第一章 第二話 魔学の授業と恋バナ
舗装された道を歩くことニ十分、外壁を白く染められた大きな建物が視界に入って来る。
「懐かしいな。約一年振りか。まさかまたこの学園に通うことになるとは思わなかった」
門を潜り、学園内に入ると建物の昇降口から学園長室に向かう。
一年前まで通っていた学園だけあって、迷うことなく学園長室を訪れることができた。
扉を叩くと「どうぞ」と声が聞こえ、扉を開けて入室する。
学生だったころは一度も入ったことはなかった部屋だが、中は綺麗に掃除が行き渡り、壁には歴代学園長の肖像画がかけられていた。
「待っていたよ。まさか臨時で頼んだ魔学者の先生たちの中から、君が来ることになるとは思っていなかったよ。正直不安はあるが、その分期待も大きい。魔学と精霊学の授業は頼んだよ」
俺の顔を見るなり、少しばかり棘のある発言をする学園長に若干イラつきを覚えた。
そんなこと、俺だって分かっている。
学園を卒業して一年しか経っていない魔学者の卵に過ぎないのに、契約している精霊の数とこの学園出身という理由だけで選ばれてしまったのだ。
人に教える前に、自分が身につけなければならないことは山ほどある。
正直に言えば、ほとんど年の変わらない学生に教えるよりも、魔学の発展のために研究していたほうがマシだ。
「まあ、どのような経緯で君が選ばれたのかは知らないが、頑張ってくれたまえ。だけど面倒ごとだけは起こさないでくれよ。君の机は職員室の窓側にある角に席を設けてあるのでそれを利用してくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
学園長に軽く会釈して踵を返すと、部屋を出て職員室に向かう。
職員室は学園長室の隣にあり、扉を開けて中に入った。
事前に学園長から連絡があったのだろう。
俺が入室しても驚くような職員はおらず、元担任の教師や授業を担当してもらった教師が話しかけてきた。
軽い世間話が終わり、室内にある壁時計で時間を確認すると、あと十分で授業が始まる時間帯になっている。
今日は一時限から魔学の授業が行われるクラスがあった。
だいたいの教師は始業のチャイムが鳴ってから訪れることが多いが、初日ぐらいは生徒よりも早く行ったほうがいいだろう。
職員室を出て階段を降り、昇降口で靴に履き替えてグラウンドに出る。
グラウンドにはまだ生徒の姿が見当たらない。
今のうちに初日の授業の内容を確認しておくべきだろう。
何を話すのか、どのような流れで進めていくのかを再確認していると、数人の女生徒がグラウンドに現れる。
最初に現れた生徒たちが俺の存在に気づき、こちらにやって来た。
そのグループの中にはカレンの姿もあった。
どうやら最初の授業は、彼女が割り振られたクラスのようだ。
まだ学生だったころ、カレンのいるクラスに行ったことがあるので何人かは顔見知りだ。
これなら変な緊張をすることなく、授業を進められるはず。
「ヤッホー、デーヴィッド先輩」
「本当にデーヴィッド先輩が教えてくれるのですね」
カレンを除いた女生徒が気軽に話しかけてきた。
彼女たちには見覚えがある。
カレンの友達で、一緒にいるところを何度も見たことがあった。
「久しぶり。だけど今の立場としては、俺は君たちに魔学と精霊学を教える先生だ。学園の外では構わないが、学園内にいるときは他の先生たちに接している感じでいてくれよ」
「はーい。分かりました」
視線をカレンに向ける。
彼女と目が合うと、何故か不機嫌そうな表情で視線を逸らされてしまった。
何か機嫌を悪くさせるようなことをしただろうか?
