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第十一章 第一話 作戦会議

 翌日、俺は会議室でセプテム大陸の魔物の進行について皆と話し合っていた。


 メンバーはカレン、ライリー、レイラ、エミ、ゾム兵士長、そしてなぜか母さんとアリスまでもいた。


「どうして母さんとアリスまでこの部屋にいるんだよ」


「それはアリスちゃんがデーヴィッドたちと一緒にいたいって言いだしたからよ。わたしが邪魔にならないように見ておくから、気にしないで話を始めて」


 アリスが望んだことなら文句は言えない。


 母さんが遊び相手をしてくれているようだし、今日は大目に見ておこう。


「それでは、セプテム大陸から進行中の魔物対策会議を始めましょう」


 ゾム兵士長が話し合いを始めるように促す。


 だけどこんなに本格的な会議は初めてだったので、何から話せばいいのかがわからない。


 他の皆も同じなのか、誰も開口一番に語り出す者はいなかった。


「仕方がないですね。では私から話を進めましょう。まずは自己紹介をします。ゾム・レックスです。五十二歳の独身、好きな食べ物はレアステーキ、嫌いな食べ物はトマトです。王様とはたった一人の古い親友関係であります。よろしく」


 様子を見ていたような口ぶりで、ゾム兵士長が話の進行役を買って出てくれた。


「魔物はまだこの大陸には来ていません。ですが十日後にはこの大陸に辿り着くと思われます」


「ちょっと待ってくれないかい?どうしてそんなに精確な時間がわかるんだい?そもそもどうやって魔物の進行をいち早く知った」


 ライリーが疑問に思ったことを口にする。


「それはですね。海で漁をしていた漁師が教えてくれたのです。見たこともない人型の魔物が海の上を歩いてこちらの大陸に侵攻していると」


「人型の魔物が海の上を歩くだと!」


 レイラが驚きの声を上げる。


 彼女は魔王であるので魔物には詳しいはず。


 あの反応を見る限り、魔物であっても水面を歩くことはできないということなのだろう。


 確かに普通なら考えられない。


 だけどありえないということは、何かしろのからくりがあるはずだ。


 例えば、漁師たちと魔物に距離があった場合、水面が凍っていたとしても気づきにくい。


 その他にも、盗賊の一人が知られざる生命の精霊の力を使い、肉体を強化した原理を用いれば、理論的には可能と言える。


「エミは今の話を聞いてどう思った?」


「そうね、水面に氷が張られてあって、その上を歩いたなんていうのは誰にでも思いつくだろうけど、もし水面が凍っていなかったとすれば、海も水であることには変わらない。高速で水面に当たれば、水は慣性力と粘性によって元の位置に留まろうとするから、その原理を使って素早く足を動かせば、水面を移動することは可能だと思うわ」


 流石というべきか、エミは俺と同じ考えにいたった。


「おいおい、本当にそれが可能なのかよ」


「疑うのなら自分自身で試せばいいわよ。ライリーがスピードスターを使った状態で水面を走ればわかることだから」


「分かったよ。あとで試してみようじゃないか。とにかく水面を移動することは不可能ではないことはわかった。だけどどうして時間まで分かるんだい?」


「これはあくまで予想にすぎません。漁師から聞いた話では、魔物の先頭が一日に大陸と大陸をつなぐ海を、十分の一ほど進んでいたと言っていたので、それを参考に算出しただけですので」


