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第十章 第一話 オルレアンの王子

 今回のワード解説


相互作用……Aと Bの間に,一回的もしくは継続的なかたちで直接的あるいは間接的接触が行なわれ,なんらかの影響がもたらされる場合,両者の間には相互作用があるという。一般的には人間対人間の関係で相互作用が成立していると考えられるが,広義には,物質的,文化的対象との間にも成立の可能性を考えることができる。


可視光線……電磁波のうち、ヒトの目で見える波長のもの。いわゆる光のことで、可視光は誤った言い方であるかもしれない。


ホバリング飛行……空中で停止飛行をすること。

「ここが王都オルレアンか」


 ドンレミの街から数日かけて、俺たちは次の目的地である王都オルレアンについた。


 ライリーが代表して、兵士募集の話を聞いてここに来たことを門番に告げると、特に検査もされずにすんなりと入れてもらえた。


 城下町は、これから魔物が襲撃に来るとは思えないほどの活気に溢れており、町民たちは平和に過ごしているように見える。


「活気があるわね。本当に魔物の襲撃に備えているようには見えないわ」


「うむ。この様子であれば何かの間違いだったのだろう。余は安心した」


 城下町の人々の様子を見て、何かの誤報だったのではないかと思ってしまう。


 だけど、ライリーが門番の兵士に募集の話をしただけで簡単に通されたことを考慮すると、王都の民は兵士が戦の準備をしていることに対して、知らされていないのではないかと考えられる。


 いや、寧ろドンレミの街に兵士募集の話が広まっていることを考えると、知ってはいるが、国が自分たちを守ってくれると信じているからこそ、日常を過ごしているのかもしれない。