考えても思い当たる場面が見当たらない。
ならば俺以外のできごとで、彼女が不機嫌になるようなことが起きたのだろう。
それからしばらく待っていると、他の生徒も集まってきた。
授業開始のチャイムが鳴り出したころには、おそらく全員が集まっているはず。
開始のチャイムが鳴り、音が鳴り止むのを待ってから生徒たちを確認。
カレンのクラスは全員で二十三人。
目で見て心の中で数えると、二十三人全員がグラウンドに集まっていた。
「全員集まっているようだな。それでは授業を始めよう。何人かは俺のことを知っているかもしれないが、俺はこの学園の卒業生だ。まずは君たちとの信頼を築くために質問を受けつける。何か聞きたいことはあるか?何でも答えてやるぞ」
「はーい」
俺の問いにすぐ挙手をしたのは、カレンの友達だった。
「何が聞きたい?」
「デーヴィッド先生は好きだった人から振られたって本当ですか?」
予想外の質問に不意を衝かれながらも、俺はカレンに視線を向ける。
「カレンのやつ、まさか友達にまで言いふらすとは。だが、何でも答えると言った手前、答えない訳にはいかない」
右手で額を抑えながら生徒たちに聞こえないように小声で呟くと、俺は意を決する。
「そうだ。振られた」
「その人のどこが好きだったのですか?」
「どのようにして出会ったのですか?」
「何で振られたのですか?」
隠すことなくありのままの事実を告げると、女生徒は黄色い声を出して次々と質問をしてくる。
年ごろの女の子だけあって、恋バナに興味津々なのだろう。
できることなら思い出したくはないので、語りたくはない。
だが、話すことで少しでも教師として信頼してくれるのであれば、ここは恥を忍んで言うべきなのだろう。
「分かったから少し落ち着いてくれ。女子だけ盛り上がっているが、男子も俺の失敗を糧に参考にしてもいいだろう。聞いておいて損はないと思うぞ」
そう伝えると、俺は過去を思いだしながら語る。
「彼女と出会ったのは村興しのために開かれたパーティだった。見た目は特別に綺麗でも可愛くもなかったが、他の人からは感じられなかった魅力を、俺は本能的に感じ取った。男うけのいいナチュラルメイクで清楚さを感じさせる服装、特に歌声がすてきで、見た目からは想像できなかった力強い歌唱力に、俺は心を奪われた」
俺の恋バナに、女子生徒たちは興味津々のようで耳を傾けていたが、男子生徒はあまり興味がないのか、欠伸をしている姿が見られた。
だが、注意をすることなく話を続ける。
「俺はすぐに彼女の歌声を褒め、デートに誘った。褒められて気分がよかったのだろうな。俺の誘いにOKをくれた。一回目のデートは食事のみで、会話に集中するために個室の店を選んだ。もちろんスムーズに進めるために、前日にお店のリサーチと予約をしていた。主に俺が質問し、相手がそれに答えて俺は聞き役になった。もちろん、ただ聞くだけではなく、しっかり聞いていることをアピールするために、相槌やリアクションをして、ときには逆になって俺が話すなどをして会話を楽しんでいた」
俺の語る実体験を、頭の中で想像でもしたのだろう。
女子生徒はそれぞれ言葉を洩す。
「ちゃんと話を聞いてくれるってポイント高いよね」
「個室か。信頼できる相手ならいいけど、よくわからない人だったら怖くて私なら警戒するかな」
「予約してくれると助かるよね。私も友達と人気のお店に行ったときとかは、満員で一時間待ちになったもの」
女子生徒たちがそれぞれ盛り上がる中、俺は続きを語る。
「二時間が経過してお開きになったころ、俺はすぐに二回目のデートに誘った。彼女はそれもOKしてくれた。一回目のデートが行われても、二回目のデートが断られるケースが多い。それだけ俺との会話を楽しんでくれたのだろうな。俺は幸せな気持ちだった。だけど、二回目のデートに誘えたことで安心感を抱いてしまったのだろうな。今思えば、マイナスの評価をされる点がいくつもある。ここからは俺の失恋ルートまっしぐらの話だ」
失恋というワードが出た瞬間、先ほどまで興味がなさそうにしていた男子生徒たちも、こちらに視線を向けてきた。
他人の恋バナを聞かされ、うんざりしていたのだろうが、失恋には興味があるようだ。
きっと好きな相手には失敗したくないという想いでもあるのだろう。