 ゾム兵士長の話を聞き、俺は妥当な数字だと思ったが、魔物の進行スピードが速すぎることに驚愕する。


 セプテム大陸とこのオルレアン大陸は、約三万キロメートルあると言われている。


 そして一日の時間は二十四時間だ。


 一日で十分の一進んだということは、三千キロを二十四時間で割れば、時速百二十五キロ。


 あまりにも早すぎる。


 だが、これだけの速度があれば、水面を走ることも不可能ではない。


「そんなので敵が到着する時間がわかるんだな。意外と頭がいいじゃないかおっさん」


「何を言っているのよ。あたしのいた世界では簡単な計算問題よ。十一歳ぐらいの子なら、大多数が計算できるわ」


 ライリーが感心すると、すかさずエミがツッコミを入れる。


「マジかよ。あんたの世界って凄いな」


「ライリーが勉強しなさすぎるだけよ」


「エミ殿の世界?」


 ゾム兵士長が首を傾げる。


「何でもない。気にしないでくれ。それより、エミのことをエミ殿って呼んだよな」


「ええ、エミ殿は王様に気に入られた方なので、敬意を込めて呼ばせてもらっております」


「なんだかむず痒いわね」


 自身の頬を掻きながらエミは呟く。


「そんなことより、早く話し合いの続きを始めましょう。私たちが十日以内にすべきことを」


「そうでしたな。カレンちゃんの言うとおり、話し合いを再開しましょう」


 カレンはちゃんづけ何だと思いつつも、俺はゾム兵士長に目を向ける。


「ひとつ聞きたいのだけど、城の兵士は参加させられないのだよな」


「はい。王様の命令でありますので」


「ということは、短期間で敵を一掃するような策を考えないといけないよな」


「なら、余を苦しめたあの方法でいいのではないか?」


 レイラが作戦のひとつを提案してきた。


 確かにあれなら一度に多くの敵を全滅させることができる。


 一応用意してもいいかもしれない。


 だけどあの方法に頼りすぎると、上手くいかなかったときのショックはでかいだろう。


 失敗したときのことも考慮して、他の策も検討するべきだ。


「確かに、あれなら一気に敵の数を減らせる。だけどあの方法は天候に左右されるから当日も使えるとは限らない」


「風の魔法は基本的に天候の影響が大きいから、期待しないほうがいいわ」


「でも、余の城ではあれが使えたではないか」


「あれはデーヴィッドが石の床や魔物を風化させたからできたことだ。条件が揃わなければ奇跡も起きない」


 四人で話しているとゾム兵士長とエミからの視線を感じる。


「どうした?二人とも」


「どうも、こうもないわよ。皆あれしか言わないから何ひとつ伝わらないじゃない。ちゃんとあたしたちがわかるように言ってよ」


「そうだったな。確かエミはあのときいなかった。わかった。最初から説明するよ」


 俺は幻惑草と風の魔法であるダストデビルを組み合わせて、魔物を同士討ちにさせたエピソードを語る。


「ほう、それは凄い技ですな。それが成功すれば、こちらが少数でも敵の魔物を一掃することができると」


「でも、当日幻惑草が用意できても晴天でなければ意味がないわね」


「だから幻惑草に頼らない戦いかたも考えないといけないんだよ」


「天候に影響されずに広範囲の敵を倒す方法……そうだ!大きな落とし穴なんてどう?深い穴だったら脱出するのに時間がかかるし、相手の攻撃は当たり難いけど、こちらの攻撃は当てやすいわよ」


 カレンが思いついたことを提案してきた。


 確かに彼女の言う方法であれば、天候の影響は関係ない。


 魅力的な提案だが、それにはひとつ穴がある。


「ひとつ聞くが、大きな落とし穴を作るにしても深さは何メートル掘るつもりだ?幅は?俺たち五人で十日以内に掘れるという根拠はあるのか?」


 俺は不本意ではあるが、カレンの言ったことに対してひとつずつ問題点を上げて彼女に問う。


「そ、それは」


 俺の質問にカレンは何も言えずに口を閉ざす。


 想像と現実は別物。


 頭の中で描いたことが実際にできる訳ではない。


 厳しいことを言っているが、しっかりと頭の中で浮かんだことが実現できるのかを考えないと、壁にぶち当たったときに心が折れてしまう。


「まぁでも、着眼点は良かったぞ。その調子でどんどん意見を言っていこう」


 あまり責めるような言葉を言い続けては、カレンに嫌われてしまう。


 最初は尖った言い方をしても、最後はフォローすることを忘れてはいけない。


「別にあたしたちが労力を使って、落とし穴を作る必要はないわよ。魔法で作ればいい。デーヴィッドならできるでしょう?」


 エミは何かの方法を思いついたようだ。


 だけど俺には彼女の思考速度に追いついてはいない。


 俺の契約している精霊、ノームを活用するのはわかっているが、どうやって地中に穴を開ける?


 思考を巡らせてはいるが、方法が思いつかない。


「その様子だと分かっていないみたいね。ヒントっていうか答えのようなものだけど、液状化現象を精霊の力で実現させればいいじゃない」


 エミの言うヒントを聞き、俺は瞬時に答えに辿り着いた。


 知識の本には液状化現象のことも書かれてある。


 それを可能にする精霊も、俺は契約できている。


「確かに、それならいちいち地面を掘らずに済む。これもカレンが落とし穴のことを言ってくれたお陰だ。ありがとう」


「お礼を言われるようなことではないわよ。もそもそ浅はかな考えだったわけだし」


「いや、カレンが何も言わなかったら突破口が見えなかったよ。流石俺の義妹だ」


 普段あまり褒めていないからか。


 カレンは若干頬を染めると照れ笑いを浮かべる。


「ねぇ、ねぇ、あたしは?あたしだってヒントを上げたじゃない」


「ああ、ありがとう。お陰で新しい策を考えることができた」


「なんか淡々としていて感情がこもっていないじゃない。デーヴィッドのシスコン」


「そんなことないって。それと俺はシスコンのようにいきすぎたことはしていない。それより今浮かんだ策を言うから、皆の意見を聞かせてほしい」


 俺は頭の中で浮かんだ戦略を披露する。


「なるほど。もしそれが実現可能だった場合は、無駄に労力を使うことはありませんな」


「問題なところがあるとすれば、災害を人為的に起こすことになる。どれぐらいの影響が出るのかは不明だが、最悪の場合は王都にも被害が出る恐れがある」


 この作戦のデメリットを伝えると、ゾム兵士長は難しい顔をする。


「魔物の進行は民には伝えない方針になっています。もし万が一にも魔法の影響が王都にも及んだ場合は、混乱を招くことになりますな」


「可能な限り制御するから影響は小さいとは思うけど、何が起きるかはわからないから、一応城の兵士には災害対策を行うように伝えておいてくれないか?」


「分かりました。最悪の場合も考慮して、民の避難ルートの確保と非常食の手配もしておきましょう」


「ありがとう。助かるよ」


 その他にも細かい作戦を話し合い、それぞれの役割が決まると解散となった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所がありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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