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第五章 第一話 発見された死体

今回のワード解説


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

「うーん、朝か?」


 朝の陽射しが降り注ぎ、俺は目を覚ました。


 眠気眼のまま上体を起こし、瞼を擦る。


 若干視界がぼやける中、ベッドから出ようと敷布団に手を置いたつもりでいると、何ともいえない柔らかい感触が掌に伝わった。


 こんなに柔らかく、弾力があって気持いいものをベッドに置いていただろうか?


 手に感じるものの正体を知るべく、視線を右手に向けた。


 その瞬間、一気に眠気が吹っ飛び、すぐさま覚醒することになる。


 隣には赤髪のクラシカルストレートの髪形をした女の子が寝ており、淡い赤色のネグリジェの上から、彼女の豊な胸を掴んでいたのだ。


 な、な、何でレイラが俺の部屋に? 扉には鍵がかかっていたはず!


 驚きと困惑、それに寝起きで回らない頭で必死に状況を整理する。


 今、俺はレイラの胸を鷲掴みしている状況だ。


 こんな状況をカレンにでも見つかってしまっては、説教では済まされない。


 起こさないようにゆっくりと手を離し、俺は胸を撫で下ろす。


「何でレイラが俺の部屋にいて隣で寝ていた?」


 扉のほうに視線を向けるとドアは閉まっている。


 念のためにベッドから降りて扉に近づく。


 ドアノブに顔を近づけて確認するが、壊された形跡はなかった。


 となると、答えはひとつ。


 合鍵を使われたのだ。


 俺が使っているこの部屋は街の宿屋でも、私産で購入した一軒家でもない。


 レイラの住む魔王城、キャメロット。


 その城内の部屋を使わせてもらっている。


 城の所有者である以上、合鍵のひとつやふたつ所持していても可笑しくはない。


「まったく。いくら好意があるからといって、夜中に部屋に忍び込むなよ。俺の精神が持たないって」


 レイラは俺に好意を持ってくれている。


 それはありがたいことだ。


 だけどいくら好きな相手でも、部屋に忍び込んで夜這いまがいなことはしないでほしい。


 俺を困らせる魔王をどうするかを考えながらベッドに向かい、レイラの様子を窺う。


 ちょうど彼女が目を覚ましたようで、瞼が開く。


 上体を起こすと両の腕を天井に向け、レイラは伸びを始めた。


「はーあ……うん?」


 目が覚めたばかりのレイラと視線が合う。


「おはようデーヴィッド、今日も気持ちのいい朝だな」


「おはようじゃない。どうして俺のベッドに寝ている」


「それは当然、デーヴィッドを惚れさせるために決まっているだろう」


 その言葉を聞き、俺はこの前のできごとを思い出す。


 この城でレイラと戦って勝利した際に、俺は彼女に『魅了なしでアプローチをかけてくれ。そのときは今度こそ、ちゃんとしたその思いを受け止めて答えてやるから』と言った。


 あんな言葉を口走ってしまったお陰で、レイラは俺に様々なアプローチをしてくるようになった。


 ひとつのベッドを二人で共有しようとしたのも、彼女なりに考えた結果なのだろう。


「そんなことはいいから早く服を着てくれ。どうしてそんなラフすぎるかっこうなんだ」


 直視するのが恥ずかしくなり、俺は首を横に振ってなるべく視界に入らないようにした。


「それはライリーが、男の性欲を刺激するようなかっこうで迫れば、理性が吹っ飛んで余を愛してくれるのではないかと教えてくれたのだ」


「ライリーのやつ、レイラに変なことを吹き込みやがって」


 左手を自身の額に当て、俺は前髪を作らない長い黒髪に褐色の肌の女性を頭に思い浮かべる。


 そして溜息を吐いた。


「それなのに、デーヴィッドを起こそうとしても寝息を立てたまま起きる気配を見せないし、身体を揺すっても目を開けない。余は悲しくなって隣で不貞寝してしまったぞ」


 再びレイラがレイラが続きを語ったので顔を上げる。


 彼女は綺麗な肌の頬を膨らませ、青い瞳で俺を見ていた。


「デーヴィッド殿、こちらにレイラ様はおりませんか?」


 扉が二度ノックされ、廊下側から声が聞こえる。


 この声はジル軍師だ。


「まずい、早くそのかっこうをどうにかしてくれ」


 ネグリジェ姿のレイラと一緒にいる構図を彼に見られては、誤解されて話しが飛躍してしまうおそれがある。


 小声でレイラにお願いをしたその瞬間、扉が開かれた。


「デーヴィッド殿、入りますよ」


 ローブを身に纏い、痩せ細った顔の男が部屋の中に入って来る。


「扉を開ける前にそのセリフを言え!」


 焦りと若干の恐怖心から、素早くツッコミを入れる。


