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最終章 第一話 海の魔物三度

 翌日、俺たちはオケアノス大陸を出てロンドン大陸に向かうことになった。


 理由は伯爵の件だけではない。


 母さんに呼ばれているからだ。


 昨夜、レックスではないリピードバードが俺の部屋を訪れた。


 鳥は母さんのメッセージを預かっており、内容はこうだった。


『今、ロンドン大陸の港町にいます。話があるので来てください』


 簡潔に述べられており、少し怪しい感じがした。


 けれど、元々から次の目的地はロンドン大陸と決めていたので、その話に乗ることにしたのだ。


 船着き場で待っていると、一隻の船がこちらにやって来た。


 女性の像が船首についていることから、アリシア号で間違いない。


 船が到着すると、看板からスキンヘッドの男が姿を見せる。


「デーヴィット王子、お久しぶりです」


「フォーカスさんご協力ありがとうございます」


「何、王子の頼みごとであればいくらでも力を貸します。今から橋を架けますので、少し待っていてください」


 船から橋が出され、俺たちはアリシア号に乗船をする。


 甲板から船内に入り、客室に向かうと船が出発した。


 ロンドン大陸に向けて出航すると、いつものようにフォーカスさんが海図を見せながら指で航路をなぞる。


「だいたい一週間で目的地にはつくかと思います」


「一週間、けっこうかかりますね」


「いえ、最速の場合です。もし、この前のように魔物の襲撃に合えば、更に日数がかかるかと思います」


 最速でも一週間かかることを知り、俺は胸の前で腕を組んで考える。


 できれば、もう少し短い日数でロンドン大陸に向かいたかった。


 このアリシア号では、俺にいい思い出はない。


 むしろ、乗船する度にトラウマが増えるのだ。


 可能であればどうにかして日数を減らしたい。


「すみません。どうにかして最速を更に縮めることはできませんか?」


 俺はトラウマを増やしたくないという思いから、船長にむちゃ振りを言ってみる。


「更に最速ですか?」


 揉み上げと顎髭がつながっているジャンボジュニアと呼ばれる髭を触りながら、フォーカスさんは俺を見る。


「いえ、ムリならいいので。むちゃ振りだというのは分かっています」


 彼の視線になぜか萎縮してしまい、俺はぎこちない笑顔でムリしなくていいことを告げる。


「いえ、方法がなくともありません。実は、今回の航路は少し遠回りをするルートになっています。こちらをご覧ください。ここに小さな島がありますよね」


 フォーカスさんがオケアノス大陸とロンドン大陸の間に小島を指差した。


「実は不思議なもので、島の左側を進むほうがロンドン大陸には近いのですが、ここの海域には海の魔物がたくさん出没しているとの噂なのです。なので、少し遠回りの右側を進む進路にしてあります」


 船長が口頭で説明するも、素人の俺では地図を見ただけでは違いがわからない。


「デーヴィッド王子が魔物と戦う覚悟の上で、こちらの進路に進むのであれば、進路を変えることにしますが」


「それでお願いします。この船と皆さんは俺が守りますので」


 危険を冒してまで近道をするのかと問われ、俺は即答する。


 今まで三人の魔王と戦い、常に勝利をした。


 なので、今更海の魔物程度に後れをとるようなことにはならないだろう。


「わかりました。では、そのように進路を変えましょう」


 ルートの確認が終わり、フォーカスさんはこの場から去っていく。


「ねぇ、本当に大丈夫なの? そんな危険なところを通っても」


 今まで大人しく静観していたカレンが、話が終わった途端に声をかけてくる。


「大丈夫。昔の俺ではないんだ。海の魔物ぐらい簡単に追い払うさ」


 義妹の肩にポンと手を置くと、俺は甲板にでた。


 空は雲ひとつない青空が広がっている。


「海の魔物たちよ、来るなら来い。俺がまとめて倒してやる」


 ポツリと言葉を洩らし、俺は船の端に行く。


 手すりに捕まりながら海の様子を窺うと、海も今のところは穏やかだ。


 あと何日間、この穏やかな海が続くのだろうと思いながら、俺は船内に戻った。


 ロンドン大陸に向けて出航してから四日が経った。


 今のところは得に何も起きてはいない。


「デーヴィット王子」


 甲板で海を眺めていると、フォーカスさんが声をかけてきた。


 彼はいつものように、スキンヘッドの頭を太陽光で反射させている。


「何か用ですか?」


「そろそろ海の魔物が現れる海域に到達します」


「わかりました。フォーカスさんは船の進路のことだけを考えておいてください。魔物は俺が相手をしますので」


「わかりました。ではご武運を」


 船長が船内に戻って行くのを見送ると、俺は先手を打つために呪文の詠唱を行う。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよアイスクエストーズ」


 二体の精霊の力により、空中にある雲の気温を低くさせる。


 雲の中の水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなると、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷晶へと変化した。


