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第十二章 第三話 石化魔法

 今回の話はエミが中心となっています。


 そのため、三人称の視点で書かせてもらっています。


今回のワード解説


腫脹……身体の一部が膨らみ隆起することであり、腫れ物を形成する。 原因には先天性、外傷性、炎症性、新生物などがある。


アルギニン……天然に存在するアミノ酸のひとつ。


ヒスチジン……アミノ酸の一種でプロピオン酸のこと。


異所性骨化……本来、骨の形成が起こらない軟部組織(筋肉、腱、靭帯、臓器、関節包)に、石灰が沈着して骨のようになることがある。これが異所性骨化で、異所的骨形成ともいう。


体幹……脊椎動物のからだを大きく区分すると体幹と体肢とになるが,体幹とはからだの中軸部で,これをさらに頭部,頸部,胸部,腹部,尾部に分ける。体肢は体幹から出る2対の枝で,前肢(ヒトでは上肢)と後肢(ヒトでは下肢)とからなる。


末梢神経……動物の神経系のうち,中枢神経と末端の効果器ないし受容器とを結ぶ神経。脳脊髄神経系と自律神経系からなり,前者はさらに脳神経と脊髄神経に分けられる。





 デーヴィッドが金熊童子と戦っているうちに、エミはライリーと共に地を駆け、熊童子を目指す。


 レイラとカレンのサポートにより、道は開かれている。


 彼女らの攻撃から逃れた小鬼もいるが、そいつらはライリーが切り伏せてくれた。


「疑っているわけではないが、本当に敵を石化させることができるのかい?」


「その言葉自体が疑っているじゃない。あたしも知識として知っているだけだから、上手く発動できるかはやってみないとわからない。だけどダメ元でやってみないと可能性の空を広げることはできないわ」


