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第五章 第二話 オルレアンの森

 今回のワード解説


クラスター……数えられる程度の複数の原子・分子が集まってできる集合体。個数一〇~一〇〇のものはマイクロクラスターと呼ばれ,特殊な原子のふるまいが見られる。

 城から離れることになったことを伝えるべく、俺は玉座の間から出る。


 ライリーとカレンの部屋に向かおうとしたとき、隣を歩いていたジルの様子が変なことに気づく。


「ジル、何か様子が変な気がするけど、何か心当りがあるんじゃないか?」


「いえいえ、そんなわけがあるはずがないじゃないですか。デーヴィッド殿が分からないことが、私に分かるわけがない。きっと気のせいですよ」


 問いかけると、ジルは慌てて首を横に振り、謙遜する態度を見せる。


 しかし、彼の表情には陰りが見え、何かを隠しているように感じた。


「そうか。ならいいけど」


 これ以上は何を言っても答えてはくれないだろう。


 そう思った俺は、これ以上追求するのを止めた。


「カレン起きているか?」


 カレンが使用している部屋の前に来ると、扉を叩いて起床しているかを確認をする。


「どうしたの?」


 扉越しに声をかけると、俺の声に反応した金髪ミディアムヘアーで低身長の女の子が、扉をあけて顔を出す。


「レイラの配下である魔物が何者かに殺された。この真相を探るべく、俺はレイラと共に現場に向かうことになった。カレン一緒に来てほしい。すぐに準備に取りかかってくれないか?」


「そうなんだ。でも別に私には関係ないじゃない。レイラの魔物には恩義はない。寧ろデーヴィッドを故郷から追い出す現況になった。そんなやつらに手を貸す義理はないわ」


 カレンが俺について来るようになったのも、レイラが配下の魔物を使い、俺の故郷を襲ったからだ。


 そのせいで俺は村を追放され、一人旅を心配してくれた彼女がついて来ることになった。


 兄妹の仲を引き裂こうとした魔物に、あまりいい感情は抱いてはいないのだろう。


「でも、一宿一飯の恩義っていう言葉もあるわ。泊まる場所を提供してもらっているのだし、それぐらいは協力してあげる」


「ありがとう。中庭で集合になっている。準備ができ次第来てくれ」


「分かったわ」


 カレンに協力してもらい、俺は次にライリーの部屋に向かう。


「ライリー、起きているか?」


 ノックをしてから扉越しに声をかける。


 しかし、彼女からの返事はなかった。


 まだ寝ているのか?


「ライリー、寝ていたら返事をしてくれ」


 意味不明なことを口走りつつも、彼女からの返事はない。


 どうしたものかと考えながら、ドアノブに手をかけて回してみる。


 鍵はかかっていなかったようで、軽く押すと扉は開く。


 隙間からそっと中の様子を窺った。


 部屋の中はあまり物が置かれてはおらず、ベッドと箪笥が置かれているぐらいのシンプルな内装になっている。


 ベッドの上にライリーが横たわっている姿が見えた。


 どうやらまだ寝ているようだ。


 部屋の中に入り、睡眠中のライリーを覗く。


 寝相が悪いからか、彼女はかけ布団を蹴り飛ばしており、寝巻がはだけて褐色の肌を露出させていた。


「おーい、ライリー起きろ。話がある」


 声をかけてみるも、彼女は起きる気配を見せない。


 どうしたものか。


 声をかけて起きてくれるのが一番だったが、それがむりであるなら身体を揺すって起こすしかない。


 だけどそれには、彼女の身体に触れなければならないのだ。


 姉のような存在ではあるが、血の繋がらない異性。


 そう簡単に振れるわけにはいかないのではないかと考えてしまう。


 どうやって起こすべきかを考えていると、いいアイディアが思い浮かんだ。


 この方法であれば、ライリーの身体に触れることなく目を覚まさせることができる。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイス」


 空気中の酸素と水素が磁石のように引き合い、電気的な力によって水素結合を起こす。


 これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の塊が出現。


 水に限定して気温が下がり、水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなると、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷に変化した。


