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第十章 第三話 デーヴィッドが王子だと知った皆の反応

「翌日、城の兵士の殆どを使って捜索した。川から近い村にも足を運んで聞いてみたが、有力な情報を得ることができなかった。だが、こうして再開できたことはまさに奇跡だ。神には感謝をしている」


「そう……だったのですね」


 自身の記憶には残っていない過去を告げられ、俺は何も言えなくなった。


 まだ幼いころ、俺は義父たちが本当の両親だと思っていた。


 カレンも本当に血の繋がった兄妹だと思い、幸せな日々を過ごしていた。


 だけどある日、偶然にも俺が本当の息子ではないことを、義父たちが話しているところをカレンと一緒に目撃し、俺は義父たちに問い詰めたことがある。


 義父は俺が成長し、現実を告げられても精神に異常が生じない年齢になるまで、隠しておくつもりだったらしい。


 俺が義父母の家で暮らすようになった話を聞き、当時の俺は捨てた両親を憎んでいた。


 かってに生んどいて捨てるなんて酷い。


 なんて親なんだ。


 そう思い、本当の親のことなんか忘れよう。


 義父と義母が俺にとっての親なんだと自信に言い聞かせていた。


 だけど王様から離れ離れになった経緯を聞くと、必要がなかったから捨てられたのではないと知り、複雑な想いに駆られる。


「俺のことは忘れて、新たに子どもを作ろうとは思わなかったのですか?」


「確かに、大臣たちからはデーヴィッドを諦めて新しい後継ぎを誕生させるように何度も言われた。だが、ワタシたちはその気がなかった。死んだという証拠がない限り、どこかで生きていると信じ続けていた。それにギルバートのこともある。兄弟で争うようなことが起きてほしくない。だから新たに子を儲けようとは思わなかった」


 王様の言葉が俺の胸に刺さると暖かい気持ちになる。


 本当の両親は冷たい人ではなく、心が温かく一途に子を想っていた。


 その事実が嬉しく感じ、俺は二人の前に涙を流す。


「ごめんなさい。あなたには辛い思いをさせてしまったわね」


 再び王妃様が俺を抱きしめると優しく頭を撫でた。


 幼少のころ、義母にも同じことをしてもらったのを思い出す。


 王妃様の抱擁は、俺が泣き止むまで続けてくれた。


 まるで子どものころに戻ったかのような感覚だった。


「よし、今日はデーヴィッドの帰還祭だ!盛大に祝おうではないか!ゾム兵士長そこにいるのだろう」


「はい。扉の前で待機をしておりました」


 王様が声をかけるとゾム兵士長が扉を開けてこちらにやってくる。


 彼は俺の前にくると片膝をついて首を垂れる。


「先ほどはご無礼いたしました。デーヴィッド王子。兵士長のゾムにございます。何かあればなんなりと申しつけくださいませ」


「あ、ありがとう。だけどそんなにかしこまらなくていいから」


「いえ、そういう訳にはいきません。これも王族の方に対しての礼儀にございます」


 衝撃的な展開が続き、王子だったということを知ってもあまり実感がない。


 このような態度をされてはむず痒さを感じる。


「ハハハ、時期に慣れるだろう。それよりも兵士長、早くこのことを国民に知らせるのだ」


「御意」


 俺たちのやり取りを見た王様が笑うと、ゾム兵士長に通達役を任命する。


 命令を受けた彼は、急ぎ足でこの部屋から出ていくと、ここからでも聞こえるほどの声音で俺の帰還を叫んでいた。


 俺は王様から部屋に案内される。


 俺が生まれる前から用意していた部屋らしく、当時のままになっているそうだ。


「あのう、王様」


「その王様というのは止めろ。親子なのだから。だが、いきなり父上と呼ぶのも抵抗があるだろう。ワタシのことは父さんでいい。親父でも可だ。アリシアのことは母さんと呼びなさい」


「おう……父さん」


「何だ?」


「いや、呼んでみただけです」


 慣れない言葉に俺は戸惑いながらも照れを感じる。


「そうか。それと家族三人でいるときぐらいは敬語を使う必要はない。そのほうが親子としての距離も縮まるだろうからな」


「そうです……そうか。一応努力しま……するよ」


 呼び方や言葉使いについて話していると俺の部屋に着いた。


 扉にはデーヴィッド王子とネームプレートが取り付けられ、恥ずかしさを覚える。


 扉を開けると、目の前に広がる光景に驚かされた。


 部屋には揺り籠やベビーベッド、動物の人形などが飾られ、ファンシーな部屋という印象だ。


「す、すまない。当時のままにしていたから赤ん坊部屋だったことをすっかり忘れていた。すぐに片づけさせて年相応のものを用意させる」


 父さんが部屋から出ていくと、俺はベビーベッドの中に入っている犬のヌイグルミを掴む。


 もし、反乱なんかが起きずに王子として生活をしていたのなら、俺はまた違った人生を送っていたのだろうか?


