第五章 第四話 新たな魔王
今回は短めの話しになっております。
「ええい、さっきから顔芸や変な踊りばかりしやがって! いったい何が言いたい」
薄暗い部屋の中で、男は目の前の光景を見て苛立ちを覚えていた。
彼の頭には二本の鋭い角があり、尾骶骨の部分からは細長い尾が生えている。
見るからに人ではない男は、尾を鞭のようにしならせ、床を叩くと部屋中に衝撃音を奏でた。
「イライラさせる。人の形をしているのだから人語を話せ!」
男の前には二体のゾンビがいるが、先ほどから奇妙な行動をとっている。
ゾンビは自分たちの身に起きたことを、身体で表現して男に伝えようとしているが、彼には何ひとつ伝わっていない。
生きる屍であるゾンビは、人間の死骸に仮初の命を吹き込んだに過ぎない生物。
脳の機能が死んでいるために、言葉を話すことができない。
仮に声が出たとしても、はっきりと発音ができないので、どうしても呻き声のような言葉になってしまうのだ。
「まったく何を伝えたいのか理解できない。こうなるのであれば、ゾンビを斥候に使わなければよかった」
ゾンビを採用したのも、体内から吐き出す消化液が強力であるからだ。
液体をもろに浴びれば死。
死に至らなかったとしても、液体に触れた部分は再起不能となる。
盟約を結んだ魔王の配下に出くわしたとしても、倒して証拠も消せるという考えにいたったからだ。
イライラによるストレスによるものなのだろうか。
男は頭が痛いのか、額を抑える。
彼の姿を見て、どうにかして理解してもらおうとしているのだろう。
ゾンビはもう一度トライするが、それが火に油を注ぐ原因となったようだ。
男が右手を横に振った瞬間、二体のゾンビの首が吹っ飛び、床に転がる。
「お前たちのような使い物にならない配下(道具)はいらない。すぐに別の魔物を斥候に向かわせる」
そう言い捨てると、男は転がっているゾンビの頭を踏み付ける。
頭蓋骨は粉砕し、顔の形状がわからないほどに肉片が飛び散った。
「シュテン、シュテンはいるか」
「ここにいるぜ」
男の声に反応して一人の大男が姿を見せる。
酌をしている最中だったのか。右手には瓢箪、左手では酒杯を持っている。
「今から配下の小鬼を使い、レイラの治める大陸に斥候を放て」
「ゾンビはどうなった? あいつらを使ったんじゃないのか?」
「あいつらは使い物にはならなかった。人語が話せる分、小鬼のほうが使い捨ての駒になり得る」
「おい、今のセリフは聞き捨てならないな。俺の仲間が切り捨ての駒だと」
尾の生えている男の言葉に、シュテンと呼ばれた大男は異論を唱える。
「そうだ。あやつらは、残留思念を寄せ集めて魔物の形を保っているに過ぎない。吹けば簡単に飛んでしまう存在だ。使い捨ての駒というのは適している表現だと思うが」
「ふざけるな! あんな存在でも俺にとっては大事な仲間だ! いくら生みの親であろうとも許せないことはある!」
シュテンは睨みつけ、強く拳を握りしめる。
「お、やるか? 力比べをしたいなら受けて立とう。しかし、お前が負けたときはその首を晒しものにしてくれる。俺に反抗したものの結末がどうなるのか知らせるためにな」
「鬼の俺が言えたことじゃないが外道が……了解した。俺の部下に斥候を放つように言っておく」
力量の差を知っているのだろうか?
シュテンは唾を吐き捨てると部屋から出て行く。
「これだからシュテンの扱いは困る。己が楽しいと思うままに破壊し、酒を飲み、人々に恐怖を与える。鬼という種族がこれほど気ままだとは思わなかった。やつらの伝説が残る平安武者の頼光殿や、その四天王たちの苦労が少しは分かったような気がするよ」
自分意外、誰もいない空間に向けて言葉を洩らすと、男は部屋から出て行く。
「さぁ、賽は投げられた。レイラ、君はどう判断し、どう行動にでる? どっちにしろ、君が俺にあのような仕打ちをした限り、俺の取る行動は決まっていた。今更謝っても許しはしないよ。俺のプライドを粉々にした責任は取ってもらうからな」
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字や文章的に可笑しな部分がありましたら教えていただけると助かります。
今回で第五章は終わりです。
明日は第五章のあらすじを書く予定です。




