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第一章 第六話 追放

 この村を襲って来たのは魔王軍の一部。


 しかも再び来ると言われ、俺はすぐに行動に移さなければならなくなった。


 魔法の連発で疲れていたが、グラウンドのほうに向かう。


 ちょうど辿り着いたと同時に、門の方から村人たちが現れ、学園内に入って来た。


 その中にはカレンやライリー、義理の両親の姿も見られた。


「みんな無事か」


 そう言葉をかけたところで、額に何かが当たり、痛みを感じる。


 直撃したものはそのまま地面に落ち、視線をそちらに向けると、額に当たったのは小さな石だった。


「出て行け! この疫病神!」


「お前がいたらこの村は魔王軍に滅ぼされる」


「お前なんか魔物に殺されればよかったんだ」


 様々な罵倒を浴びせながら、村人が石を拾うとこちらに投げつける。


 どうしてそんなことをする?


 俺は村の皆を助けるために必死で戦ったんだぞ。


 どうしてそんなに敵意を向け、親の仇を見るような目で見る?


 どうして俺が責められないといけない?


 そんなことを考える中、絶望を感じつつも村人を見る。


 どうやら全員ではないようで、カレンやその友人、ライリーや義理の両親などは攻撃するようなことはなかった。


 少なくとも、村の全員が敵意を向けていないことに、わずかながらもホッする。


 だけど、このままでは石を投げつけられるだけだ。


 何もしなければ、そのうちヒートアップして、刃物で刺されて死んでしまうかもしれない。


 どうにかしなければ。


「もう止めてよ!」


 この状況を乗り切る対抗策を考えていたときだった。


 カレンが大きい声を出し、彼女の声を聞いた村人は動きを止める。


「どうしてデーヴィッドが責められないといけないのよ。彼は私たちを助けるために一人で戦ってくれたのよ。デーヴィッドがいなかったら、村はもっと大変なことになっていたはず。どうしてその功績に目を向けないで、彼を傷つけるのよ」


 そう言いながら、彼女は俺のところに来ると庇うようにして前に立った。


「そうだな。確かにあんたの言うとおりだ。」


 彼女の言葉が響いたのだろう。


 ライリーが一歩、また一歩とこちらに近づき、カレンの頭に手を置く。


「ありがとうな。あんたの言葉であたいもこちら側に来る勇気がもてた」


 カレンに礼を言うと、彼女は踵を返す。


 そして腰に差していた鞘から剣を抜き、刀身を村人のほうに向ける。


「デーヴィッドに石を投げたいやつはとことん投げろ。あたいが全部はじき返してやらぁ」


 ライリーがこちら側に回ったことにより、村人たちは誰一人として石を投げることはなかった。


 しかし、彼等は自分たちのほうが正しいと思っているようで、対立の姿勢を崩さない。


「デーヴィッドがいる限り、村は襲われるんだぞ」


「でも、彼がいないからといって、魔王軍がこの村を襲わないとは限らないじゃない」


「今度の軍勢が今回と同じ規模とは限らない。村を守るために戦うなんてことは自殺行為だ」


「それでも男か! この村の男なら、村のために死ぬような男気を見せたらどうだい」


 売り言葉に買い言葉、お互いに引く気配を見せない中、カレンの両親がこちらにやって来た。


 二人は両の目から涙を流しながら、俺に頭を下げる。


「これ以上は見ておられん。頼む、この村を出て行ってくれないか」


「何を言っているのよ、お父さん! それでも家族なの。家族が責められているのに、どうしてそんなことを言うのよ」


 父親の言葉が信じられないのだろう。


 カレンは大きく目を見開いて彼に詰め寄る。


「大切な家族だからこそ、デーヴィッドのことを思って言っておる。わしら家族だけが迷惑を受けるのであれば構わん。だが、村の住人全員に迷惑をかける訳にはいかぬ。それにもし、デーヴィッドがこの村に居続けた場合、必ず村人から誹謗中傷を受けることになる。傷つきながらも生きていく、そんな姿をわしらは見たくない」


