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第四章 第八話 デーヴィッドVSレイラ

 今回のワード解説


 読む必要がない人は、飛ばして本文のほうをよんでください。


ヒッグス粒子……「神の子」とも呼ばれ、宇宙が誕生して間もない頃、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。


相転移……ある系の相が別の相へ変わることを指す。しばしば 相変態とも呼ばれる。熱力学または 統計力学において、相はある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義される。


熱伝導率……温度の勾配により生じる伝熱のうち、熱伝導による熱の移動のしやすさを規定する物理量である。熱伝導度や熱伝導係数とも呼ばれる。



「デーヴィッド、デーヴィッド、しっかりして!」


「カレン……か」


 自分の名前を連呼され、俺は目を覚ました。


「俺はどのくらい意識を失っていた?」


「そんなに時間は経っていないわ。多分数分ぐらい」


「そうか」


 どのくらいの間意識を失っていたのかを知ると、俺は起き上がった。


 全身に走る痛みは消えてはいないが、何とか動くことができる。


「カレン、レイラの相手は俺一人でする。お前は手を出すな」


「またそんなことを言って、そんなことさせる訳…………分かったわ。何か策があるのでしょう。だったらデーヴィッドのやりたいようにやりなさい。だけど、負けたら承知しないからね」


「ありがとう。ライリー!」


「話は聞こえていたよ。だけどやばくなったら加勢に入るからね」


 ライリーが後方に下がり、もう一度レイラと対峙する。


「目が覚めたか。せっかくの増援を無視して一人で余に立ち向かうとは気でも狂ったか」


「かもしれないな。だけど、頼まれたからにはこうするしか方法がない。お前が人間だったころの話をウンディーネから聞いたよ」


「何! 見覚えがあると思っていたが、まさか昔余が契約したあの娘であったか」


「当時のお前の気持ちを考えると辛い気持ちになる」


「同情などいらぬ。あのころの余の気持ちなど、誰にも分からぬからな」


 確かに、本人ではない限り心の内を知ることはできない。


 今思い描いている感情は、共感により予想したものだ。


「ああ、確かに分からないよ。だからこそ言う。お前、舐めているのか?」


「一体何を?」


「恋愛を舐めているのかと聞いているんだ!何が数回振られたぐらいで禁断の魔法なんかに走っているんだよ!恋愛なんて上手くいかなくて当たり前なんだよ!寧ろ上手くいったのならそれは奇跡だ!なのに、愛に気づいてくれない?どうして愛を受け止めてくれないだ?甘えるな!そんな言葉は努力が足りない者の甘えに過ぎない!」


 俺は身体が熱くなっているのを感じた。


 失恋の経験があるだけに、その辛さは痛いほど分かる。


 だけど、恋愛に関して軽く考えている当時のレイラの甘さを考えると、怒りが沸き上がった。


「余が甘えているだと。戯言を言うのもいいかげんにしろ」


「いや、止めねぇ。お前は甘えている。上手くいかなければすぐに魅了に頼っている。告白に失敗したら魅了に走ったじゃないか! しかもそれが解けたら今度は手下を使い、もう一度かけようとした。お前は逃げているんだ。振られる辛さや悲しみから逃れるために、偽りの愛で満足しようとしている」


 俺の発する言葉に対して、レイラは何も言わなくなった。


 きっと事実を告げられ、自覚したことによって何も言えなくなったのだろう。


「お前は自分が傷つくのが嫌だった。振られる恐怖をおそれた。だからそれらから逃げ、自分の心を保つために魅了という禁断の魔法を手にしてしまったんだ。何を言われようと、俺はお前の恋愛に関する考えを否定する!」