 空気中から氷を生み出すと、そっとライリーのお腹の上に置く。


「冷たい!」


 氷が彼女の体温を奪い、異変が起きたことを脳が知らせたようだ。


 一発で彼女は目を覚まし、驚いた表情で辺りを見渡す。


「おはよう。ようやく起きたな」


「こいつはデーヴィッドの仕業かい? 夜這いに来るならもっとロマンチックな起こしかたをしてくれないか」


「アホなことを言うな。もう朝だぞ。それよりレイラの配下である魔物が死体で発見された。その原因を調べるために、俺はレイラたちと一緒に現場に向かう。別にライリーはむりしてついて来なくていいから」


 城から離れることを伝え、俺は部屋から出て行く。


「ちょっと待った。デーヴィッドが城から出るならあたいもついて行くよ。すぐに準備をするから待っていてくれ」


「分かった。中庭で待っているから準備ができたら来てくれ」


 ライリーに背を向けたまま、俺はニヤリと口角を上げる。


 カレンと違った方法をとったのも、こっちのほうがついて来てくれる可能性が高かったからだ。


 彼女は除け者にされるのが嫌なのか、なぜかやけに俺についてきたがる。


 突き放すような言い方をすれば、高確率で一緒に来てくれると思った。


 中庭に向かうと、レイラ、ジル、ランスロット、カレンの姿が見え、ライリーを待つだけの状態だ。


「どうだ? ライリーは来てくれるのか?」


 レイラが心配そうな表情で尋ねてきた。


「大丈夫。今準備しているところだから、しばらくすれば来ると思う」


 五分ほど時間が経過したとき、城の扉が開かれてライリーが姿を見せた。


「待たせてすまない」


「そんなに待ってはおらぬ。ランスロット卿、やつを呼んでくれ」


「了解しました」


 レイラから指示を受け、ランスロットが口笛を吹く。


 甲高い音が周囲に響き、そのあと木霊となって何度も繰り返される。


 すると北の方角から、空を飛翔する一体の生き物が視界に入った。


 接近する飛行物体は距離が近くなるたびに、輪郭がはっきりとして認識できるようになる。


 頭部は竜、翼はコウモリの羽、一対のワシの脚、ヘビの尾の先端部分は矢尻のような棘を備えている。


「あれはワイバーンか」


「そうだ。余以外は浮遊術を使えないのでな。ランスロット卿に呼んでもらったのだ」


 確かに俺たち人間は、空中浮遊をする術を持ってはいない。


 徒歩で目的地に向かうと数日はかかってしまう。


 それよりも空中で移動して障害物を避けたほうが、時間的にも節約になるのは明白だ。


 ワイバーンはキャメロット城に到達すると、ゆっくり旋回しながら高度を下げ、中庭に降り立つ。


「さぁ、乗るのだ」


 翼竜の背に騎乗するようにレイラは指示を出すが、ジル以外は誰も乗ろうという意思を示さない。


「本当に大丈夫なの?飛翔したら地上から遠くなるのよ。万が一落ちたら死んでしまうわよ」


 俺の心を代弁するかのように、カレンが異見を口にする。


 空路からであれば、確かにかかる時間を減らせる。


 だけどそれには危険が伴う。


 カムラン平原での戦いで俺は空中に飛び、そのまま落下してしまった。


 あのときはカレンが機転を利かせてくれたお陰で、命を拾うことができた。


 だが、もしあれがなければ今ごろ、俺はあの世に行っていただろう。


 落下したときの恐怖から、頭の中が真っ白になった俺からすれば、一度落ちてしまえば仲間が助けてくれない限り、自分ではどうすうこともできない。


「安心するのだ。安全運転をさせるし、万が一のことが起きたとしても余が助けてやる。泥船に乗ったつもりでいろ」


「そんなので安心できるか!」


 すかさずツッコミを入れる。


「大丈夫ですよ。あんまり端っこのほうに行かなければ落ちませんので」