「どっちにしても早いところ城に行こうじゃないか。そこで全てがわかるはずだよ」


「そうだな。城に行こう」


 ライリーが城に向かうように促すと、俺たちはここからでもよく見える大きな建物に向けて歩き出す。


 その最中俺は違和感を覚えた。


 さっきから擦れ違う人が俺たちを見ているような気がする。


 俺たちは一応冒険者だ。


 一般人とは違う恰好をしている。


 物珍しさについ見てしまっているのだろう。


 そう思っていると二人の主婦らしき女性が、俺たちを見ながらひそひそと話しているのが見えた。


 何を話しているのかわからないが、あまりいい気分がしない。


 一秒でも早く城内に入りたいと思った。


「そこのお前ら止まれ!」


 広い場所に出た途端に、城の兵士と思われる集団が俺たちの前に立ち塞がった。


 そしてリーダー的な存在だと思われる茶髪の男が右手を上げると、兵士たちが回り込んで俺たちを包囲する。


「いったいこれはどういうことなんだい?あたいたちは兵士募集の話を聞いて王都に来たばかりなんだけどねぇ」


 ライリーが俺たちの事情を話す。


「そんなことはどうでもいい。私たちが用事のあるのはその男だけだ」


 茶髪の男は俺を指差す。


「デーヴィッドに何のようなのよ」


「デーヴィッドだって」


「おい聞いたか?」


「まさか、こんなことがあるのか」


 カレンが俺の名を出した途端に、包囲した兵士たちは騒めきだす。


「もしその名が本当であるのなら尚更だ。連れて行かなければならない」


「分かった。着いて行こう」


「デーヴィッド、何を言っているのよ」


「どう見ても何か理由がありそうだろう。裏があるかもしれないが、虎穴に入らざれば虎子を得ずだ」


「協力感謝する」


 茶髪の男がお礼を言うと、上空からリピートバードが舞い降り、彼の横でホバリング飛行を始める。


「このリピートバードを連れて城下町にある宿屋を訪れるがよい。そうすれば無料で泊めてくれる」


「デーヴィッドお兄ちゃんをどうするのですか?」


 アリスが心配そうに男に問う。


「安心してくれお嬢ちゃん。彼を王様のもとに連れて行くだけだ。別に命をとるつもりはない。だけど場合によっては二度と会えなくなるかもしれないが」


「そんなことを聞いて、大人しく引き下がることなんてできないわ」


「エミの言うとおりだ。デーヴィッドは余のもの。かってに決められては困る」


 俺の待遇について男が説明すると、エミとレイラが反論する。


「せっかく穏便に話を済ませようとしたが、反抗するなら全員を捕らえるまでだ」


 取り囲んでいる兵士が一斉に剣を抜く。


「待ってくれ。仲間の無礼は詫びる。大人しくついて行くから許してやってくれ」


 俺は両手を上げて降参のポーズをとる。


「いいか、皆手を出すな。そして言われた通りに宿屋に向かってくれ。安心しろ、必ず皆のもとに戻ってくるから」


 それだけ伝え、俺は兵士に連れられる。


 腕を拘束されて連行するようなことはせず、普通に歩かせてくれた。


 だけど俺の周りは兵士が囲み、逃げられないように陣形を組んでいる。


 彼らからは絶対に逃がす訳にはいかないという意思が伝わってきた。


 しかし俺は逃げるつもりはない。


 王都が兵士を集めている。


 その意図を知るまではここから離れるつもりはない。


 城の前に来ると跳ね橋が下ろされ、俺は城門を潜る。


 城内への扉の前には見張りの兵士もいたが、彼らも俺の姿を見るなり驚愕の表情を見せる。


 そんなに驚くほどの顔なのだろうか?


 イケメンではない自覚はあるが、ブサイクではないはず。


 城内に入り、顔は正面を向いたまま眼球だけを動かして周囲を見る。


 些細な違いはあるが、基本的な作りはレイラの住んでいたキャメロット城と似ていた。


 俺は謁見の間に通され、これから王都オルレアンを治める国王に会うことを、茶髪の兵士から聞く。


 片膝をついて頭を下げ、王様の登場を待った。


 緊張で鼓動が高鳴る。


 魔王とは毎日一緒にはいるが、人間の王様に会うのは初めてだ。


 失礼のないようにしなければ。


「待たせたな。そこの若者頭を上げよ」


 しばらくすると国王が現れたようで王様の顔を見ることを許される。


 この国の王様はいったいどんな人なのだろうか。


 声は若々しくも力強い印象を持つ。


 俺はゆっくりと顔を上げ、国王の顔を拝む。


 その瞬間、俺は自分の目を疑った。


 こんなことがある訳がないと、何度も自分に言い聞かせる。


 茶髪のマッシュヘアーに切れ目であり、瞳は黒かった。


 そう、俺がそのまま年をとった姿と言っても過言ではないほど、酷似していたのだ。


 世界には自分と同じ顔をもつ人物が三人もいると聞くが、まさか生きているうちに会うことになるとは思わなかった。


「ほう、確かに聞いたどおり、ワタシに非常に似ている若者だ」


 玉座に座っている王様はニヤリと笑みを浮かべる。


「すまないが、ゾム兵士長ワタシは彼とアリシアの三人で話がしたい。人払いを頼む」


「了解いたしました。すぐに奥方様を呼んで参ります。ですが念のために私だけでも扉の前に待機させていただきます」


「心配しなくとも彼がワタシに手を出すことはない。仮にあったとしても、ワタシが許可を出したうえで拳を振るうさ。彼にはその権利がある」


「承知いたしました」


 国王に頭を下げると、兵士長は周りの兵を引き連れてこの部屋から出て行く。


「君もそんな態勢ではきついだろう。楽にしてくれ」


 二人きりになると王様は立ち上がることを許可してくれた。


「ありがとうございます」


 礼を言い、俺は立ち上がる。


「ハハハ、そんな敬語でいう必要はない。もっとフランクで接してくれて構わないよ。ワタシと君の仲ではないか」


 王様は俺の言葉使いに対して軽く笑うと、遠慮しなくていいことを伝える。


 俺は困惑した。


 この国の王様は誰とでもこんな感じで接してくるのだろうか?


 初めて会ったのにも関わらず、彼はまるで俺のことを知っているかのような口ぶりだ。


「お待たせしたわね」


 扉が開く音がしたかと思うと、女性の声が聞こえて俺は振り向く。


 腰まであるスカイブルーの髪、長い睫毛に赤い瞳のある顔は優しく微笑んでおり、ほっそりとした体型をした女性だ。


「アリシアわざわざ呼び出してすまなかったな」


「いいえ、話を聞いたときは居ても立っても居られなくなって、早歩きをしてしまったぐらいです」


 アリシアと呼ばれた女性は王様の隣の玉座に座り、こちらを見る。


「本当に貴男にそっくりね」


「だろう。ワタシの若いころにそっくりだ」


 二人は見つめ合い、笑みを交わしている。


「さて、本題に入ろうか。君の名前を教えてくれないか。もちろんフルネームで」


「デーヴィッド・テーラーです」


「それは誰がつけた名だ?」


「それは分かりません。俺は捨て子だったようで、たまたま俺を見つけてくれた義父が、揺り籠の中に入っていた紙にその名が書かれてあったので、そう名乗るように言われてきました」