 勢いよく言葉を捲し立てながら、俺は覚悟を決める。


 レイラを傷つける覚悟を。


 女の子は否定されることを嫌がる。


 特に好きな人には自分を承認してほしいという欲求が存在するのだ。


 そのため、相手の男性に否定されると自分を認めてもらえなかったと感じ、気持ちが離れてしまう。


 今の言葉はレイラの心にクリティカルヒットしたはず。


 覚悟を決めた以上、どんなことになっても現実から目を逸らさずに受け入れなければ。


「アアアアアアアァァァァァァァァァァァ」


 レイラが頭を抱え、悲痛な叫び声を上げる。


 目からは涙を流し、苦しそうな表情をしていた。


「余の……余の気持ちが否定された。こんな感情は久しぶりだ。……もういい。そなたなんか嫌いだ。この世から消え失せろ!」


 レイラが片手を上げると複数の大きい火球が発生した。


「「デーヴィッド!」」


「まだ問題ない。お前たちは手を出すな」


 彼女を傷つけると覚悟を決めた以上、こうなることは予想ができた。


 もちろん対処する方法も考えてある。


(まじな)いを用いて我が契約せしウィル・オー・ウィスプとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ライトウォール!Ⅹ八、Y三、Z五、R三。Ⅹ(マイナス)十、Y六、Z五、R三。Ⅹ二、Y六、Z四、R三。Ⅹ(マイナス)四、Y五、Z五、R三。Ⅹ一、Y六、Z五、R三」


 実現させる言葉を言った直後、俺はアルファベッドと数字で指示を出す。


 すると、光で作られた壁が出現し、レイラの生み出した火球を内部に閉じ込めた。


 自身が立っている位置を原点とし、左右をX、前後をY、上下をZと定義させ、原点から一メートル先を一と定義し、Rで半径を伝える。


 精霊たちに伝えた座標にウィル・オー・ウィスプが空気中の光子を集め、フラウが気温を下げる。


 これにより相転移が起き、空気中にあるヒッグス粒子を光子に纏わりつかせる。


 すると光に質量が生まれ、直径六メートルの光の球体を生み出した。


 そして触れることのできる光の壁が火球を覆ったのだ。


 しばらくすると内部の火球が勢いよく小さくなり、最後に火球は消滅してしまう。


「な、何だと!」


「そんなに驚くことではない。火が燃焼し続けるには連鎖反応を生み出すよう、酸素が連続的供給される必要がある。火が燃え続けるには燃料と酸素の継続的供給が必要だ。だが、光の壁により、密閉された内部は酸素供給が断たれ、炎の周囲に二酸化炭素が充満することによって炎は勢いが衰え、いずれ消えるというわけだ」


