了解した。やれることはやってみよう」


「デーヴィッドはエミの手を握ってあげて。気休めかもしれないけれど。少しは違うかもしれないから」


「わかった」


 俺はエミの手を優しく握る。


 頼む。


 頑張って生きてくれ。


 俺に約束を守らせてくれ。


「それじゃあ始めるよ!(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ブラッドプリュース」


 失った血液を補おうと、ライリーはエミに血液生産魔法をかける。


 破れた血管を修復しようと、血小板が塊になって血管壁に付着。


 次に凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下すると同時に、血小板や破れた組織からトロンボプラスチンが放出され、血漿の中にある凝固蛋白やカルシウムと作用して、血漿中のプロトロビンをトロンビンに変換。


 さらにトロンビンが可溶性のフィブリノゲンを、不溶性のフィブリンに変換され、フィブリンは細長い線維状の分子で集まって網目構成をつくる。


 そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊が生まれ、血管の傷を塞ぐ。


 そして血管から抜け出した単核球が貪食作用でマクロファージになると、さらに色々な化学物質を放出し、それが刺激になると線維芽細胞が呼び出されコラーゲンを作る。


 その後、線維芽細胞、毛細血管がコラーゲンを足場とし、この三者が欠損部を埋め、創面をくっつけて真皮に近い丈夫な組織を作り出した。


 そして骨髄から作り出された幹細胞が赤血球、血小板に分化し、最終的に成熟したものが血液中に放出され、失った血液を補う。


 取敢えずこれで止血はすんだ。


 あとはこの痛々しい傷の修復を行うだけ。


「ライリー続いてネイチャーヒーリングを」


「わかっているよ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ネイチャーヒーリング」


 ライリーがもう一つの回復呪文を唱えると、エミの身体を保つ細胞の一つである上皮細胞が、隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積し、その細胞接着面が短縮。


 アクトミオシンは新しい細胞接着面を作る際の接合点で再利用されると、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張。


 そしてSDKと呼ばれる膜たんぱく質が、細胞接着面のつなぎ替え後に形成される細胞接合点に早く集積し、アクトミオシンを繋ぎ止め、まるでジッパーのように細胞接合点をスムーズに移動することで、新しい細胞接着面の伸長を誘導。


 細胞接着面がつなぎ替わった後に、新しい細胞接着面の伸長が連続して起こることによって、上皮細胞がスムーズに集団移動を始め、シート状の上皮組織を折りたたみ、伸長、陥入、移動などの変形を行い、複雑な器官の修復を行う。


 ふたつの回復魔法の効果により、エミの顔色はみるみるよくなっていく。


 これなら死にかけたことによる後遺症の心配はいらないだろう。


「エミはどうなのだ?デーヴィッドよ」


 レイラが心配する声を上げる。


「命に別状はない。あとはエミが生きたいと思う強い意志しだいだ。俺たちはやれることをした。これ以上は見守ることしかできない」


 俺はエミの手を握ったまま心の中で呟く。


 絶対に目を覚ましてくれ。


 お前がいないと張り合いがない。


「エミを城に運ぶためにタンカを作ろう。カレン、アイテムボックスから毛布を出してくれ」


「わかったわ」


 タンカ作成に取りかかろうとしたときだ。


「まさか王都オルレアンが魔物を使い、戦闘訓練をしているとの噂は本当だったようですね!」


 聞き覚えのない声が聞こえ、俺は森のほうに顔を向ける。


 そこにはセプテム大陸の国、ガリアのエンブレムを持つ兵士が複数いた。


「今見た光景は我が王に伝えます。あなた方が魔物を使い、戦争を起こそうとしていることが明らかになった今、これまでの盟約は破棄となるでしょう。最初に裏切ったのはあなたがたのほうです。ペンドラゴン王にもそうお伝えください。行きますよ皆さん」


 白馬に乗った茶髪の癖毛男が言葉を吐き捨てると、ガリアの兵士たちはこの場から去って行く。


 俺は何が起きたのかがわからず、呆然と立ち尽くしてしまった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 今回の話で第十二章は終わりです。


 明日は第十二章の話を纏めたあらすじを投稿するよていです。

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