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第八章 第二話 回復師として目覚めるライリー

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


DT……童貞のこと。


上皮細胞……上皮細胞とは、体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」、外分泌腺を構成する「腺房細胞」や内分泌腺を構成する「腺細胞」などを総称した細胞。これら以外にも肝細胞や尿細管上皮など分泌や吸収機能を担う実質臓器の細胞も上皮に含められる。


アクトミオシン……精製した筋肉タンパク質のミオシンとアクチンの溶液を混合してできる複合体で,そのままではミオシンとアクチンが結合した状態にある.強い流動複屈折を示し,溶液の粘度は高く,電子顕微鏡像は枝分れした網状鏡像を示す。

「さぁ、あとはあなただけよ。あたしから奪った杖を返してくれば、半殺しで赦してあげる」


「フハハハハハ、何を勝った気でいる。こっちにはバカ正直に突っ込んだせいで哀れな姿になっている人質がいるのだぞ。こいつがどうなってもいいのか」


「別にいいわよ」


 イアソンの問いに即答するエミ。


「本当にいいのだな」


 彼女の返答が意外だったのだろう。


 もう一度、彼は同じことを聞いた。


「くどいわね。殺したいのなら、さっさと殺せば。あたしにはその男が死のうが関係ないわ。杖を取り返すために協力してもらっているだけだし」


「ちょっと、エミ正気なの!」


「エミお姉ちゃん嘘ですよね。本気じゃないですよね」


 彼女の言葉が信じられないのだろう。


 カレンとアリスが詰め寄る。


 しかし、この光景に俺は違和感を覚えた。


 仲間なのだから、俺のことを使い捨ての道具のように言われて、憤りを感じるのは当然と言える。


 だけど、二人というのが変だ。


 もっと相応しい人物がいる。


 カレンやアリスよりも、一番に怒っていても可笑しくはないのに。


 なぜか俺は、心がモヤモヤしていた。


「私は本気よ。だってそうじゃない、この前知り合ったばかりの他人同然の男よ。助ける価値があるって言うの?」


 どうでもいいことのような口ぶりでエミが言うと、カレンが右手で彼女の頬を叩く。


 勢いよくビンタをしたようで、離れた距離でもその音を聞き逃すことはなかった。


「あんたがそんなことを言うやつだとは思わなかったわ」


「エミお姉ちゃんのこと嫌いになりました!」


 感情を抑えきれなかったようだ。


 二人は思ったことをそのまま口にする。


 だけど、この状態はよくない。


 今は仲間割れをしている場合ではないのだ。


「ハハハハ、ここで仲間割れとは笑える。所詮人間なぞ、その程度でしかない。いくらきれいごとを並べようと、最後は自分のことしか考えていないのだ。仲間は大事、その言葉の裏では利用するための道具という意味が隠されているのにな!」


 背中にかかる圧が強くなった。


 イアソンが足に力を入れ、俺は苦痛に顔が歪む。


「うああああぁぁぁぁぁぁ」


 なるべく我慢していたが、更に背中にかかる圧が強くなり、俺はついに耐えきれなくなって叫び声を上げる。


「なんて耳障りなのかしら。蟻の足を一本ずつ毟るようなことなんてしないで、さっさとひと思いに骨を粉砕すればいいのに」


 本当にエミなのかと疑いたくなるような発言に、俺は胸が痛くなる。


「あの女と出会わなければ、この洞窟に来なければ、途中で引き返していれば、お前の命も、もう少しは長かったのかもしれないのにな!遊びは止めてトドメをさしてやろう。これでお前と契約している精霊は解放される。私は精霊の救世主となる」


 一時的に背中にかかる圧が消えた。


 イアソンが勢いよく踏みつぶすために一旦足を上げたのだろう。


 だけど、俺は継続している痛みのせいで動くことすらできない。


 DTのまま死んでしまうのか。


 これから起きるできごとを受け入れようと、俺は目を瞑った。


 カレンたちの泣き顔を見たくはなかったからだ。


 しかし、いつまで経っても意識が吹っ飛ぶような痛みがこないことに俺は困惑する。


 そして若干の浮遊感を覚えた。


 この感覚はいったい?