「カレン、お父さんの気持ちも酌んであげて、辛いのを我慢して、お父さんなりに考えて出した答えなのよ」


 両親の言葉にカレンは口を噤む。


「分かりました。おじさんたちには迷惑をかけたくないので、俺はこの村を出て行きます」


「すまない。本当にすまない」


 何度も謝罪を繰り返す義父に、俺はやるせない気持ちになる。


「これ以上は皆さんにご迷惑をおかけしません。私たちが村を出て行くのを見届けますので、どうか今日のところはお引き取りください」


 真摯な気持ちで告げる義母の言葉に、村人たちは納得したようだ。


 次々と学園から出て行く。


「さぁ、今日のところは帰ろう」


「明日はデーヴィッドの旅立ちの日ですから、今日のお夕飯は豪勢にしましょう」


 義理の両親に促され、俺は家に向かった。


 家に帰るとすぐに傷の手当が行われ、温かいお風呂に浸かり、家族で過ごす最後の夜を迎える。


 今までにない豪華な料理を楽しみ、義父とたわいない話をしながら酒を酌み交わして過ごした。


 夜遅くまで飲んでいると先に義父が酔いつぶれた。


 俺は彼の身体を抱きかかえて部屋に連れて行く。


「おやすみ、おじさん」

 

 ベッドに寝かせた義父におやすみと告げ、自室に戻った。


 ペース配分を考えながら飲んでいたので、思考ははっきりとしている。


 これなら今から準備を始めても大丈夫だろう。


 床に置いていたリュックを掴み、箪笥から三日分の着替えを入れる。


 そして今度は本棚からもっていく本を品定めした。


 本棚には魔学者になるために集めていた本を収納してある。


「魔学の基礎は頭の中に入っているし、こっちの精霊の書は必要ないよな」


 独り言をつぶやきつつ、一冊ずつ確認をしていると茶色い本が視界に入り、それを手に取る。


「こいつは絶対にもっていかないとな」


 この茶色い本は昔ライリーから貰った本だ。


 表紙のタイトルには知識の本(ノウレッジブックス)と書かれ、様々な知識が記されてある。


 しかしこの本、不思議と俺以外には読めないのだ。


 ライリーから貰ったとき、彼女は見たこともない文字で書かれているから解読してみてくれと頼まれた。


 当時は目指しているのは考古学者ではないから、読める訳がないと思っていた。


 だが、実際に目を通してみると不思議なもので、視界に入った文字が読める。


 そしてその文字がどんな意味を表しているのかが理解できたのだ。


 しかもこの本には、様々な現象がどのような原理で起きているのかが書かれている。


 この原理を意識した方法で精霊の属性を組み合わせると、今までにない魔法の開発に成功した。


 この本に書かれている知識は、これからも必要になる。


 これは大事にしなければ。


 リュックに知識の本(ノウレッジブックス)を入れたところで、俺は重要なことに気づく。


「そういえば、村を出て行くってことは職を失うってことじゃないか。無職になってしまっては、収入源が何一つなくなる」


 幸いにも貯金はしていた。


 次の働き先を見つけるまでは、あれでやりくりをしなければならない。


「おのれ魔王軍、ようやく勝ち取って得た夢の職業だったのに、あいつらのせいで無職になってしまったじゃないか! ゆるさん。俺から職を奪ったことを後悔させてやる」


 頑張って努力をして、やっと手に入れた夢をたった一度の襲撃で奪われてしまった。


 職を失ったことに対して怒りが込み上げてくる中、紙幣の入っている瓶をリュックの中にいれる。


 出立の準備を終えるとベッドに横になり、アルコールの力もあってか、すぐに眠りにつくことができた。


 翌朝、朝日が昇り始めたころに俺は目を覚ます。


 酒に強い体質のお陰で酷い二日酔いになることはなかったが、軽めに頭痛がしている。


 ベッドから出てリュックを掴み、足音を立てないようにしながらそっと廊下に向かう。