 俺は嘘偽りなく義父から聞かされたどおりにことを伝える。


「なるほど、嘘はついてはいないようだな。年齢は何歳かな?」


「十六です」


「そうであるか。それも一致しておる。アリシアは彼に何か聞きたいことはあるか?」


「では、デーヴィッド。あなたは多重契約者(エクストラ)ですね」


 王様がお妃様に尋ねると、彼女は俺が多重契約者であることを見破る。


「契約している精霊はウンディーネ、ノーム、ケツァルコアトル、ウィル・オー・ウィスプ、ジャック・オー・ランタン、フラウ、ヴォルトの七精霊」


 多重契約者だけではなく、俺が契約している精霊までもがピンポイントで当ててきた。


 まるで見えているかのように、お妃様は精霊の名を口にする。


「どうしてそれを知っている!」


 驚きを隠せなかった俺は思わず、失礼ながらも声を荒げる。


「分かります。あなたがわたしの前に現れた瞬間から見えているのですから」


「見えている?」


「ええ、ウンディーネは綺麗なかたですね。水色の長い髪に、透き通るような白い肌ですし、ノームは小さいながらもたくましい体格で、お鬚もダンディで素敵ですよね」


 お妃様の言った特徴は、俺が精神世界に意識が飛ばされたときに、初めて見た二人の容姿と一致していた。


「本当に見えているのですね」


「ええ」


 俺は精神世界でノームが言った言葉を思い出す。


 精霊の姿が見えるのは、元精霊であった魔物、それと自身を具現化させる力をもつ精霊。


 お妃様からは悪しき者の気配は感じられない。


 ということは。


「お妃様は精霊なのですね」


 彼女の正体が精霊だと結論づけ尋ねてみる。


 するとお妃様と王様は驚きの表情を見せるが、直ぐに優しい笑みに変える。


「流石だな。今ので、妻の正体を見抜くとは」


「いえ、前に一回だけノームに教えてもらいました。精霊の姿が見えるのは魔物と自身を具現化させる力のある精霊だと」


「まぁ、精霊とお話ができるのですか!」


 両手を合わせ、微笑みながらお妃様が聞いてきた。


「いえ、俺自身の力ではなく、精霊たちが俺を精神世界に呼んでくれたのです。それもたった一回だけ」


 質問に答えると、王様は腕を組んで眉間に皺を寄せた。


 何か気に障るようなことでも言ってしまったのだろうか?


「それではそろそろ答えを出そうか。ワタシは彼が本物だと思っているのだが」


「わたしもそう思っています。ですが、最後にこの質問をして確信しましょう」


 会話の間で二人だけのやり取りが行われている。


 一致している?


 本物?