 ジルもフォローに回るが、どうしても一歩の勇気が踏み出せないでいる自分に気づく。


「煮え切らないやつだ。それでも男か。もういいこうなれば実力行使だ」


 業を煮やしたランスロットが、片手で俺の襟首を掴む。


 そしてそのまま持ち上げ、ワイバーンの背に向けて放り投げた。


 浮遊感を覚えた俺は、あのときの光景がフラッシュバックされ、身体が硬直してしまった。


「デーヴィッド殿大丈夫ですか? ランスロット卿、乱暴はいけませんよ」


「ワイバーンに騎乗することもできない軟弱さがいけないのだ。一度乗ってしまえば、恐怖など感じることなどない」


 ジルとランスロットの声が聞こえる中、身体の硬直が解ける。


 手や額から、冷や汗が出ていることに気づいた。


 俺、もしかして高所恐怖症になっていないか。


 とにかく、こんなみっともない姿をカレンたちに見せるわけにはいかない。


「乗ってみると意外に怖くはないぞ。二人も早く乗ってくれ」


 精一杯に虚勢をはり、強がって見せる。


 声が恐怖で上擦っていないか心配であったが、どうやら二人は気づいていないようだ。


 カレンとライリーはお互いに顔を見合わせ、溜息を吐く。


 そして騎乗する決心をつけたようで、順番に乗り始めた。


 先頭にレイラ、その後ろに俺、続いてカレンにライリー、最後尾にジルの順でワイバーンに騎乗する。


「よし、これで全員乗ったな。手間を取らせやがって。レイラ様ご武運を」


「うむ、ランスロット卿も城の警備を頼んだ」


「御意」


 ランスロットが胸に腕を当てると、そのまま指をパチンと鳴らす。


 それが合図だったのだろう。


 飛竜はゆっくりと羽ばたきながら旋回し、徐々に高度を上げていく。


 地上との距離が離れていくにつれ、恐怖心が膨らんでいった。


「デーヴィッド、もし心配なら余の身体に捕まるといい。バックハグというのか?あんな感じでやってもらえたら、なお嬉しいが」


「そんなこと恥ずかしくってできるか!」


 つい反論してしまったが、正直ありがたい提案だった。


 だけど、彼女に触れるようなことをすれば、俺が怖がっていることに気づいてしまう可能性がある。


 それだけは避けたかった。


「そうか。正直どんな感じなのか興味があったゆえ、やってもらいたかったのだが残念だ」


「レイラ様、ならこのジルがいたしましょう」


「余に指一般でも触れてみろ。眼球を抉り出して動物の餌にしてやる」


「冗談で言ったのに本気にされてしまうとは……ショックを感じづにはいられないです」


 そんなやり取りが聞こえる中、俺はひたすら空を見続けることにした。


 俺が座っているのはワイバーンの背ではなく地面、ただ少し高いところにいるから空が近いように感じているだけだと自身に言い聞かせる。


 キャメロット城を発って、どのくらい時間が過ぎたのか分からないが、目的地である森が見えてきた。


「ワイバーンは森の中まで飛行することができないゆえ、手前の平原に着陸をする」


「分かった」


 森の入り口に近い場所でワイバーンは速度を落としながらゆっくり旋回し、地上に降り立つと振動で砂埃が舞い上がった。


「ゴホッゴホッ砂埃が器官に入ってしまった」


「もう、こうなるのなら事前に教えてよ」


「すまない。だが悪気はなかったゆえ、許してほしい」


 カレンが文句を言い、レイラは謝る。


 とにかく一刻も早く地に足をつけたい。


 一番に翼竜の背から飛び降り、地面に足をつける。


 その瞬間、まるで感覚が可笑しくなったのかと思うほどの違和感を覚えた。


 まだワイバーンの背に乗っているかのような感覚なのだ。


 いったい俺の身体に何が起きている? 何者かに攻撃でもされたのか?


