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第九章 第四話 エミの過去

 今回の話はエミの過去話になっているので、三人称で書かせてもらっています。


 今回のワード解説


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


前頭葉……哺乳類の脳の一部である。大脳の葉のひとつ。


明晰夢……睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことである。明晰夢の経験者はしばしば、夢の状況を自分の思い通りに変化させられると語っている。

 エミの本当の名は柏崎絵美。


 彼女は成績優秀であり、全国模試でも十位以内に入る学力をもっていた。


 そんな彼女は友達にも明かせていない秘密がある。


 それはアニメやゲーム、漫画を愛するオタクであった。


 好きなジャンルは異世界ものであり、関連するラノベや漫画などを買い集めては、読んで楽しむ日々を送っていた。


 ある朝、五十年振りに流星群が見られるとニュースで流れる。


 テレビで時間を確認すると、そろそろ家を出なければならない時間であった。


 家を出て通学路を歩く。


「絵美おはよう」


 後ろから声が聞こえ、彼女は振り向く。


 声をかけたのは、友達の麻衣であった。


「おはよう」


「ねぇ、絵美。今日流星群が見られるじゃない」


「そうね」


「亜紀も誘って裏山の展望台に行かない?」


「いいけど何で?」


 流星群なのだから、展望台から見るのが普通の発想だ。


 だけど、彼女が提案してきた場所が疑問である。


 裏山よりも近い場所に、展望台が新しく作られたのだ。


 そこで見ればいいのに、わざわざ歩き疲れてまで山に登る必要はないと思う。


「絵美は都市伝説を知っている?」


 麻衣が尋ね、絵美は五十年前に起きたといわれる都市伝説を思い出す。


 裏山にある展望台から流星群を眺め、心から神にお願いごとをすると望みが叶うというものだ。


「ええ、一応知っているわ」


「ねぇ、せっかくだし試してみない?」


 麻衣が誘ってくるが、都市伝説はただの噂で本当に起きないと絵美は思っていた。


「どうせ試しても何も起きないわよ」


「そうかもしれないけど、試してみる価値はあるわよ。成功したら儲けものぐらいの気持ちでいけばいいのよ。一生のお願いだから」


 両手を合わせながら頭を下げ、麻衣が頼みこむ。


「はぁー、わかったわよ。つき合ってあげる」


「流石絵美!話がわかる」


 その日の夜、絵美は家族に内緒で家を出ると、約束の場所に向かう。


 彼女が展望台に辿り着いたときには、既に友達が待っていた。


「絵美遅いよ」


「あんまり待たせないでよ」


 待ち合わせ時間よりも早かったのに文句を言われる。


「二人が早すぎるのよ」


 絵美は友達の横に並び、時がくるのを待つ。


 友達の二人と最新の服やアイドル、コスメの話をしていたが、本当は最近アニメ化された異世界ものの話がしたかった。


 だけど、本当の自分を偽っている以上は、我慢をしなければならない。


 夜空を眺めていると、暗い空に光輝く一本の線が見えた。


 流星群が訪れたのだ。


「流星群よ!イケメンに会いたい。イケメンに会いたい。イケメンに会いたい」


「素敵な恋がしたい。素敵な恋がしたい。素敵な恋がしたい」


 友達は口々に欲望丸出しの願いを言う。


 しかし、絵美は彼女たちとは違い、心の中で『もし願いが叶うのなら、あたしを異世界に連れて行って』と流星群を見ながら呟く。


 すると突然地面が光だし、絵美は困惑する。


「ちょっと、これ!いったい何?地面が光っている」


 何が起きたのかわからず、友達に聞いてみる。


「光なんてないよ」


「もし絵美にだけ見えるなら、明日病院に行ったほうがいいんじゃない」


 彼女たちにはこの光が見えていないようだ。


 自分だけが見えているのなら、何かの病気かもしれない。


 明日は朝から病院に行こう。


 そのようなことを考えていると光はますます激しくなる。


 これは流石に可笑しい。


 仮に何かの病気であったとしても、こんなに地面が眩しいはずがない。


 自分にだけ起きている謎の現象に、絵美は恐怖を感じた。


 一歩、また一歩と光から遠ざかろうとするも、まるで自身の陰のように光が離れることはなかった。


「いやー!」


 恐怖心に負け、絵美は失神して意識を失う。


 目が覚めると見知らぬ場所にいることに気づく。


 天井は高く、中世ヨーロッパをイメージさせる柱が、等間隔に配置されている。


 広い部屋の先には祭壇があった。


 ここはどこなのだろうか?


 自分はあのとき意識を失った。


 友達が気づいて運んでくれたのだろうが、どうして自分の家や病院ではなく、こんな奇妙な部屋に連れてこられたのだろうか?


 何か場所を特定するようなものがないか、絵美は祭壇を調べてみることにする。


 祭壇の上には本が置かれており、日本語ではない文字が表紙に書かれていた。


 英語でも中国語でも韓国語でもない。


 読めないが、記憶の断片に残っているアラビア語でもなさそうだ。


 この本はいったい?


「目が覚めましたか」


 興味本意で本に手を伸ばしたとき、背後から男の声が聞こえた。


 びっくりして振り返ると、見た目三十代ぐらいのオッサンがローブを纏っていた。


 日本人離れした容姿だが、彼が口にしている言葉は日本語。


 自分が目を覚ましたことを安心した素振りをみせていた。


「ここはどこなのですか?」


「ここは天界の神殿です。私はこの宇宙を管轄する神、あなたの願いを叶えてあげるためにこの場に呼び寄せました」


「願いってまさか!」


「ええ、あなたは私に選ばれた存在。望みどおりに異世界に転送してあげましょう」


 神と名乗る男の言葉に、絵美は心臓が高鳴るのを感じる。


 今まで憧れていた展開に近いことが現実に起きようとしているのだから。


 これはもしかして夢?