 王様とお妃様が、俺の何かを判別しようとしているのは理解している。


 だけど肝心の部分がわからない。


「では、これを最後にしましょう。デーヴィッド、あなたのお尻には六つのホクロがあるでしょう。ホクロの点と点の間に線を入れるとハート型になる」


「どうしてそれを!」


 予想のできなかった衝撃的な質問に驚愕しつつも、恥ずかしさを覚えた俺は咄嗟に両手で自身の尻に触れる。


 顔が熱いのがわかる。


 おそらく俺の顔は羞恥で赤くなっているだろう。


 俺にはお妃様が言ったホクロが尻に存在するらしい。


 俺自身では確認することができないが、幼少期のころにカレンが教えてくれたのだ。


「ハハハ、その反応間違いないな」


「ええ、まさかこんな日が来るとは思っていなかったわ」


 目から涙を流したお妃様が立ち上がると、俺の前に来るなり優しく抱きしめてきた。


 俺は突然のことに思考が停止し、身体を動かすことができずに彼女の抱擁を受ける。


「あ、え?あっ?」


 何かを言おうとするが、上手く言葉が出てこない。


 どうにかして出した声は、呻き声のようなものになってしまう。


「本当に生きていてくれてありがとう」


「えーと、これはいったい?」


 少し時間をおいたことにより、少しだけ冷静さを取り戻した俺は、王様に尋ねる。


「率直に言えばデーヴィッド、お前は十六年前に生き別れたワタシとアリシアとの間にできた子ども、この国の王子なのだ」


 王様の言葉に一瞬だけ脳が思考を停止する。


 王子!俺が?そんなバカな。


 ありえない。そんな訳がない。


「いやいやいや、何を言っているのですか王様、俺が王子だなんて何を根拠に!」


「そう簡単には信じてくれないか」


「当たり前ですよ。いきなり王様と謁見したら実は王子だったなんて、子ども向けの物語ではあるまいし」


 確かに俺は実の親や出生の秘密を知らない。


 だからと言って、すぐにこの話を鵜呑みにするわけにはいかなかった。


「分かった。順を追って話そう。第一にデーヴィッドの名がワタシの名付けた子どもと同じであること。第二にテーラーは我が一族の苗字。王族以外にこの苗字をもつ者はいない。第三にワタシの若いころにそっくり」


 王様が子どもだと断定できる部分を順番に言ってくる。


 だが、それらでは決定打にはならない。


 何せ、世界には自分と同じ顔の人間が三人いるし、揺り籠の中に入っていた名前も何かの拍子に入り込んだ可能性だってあり得る。


 ただ、否定できないのは俺の尻のホクロを知っていること。


 それが俺の心を揺るがす。


 第四として、王様はホクロの件を口に出す。


「そして、第五になるが、デーヴィッドは母親の血が混じっている。お前は精霊に呼ばれて精神世界で会ったと言ったな。こんなことは普通の人間にはそもそも起きない」


「王様の言っていることは本当よ。人間はどんなに逆立ちをしても精霊の声は聞こえないし、会うことができないの。稀に気配を感じる人はいるけど、その程度よ。精霊の声は人が感知できないし、見ることもできない」


 人間の耳は感度がかなりよく、二十ヘルツから二万ヘルツの周波数を聞き取ることができ、耳管の共鳴周波数である三千ヘルツ付近の音に、最も敏感だ。


 そして低音、高音では感度が落ちて行く。


 精霊の音波の周波数がどのくらいなのかはわからないが、つまり王妃様は人間の構造上、精霊の声を聞くことができないと言いたいのだろう。


 そして、人間は物体に当たった光の波長のうち、物体に吸収されずに反射した波長を、物体の色として認識する。


 因みに光とは電磁波の一種だ。


 波長によって屈折率が変わるため、光が分散してさまざまな色を認識することができる。


 人間の目で見える波長の範囲を可視光線と呼ぶが、短波長が三百六十から四百ナノメートル、長波長側が七百六十から八百三十ナノメートルであり、可視光線よりも波長が短くなっても長くなっても人の目で見ることができない。


 つまり、精霊の肉体は電磁波との間に相互作用が起こらず、電磁波の吸収及び散乱が生じない作りになっている。


 そのため実在はしても、人間の目では捉えることができないということを言いたいのだろう。


 俺が精神世界で精霊の声を聞き、姿が見えたのも、半分精霊である半人半霊であるから可能だったのだ。


「でもそれだったらかあさ…………お妃様が王様や他の人に見えるのは可笑しいじゃないですか」


 思わず感情が高ぶり、お妃様のことを母さんと言いそうになり、慌てて訂正する。


「それはわたしが精霊の中でも特別だからですよ」


 お妃様はおっとり顔で答える。


「もっと論理的に俺にわかるように説明してください」


 つい反発の言葉が口から出てしまったが、そんなの聞かなくても分かっている。


 お妃様は精霊でありながらも人間にも聞こえる周波数の声を出し、肉体は電磁波の波長が屈折により光を分散できるからこそ、実態を認識できるのだ。


 完全には信じるきることはできないが、どうやら俺は国王夫妻の息子であるようだ。


「ひとつ聞かせてください。十六年前に生き別れたといいましたよね、いったい何があったのですか?」


「そうだな、ここは話さなければならない」


 王様は険しい顔をすると、俺の記憶には残っていない過去について語りだした。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみしていただけたら幸いです。

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