 周囲を窺っても、殺気や敵意を感じさせる生き物は見当たらない。


「カレン、すまないがアイテムボックスから俺の本を取ってくれないか」


 俺に続いて降りてきたカレンに知識の本(ノウレッジブックス)を取ってもらうようにお願いする。


 義妹はバスケットの中に手を入れ、茶色の本を取り出すと俺に渡す。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 カレンに礼を言い、自分の身に起きているものが気になった俺は、本を開いてページを捲る。


 そして近しいものを探しだす。


「あった。おそらくこれだろう」


 本に書かれてある内容とほぼ一致するものを見つけた。


『陸酔い』


 揺れる環境に身体が慣れたあと、揺れない場所に戻った際に、うまく脳が再適応できなくなっている現象。


 人は内耳や目からの情報に加え、足腰などの筋肉や関節からの情報を元に、平衡感覚を認識する。


 それぞれの器官に問題がなくとも、そのバランスが崩れると、平衡感覚が乱れることがある。


 普通は二、三日で治るものだが、一ヶ月以上続き、内耳や脳の病気がない場合は下船病と考えられる。


「なるほど、陸酔いか」


 知識の本(ノウレッジブックス)を閉じ、カレンに渡す。


「皆は降りてからも揺れを感じないか?」


「余は平気だが」


「私も問題ありません」


「あたいは頭痛と肩こりを感じる」


「私は軽い吐き気を感じるぐらいね。まぁ、ワイバーンに乗って空の旅だなんて初めてだから、何が起きても不思議ではないでしょう」


 俺の問いにそれぞれが答えてくれた。


 レイラとジルは魔物だから平衡感覚が狂うことがないのだろう。


 だけどライリーとカレンが言った症状は、陸酔いで起きる体調の変化だ。


 二、三日で治るとしても、これから森の中に入る。


 おそらく魔物が俺たちを襲ってくることはないと思うが、森には自然界に住む動物や猛獣がいるだろう。


 獣に襲われそうになったときは、不本意であっても戦闘に入ることになる。


 そのときは戦わないといけないが、魔法を発動する際は精神面も影響がでる。


 最悪の場合は失敗することになるだろう。


 それだけは避けたい。


「ライリー、俺たち三人は長時間揺れる環境にいた影響で、陸酔いと呼ばれる現象に陥っている。これは数日で治るが、なるべく早く元に戻りたい。精霊の力で治療することができないか?」


「具体的にはどうすればいいんだい?」


「平衡感覚が麻痺している状態だ。耳から入ってくる音の情報や、地に足をつけている感触から伝わる情報により脳神経で統合、処理している。だけどこれに異常が起きると、今の俺たちのようになる。精霊の力で修復を頼む」


「了解した。やってみようじゃないか」


 ライリーは両の瞼を閉じると、深呼吸をしているようで両の胸が膨らむ。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。リフレッシュ」