「二回目のデート当日。一回目と同じように待ち合わせ時間よりも早く来た俺は、彼女が来るのを待っていた。時間の五分前に彼女が訪れたが、ここでマイナスの評価をされたかもしれない。彼女は前回とは違い、メイクに磨きがかかっていた。もちろんナチュラルメイクだったけど、前回よりも上手だった。そのことに気づいてはいたが、言うのが恥ずかしかった俺は彼女のメイクを褒めることはなかった」
「あちゃー、気づいていたのに褒めないのか」
「私だったら恥ずかしくても言ってほしいな。好意の相手から褒められたらうれしいもの」
俺の失敗談に女子生徒たちは、褒めなかったことに対して、それはいけなかったと言う。
「いや、普通は言えないだろう」
「変に褒めてナルシストと誤解されたくないし」
そして男子生徒からは、俺の行動を肯定的に捉える言葉が出る。
これも男女の価値観の違いからくるものなのだろう。
俺は続きを語った。
「二回目に誘った場所は、昼間は飲食店、夜は酒場となっている場所だ。薄暗い空間であるため、雰囲気作りには困らないところを選んだ。その店はステージが設けられており、歌自慢の人が時々歌声を披露している。彼女の歌声を早く聞きたかった俺は、会話を前回の半分の時間で切り上げてしまった。ここが俺の思い返せるマイナスポイントだと思う。きっとあの人は、会話の時間が半分だったことで、そんなに自分と話すのがつまらないのだろうかと思ってしまったのかもしれないな」
「確かにそれはマイナスの評価をせざるを得ないわね。二回目のデートをOKしてくれたということは、少なくともデーヴィッド先生のことをもっと知りたいと思っていたのだろうし」
「でも恋は盲目って言うじゃない。感情が強すぎて思考が追いつかないで、冷静な判断ができないっていうのも分からない訳ではないわ」
「それで、そのあとはどうなったのですか?」
女子生徒に促され、俺は優しい笑みを浮かべながらオチまで語る。
「その後、彼女の歌声を聞いて店を出た後に告白したら、『他に気になる人ができたから、会うのは控えましょう』と言われて俺は失恋を経験したという訳だ。だけど、あの人に出会えたからこそ、俺は色々と成長することができた。彼女は俺を成長させてくれるきっかけをくれた運命の人だった。昨日はそうとう落ち込んだが今では感謝しかない」
話が終わるとこの場に静寂が訪れる。
このまましんみりとした空気を作る訳にはいかないと思った俺は、両手を叩いて音を鳴らす。
「思った以上に長話をしてしまったから、今から授業に切り替えるぞ」
授業を開始するという言葉を聞き、特に女子生徒が嫌そうな表情を浮かべた。
「もっと恋バナしましょうよ。そうだ!どうやったらデーヴィッド先生に恋人ができるかの作戦会議をしない」
「賛成! 賛成! そうしよう!」
かってに盛り上がり、ひそひそ話を始める女子生徒たちに、俺は苦笑いを浮かべることしかできない。
「恋バナが好きなのは同じ女子だから分かるけど、今は授業中だからその話は休み時間にでもしましょう。これ以上はデーヴィッド……先生を困らせるだけよ」
「そうよ。別にデーヴィッド先生なら心配はないわ。万が一のことが起きない限りは、いずれは好意を抱いている人が現れるから」
どうするべきか悩んでいると、カレンが女子生徒たちに注意を促し、続いて彼女の友達が援護射撃の言葉を放つ。
二人の言葉に女子生徒たちは納得していなさそうな表情を浮かべてはいたが、これ以上はむだと観念したのだろう。
おしゃべりを止めてこちらに視線を向けてくれた。
「では、今度こそ授業を始める。復習がてらに基本の話をするが、俺たち人間は精霊の力を借り、言霊に乗せて、言葉に現すことを現実に実現することができる。では問題だ。精霊と契約するにはあることをするが、それは何だ。そこの赤髪の生徒、答えてくれ」
授業が始まり、退屈になってしまったのだろう。
俺は欠伸をしていた生徒を指名し、強制的に答えさせる。
「そんな基本的なこと今更復習しても意味がないだろう。答えは呪いだ」
幼い子供でも知っているような問題を答えさせられ、赤髪の男子生徒は面倒臭いと思ったのかもしれない。
彼は呆れ顔を見せると、だるそうに答える。
「正解だ。では、その呪いと対なるもう一つの契約方法は?そこの君、答えてくれ」
続いて俺はツインテールの女子生徒を指名した。
「呪いです」
「正解、もう一つの契約は呪いだ。人は呪いと呪いの二つの契約方法で精霊と契約し、言霊に乗せて言葉に現すことを、現実に実現することができる。俺たちはこの現象のことを魔法と呼んでいる。では、この二種類の違いをカレン。説明してくれ」