「デーヴィッド、生きているかい?しっかりしな!」


 ライリーの声が聞こえ、俺は目を開けた。


 すると、眼前にライリーの顔があり、気がつくとレイラたちの近くにいた。


 俺がいたはずの場所に視線を向ける。


 イアソンが踏み付けた地面は砕け、蜘蛛の巣のようなヒビが入っている。


「まったく、こんな危険な作戦を考えるなんてどうかしている。あたいの反応が遅れていたら、デーヴィッドを見殺しにしていたじゃないか」


「これはライリーの足を信用してのことよ。でも、カレン。いくら何でも思いっきりやりすぎじゃないの。今でもじんじんして痛いのだけど」


「本気でやらないと演技だってすぐにばれるじゃない。なんだったら反射的に打ち返してくれたほうがもっとクオリティが高かったんじゃないの?」


「だったらお望みどおりに今からやってあげましょうか?」


「まぁまぁ、デーヴィッドお兄ちゃんを救出できたのだからいいじゃないですか」


「すまない。一刻も早くデーヴィッドを助けたかったのだが、余の攻撃ではそなたを巻き込んでしまうので、タイミングを窺うことしかできなかった」


 全員が口々に言葉を放つが、俺は今の状況が理解できなかった。


「お前たち、仲間割れをしていたのではないのか!」


 俺の心の声を代弁してくれたかのように、イアソンが大声で尋ねた。


「そんなわけないでしょう。全部デーヴィッドを救出するための演技に決まっているわ」


「でも、スライムの残骸で文字を作って、作戦を説明したときには正直に驚いたわよ。単純なメッセージだったし、アドリブが上手くいくか不安だったわ」


 カレンの言葉を聞き、俺は地面に視線を向ける。


 離れた位置からではまったくわからなかったが、スライムの残骸で作られた言葉には『あたしがてきのすきをつくる。きゅうしゅつおねがい』と書かれていた。


 ネタバレがあったところで、俺は先ほど感じた違和感の正体に気づく。


 自意識過剰と言われるだろうが、レイラは俺のことが好きだ。


 なのに、エミを一番に攻めなかった。


 だから、心の中がモヤモヤしていたのだ。


「とにかくデーヴィッドの傷を治すよ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ネイチャーヒーリング」


 ライリーが魔法を唱えると、俺の身体に変化が起きる。


 痛みがなくなり、身体の傷も消えているのだ。


「これは回復の魔法か?」


 予想以上の回復の速さと威力に俺は驚かされる。


 簡単な回復の魔法であれば傷を癒すことはできるが、体内の傷ついた臓器までは治すことはできない。


 そもそも、肉体の回復とは、身体を保つ細胞の一つである上皮細胞が、隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積し、その細胞接着面が短縮。


 アクトミオシンは新しい細胞接着面を作る際の接合点で再利用されると、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張。


 そしてSDKと呼ばれる膜たんぱく質が、細胞接着面のつなぎ替え後に形成される細胞接合点に早く集積し、アクトミオシンを繋ぎ止め、まるでジッパーのように細胞接合点をスムーズに移動することで、新しい細胞接着面の伸長を誘導。


 細胞接着面がつなぎ替わった後に、新しい細胞接着面の伸長が連続して起こることによって、上皮細胞がスムーズに集団移動を始め、シート状の上皮組織を折りたたみ、伸長、陥入、移動などの変形を行い、複雑な器官の修復を行うというものだ。


 そんな複雑すぎることを、術者は意識しないといけないし、教えても理解するのが難しい。


 だから、ここまでの回復魔法を使える人物は世界中を探しても数人しかいないだろう。


 その中に、ライリーは仲間入りを果たした。


「でも、いったい誰が教えた……いや、聞かずともわかるか」


「ああ、初めて会った日の夜に、エミが教えてくれたんだ。流石にあたいの精霊と対なる精霊使いだけあって、詳しかった。習得するまでには時間がかかったが、なんとかものにすることができたよ」


 ライリーが苦手な回復魔法を克服した。


 彼女は元々から才能があったのだ。


 それを、俺が向かないと思う理由だけで、成長の妨げをしてしまったようだ。


 今の彼女は鬼に金棒という言葉が相応しい。


「イアソン、今度こそ決着をつける!」


「こうなればあのお方よりお借りしたあの魔物を使うしかない。来い、ヘラクレス!」


 イアソンが叫んだ瞬間、彼の前に黒い霧状の物体が集まり、形状を成していく。


 この光景は前に見たことがある。


 レイラが魔物を誕生させるさいに、精霊の残留思念を集めたときの光景に似ている。


 だけど、魔物を生み出せるのはロード階級の魔王であって、ナイト階級の魔物には不可能のはず。


 いったいどういうことだ?


 形状の作成が終わると、魔物が姿を現した。


 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

 

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