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第八章 第一話 エミのマジックショー

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


コロイド……2種類の物質が混じる際に一方が直径1~100nm程度の大きさの粒子となって、もう片方に均一に混じる状態のことを指す。


ポリビニルアルコール……合成樹脂の一種。「ポバール」とも呼ばれる。水溶性、乳化性、造膜性、接着性、耐油性、耐薬品性などに優れ、合成繊維「ビニロン」やプラスチックフィルム「ポバールフィルム」の原料、繊維加工(糊)剤、紙加工剤、接着剤などに広く利用されている。


ホウ砂……ホウ酸塩鉱物の一種。硼砂とも表記される。古くから東洋ではティンカルとよばれていた。鉱物学的にはホウ砂はNa2[B4O5(OH)4]・8H2Oで、英名boraxであるが、ティンカルという名前はNa2[B4O5(OH)4]・3H2Oのティンカルコナイトに残されている。加熱すると無水物になり、731℃で融解する。また種々の金属を溶かし込んで特有の色を与える。


イオン……電気を帯びた原子や原子団。中性の原子や原子団が電子を得たり失ったりすると,負または正の電気を帯びた粒子が得られる。正の電気を帯びたものを陽イオン(カチオン)といい,負の電気を帯びたものを陰イオン(アニオン)という。電解質の溶液に電圧をかけると,陽イオンは陰極に向かい,陰イオンは陽極に向かって移動し,電流が流れる。


浸透圧……浸透圧は 物理 化学 の用語である。半透膜 を挟んで液面の高さが同じ、 溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される。この圧を溶液の浸透圧という。


高張液……細胞内液よりも浸透圧の高い溶液。細胞内から水が溶液中へ移動する場合の、その溶液。

「イアソン歯を食い縛れ!」


 全速力で走り、やつに接近すると俺は振り上げた拳をイアソンの顔面に向けて放つ。


「遅いね、欠伸が出るよ」


 俺の拳を右手で受けとめると、イアソンはそのまま地面に叩きつけた。


「グアッ」


 全身に痛みが走り、苦痛ですぐに身体を動かすことができなかった。


「君は多重契約者(エクストラ)らしいのにバカなのかな?戦士でもない精霊使いが肉弾戦をしようだなんて……ね!」


 起き上がることができない状況下の中、俺の背中に痛みが走り、苦痛で顔が歪む。


 イアソンが俺の背中を踏んでいるようで、更に起き上がるのが難しい局面になった。


「「「「デーヴィッド!」」」」


「デーヴィッドお兄ちゃん!」


 みんなが俺の名を叫ぶ。


「おーと、こいつの心配をしている余裕はあるのかな?君たちの周囲にはスライムがいるっていうのに」


「スライムなんてものは核を壊せば怖くない!あたいが倒してやる」


「では、レベルアップといこう」


 俺の頭上で指を鳴らす音が聞こえた。


 こちらからの視界では、その音が何を意味していたのかはわからない。


「いくらでもスライムを増やせばいいさ。あたいが全員倒してやる」


「いや、このスライムは違う!」


「うそ、私たちになった」


 視界からは情報を得ることができないが、耳からは何が起きたのか、判断することができた。


 新に現れたスライムがみんなに姿を変えた。


 そんな能力を持つのは、セプテム大陸に生息するスライム、マネットライムしかいない。


 マネットライムは、自身の細胞を組み換え、相手の姿を真似る種族だ。


 一説によると、マネットライムは外敵から身を守るために進化して、相手の姿を真似るようになったとのこと。


 同じ姿でいれば、同族だと思われ、襲われるリスクを減らせる。


 しかし、ただ真似るだけならそんなに怖くはない。


 姿や形は違っても、スライムであることには変わりないからだ。


 しかし、それだけではない。


 自然界で生き残るために更に進化をしている。


 その真価を発揮するのは、対峙している相手が脅威と感じたときだ。


 レイラならマネットライムの危険性を知っているはず。


 早く皆に知らせてくれ。


 心の中でレイラにお願いするも、彼女が注意を促すようなことをしていないのか、声が聞こえなかった。


 いったい何が起こっている?


 不安になった俺は、イアソンに気づかれないように、少しずつ態勢を変える。


「お前、何をしている?」


 だが、踏まれている状況下では、些細な動きでも伝わってしまうようで容易に気づかれてしまった。


「そうか、仲間が苦しむ姿をみたいか。いいだろう。見せてやる」


 わずかに背中にかかる圧が和らぎ、方向転換をすることができた。


 だが、皆の姿が視界に入る位置にくると、再び足に力を込めたようで、動くことが不可能となる。


 どうにかこの場から脱出したいが、呪文を詠唱しようにも痛みのせいで言葉が詰まってしまいそうだ。


 小声で唱えることも難しい。


 仲間の様子を窺うと、レイラもマネットライムを警戒しているようであったが、注意を促す素振りを見せない。


 まさか、知らないなんてことはないよな。


「あたいたちの姿になろうと、スライムはスライムだ。核を狙うよ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。スピードスター」


 俺の動体視力では、捉えることのできない速さでマネットライムの背後にライリーが移動すると、ジェル状の肉塊が周囲に飛び散る。


「こんなものかい?みんな安心しな!この変なスライムはあたいが倒す。隙をついてデーヴィッドの救出に向かいな」


 あの一瞬でどれほどの連撃を放ったのかはわからないが、凄まじい威力だ。


 だが、惜しくも核の破壊には至っておらず、すぐに戻ってきた肉塊が核を覆い隠す。


 ライリーは油断しているようだ。


 このままでは非常に危険!


