第七章 第三話 世界初の探査魔法
翌日、俺たちは山賊のいる西の洞窟に向けて歩いていた。
洞窟は森の中にあり、目的地に着くまで何度か野生の動物が襲ってきたが、魔物に比べれば可愛いものだ。
殺さないで追い返すだけにした。
鳥のさえずり声を聞きながら進んでいると、開けた場所に洞窟と思われる穴を発見する。
あれが西の洞窟なのだろうか?
入口付近には人の姿が見えない。
「レイラ、あれが西の洞窟か?」
「そうだ。一度だけしか余も訪れたことはないが、覚えておる」
「だけど、山賊の姿が見えないねぇ、見張りぐらいはいても可笑しくないのに」
この状態を幸運だと捉えるか、疑うべきか悩むところだ。
考えすぎかもしれないが、罠の可能性も十分に考えられる。
「ねぇ、デーヴィッドは探索魔法とか使えないの?」
「探索魔法?それはなんだ?」
初めて聞くワードに俺は首を傾げる。
「探索魔法を知らないの?実際に中に入らなくても、内部の状況がわかる魔法よ」
そんな便利な魔法がこの世にあったとは知らなかった。
まだまだ世界は広いということを痛感させられる。
「それじゃあ、教えてくれ。どの精霊を使ってどのように指示を出せば内部を知ることができる?俺と契約している精霊が可能であればぜひ挑戦したい!」
「あ、ああ、それね。えーと?」
俺の問いに、エミは困ったかのような表情をした。
どうしてそんな顔をする?
知識として知っているのであれば、どの精霊が必要なのかくらい言えるはずだ。
「ご、ごめん。よく考えたら世界観が違うから、探索魔法が存在しないかもしれないわね」
よくわからないことを言って、エミは誤魔化している。
「まったく」
後先考えずに発言するから、墓穴を掘るのだ。
机上の空論でどうにかなるほど、魔学の世界は甘くない。
どうやって侵入するかを考えていると、突然脳裏に知識の本に書かれていた内容が浮かんできた。
「いや、探索魔法はできる。俺にいいアイデアが思い浮かんだ」
「マジ!探索魔法のやり方が分かったの!天才か!」
エミが興奮したのか語気が強くなっている。
「流石デーヴィッドね。それじゃあ早くその探索魔法とやらで、内部を調べてよ」
「いや、実行するのは残念ながら俺ではなく、カレンだ」
「わ、私なの!」
予想外だったようで、カレンは驚きの声を上げる。
「そうだ。俺には音の精霊、ハルモニウムと契約していない。探索魔法にはハルモニウムが必要だ。これはカレンにしかできない。頼めるか」
「わかったわ。やってみる。ハルモニウムにどう指示を出せばいいの?」
「そうだな」
俺はカレンに説明し、彼女に実行してもらう。
「呪いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。エコーロケーション」
両手を洞口の入り口に向け、カレンは魔法を発動させる。
「何かわかった?」
「エミ、話しかけないでよ。気が散るでしょう」
おそらく、この世界で探査魔法を使ったのはカレンが初めてだろう。
俺も理論を説明しただけで、成功するかは賭けだ。
「分かったわ。内部に入って十メートル進んだところに二人、更に奥に進んだ小部屋に三人」
「おーやったじゃないか」
ライリーが歓喜の声を上げる。
「待って。この感じ、更に奥に進んだ大広間に、人とは違うものを感じる。もしかしてレイラの配下の魔物かもしれない」
魔物と山賊が洞窟の中で共同生活を送っているのか?
にわかには信じられないが、可能性のひとつとしては考えられる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
探査魔法が終わったのだろう。
カレンは地面に座り込むと、荒い息を吐き出した。
思っていた以上に体力、精神力を消費させてしまうらしい。
「アリス、アイテムボックスから水を取ってカレンに渡してくれ」
「はいなのです」
地面に置いているバスケット型のアイテムボックスから、アリスは水の入った容器を取り出すとカレンに手渡す。
「カレンお姉ちゃんどうぞ」
「あ、ありがとう」
渡された容器の蓋を開け、カレンは水を飲み始める。
「これで敵の人数が分かったな。盗賊が五人、そしてレイラの配下の魔物が一人」
「それにしても、デーヴィッドの指示が的確なのか、カレンが凄いのかわからないけど一発で成功するとは思わなかったわね」
エミが称賛の声を上げる。
「俺はただ、コウモリの特性からヒントを得ただけだ。実行して成功に導いてくれたカレンのお陰さ。これは全て、彼女の功績だ」
ハルモニウムの力で超音波を発生させると、前方に向かって飛んでいく。
前方がただの虚空なら、音はそのまま消えていくが、何かに触れると音波が跳ね返ってくる。
これで相手の位置を割り出すことが可能だ。
だが、これが非常に難しい。
跳ね返った音を正確に捉えないといけないので、音の角度を正確に測定しなければ、相手のいる方向がわからなくなる。
さらに、音を発進してから反射するまでの時間を測定しないと、相手までの距離がわからないのだ。
しかし、これさえクリアすれば大きな情報量になる。
反射の強さから、相手の大きさも判断できる。
更に音波の発生源と、観測者との相対的な速度の存在によって、音と動く物体の波の周波数が異なって観測できることで、相手が遠ざかっているか、近づいているかも知ることが可能だ。
「カレン、体調はどうだ?」
休憩しているカレンに、動くことができるか聞いてみる。
「ご、ごめん。思ったよりも……回復が……追いついていない」
息切れを起こしている。
俺の思っている以上に、カレンのダメージは大きいようだ。
だけど、このまま彼女の回復を待っている暇はない。
時間が経てば、洞窟内の盗賊たちは移動をするだろう。
そうなってしまえば、カレンの頑張りを無下にすることになる。
俺は彼女の前に立ち、腰を下ろした。
「ほら、俺の背中に乗ってくれ。おぶったまま中に入るから」
「え、でも」
「カレンには負担をかけてしまったからな。せめてこれぐらいはしないと」
自分に負い目を感じ、その償いをするためにもこれぐらいはさせてほしいとお願いするが、カレンは一向に乗ろうとはしない。
「カレンお姉ちゃんが乗らないのなら、アリスがおんぶしてもらうのです」
どうやらアリスが乗ろうとしているようで、俺に少しの重みがかかる。
「わ、わかったわよ。乗ればいいんでしょう」
「少しは素直になったほうがいいですよ。カレンお姉ちゃん」
一歩踏み込むことができないカレンを、アリスが背中を押してくれたようだ。
さっきとは違う重みが背中にかかる。
「言っておくけど、女の子をおんぶするのだから、重いなんて口に出さないでよ。本当に思っても心の中に留めといて」
「はい、はい」
そっと立ち上がり、俺は振り向くと仲間に伝える。
「それじゃあ行こうか」
一番前に俺とカレン、それにレイラ。
真ん中にエミとアリス。
後方から襲撃に遭ったことも考えて、殿にライリーの配置で洞窟の中に入った。
今日も最後まで読んで頂きありがとうございます!
誤字脱字報告をしてくださった方ありがとうございました!
お陰で助かりました。
また明日投稿予定ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。