「精霊との契約が呪いを用いて行われた場合、精霊の力を信じた契約となるため、精霊の消耗を抑えることができます。なので、もし精霊の力を悪用した人物に襲われても、持久戦へともち込むことが可能です。逆に呪いを用いて契約が行われた場合、精霊の意志に関係なく、契約者の思いどおりに力を引き出すことができます。魔法の威力が上がる代わりに精霊の消耗が激しく。消滅させてしまうリスクが高いです」
さすがにカレンは他の生徒とは違い、基本的なことである質問にもしっかりと答えてくれる。
「それでは次に」
「ちょっとデーヴィッド先生」
先ほど質問させたツインテールの女子生徒が、不満な表情で俺に声をかけた。
「どうした?」
「さっきから質問ばかりでつまらないですよ。デーヴィッド先生は教師という立場で、最初の授業だからコミュニケーションを取ろうとしているのは分かります。だけど一方的な質問ばかりでは、職質されているような感じで楽しくありません。多分ですけど、デーヴィッド先生は好意を寄せていた人に、質問ばかりしていたのではないですか?」
ツインテールの女子生徒の言葉が、俺の心臓を射抜くように突き刺さる。
彼女の言うとおりだ。
今思い返すと、会話をしようと必死で色々なことを聞いていた。
だけど逆にあの人からの質問は一度もなかった。
一方通行の会話では相手が楽しめないのは道理だ。
「おーい。デーヴィッド先生、私の声聞こえていますか? 返事がない。再起不能のようね」
あまり年の変わらない生徒に諭され、俺は一時的にショックを受ける。
誰かが言葉を述べているようだが、ショックのあまりによく聞きとれない。
衝撃を受けていると突如痛みを感じ、俺は我に返った。
見てみると右手の甲の皮膚が切り裂かれ、赤色の鮮血が流れている。
「イッタアアアアァァァイ! 誰だ! 俺がショックを受けている間に攻撃したのは!」
「私よ。デーヴィッド……先生が返事をしないから、現実に引き戻してあげたの」
声の方へ視線を向けると、カレンが悪戯に成功した子どものように笑みを向けていた。
「カレン、お前か。いいだろう。こうなったら実技を交えながらの授業にシフトチェンジだ! 呪いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーボール」
右手を上げて呪文名を告げる。
すると、空中に小さな火の玉が出現した。
その火球は周囲の酸素を飲み込み、徐々に大きさと熱量を増していく。
「やーね。デーヴィッドったら、こんなので怒らないでよ。可愛い妹のちょっとした悪戯じゃない。今すぐにその炎を消してくれたら、今日はデーヴィッドの大好物を作ってあげるから」
カレンが引き攣った顔で交渉を図る。
俺の生み出した炎は、ファイヤーボールという名にふさわしくないほどの大きさまで成長しており、とても一般の学生では対処しきれない状況になるまで膨れ上がっているのだ。
「さぁ、ここで問題だ。このファイヤーボールをお前たちの契約している精霊の力を借り、対処してみろ。制限時間は五分だ。時間がくればパスするからな」
「デーヴィッドの目はマジよ。誰か先生を呼んできて!」
「五分しかないんだぜ。呼んでくる前に時間切れになってしまう」
「カレン、あなたがお兄さんを怒らせたのだから、責任取ってどうにかしてよ」
突然の危機に生徒たちはパニックになる。
こうなることは、最初から分かりきっていた。
人は危機に陥ると、どうにかしなければと思い、普段以上の力を発揮する。
窮地にあるこの状況だからこそ、死ぬ気で考え、答えを導きだしてほしい。
「ここでヒント。火はどうして燃える?それが分かればこの火球の消し方も分かるはずだ」
「そんなの精霊の力を言霊に乗せて、火球を生むって現象を起こしているからじゃないか!」
青ざめた顔で男子生徒が答える。
彼の回答は間違いではない。
だけど間違いではないだけで正解とは言えないのだ。
「その解答では三十点だ。確かに精霊と言霊の力でファイヤーボールを生み出した。だけど、それだけではここまで巨大化はしない。ここまで成長させているものが何なのかを考えろ。そしてそれをどのような手段で失くすのかを考えれば、自ずと答えは導き出される」
更にヒントを与えるが、生徒たちは諦めムードに入っており、この問題の解答に取り組もうとする生徒は一人もいなかった。
そろそろ約束の五分がやってくる。
やっぱり回答に辿り着く生徒はいなかった。
この問題の答えはひとつではない。
