第一章 第五話 隠されたオーガの秘密
今回登場するワード
塵旋風……つむじ風のこと。
クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。
ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。
まだ玄関は破壊されていない。
しかし、カレンが生み出したと思われる風はどこにも見当たらなかった。
どうやら効力を失い、自然消滅をしたようだ。
扉が叩かれる鈍い音や、ガラスが割れる音が耳に響いてくる。
このままでは完全に破壊され、敵の軍勢が校舎内に雪崩れ込んでしまう。
幸い敵はまだ俺に気づいてはいない。
後方から攻撃をすれば、こちらに注意を向いて破壊工作を一時的にも中断させられるはずだ。
カレンから聞いた言葉を参考に、まずは疑問を解消させるために風を使った現象を生み出す。
「呪いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダストデビル」
契約している精霊に向け、言霊の力で現象を生み出す。
直射日光により、温められた地表面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。
すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が誕生し、オーガたちに向けて突き進む。
周囲のゴブリンは風に飲み込まれると吹き飛ばされて地面に倒れる。
だが、やつらのボスと思われるオーガはびくともしなかった。
やっぱりカレンの情報どおり、風属性の現象は効果が薄い。
ハイクラスであった場合は強靭な防御力をもっているか、見た目よりも体重が重いかが考えられる。
高い防御力をもっているのであれば、その能力を下げればいいだけの話だ。
しかし、言うだけであれば簡単である。
相手の肉体に変化を起こさせる現象を思いつきはするが、それまでなのだ。
何せ俺は知られざる生命の精霊と契約していない。
精霊の力を借りて、言霊に乗せて放った言葉を実現させることができるが、それには条件がある。
精霊のもつ属性を踏まえたうえで、言葉を発することだ。
精霊はその存在意義でもある属性を象徴している。
ウンディーネの力で炎を生み出したいと言ったところで、水の力では天地が引っ繰り返ろうとも炎を発生させることができない。
魔法と呼ばれるこの現象も万能ではないのだ。
どんなに一生懸命に現象を生み出そうとしても、関連する精霊がいないのであれば意味がない。
ないものを願っても意味がない。
なら、今できることをやり抜くだけだ。
幸いにもほとんどの属性をもつ精霊とは契約ができている。
それにあの存在のお陰で属性同士の組み合わせなど、普通の人間には難しい現象を生み出すことができているのだ。
知られざる生命の精霊と契約していないという事実を覆せれるほどの力をもっている。
それらを使えば、おそらくハイオーガと思われる敵の能力を突破できるはず。
冷静に判断し、この場に適した精霊に指示を出して言霊に乗せて現象を生み出す。
「呪いを用いて我が契約せしノームに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ロック」
言葉を放つと精霊の力が発動し、目の前の地面が盛り上がる。
すると岩の塊が飛び出して空中に留まった。
「行け!」
俺の放つ合図に合わせ、岩石はオーガに向けて飛んでいく。
それなりの大きさがある。
あれなら質量も十分だ。
圧し潰されろ。
岩の塊の下敷きになる姿を思い浮かべたが、敵は迫ってくる岩に向けて両手を広げる。
そして、そのまま受け止めて地面に叩きつけた。
一撃を受け止められたが、無傷とはいかなかったようだ。
オーガの肉体は傷がつき、受け止めた両の手からは赤色の液体が落ちたのが見えた。
その光景を見て俺は困惑する。
可笑しい。
ハイクラスの影響で高い防御力をもっているのであれば、岩を受け止めたぐらいではあのような擦り傷は起きない。
なら、防御力は普通のオーガと何も変わらないのか。
防御力がノーマルと変わらないのであれば、あとは体重が重いことぐらいしか思い浮かばない。
だが、その可能性はすぐに消された。
岩石を投げつけられたことに腹を立てたのか、オーガはこちらに向けて突進してくる。
両腕を広げてラリアットの態勢をとっていた。
走る速度も通常と何も変わらない。
なら、どうしてカレンの風や、ダストデビルには効果が薄かった。
考えている間もオーガは近づいてくる。
すぐに対処をしなければ、あの鍛え上げられた腕が直撃し、無事では済まない。
状況に適した現象を考えていると、オーガが突如吠えだす。
すると何の前触れもなく気圧が変化して風が吹き、地面の砂を巻き上げた。
その際に砂の一部が目に入り、痛みを感じる。
