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第七章第五話 無敵貫通ほど強力な魔法はない。

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを読んでください。


慣性力……慣性系に対して加速度運動をしている座標系の中で、物体の運動に現れる見かけ上の力。例えば、カーブを曲がる車の中にいる人を外側に傾けさせる力など。慣性抵抗。


粘性力……液体や気体の流れでは、流速の分布が一様でない場合、速度差をならして一様にしようとする性質が現れる。これを流体の粘性という。一般に水や空気のようなさらさらした流体は粘性が小さく、ひまし油やグリセリンのような液体は粘性が大きい。


弾性係数……弾性体の比例限度内では応力とひずみは比例し,その間の比例定数は物質特有の値をとる(温度によって変わる)。この値を物理学では弾性率,弾性定数などと呼び,工学では弾性係数という。一般の弾性体では 36個の比例定数が存在するが,等方・等質の場合には 2個となり,ラメの定数と呼ばれる λ,μがその例になる。しかし,λは物理的意味をもたないので,工学ではもっぱら次の弾性係数を用いる。


迷走神経……12対ある脳神経の一つであり、第X脳神経とも呼ばれる。副交感神経の代表的な神経 。複雑な走行を示し、 頸部と胸部内臓 、さらには腹部内臓にまで分布する。脳神経中最大の分布領域を持ち、主として副交感神経繊維からなるが、 交感神経とも拮抗し、 声帯 、心臓 、胃腸 、消化腺の運動、分泌 を支配する。多数に枝分れしてきわめて複雑な経路を示すのでこの名がある 。延髄 における迷走神経の起始部。迷走神経背側核、 疑核 、 孤束核を含む。迷走神経は脳神経の中で唯一 腹部にまで到達する神経である。


クラスター……数えられる程度の複数の原子・分子が集まってできる集合体。個数一〇~一〇〇のものはマイクロクラスターと呼ばれ,特殊な原子のふるまいが見られる。



 あの顔はどこかで見た顔だ。


 過去の記憶を遡って行くと、アリスを追いかけていたあの男と顔が一致する。


「お前らいったい何者だぁ。いや、そういうことか」


 俺たちが何者なのかを訪ねるが、強面の男はかってに納得したようで、ニヤリとしながら口角を上げる。


「お前ら俺がなくした商品を届けてくれたんだな。そいつは礼を言わなければならないな」


 男の視線の先を追うと、アリスを見ているのがわかった。


 彼の口調からして、俺やエミのことは覚えてはいないようだ。


「そんなことないでしょう。あたしたちはあんたらに奪われた杖を取り返しに来ただけよ」


「そうかよ。なら、ここで死んでもらうとするか。ついでにお前たちの荷物をすべていただいてやる」


 最初からわかりきってはいたが、盗賊というのは問答無用で襲い掛かる習性があるらしい。


(まじな)いを用いて我が契約せしノームに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ロックアモォゥ」


 先ほどの盗賊たちと同じように、岩の弾丸を浴びせて無力化を図る。


(のろ)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の全てを使い果たすまで絞り出し、言霊により我の発するものを実現せよエンハンスドボディー」


 あの男呪(のろ)いの精霊使いか。


 全て攻撃が直撃すると、強面の男は倒れる。


「やったみたいね」


「カレン、それはフラグだから言ってはダメよ」


 エミが意味のわからない単語を口にすると、倒れた男は頭を抑えながら立ち上がった。


「ほらね」


 まるでこの先の展開がわかっていたのか、エミはやれやれと言いたそうに両手を横にあげ、首を左右に振る。


 しかし、敵が魔法で肉体強化を使った時点で効果は薄いということは俺にも分かっていた。


 人間は耐えきれない激痛を感じると、迷走神経が活性化して失神につながると言ったが、自身が激痛だと思わなければ気を失うことはない。


 しかも(のろ)いの契約の効果で、威力が上がっている。


 あれぐらいでは倒れはしないだろう。


「思っていたのよりもダメージが少ない。大したことはないな、侵入者さんよ!」


 俺の攻撃を受け、予想よりも痛みを感じなかったことに歓喜したのか、強面の男はニヤリと笑みを浮かべる。


 今の攻撃が俺の全力だと思っているのなら好都合だ。


 油断していれば、攻撃を避けるという選択肢自体が相手から消える。


 貫通力の高い呪文で一気にけりをつけよう。


「魔法が効かないのなら、あたいの斬撃で斬り付けてやる。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。スピードスター」