 願望が強すぎたために、脳が情報処理をしている最中に見せているものかもしれない。


 夢の種類のひとつに、明晰夢というのがある。


 意識しながら見る不思議な夢のことだ。


 通常人間は夢をみているときに、それを夢とは自覚しておらず、目が覚めてから初めて夢だと気づく。


 しかし、稀に夢を見ながら現実ではないことに気づくことがある。


 これが明晰夢と呼ばれる現象。


 原因としては、眠りながらも頭が半分目覚めている『脳の半覚醒』が原因で起こると言われている。


 夢は思考や意識を司る『前頭葉』と記憶を収納する『海馬』が寝ている間に情報を整理することで発生する。


 この整理の最中に何らかの理由によって前頭葉が覚醒することがあり、それが明晰夢を見せているのだ。


 そして面白いのが、夢の主が夢だと自覚しても目を覚まさないという特徴がある。


 それに加え、見ている夢の内容を自由自在にコントロールすることができるのだ。


 明晰夢を見ている状態では、意識を司る前頭葉が覚醒しているため、夢の主が考えたとおりに海馬から記憶を引き出し、思ったとおりのとてもリアルな夢をみることができる。


 不思議なぐらいに、自分が望むように展開が進み過ぎている。


 これはきっと、明晰夢だと思うべき。


 だけど、仮に夢の中のできごとだったとしても、こんな夢はもう二度と見られないかもしれない。


 一度しかないチャンスを見逃す訳にはいかなかった。


「それは本当にありがたいわね。なら早くあたしを異世界に転送しなさいよ」


 絵美は男に早くするように催促した。


「分かりました。ですが当然異世界なので私からの恩恵(ギフト)をもらってもらわないといけません。まずはこれを」


 神は手を翳すと光が集まり杖の形を象っていく。


「これは選定の杖。この杖は使用者の魔力を高めてくれますが、杖のほうが使用者を決めます。これに認められれば差し上げましょう」


「そんなのあたしが認められるに決まっているわ」


 明晰夢ならなおさらだ。


「頼もしい言葉です。では、杖に触れてください」


 言われた通りに絵美は杖を握る。


 その瞬間、杖についている赤い石が光を放つ。


「おおー、本当に選ばれるとは」


「ほらね。言った通りでしょう」


「それでは、次にあなたの力になってくれる精霊と契約させます。精霊の名は知られざる負の生命の精霊、能力は相手の肉体に悪影響を与える力をもっています」


「つまりはデバフ系の魔法が使えるってわけね。神に選ばれた主人公にしては、弱すぎるような。もっと派手な魔法を使いたいわよ」


 絵美の言葉に、男は苦笑いを浮かべる。


「確かに地味かもしれないですが、肉体に直接作用する魔法は、ほとんどが防ぐ手段がありません。使い方によっては瞬時に敵を一掃することも可能ですよ」


 確かに今言ったセリフが全て事実であったのなら、チートと言える。


 最強に近い能力だ。


「分かったわよ。確かに使い方次第では無双も可能かもしれないわね」


「納得していただけて幸いです。では転移をさせましょう」


 男は聞いたこともない言葉を口に出す。


 その瞬間、再び足下が光かったかと思うと、目の前には知らない平原が広がっていた。


「異世界に転移したのかな?」


 時間帯は夜中なのだろうか。


 空は暗く、周囲は草花しか見えない。


 とにかくこのまま留まったとしても、何も情報を得られない。


 動けば何かしらのイベントが発生するはずだ。


 異世界に来て魔物とエンカウントして戦ったり、強すぎる相手が現れて死にそうになったときに、誰かが助けて街に連れて行ってくれることだってあるはず。


「こんなときは神頼みよね」


 杖を地面と垂直に置いて手を離す。


 古典的なやり方だが、杖は絵美から見て右に倒れる。


 杖の導く方向に歩き続けると、視界の先に明かりのようなものが見えた。


「もしかしたら街の明かりかな?」


 でも、ここまで歩いたが何もイベントと呼べるものは起きなかった。


 まぁ、お約束と言っても必ず起きるとは限らないわよね。


「ふぁーあ」


 歩き疲れたのか、欠伸が出る。


 今日は早く休もう。


 街だったら取敢えず宿を探そうかな。


 そんなことを考えていると、自分はこの世界のお金をもっていないことに気づく。


「どうしよう。詳しいことを聞かないで転移したから、この世界のことほとんど知らない」


 宿屋は無料で泊めてくれるのだろうか?お金やアイテムは魔物からドロップすることができるのだろうか?


 歩きながら考えると、最終的にはどうにかなるだろうと結論にいたった。


 これが明晰夢なら、何も心配する必要はない。


 明かりに近づくにつれ門が見え、たくさんの建物が見えた。


 どうにか街に着いたことに安堵した絵美は、宿屋を探すために道を歩く。


 すると裏路地のほうから声が聞こえたような気がした。


 もしかしたら人がいるのかもしれない。


 宿屋の場所を聞いてみよう。


 裏路地に入って曲がり角の先を見る。


 だけどそこには人の姿はみられなかった。


「気のせいだったみたいね」


 そう思い、身体を反転させたときだった。


 目の前にローブで身体を隠した集団が立ちふさがった。


「あ、あなたたち何者」


 何だかいやな気がする。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命に命じ…………る」


 腹部に強い痛みを感じ、上手く呼吸することができなくなった。


 目の前の人物が激しいパンチをおみまいしたのだろう。


 意識を保つことができずに絵美はそのまま気を失った。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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