 炎が消滅した理由を説明しながら、俺は一歩踏み出した。


「お前の実力はそんなものか? これならビビることはなかった。もしかしたらランスロットのほうが強いんじゃないか?」


「余の力はこんなものではないわ! たかが低級魔法のファイヤーボールを消しただけで調子に乗るな!」


「あーあれはファイヤーボールだったのか。まさか魔王があんな低級魔法を使うとは思ってはいなかったから、もっと強力なものだと思った。それなら俺だって」


 俺は光の壁の内部に危険性がないのを確認し、一旦消すと次の精霊に実現させるものを言霊に乗せて伝える。


(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーボール」


 詠唱後、先ほどレイラが出したのと同じ大きさの火球を出現させる。


 だが、生み出した数はひとつ。


 実際、これが精一杯だ。


 先ほどの言葉は、あくまでも敵を牽制するための強がりにしか過ぎない。


 これだけの質量を複数同時に発動させることができるのは、流石魔王といったところだろう。


 だが、こちらが強気で行かなければ、相手が有利であることを悟られる。


「ならば、これならどうだ!」


 レイラが再び片手を上げると、今度は空気中の水分が集まり、巨大な水の塊を作っていく。


「水圧で圧死するがよい」


 彼女が手を前に出すと、巨大な水の塊が襲って来た。


「炎と水ではこちらが有利だ。今更他の魔法に切り替えたところで間に合うことはない」


「確かに、お前の言うとおりだ。だけど、答えはひとつだとは決まっていない。行け! ファイヤーボール!」


 水の塊に向けて火球を飛ばす。


 レイラを見ると、彼女は俺の行動が理解できていないようで、唖然としていた。


 それもそうだろう。


 魔法の属性で言えば、火が水に打ち勝つことなどないからだ。


 しかし、水の塊と火球が触れた瞬間、レイラの水が打ち負け、水は消滅する。


 その瞬間、部屋中に霧レベルの靄が周囲を覆い、視界が悪くなった。


「確かに、水は火に強い。これは常識だ。だが、常識が正しいとは限らない。逆のパターンもある。この結果につながった原因は蒸発だ。水は熱伝導率が高いから、急速に相手から熱を奪う。だが、水は液体だから火によって加熱され、ほとんどが気化する。だけど、燃えている物体の発熱量が水の冷却効果を上回っていたのなら、水のみが蒸発し、炎は消えることなく残り続ける」


 今言った言葉を証明するかのように、靄の中を照らす明かりのようなものがこの部屋にある。


 先ほど水の塊に打ち勝ったファイヤーボールだ。


「さぁ、どうする? 次はどんな手を打って出る? 何がこようと、俺は自身の中にある知識をもって全力で相手をする!」


「くそう。余一人で叶わないのであれば、総力戦だ」


 靄が立ち込める中、レイラの苛立ちを感じさせる声が聞こえてくる。


 総力戦という言葉が聞こえ、これが最後だと直感的に感じた。


 これさえ乗り切れば、こちらの勝利だ。


 どこか窓が開いていたのだろう。


 次第に靄が薄れ、レイラを視認できるようになった。


 その瞬間、俺は驚愕する。


 数多くの魔物が部屋を埋め尽くしていたのだ。


 規模で言えばカムラン平原のほうが上だ。


 しかし、この部屋にいる魔物は強敵ばかりだった。


 精神を安定させない音波を放つレッサーデーモン、様々な魔法が使える魔導士、そしてスライム。


 その他にもガーゴイルやオーク、ゴブリンやオーガ、そしてゴーレムなどもいる。


 ゴブリンやオーガは低級の魔物であるが、この場面で生み出したとなると、エレメントの属性をもっていると考えたほうがいいだろう。


 一番厄介なのはスライムだ。


 身体全体は柔軟性のある柔らかいジェル状であり、殴っても斬っても、飛び散った肉体は戻って来てすぐに復活してしまう。


 しかも種類によっては体内で毒素を生成するものや、服の繊維だけを溶かして食べるものもいるのだ。


 もし、いやらしい特性を持つスライムがこの場に存在し、カレンたちを襲ったとしたら、目のやり場に困ることになる。


 それが原因で気が散ってしまい、集中できなくなる可能性だって十分考えられる。


 スライムを倒す方法は一つだけ、体内にある脳や心臓の役割をもつ核の破壊だ。


「カレン、ライリー! レッサーデーモンの音波に気をつけつつ、魔物を倒してくれ。特にスライムには気をつけるんだ!」


「了解! だけどあたい等には幻惑草があるだろう。アレがあるから余裕だねぇ」


「何呑気なことを言っているのよ!ここではあの時の戦法を使えないわ」


 流石にカレンは風を司るイズナと契約しているだけあって、理解しているようだ。


「何でだい? 何でこの前の戦略が使えない」


「ダストデビルの発動条件は、地表面が直射日光の熱で温められていることで上昇気流が生まれていることなの。だから室内ではいくら言霊を言ったところで何も起きないわ」


「自然界の魔法はそんなに面倒臭いのかい? あたいは肉体に作用する魔法しか使わないから、何も考えたことがなかったよ。仕方がない、こうなったら全力で魔物を倒してやるさ」


「すまない。頼んだ!」


「さぁ、これで最後にしょう。カムラン平原の時のようにとらえよとは言わない。デーヴィッドたちを殺せ!」


 レイラの合図に一斉に魔物たちが襲って来る。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所がありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日投稿予定ですので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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