突然の風、しかもピンポイントに目の前に現れ、都合よく砂を舞い上げることなど自然の力では不可能だ。
そうなると、考えられることはひとつしかない。
もし、やつの正体がハイクラスではなく、あのクラスならば、風の魔法による効果が薄かったのも、自然現象ではない風が現れたのも納得がいく。
そう結論づけた瞬間、敵が目の前に接近していることに気づいた。
咄嗟に体を屈めて敵の腕を避けると、直ぐに振り返る。
攻撃を外したオーガが、再びラリアットの構えで接近してきた。
あの風には驚いたが、これで決着をつける。
「呪いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーアロー」
一本の炎の矢が空中に現れ、瞬く間にオーガの肉体を射抜く。
その刹那、敵はその場で藻掻き苦しんだ。
「やっぱり効果は抜群だったな」
あの風がオーガの魔法であると判断すると、やつのクラスがエレメントもちだと見破った。
エレメント階級の魔物はその属性に特化した魔物だ。
ハイクラスとは異なり、特化した魔法を扱うことができる。
しかし、逆に扱う属性そのものが自身を象徴してしまう。
そのために相性がばれやすく、弱点を突いた攻撃には弱い。
細かく分ければ魔法の属性は十もあるが、四代元素にのっとるなら、水、火、風、土のよっつに分けられる。
水➝火➝風➝土➝水の循環関係で強弱があり、エレメント階級の魔物はこの影響を強く受ける。
だから通常のオーガなら使わない風の魔法を使った時点で、弱点はバレバレとなるのだ。
しかし、基本肉弾戦のオーガが魔法を使うとは予想すらしなかった。
常識に囚われていては、足元を掬われるということを体現させられた。
目の中に入った砂がまだ取れていないようで、目がゴロゴロする。
異物を追い出そうと、目から涙が流れた。
目を擦っていると上空に気配を感じ、空を見上げる。
上空に何者かが空中浮遊をしていたのだ。
もしかして新手か!数は二、もうこちらは精霊が消耗している。
使える魔法に限りがある中、連続で戦わなければならない。
くそう。
見た感じ上級の魔物だ。
俺の視線に気づいたのか、上空にいた者が下降を始め、地面に降り立つ。
一人は甲冑に身を包んでおり、性別は分からない。
もう一人はクラシカルストレートと呼ばれる長い赤髪、一重瞼の切れ目の双眸は青く、胸元の見える漆黒のドレスからはセクシーさを醸し出している女性だ。
「ほう、エレメント階級のオーガを倒したか。それにあれだけの戦闘を繰り広げながら、誰一人として契約している精霊を消滅させていないとは称賛に値する。やはりそなたには興味をそそられるな。その活躍に免じて今日のところは引き下がってやろう」
「レイラ様宜しいのですか。目的のものはもう目の前なのに」
レイラと呼ばれた女の子に、甲冑の人物は驚いたような声を出す。
低い声から男であることがわかった。
「よい。ジルのやつに乗せられて勢いのまま来てしまったが、興が醒めた。ランスロット卿、宣戦布告を頼んだ」
「承知いたしました」
レイラの言葉にしたがうと、ランスロットと呼ばれた甲冑の人物は黒い球を頭上に放り投げる。
それはどんどん体積を増やし、無数のヒビが入ってに割れると、その数だけ口が現れた。
「俺は魔王様の配下、ジェネラル級ランスロット。我々がこの村を攻めたのは、ある目的のためだ。しかし、この村の住人であるデーヴィッドという者に阻まれ、撤退を余儀なくされる。だが、彼は我々の長であるレイラ様の標的となっている。やつがいる限り、再びこの村を訪れることをここに宣言する」
ランスロットの言葉と同じ内容のものが、空中の口と連動しているようで、同じ言葉を放つ。
だが、ランスロットの言葉に違和感を覚えた。
俺は名前を一度も言ってはいないはず。
どうして名前を知っている?どこかで聞いたのか。
「レイラ様、これでよろしいでしょうか」
「ああ、よくやった。褒めてつかわす。ではな、デーヴィッド。この状況下でそなたはどのような答えを出すのか見ものであるぞ」
そう告げるとレイラとランスロットは再び空中に上がり、そのままどこかへと飛んで行った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
何度も確認はしていますが、誤字脱字などがありましたら是非教えて頂ければと思っています。
また明日投稿予定です。
最新作
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この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。
なので、面白くなっていることが間違いなしです。
追記
この作品はジャンル別ランキング、ハイファンタジー部門でランキング入りしました!
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