「なら、あたいもその賭けに乗ろうじゃないか。あたいから離れるんじゃないよ」


 少しずつ熊童子に近づいている。


 これならもう少しの辛抱で反撃に出ることができるだろう。


 そう思った瞬間、いきなり何かが飛んできて地面に突き刺さった。


 よく見るとそれは刀だ。


 エミたちは足を止め、その場に立ち止まる。


「何だいあのバカみたいに長い包丁は?」


 ライリーが興味深そうに刀を見る。


 この世界には剣として言えるものは両刃剣しか存在していない。


 片方だけ刃があるものは、包丁ぐらいなのだ。


「包丁なんかではない。日本刀だ」


 砂地に突き刺さる刀に、一体の鬼が近づく。


 肌の色は人間と同じだが、熊童子と同じ形の角をしている。


「あなたも四天王ね。おそらく肌の色からして星熊童子と言ったところかしら?」


「ほう、よく拙者の存在を知っている。お主は何者だ?」


 刀を引き抜き、星熊童子は刃先をエミたちに向けた。


「神に選ばれた美少女よ。世界で二番目に強いわ」


「それは違うな。例えお主が本当に強かったとしても世界で一番に強いのは我々の生みの親である王、その次に酒呑童子、茨木童子、そして我々四天王。お主はそれ以下だ」


 エミが自信ありげに答えると回答が気に入らなかったのか、星熊童子は訂正をする。


「それはあなたの頭の中での物言いでしょう。空想と現実は違うということを教えてあげるわ」


「面白い。だが、拙者が相手をするのはそこの剣士だ。お主は先に進むがよい」


「どういう意味よ」


 突然道を塞いだかと思えば、今度はエミだけに通行許可を与える。


 これは何かの罠なのだろうか。


 先に進ませると言って、油断をさせた直後に背後から斬りかかる算段なのかもしれない。


「そう構えなくともよい。これでも剣士の端くれだからな。無粋な真似はしない」


「エミは先に行きな。ここはあたいに任せるんだ」


「わかったわ。でも油断しないでよ。日本剣術全てが、西洋剣術のようなものばかりではないのだから」


「そんなことは言われなくとも分かっているさ」


「?」


 ライリーの発言に、エミは若干の違和感を覚えた。


 しかしその正体がわからず、首を傾げる。


「あとはお願い」


 エミは走り、星熊童子の横を抜ける。


 約束通りに背後から斬りかかるようなことはなかった。


 後方から刃同士の振れる音が聞こえる。


 擦れ違ったあとに、すぐ斬り合いが始まったようだ。


 ひたすら走っていると熊童子の姿を視界に捉える。


「見つけたわ。覚悟しなさい」


 エミが言葉を投げると熊童子は溜息を吐く。


「やっぱり星熊童子は一人だけしか相手にしなかったようですね。ですが、まぁいいでしょう。あなた程度の人間なら俺だけでも十分でしょう」


「そんなに余裕があるなんて羨ましいわね」


「当然でしょう。何せ俺は邪神様の加護を得たプリースト。邪神様に俺の声が届く限り、俺や仲間たちは死ぬことはない」


「もし、あなたの言葉が邪神に届かなかったら?」


「アハハハハ。面白いことを言う。俺はプリースト、どんなことがあろうと邪神様は俺の願いを聞き入れてくれる」


 エミの問いが熊童子のツボに嵌ったようだ。


 彼はお腹を抱えて笑いだした。


「こいつはヤベー!」


 離れた場所から金熊童子の声が聞こえた。


 どうやらデーヴィッドが敵を圧倒しているようだ。


「あなたの仲間がピンチみたいよ。邪神に祈って治癒をしなくていいの」


「別に構いません」


 即答する熊童子にエミは意外に感じた。


 これはあのときの自分と同じなのか?


 相手に意外性を与え、隙を作ろうとしている。


「その手には乗らないわよ。あたしも似たような手段を取ったことがあるから」


「何を言っているのですか?俺はただ本心を言ったに過ぎない。金熊童子は追い詰められるのが最初の仕事なのですから。ほら見なさい」


 熊童子がデーヴィッドたちのいる方角に指を差す。


 言われた通りに視線を動かすと、エミは大きく目を見開いた。


「デーヴィッド!」


 数秒の間に何が起きたのか、彼は地面に倒れて起き上がる素振すら見せてはいなかった。


「星熊童子はアサシンの職でありながらも、真直ぐで堂々としている。だけどそのせいで、気配遮断の能力をフルに活かすことができていない。だけど、命の危険を感じたとき、彼は吹っ切れて本領を発揮する。最初の弱さに油断して殺された人間など、数えきれないほど見てきましたよ」


 大丈夫、彼なら生きている。


 そう自身に言い聞かせるも、身体は正直なようで震えていた。


 今すぐこの場から飛び出して彼に駆け寄りたい。


 だけどそのようなことをすれば、この策が無意味となってしまう。


 歯を食い縛り、エミは熊童子を睨む。


「先ほどの言葉をそのまま返しますが、あなたのお仲間がピンチですよ。助けに向わなくてもいいのですか?」


「大丈夫よ。デーヴィッドはあれぐらいでは死なないわ。彼はあたしと違って何度も修羅場を潜り抜けてきたのだもの。何度も強敵と戦い、その度に勝利した」


「説得力がないですね。言葉の割には身体が震えているではないですか。本当に彼を信じているのであれば堂々としているはず」


 熊童子の言葉が胸を貫き、エミは歯に力を籠める。


 確かに彼の指摘どおりだ。


 これではまるで、デーヴィッドを信じてはいないと言っているようなもの。


「信じると言葉で言うのは誰にでもできること。しかし本当に信頼関係が築けていないのであれば、それは顔の表情や身体の僅かな動きから滲み出てきます。今のあなたは彼の力を疑っている。心から信頼していない。だから反射レベルで表に出るのですよ」


「黙れ!」


 うまく言葉が出ずに、単調なものしか言えない。


 正論を言われ、反論しようにも言葉が思い浮かんでこなかった。


 確かに自分は、心からデーヴィッドのことを信用してはいないのかもしれない。


 だけど、心配になって当たり前だ。


 大切な人がピンチになっていると知れば、駆けつけたくなるもの。


 それが人間だ。


 彼が言っているのは正しい。


 だけどそれは裏を返せば冷たく無関心ともいえる。


 逆に考えれば、どうでもいいと思っているからこそ堂々としているのだ。


「あなたにはわからないでしょうね。人間には心ってものがあるのよ。例え信じていても、相手のことを想えばこそ、心配にもなるし心もざわつくものなのよ。デーヴィッドは大丈夫、きっと起き上がって戦う。彼を信じているからこそ、あたしも立ち向かわなければならない」


 エミは右手を熊童子に向ける。


「あたしの心に影を落とそうとした罰を受けてもらうわ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アスフィケイション」


 エミが魔法を発動後、数秒の時が流れる。


 しかし、今のところは熊童子に変化は訪れない。


「今何かしましたか?魔法を発動したようですが、何も起きないようですね。罰を受けてもらう?とんだ笑い種ですね。不発の魔法ほど笑えるものはない。俺を驚かした罪を、お前が償え!」