 ライリーが契約している精霊に向けて言霊を用いて指示を出す。


 彼女の言葉に精霊が反応し、指示に従ったのだろう。


 脳神経に起きた異常が収まったようで、俺の中に感じた違和感はなくなり、立っていても揺れを感じることはなかった。


「ありがとう。お陰で気分が良くなった」


「そうかい。それは良かった。カレンの身体にも働きかけてみたがどうだい?」


「私も大丈夫よ。不思議なぐらいに気分がよくなっているわ」


 どうやら彼女の魔法は成功したようだ。


「よく分からぬが、万全の状態になったようだな。ならば、直ぐに森の中を探索するとしよう」


 レイラが先に進むように進言するが、この森は思ったよりも大きい。


 死骸を探そうにも、時間がかかってしまいそうだ。


「ジル、水晶に映し出された場所は分かるのか?」


「確実性はないのですが、あの映像には大きな岩が映っていました。なので、大きな岩を目印にすれば、見つかるのではないかと思っています」


 尋ねてみると、申し訳なさそうにジルが俯き、弁明した。


 いくら水晶に映し出したとしても、万能ではないようだ。


 正確な場所が分からない以上は、闇雲に探すしかない。


「とにかく道なりに進んでみるとしよう。発見することができないでも、何かヒントを得られるかもしれない」


 そう言うと、レイラは先に歩き出す。


 俺たちも彼女に続いて森の中に足を踏み入れた。


 大きく成長した大木が太陽光を遮り、ほとんど光は通らずにいる。


 そして、森全体から発生しているのか、わずかに異臭が感じられた。


 昼間であるから薄暗いで済むが、夜にこの森を歩いたとすれば暗闇に包まれ、方向感覚が狂いそうだ。


 日没になる前に、目的のものを発見することができればよいのだが。


 歩き続けていると、どこから視線のようなものを感じた。


 様子を窺っているのか、敵意のようなものは感じない。


「なぁ、レイラ」


 俺は小声でレイラに声をかける。


「聞かずとも分かっておる。何者なのかは分からないが襲ってこない以上、無視するべきである」


 俺の声かけに、彼女も声音を小さくして応えてくれた。


 確かに今は敵意を感じない。


 襲って来ないところみる限りでは、無害と言えるだろう。


 森に住む草食動物ならよいのだが、肉食動物であるのなら油断はできない。


 突き刺さるような視線が気になるが、俺たちはひたすら歩き続ける。


 体感で一時間は歩いただろうか。


 歩行している間、視線を送り続けられていた。


 この時点で動物や猛獣ではないことがわかる。


 だとすると、考えられるとしたら俺たちと同じ人間のはず。


 山賊の類だろうか?


 いや、それなら何かしろの敵意や殺気を感じるはずだ。


 正体不明の視線に気分が悪くなるが、とにかく足を止めることができない。


 山道をずっと歩いているのに、誰も休憩を取ろうと言い出さなかった。


 全員が突き刺さる視線に緊張感を覚え、弱音を吐くことができないでいるのだろう。


 視線の先に大きい白い岩が、道を塞ぐように落ちているのが見えた。


「もしかしてあれじゃないか?」


「そうかもしれぬ。ジル、どうだ?」


「おそらくあれで間違いないしょう。水晶で見たのと酷似しています」


 さらに近づくと異臭が強くなっていく。


 岩の横を蟹歩きの要領で通り抜けると、視界に入った光景に俺は息を飲む。


「カレンは見ないほうがいい」


「なによ。なにかあったの?気になるじゃない」


「魔物の死体だ。それ以上のことは言えない」


 水晶を通して見た光景と、実際に見るのではグロさに違いがありすぎた。


 下半身は溶けて骨だけが残り、上半身のほうは死肉に虫が群がっている。


 こんな光景をカレンに見せてしまっては、気分が悪くなって嘔吐をしてしまう可能性が充分にある。


 実際、俺自身も吐き気が半端なく、必死に我慢しなければならない状態だ。


「ライリー、カレンがこっちに来ないように押さえつけてくれ。ジル、これをみてお前はどう判断する?」


 ライリーにカレンを近づけさせないようにお願いし、ジルには見てもらって彼なりの分析を傾聴することにする。


「肉が残っている部分と骨が剥き出しになっている境目は、焼けただれているかのように溶けていますが、炎系による魔法ではないでしょう。それなら全体的に火傷のあとがないといけない。しかも、この死体には下半身は骨になっている。虫やカラス、動物が食べたにしては、綺麗に食べられているところに違和感を覚えます」


 ジルの話を聞いて、俺と同じ考えに至ったことを知る。


 そう、そこが気になっていた。


 上半身に残っている死肉を虫が喰らっているが、食べ方にムラがある。


 それに比べ、下半身は骨までしゃぶっているかのように、綺麗に肉が残っていないのだ。


 いったいどうやったらこんな状態になる。


「デーヴィッド、気をつけるがよい。視線を送っていたやつの気分が変わったようである」


 残された不思議について思考を巡らせていると、レイラが注意を促す。


 周囲から殺気を送られ、殺しにかかろうとしているのが容易にわかる。


「全員戦闘態勢を取ってくれ。いつ襲ってくるかわからない」


 仲間に指示を出し、俺も態勢を変える。


 奥の茂みが風もないのに揺れ、それが手前に移動していく。


 それと同時に、鼻を摘まみたくなるほどにまで異臭が増大した。


「来るぞ!」


 レイラが言葉を発した直後、茂みから敵意を放っている何者かが五体飛び出した。

 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな部分がありましたら、教えていただけたら助かります。


 また明日投稿予定ですので楽しみにして頂けたら嬉しいです。

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