考えられるだけでも三種類の解答方法が思い浮かぶ。
だけどこればかりは仕方がない。
魔法は精霊の力を借りて生み出すという思考をもっている人間には、けして答えることができないのだから。
「さぁ、時間だ。もしかしたら俺と同類がいるかもしれないと思ったが、やっぱり普通の人間しかいなかったな」
ぽつりと言葉を漏らすと、俺は更に契約している精霊に向け、言霊に乗せて指示を告げる。
「呪いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。フロー」
契約している精霊、ウンディーネに向け、呪いの力で指示を送ると、火球に向けて滝のような水の塊が降り注ぐ。
火球の真下には俺もいるが、水の塊は炎を飲み込むとその場で停止し、濡れることはない。
水に覆われた火球は消滅し、役目を終えた水の塊はその場で弾けると、大地に届く前に霧散して消え去った。
「ウソだろう。あれだけの炎を一瞬で消しやがった」
信じられないものを見るかのように、男子生徒がポツリと言葉を漏らす。
「別に何も特別なことはしていない。ただ火に水をかけただけだ。このクラスにも水を司る精霊と契約している人はいるだろう。君たちにもこれぐらいはできたはずだ」
「確かに水の精霊と契約をしてはいますが、規模が違いすぎるじゃないですか。焚火に水をかけて消すのとは違うのですよ」
俺の言葉に、今度はポニーテールの女子生徒が答える。
彼女の話した内容からして、きっと水の精霊と契約をしているのだろう。
あの子の言うとおり、規模が違う。
だがそれだけだ。
大きさが異なるだけで原理は同じ。
炎が燃焼し続けるには連鎖反応を生み出すように、酸素が連続的に供給される必要がある。
だが、酸素の供給が断たれれば、継続して燃え続けることができずに消えてしまう。
火に水をかけるのは、熱を奪う能力が大きいからだ。
水の比熱は空気の三・五倍あり、水の密度は空気の七百七十倍程度。
なので、三・五×七百七十=二千七百倍の熱を相手から奪い取る。
さらに水は液体であるので火によって加熱され、そのほとんどが気化するが、水の温度上昇だけではなく、液体から気体に変わる状態変化と呼ばれる現象による気化熱も、大量に奪う。
水の冷却効果が物体の発熱量を上回るのであれば、消せない炎などないのだ。
だけど、このことを話したところで、きっと彼等は信じようとはしないだろう。
人は理解できるものは信じるが、逆の場合は疑ってしまうのだから。
「あの本が読めるのは俺だけだからな。きっと、見せたところで信じようとはしないだろう」
生徒たちに聞こえないように、俺はポツリと言葉を洩す。
「デーヴィッド先生!」
突如、昇降口の方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、声がするほうに顔を向けた。
そこには学園長が立っており、手招きをしている。
流石に遣り過ぎただろうか。
どのような理由があれ、度が過ぎた行為だったのかもしれない。
きっと学園長から注意という名の罵倒をされるかもしれない。
そう思いながらも、彼に小走りで近づく。
「デーヴィッド先生、この村に魔物の集団が攻めてきているとの情報がありました。戦える者は村の入り口に集合してくださいとのことです。私が生徒たちを誘導しておきますので、あなたはすぐに向かってください」
魔物というワードを聞き、俺は身構える。
魔物とは、動物と別の扱いがされている謎の生き物だ。
好戦的で狂暴であり、人を襲う傾向にある。
「分かりました。すぐに向かいます」
生徒たちのところに戻り、魔物のことは伏せた状態で軽く説明をすると、校門から目的地である村の入り口に向かって行く。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
何か気になったところや誤字脱字などがありましたら是非お願いします。
この作品を読んで頂いているあなたがいるからこそ、作者も作品を書くことができます。
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この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。
なので、面白くなっていることが間違いなしです。
追記
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