 扉を開けて廊下に出ると、階段を下りて一階の様子を窺った。


 まだ早朝だからか、義父たちの姿は見当たらない。


「何も告げずに出て行くのは、やっぱり気が引けるな」


 きっと義父たちは別れの挨拶をしたかったはずだ。


 だけどその時を想像すると、悲しみが込み上げて出て行く決心が揺らぎそうになる。


「別れを言えなくてごめん。今までありがとう」


 誰もいない空間に向けてポツリと言葉を漏らす。


 そして玄関に向かって歩き、ゆっくりと扉を開けて外に出た。


「さぁて、まずは近くの町に向かおう。そして情報取集だ」


 背伸びをしながら独り言を呟くと、村の入り口に向う。


 義母の言葉を村人たちは信じたのだろう。


 見張り役の人の姿は見当たらず、いつものように入り口は無人となっていた。


 村を出て森を歩くこと数分、後ろから足音が聞こえ、俺は振り返る。


 金髪ミディアムヘアーで低身長の女の子が、必死になって走っている姿が見えた。


 カレンだ。


「デーヴィッド……待ちなさいよ」


 最後の別れを告げに来たのだろうか。


 分かれが辛くなりそうだからそっと家を抜け出したのに、これでは意味がない。


「どうした? 別れの挨拶をしに来たのか」


 俺のところに到着したカレンは息を切らしており、彼女の呼吸が整えられるのを待つ。


 どのくらい時が経ったのか分からないが、カレンの呼吸が元に戻ると、彼女はいきなり睨みつけてきた。


「どうして何も言わずに出て行くのよ!」


「そんなの俺のかってだろう」


「危うくおいて行かれるところだったじゃない!」


 彼女の言葉に、俺は驚く。


「おい、まさかついてくるつもりじゃないよな」


「ついて行くに決まっているでしょう」


「お前何考えているんだよ。学園を中退したら就職が困難になるぞ」


「無職には言われたくないわよ」


 カレンの言葉が俺の心を抉る。


「まぁ、何とかなるんじゃない。冒険者って道も悪くないと思うのよね。それだったら学歴とか関係ないし」


「おじさんやおばさんはどうするんだよ。今ごろ心配しているはずだぞ」


「大丈夫。昨日二人には私が説得しておいたから」


 何とかして村に戻ってもらおうと説得を試みる。


 けれど俺が考えていることはお見通しのようで、すぐさま論破された。


 他にも追い返す可能性のある言葉をいくつか思いつく。


 しかし、それら全て対策が練ってありそうな気がして、言う勇気がもてなかった。


「分かった。それならどうして俺について行きたいと思ったんだ」


「え! そ、それは」


 理由を尋ねると、カレンは視線を逸らし、言葉を詰まらせる。


 そんな彼女の態度に、俺は内心ドキドキしていた。


 こうまでしてついて行きたい理由。


 俺はもしかしてと考えてしまった。


 彼女は確かに可愛い。


 少し強引なところもあるが、料理が上手く、家庭的な一面もある。


 長い年月一緒に暮らして兄妹のように思っていた。


 もし、彼女がついて行く理由が恋心からくるものであるのなら、その気持ちに逃げないで受け止めたうえで答えてあげなければ。


 カレンの言葉を待っていると、彼女は決心したようで、もう一度視線を合わせてくれた。


「いい、一度しか言わないからちゃんと聞いてよね。私がデーヴィッドについて行きたい理由、それは」


 真剣な表情で言葉を連ねるカレンに、俺は緊張して鼓動が高鳴りを打つ。


「デーヴィッドは料理ができないからよ」


 予想の斜め上をいく回答に、俺は唖然をしてしまう。


「それが理由なのか。そんな理由で俺についてくるのか」


「何よ、悪い? 私だってデーヴィッドが少しでも料理ができるのだったら、わざわざついて行かないわよ。料理ができないデーヴィッドは、どうせまともな食事ができないでしょう。旅の途中で食中毒にでも遭って死んでもらったら、寝覚めが悪いもの」