「ライリー気をつけて、まだ核を破壊できていないわ」


 倒したはずのマネットライムが健在であることを、カレンは急いで教える。


「チッ、詰めが甘かったようだね。またあたいの恰好に戻っていやがる」


 振り返ったライリーが再び剣を構え直す。


 だが、もうあのマネットライムは、先ほどまでと同じと思ってはならない。


 あの攻撃で、ライリーのことを危険人物だと認識したはず。


 マネットライムの真の力が解放されるだろう。


 今すぐにでも、教えなければならない。


 だけど、教えたくとも大声を上げることができない。


 どうやって伝えるべきかを考えていると、死にかけたマネットライムが一瞬で姿を消す。


 そして現れたころには、ライリーの右肩から血が噴き出る。


「いったい何が起きたのよ!全然わからなかったじゃない」


 エミが驚きの声を上げる。


 これがマネットライムの怖いところだ。


 攻撃を受けた瞬間、マネットライムの細胞が瞬時に原因を究明し、それを核に伝える。


 そしてどのような原理でそうなったのかを理解すると、同じことをするのだ。


 今のライリーとの戦いの場合は、一瞬にしてジェルが吹っ飛んだ瞬間、細胞がライリーのスピードの正体を探る。


 そして、足の筋肉の収縮速度を早くしたから可能であることを理解すると、それを核に伝え、同じことをするのだ。


 スライム界のストラテジストと呼ばれるほど、知力が高い生物。


 しかも、受ける技の種類が多いほど、使ってくる技が増えるという。


 マネットライムと戦うときは、一撃で核を破壊しなければならない。


 しかし、本当にそれが可能なのだろうか?


 ライリーが猛スピードでジェルを吹き飛ばしたが、核の破壊にはいたっていない。


 しかも数秒で肉体が戻ってしまった。


 再びライリーが、マネットライムのジェル状の肉を吹き飛ばしたとしても、直ぐに核を攻撃しなければならない。


 呼吸を合わせる必要があるが、ライリーのスピードには、通常の人間では追いつくことができないだろう。


 勘で攻撃をしても、タイミングが合わなければ、敵を強化させるだけになる。


 だからといって、ライリーだけで連撃に成功し核を破壊したとしても、彼女一人に負担をかけることになる。


 最悪の場合はムリをして、その代償として精霊が消滅する可能性も十分考えられるのだ。


 どうにかしてみんなで協力して倒す方法を考えなければ。


「レディースエンドジェントルマン。エミのマジックショーにようこそ!今宵は楽しいショーを楽しみください」


 攻略方法を考えていると、突然エミが意味不明なことを言いだした。


 俺だけではなく、この場にいるレイラたちまでが困惑しているようだ。


「さて、今回みせるのは、スライムイリュージョン。こちらに取り出しましたのは、どこにでも手に入る砂糖。これをスライムにかけるとあら不思議」


 エミはアリスの持つバスケット型のアイテムボックスから砂糖を取り出すと、目の前にいる自分の姿をしたマネットライムにぶっかける。


「このように、スライムはドロドロに溶けて元の形には戻ることができません」


 彼女の説明どおりに、砂糖を浴びたマネットライムはドロドロの液体になり、核が剥き出しの状態となる。


「続いて取り出しましたのは、どこにも売っている普通の食塩、こちらを先ほどのように隣のスライムにふっかけます。すると」


 次にエミが取り出したのは食塩だ。


 それを先ほどと同じように、ライリーの姿をしたマネットライムにぶっかける。


 すると、スライムの表面から水が噴き出し、弾力がなくなったようでぐったりとしている。


「このようにスライムの体内から水分が抜け、行動不能にさせることができます」


「わー凄いです!驚きです!」


 目の前に起きているできごとを、驚きながらも楽しんでいるようで、アリスが盛大に拍手をしていた。


「何をしているのよ、動かなくてもまだ核を破壊していないのだから早く倒しなさいよ。あたしがほかのマネットライムを同じようにするから」


「あ、ああ」


「はい、アリスちゃんも」


「ありがとうなのです」


 動く気配を見せないマネットライムの核をライリーが剣で破壊し、アリスもエミと協力してスライムの動きを封じる。


「お、おのれ。奇怪な術を使いよって」


 頭上からイアソンの悔しさがにじみ出ている声が耳に入る。


 知識としては知ってはいたが、実際には試したことがなかったので、俺も驚かされた。


 スライムの身体の正体はコロイドだ。


 そして、体内のポリビニルアルコールは高分子の鎖であり、ホウ砂のイオンが鎖を留めて網目構造を作っている。


 この小さな部屋に水分子が入り込むことで、ぷにぷにとした弾力のある身体になっている。


 ナメクジに塩をかけると溶けるように、砂糖が身体に触れると、砂糖の粒子が浸透圧によって水分が出て、ドロドロになったのだ。


 そして食塩をかけたことにより、スライム内の水と周りにかかっている塩化ナトリウムとの間で、濃度の違いが生じ、塩化ナトリウムが高張液となって、スライム内の水分が塩化ナトリウムの濃度差を埋めようとするため、水が出てきた。


 水分がなくなったマネットライムは、身体の構造を維持することができなくなり、あのような状態となったのだ。


 まさか、そんなことまで知っているとは思わなかった。


 いいかげんに、彼女の言っていることを信じてもいいのかもしれない。


 エミの活躍により、イアソンの呼び出したスライムたちは全て核を破壊されて残骸だけが残り、彼を残すだけとなった。


 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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