 勉学に剣術の稽古をする日々を送り、一人前の王になるために育てられていたかもしれない。


 そうなったらカレンと兄妹になれなかったし、ライリーやレイラとも出会うことはなかっただろう。


「そう言えばカレンたちは今、城下町の宿屋にいるの

だよな」


 きっと心配しているだろう。


 状況も説明しないといけないし、会いにいかないと。


 そう思いながら部屋を出ると、廊下をゾム兵士長が通った。


「ちょうど良かった。ゾム兵士長」


「何でしょうか?デーヴィッド王子」


「ほら、俺の仲間が宿屋にいるだろう?一度会って話をしないといけないから城の外に出てくる」


「な、なりません。今城下町ではデーヴィッド王子の帰還の話で盛り上がりを見せています。今外に出られては混乱を招くことになりますぞ」


 確かにゾム兵士長の言うことにも一理ある。


 噂の張本人が城下町に赴けば、民衆が一気に押し寄せてくるかもしれない。


 だけど、何も言わないままでは心配させてしまう一方だ。


「分かりました。確かあの者らは、城の兵士志望でありましたな。城の兵として招き入れる名目で呼ぶのであればお手伝いいたしましょう」


「ありがとう。助かるよ」


 ゾム兵士長にお礼を言い、俺は部屋に残る。


 しばらくすると侍従たちが部屋を訪れ、部屋の中にある物を持って行くと、代わりの箪笥や机、ベッドなどが運び込まれた。


 どうにか間に合ってくれたようだ。


 もし、部屋の模様替えよりもカレンたちが先に来てしまっては、どんな目で見られるかわかったものではない。


 椅子に座り、皆になんて説明をしたほうがいいのかを考えていると、部屋がノックされてゾム兵士長が声をかける。


「デーヴィッド王子、お連れの方々を連れてまいりました」


「ありがとう」


 俺がお礼を言うと扉が開かれ、皆が一斉に入ってくる。


「いったいどういうことなの!デーヴィッドがこの国の王子って」


「城下町で噂になっていたけど本当に王子だったのかい?」


「デーヴィッド、そなたは王族だったのか!なら挙式は盛大に執り行えるな」


多重契約者(エクストラ)で頭がよくて、チート級に強いに加えて、次世代を背負う王子ってどれだけ属性を詰め込めば気が済むわけ!」


「デーヴィッドお兄ちゃん王子様だったのですか!何で今まで隠していたのですか!」


 全員が同じタイミングで言葉を口にする。


 しかし、半分精霊の血が混じっていても、全員の言葉を聞き分けることができなかったので、何を言っているのかさっぱりわからなかった。


「ま、待ってくれ。全員が同時に話したら、何を言っているのか聞きとれない。とにかく落ち着いてくれ」


 興奮している皆を宥め、落ち着きを取り戻したころに、城に入ってからのできごとを一から話した。


「なるほどね。まさかお父さんが拾った赤ちゃんがオルレアン王の子どもだったなんて。お父さんたちに言ったら腰を抜かすわよ」


「だよな、俺だって信じられないよ。でも、カレンや義父さんたちしか知らない俺の身体の秘密を知っていた」


「お尻のホクロを線で結ぶとハート型になるやつ?」


「何それ、デーヴィッドってお尻にそんな可愛らしいものがあるの」


「わたし温泉で見ましたよ。ホクロが六つあるのは知っていましたけど、まさかハート型になるなんて気づかなかったのです」


 カレンが何気なく呟くとエミは話に食いつき、アリスが知っていることを暴露する。


「それで、デーヴィッドがこの国の王子と判明したところで、あたいたちはこれからどうするんだい?別世界の住人になってしまった以上、一緒にいることは叶わないだろう?」


「そうよね、あたしたちとはいられないだろうし。これからどうするか皆で話し合わないと」


 ライリーが現実の話をする。


 そう、俺がこの国の王子だと判明した以上は、自由がきかなくなるだろう。


 特別なことがない限りは城から出ることも難しくなる。


 しかし、俺にはやらないといけないことがこの旅を通してふたつできた。


 ひとつはエミを生きて元の世界に返してやること。


 ふたつ目は人間と精霊、それに魔物のサイクルを絶つために、この世から魔法を消す方法を探し出すことだ。


 このふたつを実現させていない中、皆と別れてしまっては約束を反故にすることになる。


 そんなのは嫌だった。


「俺は皆とこのまま別れるつもりはない。守らないといけない約束もあるしな。父さんには俺から話して説得をしてみるよ」


 このまま別れるつもりはないことを皆に言うと、彼女たちは安心した表情を見せる。


「デーヴィッド、話がある。おや、お客さんか?」


「俺の旅に同行してくれた仲間たちだ。話が急だったからゾム兵士長に頼んで呼んでもらった」


「そうか。息子が世話になった。礼を言う」


 父さんが彼女たちに向けて頭を下げる。


「うそっ、本当にデーヴィッドにそっくり」


 カレンが驚きの声を上げる。


「せっかくだから息子を王都に連れてきてくれた礼をしたい。一週間後に貴族たちを呼んでパーティーを開くつもりだ。彼女たちも参加してもらおう」


 そう言うと、父さんは背を向ける。


「何か話があったのではないのか?」


「話とはパーティーのことだ」


「なら、俺からも話がある」


「悪いが今からやらなければならないことがある。話しはあとにしてくれないか。話を聞くぐらいの時間は必ず作る」


 それだけを言い残し、父さんは部屋から出て行った。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所がありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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