 カレンの言葉に嘆息するも、わずかに安心感を覚えた。


 男女の友情は存在しないというが、男女間による兄妹愛は存在する。


 学園生活を捨ててまで兄を心配する兄妹愛が、彼女をここまで動かしたのだ。


 そう考えると若干のテレを感じる。


「まぁ、理由は分かった。それじゃあ料理は頼んだよ。ところで、ついて来るにしては手ぶらだけど荷物は?」


「無いよ」


 即答する彼女に、俺は苦笑いを浮かべる。


「だって、何も告げずに一人で出て行ったのだもの。着替えるのが精いっぱいで、何も用意していないわよ」


 確かに何も告げずに出て行ったのだから、急いで追いかければ手ぶらになるのは仕方がないだろう。


 だけど、それでは色々と困る。


 着替えだって俺の分しかもっていないので、カレンに貸す余裕がない。


 それに一人で行動をするつもりだったので、食料などもってきていないのだ。


 最悪の場合、山の幸をいただくつもりでいた。


 だけど、彼女もついて来ることになった限り、色々と物資に関して不足だらけになってしまう。


「なぁ、ここで待っているから一度村に戻って荷物をもってこいよ」


「嫌よ」


「なんでだよ」


「勢いよく飛び出したのに、荷物を取りに戻るなんてかっこ悪いじゃない」


 この義妹は何を言っているんだ?


 かっこ悪かろうが、物があるのとないのでは、生活に大きく影響を及ぼす。


 確実にあったほうがいいに決まっている。


「だったらデーヴィッドが戻って私の分を用意してくればいいじゃない。お母さんに頼めば、準備してくれるはずだから」


「そんなのむりに決まっているだろう。俺の状況を考えろ、農家はもう仕事をしている時間だ。俺が村にいるのがバレたら大変なことになる」


「だったら諦めることね」


 カレンの言葉に、俺は頭を抱える。


 もう村には帰れない。


 カレンは村に戻る気がない状態だ。


 もう、諦めて物資を共有するしかないのか。


「どうやらお困りのようだね」


 今後のことを悩んでいると、聞き覚えのある声が耳に入る。


 俺は声が聞こえたほうに顔を向けた。


 声の主を探していると、今いる地点から三本先にある木の枝に、ライリーの姿があった。


 彼女の隣には特大サイズのリュックが置かれ、隙間からお玉やニンジンなどが飛び出ている。


 ライリーは特大サイズのリュックの紐を片手で掴むと、木の上から飛び降りてこちらに歩いてきた。


 もしかしてこのことを予想して荷物をもってきてくれたのだろうか。


 それはかなり助かるが、どう見てもかなりの重量がありそうだ。


 カレンと協力したとしても、持ち運びができるのかが不安だ。


「旅に必要なものはあらかた用意してあるよ。さぁ、行こうじゃないか」


 そう言いつつ、ライリーは踵を返すと先頭を歩く。


「ちょっと待て、もしかしてライリーもついて来るつもりか」


「当たり前じゃないか。デーヴィッドはあたいにとって弟のようなもの。お姉ちゃん心配でね。だからついて行くことにした」


「気持ちはうれしいけど、ライリー酒場の仕事は?」


「ああ、昨日で辞めた。あんたについて行くために」


 どうして俺の親しい人間は、平気で仕事や学業を辞めるんだよ!


 思いっきり叫んでツッコミを入れたい気持ちに駆られるが、心の中の叫びに留めておく。


「んで、これからどこに向かおうっていうんだい?」


「魔王城を目指す。そんで魔王を倒して俺から仕事を奪ったことを後悔させてやる。そのためにも近くの町で情報収集だ」


「なら、森を抜けた先にあるロードレスって街が近いね。あそこには行ったことはないが、場所なら知っているよ。ついてきな」


 意気揚々と先導するライリーに、俺は彼女に対して頼もしさを覚えた。


 次の目的地はこの森を抜けた先にあるロードレス。


 そこで魔王に関する情報を得て、必ず魔王城に辿り着いてみせる。


 俺は静かに闘志を燃やしつつ、歩き出す。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 これで第一章は終わりです。


 また明日投稿予定ですが、明日は第一章の内容を纏めたこれまでのあらすじを投稿予定です。


最新作

『Sランク昇進をきっかけにパーティーから追放された俺は、実は無能を演じて陰でチームをサポートしていた。~弱体化したチームリーダーの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る~』が連載開始!


この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。


なので、面白くなっていることが間違いなしです。


追記

この作品はジャンル別ランキング、ハイファンタジー部門でランキング入りしました!


興味を持たれたかたは、画面の一番下にある、作者マイページを押してもらうと、私の投稿作品が表示されておりますので、そこから読んでいただければと思っております。


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