 速度上昇を促す魔法をライリーが使うと、一瞬にして彼女は男の前に現れる。


「重ねて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。エンハンスドボディー」


 続いて肉体を強化させる呪文を発動させ、一時的に脳のリミッターを外した状態の一撃をライリーは放つ。


 剣は男の腕に直撃するも、切断どころか肉に食い込む様子すら見られない。


 攻撃が意味をなさないと判断したのだろう。


 彼女は後方に跳躍すると男との距離を空けた。


「なんつう頑丈さだ。あたいの一撃が通用しないなんて」


 まるで刃物が触れていなかったかのように、男の腕は小さな切り傷すらついていない。


「ならばこれだ。(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイシクル」


 空気中の酸素と水素が結合し、水分子のクラスターによって水が出現すると、三角錐を形成。


 その後、水の気温が下がり、熱エネルギーが極端に低くなったことで氷へと変化、複数の氷柱を作りあげる。


 男の仲間を倒した呪文だ。


 勢いよく当てることができれば、高い貫通力を持つ。


「いけ!」


 合図を出すと先端の尖った氷柱は、勢いよく回転しながら真っすぐ突き進む。


 勢いよく回転することにより、空気抵抗を減らして加速させる。


 男は再び避ける素振りを見せずに仁王立ちの態勢を取っていた。


 そして威力の高まった氷柱は、男の胸や腕、足に直撃するも、ライリーの二の舞となる。


「効かない、効かない。その程度の力では俺に傷をつけることすらないぞ」


 予想以上に敵の防御が計り知れない。


 あれだけの強度を誇る肉体のからくりは、体内の水分で間違いないだろう。


 水というのは、周りをしっかり拘束をすればかなり硬い物質となる。


 高速で水面に当たると、水は慣性力と粘性力によって元の位置に留まろうとする。


 慣性は加速度に、粘性は速度に比例するからだ。


 その結果、水面から受ける反力は、水自身の弾性係数に等しい状態にまで達する可能性がある。


 敵の防御力はこれを利用したものだと思われる。


 俺がロックアモォゥで攻撃した際に生じる加速度と速度を利用し、肉体に触れた瞬間に精霊の力で体内の水分を使い、慣性力と粘性力によって肉体を強固にしたのだ。


 普通の人間ならこんな芸当はできないが、これが精霊の力。


「ははは、どんどん攻撃をしてこい。全部跳ね返してくれる」


「へぇーそんなに自身があるんだ。なら、最近覚えた呪文があるのだけど試してみるわね」


 後方でアリスを庇っていたエミが俺の隣にくる。


「あなたは自分の防御力に自身があるみたいだけど、無敵貫通という言葉があることを教えてあげる。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ショック」


 エミが魔法を発動させる。


 数秒ほど時が経つが、何も変化が起こらない。


「ガハハ、どうやら失敗したようだな。何も起きないじゃないか」


「まったく。これだから脳筋は、自身が蝕まれていることに気づかないなんて」


「何を……うぐっ」


 突然男は苦しそうな表情をすると膝をついた。


 しかし、直ぐに立ち上がり、俺たちを睨みつける。


「いったい、俺に何をした」


「あら、まだ元気があるみたいね。血液の循環を送らせて心拍数を下げているのに。まぁ、練習にはちょうどいいオモチャね。だから簡単には壊れないでよ」


「ひぃ」


 不気味な表情をするエミに恐怖を抱いたのだろう。


 強面の男は一歩後退する。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ショック!重ねて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し%

 最後まで読んで頂きありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな部分がありましたら、教えていただけたら嬉しいです。


 また明日も投稿予定なので、楽しみしていただけたら幸いです。

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