「第一段階完了、続いて第二段階に移行する。(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよファイヤーボール」


 空中に火の球を出現させる。


 しかし今回のファイヤーボールは通常よりも多くの酸素を結合させ、みるみる大きさを増していく。


 上空に掲げると、火球はプチ太陽の如く巨大に成長した。


 これで第二段階は終了だ。


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダストデビル」


 プチ太陽となったファイヤーボールによる直射日光により、温められた海面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。


 すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が誕生した。


 塵旋風により強い上昇気流が発生したことにより、雲の中で氷晶が落下と上昇を繰り返す。


 これにより氷晶は雹や霰に成長すると、落下速度の違いにより衝突を繰り返し、こすれ合うことで静電気が発生した。


 上空の雲に静電気が発生したことにより、雷雲に変わる。


「これで準備ができた。あとは魔物が来るのを待つだけだ」


「デーヴィッド」


 背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。


 船内の扉が開かれ、中からカレンたちがやってきた。


 おそらくフォーカスさんから、魔物の出る海域に入ったことを聞いたのだろう。


 だけど、タマモの姿は見当たらない。


 今回も船酔いでダウンしていたので、ドライアドが彼女の身体を乗り移らない限りは、こちらには来ないだろう。


「大丈夫だ。俺だけで魔物を倒してしまうさ」


「何を言っているのよ! 私も戦うわ」


 義妹が近づくと、彼女は赤い瞳で俺を睨む。


 きっと断っても、俺の言葉を無視して勝手に戦おうとするだろう。


 俺は小さく息を吐くと、カレンの頭に右手を置く。


「わかった。なら皆の力も貸してもらうよ」


 仲間に視線を向けると、彼女たちは無言で頷く。


 しばらく様子を窺うと、大きな水飛沫を上げながら何者かが船の上に飛び出した。


 魔物だ。


 ポルポデビルにセンボンザクラ、ボーンフィッシュなど、オケアノス大陸に向ったときに、襲ってきた海の魔物たちだ。


「先手必勝!(まじな)いを用いて我が契約せしヴォルトに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。サンダーボルト」


 雲の中で溜まった電荷を放出させ、落雷を発生させる。


 雷は魔物たちにヒットした。


 あいつらは一度、海の中に入っていたことで海水塗れになっている。


 海水は不純物の混じった水分子であり、これらは、プラスの電荷とマイナスの電荷を伝って電気を流す。


 敵の肉体は本来の電子信号のやりとりを遮断され、そのショックで心肺停止に陥ったようだ。


 そのまま甲板に倒れ、動けなくなる。


「あたしも負けていられないわ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる負の生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ショック」


 落雷を受けなかった魔物に対して、エミが素早く失神魔法を唱える。


 魔法が発動した瞬間、敵は甲板に倒れた。


 肉体に耐えきれないほどの激痛を与え、迷走神経を活性化させて血管を広げる。


 そして心臓に戻る血流量が減少して心拍数が低下したことにより、失神を促したのだ。


 けれど、雷も失神の影響も受けない魔物がいた。


 それはボーンフィッシュだ。


 全身骨であるあの魔物は、俺たちの魔法の影響を受けない。


「あの魔物は私に任せて(まじな)いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」


 詠唱を唱えたカレンの声が聞こえた瞬間、ボーンフィッシュの身体が砕け、残骸が甲板に落下する。


 物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することが可能だ。


 ボーンフィッシュの動いた際に生じる振動に合わせ、同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、やつの骨が疲労破壊を起こした。


 俺たち三人の活躍で、とりあえず甲板に上がった魔物は全滅させた。


「お疲れ、しばらくは良さそうだ」


「さすがデーヴィッドというべきか。少しぐらいは余の出番も残してほしかった」


「あたいもただ剣を構えただけに終わっちまったねぇ」


 戦闘に参加することができなかったレイラとライリーが、つまらなさそうに俺を見る。


「悪い。でも、どちらかと言うと、カレンとエミの判断のほうが早かったからこその結果だ。次はきっと活躍できるさ」


 何の根拠もなしに言うと、それがフラグになったのかはわからない。


 背後から大きい水飛沫が上がり、俺は振り返る。


 そこには巨大なイカが顔を出していた。



 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 現在八十九人のかたに登録していただけております。


 完結まで残り三日となりましたが、おそらくブックマークが百人に達して底辺脱出するのは難しいかもしれませんね。


 ワンチャン完結ブーストで百人を超えてくれれば、少しは自信がつくのですが。


 というわけで、物語の続きは明日投稿する予定です。


最新作

『Sランク昇進をきっかけにパーティーから追放された俺は、実は無能を演じて陰でチームをサポートしていた。~弱体化したチームリーダーの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る~』が連載開始!


この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。


なので、面白くなっていることが間違いなしです。


興味を持たれたかたは、画面の一番下にある、作者マイページを押してもらうと、私の投稿作品が表示されておりますので、そこから読んでいただければと思っております。


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