 熊童子が拳を振り上げる。


 だが、そこから彼の手が振り下ろされることはなかった。


「どうしてだ?どうして俺の意思で動かない」


「ハ、ハハ……よかった。ちゃんと発動してくれて」


「女、俺に何をした!」


 突然の行動不能に冷静さを失ったのだろう。


 口調が荒々しい。


「あなたのような頭で理解できるかはわからないけど、一応教えてあげるわ。あなたの骨格筋や筋膜などを骨に変えたのよ」


「何!」


「この魔法は発赤、熱感、圧痛を伴った腫脹が出現することで、二百六番目のアミノ酸であるRアルギニンがヒスチジンに変化するのよ。遺伝子の変異により、血管内皮細胞が間葉系幹細胞の形質を獲得することで、その細胞が骨格筋や筋膜、腱や靭帯に集積することで異所性骨化が広がり、関節の可動性が失われるのよ。これがあたしのいた世界で唯一言える石化現象。ファンタジー世界みたいに、本当に石にはならないけど、動けなくなる意味では一緒よね」


「そんな魔法が存在するなんて聞いたことがない!」


「それはそうでしょう。だって今あたしが作った魔法だもの」


「じっ邪神よ!」


「そうはさせない!」


 邪神に助けを乞い、骨化を直してもらおうとしていると判断したエミは、すかさず次の手を打つ。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。フレア・アップ」


「く、くひかぁふみゃくふふぉふぇにゃい」


 フレア・アップにより、体幹から始まり末梢神経に侵攻する速度が上昇、顎の筋肉を骨化し、関節に制限をかけた。


「ふぉねにゃい。あにゃみゃるきゃらゆるひて」


「あなたには残念なお知らせだけど、あたしのいた世界でも、この現象を治す治療法が存在していないのよ。発動したら、一生身体を動かすことができないわ」


 熊童子の骨化がほとんど進行したのか、彼は微動だにしていないが、その表情は恐怖に引き攣っていた。


 最後の表情がこのような顔では哀れすぎる。


「あなたは死ぬまでそのままの態勢よ。一本の木のように毎日同じ風景を見続ける人生を送るの。雨が降ろうが嵐が来ようが、この場から逃げることすらできない」


「こ、ころひて。ふぉねにゃい」


「嫌よ。あなたは恐怖の毎日を過ごすのがお似合いだわ」


 ニヤリと笑みを浮かべながらも、顔を俯かせてエミは全身の気怠さを覚える。


 さすがに無茶をしたようだ。


 精神力の殆どを使い果たしたようで、一歩も動きたくはない。


 この後どうするかを考えていると突如地面が揺れ、エミは顔を上げる。


 目の前にいた熊童子は棍棒で圧し潰されて肉塊に代わり、砂地を血で染め上げた。


「よくも熊童子を惨めな姿にしてくれたな。しかも死を願っているやつをそのままにするとか、とんだ悪魔がいたものだ」


 血でべっとりとなった棍棒を引き抜く。


 熊童子にトドメを差したのは、他の四天王と同じ角に、黒いボーダーの線が入っている白い肌の男だ。


「シマウマ?」


「シマウマじゃねぇ!トラだ!俺の名は虎熊童子、酒吞童子率いる四天王の一人だ。もう一度言うからな!シマウマじゃねぇトラだ」


 彼は自分の身体にコンプレックスを持っているのか、同じことを二度言った。


「まぁ、いい。見たところ立っているのもやっとといったところだろう。このまま死んであの世で熊童子に詫びやがれ!」


 虎熊童子が棍棒を振り上げる。


 まずい。


 このままでは直撃は免れない。


 だが、今更避けようとしたところで回避はできないだろう。


「ごめん。あたしはここまでみたい。デーヴィッドのこと頼んだわね、皆」


 エミは両の瞼を閉じた。


 しかし、数秒経っても痛みは感じなかった。


 それほどの威力で死んでしまったのだろうか?


「おい、大丈夫か?」


 誰かの声が聞こえる。


 エミの知らない声だ。


 心配してくれているということは、自分はまだ死んでいないということになる。


 いったい誰が助けてくれたのだろうか?


 エミは思いっきって瞼を開く。


 目の前には白銀の鎧に身を包んだ人物が立っており、剣で棍棒を受け止めていた。


「あなた誰?」


 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 あなたのお陰でまた一歩、目標ポイントに近づきました。


 そしてついに、ユニーク数が二千五百を越えました!


 これもすべて、毎日読んでいただいているあなたがいての結果だと思っております。


 これからも、楽しいと思ってもらえる作品作りを心掛けるために、様々なことを勉強して作品に活かしていきたいと思っております。


 これからも頑張って毎日投稿していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。


 第四話は明日投稿よていです!

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