「おっと、すみません。なにせ緊急のできごとにゆえ、私も冷静ではいられなかったのです」


「何かあったのか?」


 隣にいたレイラがジルに尋ねる。


 いつの間にか、彼女は胸元の見える漆黒のドレスを身に着けていた。


「はい。詳しくは玉座の間でお話をいたします」


「了解した。すぐに向かう」


「デーヴィッド殿もご一緒にお願いいたします」


「分かった」


 寝巻のままだったが、着替える余裕がないらしい。


 二人に続いて俺も部屋から出ると、玉座の間に向かう。


「おはようございます魔王様」


「うむ」


 玉座の間には、全身白銀の鎧に身を包んだランスロットの姿があった。


 部屋に入った瞬間、この前の戦闘の痕跡が消えていることに気づく。


 初めて魔王城を訪れたとき、俺は仲間と協力してこの玉座の間でレイラと戦った。


 その際、契約している精霊の力を借り、床の大理石を砂に変えたのだ。


 だけど、今は何もなかったかのように元に戻っている。


「では話を聞こうか。早朝から何があったと言うのだ」


 玉座に座ったレイラがジルに尋ねる。


「はい。まずはこちらをご覧ください」


 ジルは懐から水晶を取り出し、空中に放り投げる。


 ガラス玉は全員の場所から見やすい位置に留まると、光を放つ。


 しばらくすると、球体の中にどこかの映像が映し出された。


「これは惨い。いったいどこで起きたのだ! 言え、ジル軍師!」


 映し出された映像に、レイラは感情を押し殺すことができなかったようで声を荒げる。


 水晶には魔物の死骸が映し出されていた。


 肉体は溶けているようで一部はジェル状になっている。


「はい。ここは霊長山から北上した位置にあるオルレアン地方の森です。魔王様の人間殺害禁止令が出されて以来、私は毎日この水晶を通して周辺を監視していました。昨日までは何も変化はありませんでしたが、今朝確認したところ、このような事態に陥っておりました」


「この者らは何者に殺されたと考える?」


 レイラの問いに、ジルは暗い顔をしていた。


「いえ……分かりません。考えられるとすれば、魔王様の命令に従順に従った彼らが、人間に殺されたのだと思いますが……人間がこのような魔法を使うとは聞いたことがありません」


「デーヴィッドはどうだ?一般的な人族より魔法に長けているだろう?」


 レイラから問いを投げられ、俺は思考を巡らす。


 無残な死に方をした魔物がどのような生き物なのかは、水晶を通しての映像では判別できない。


 だけど、彼らの身に起きた現象を客観的に見れば、溶けているところを見る限り、高熱により皮膚が爛れたのではないかと考えられる。


 しかし、周囲の映像を見る限り、それはないだろう。


 高熱により溶けたのであれば、周囲に焼き放われた痕跡が残るはずだ。


 だが、それらしきものはこの映像からは見られない。


 ならば、他の原因によるものだと言えるが、その正体は俺にも検討がつかなかった。


 様々な属性の精霊と契約し、合成魔法を生み出せることが可能な俺でも、相手を溶かすことができる魔法など考えられない。


 もし、これが魔法によるものであれば、是非どのような精霊の力を組み合わせたものなのか、ご教授願いたいものだ。


「俺もジルと同じだ。可能性としては上げられるが、根拠がない。そのような状況の中で、憶測だけで答えるのはまずいと思う」


「そうか、分かった」


 しばらく沈黙が続く。


 皆、次に出す言葉を考えているのだろうか?


「今のまま話し合いを続けても埒が明かない。なら現場に向かい、真相を確かめるのが一番であろう」


 誰も話さないでいると、レイラが口を開く。


 このまま何も分からない状況の中で話し合いをしても、解決の糸口は見つからない。


 なら、死体のある場所に向かうほうが、真相の手がかりを掴むことができるだろう。


「俺はレイラの意見に賛成だ」


「私も賛成です。ランスロット卿はどうです?」


「俺が魔王様の考えに異見すると思うか? 当然賛成に決まっているだろう」


「よし、とりあえずはこの場にいる者は全員一致でいいな。現場には余とデーヴィッド、それにジルとカレン、ライリーの五人で向かう。ランスロット卿には城の警備を頼みたい」


「御意」


 原因不明の魔物の死を究明すべく、俺たちはオルレアン地方にある森に向かうことにした。

 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所がありましたら教えていただけると助かります。


 また明日投稿予定ですので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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