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第三十一章 第五話 ドライアドと女王様プレイ?

「お腹が一杯だ」


 俺はベッドに座りながら、胃袋が食べ物で満たされたお陰で少し膨らんだお腹を触る。


 そのまま横になり、身体をリラックスさせる。


 食後に横になってはいけないと言われているが、実際は横になるだけなら問題はない。


 寧ろ逆に身体にはいいのだ。


 食物を消化するためには、胃や腸に大量の血液が必要となる。


 血液中に取り込まれた栄養分を分解し、肝臓に蓄えるためにも大量の血液が必要になるからだ。


 肝臓に流れこむ血液量は横になっている時が最も多く、立つとその七十パーセント、歩いたり走ったりすると二十から三十パーセントまで減ると言われている。


 だから食後に横になるという行為は、身体にとってはいいこととなる。


 けれど完全に寝入ってしまっては逆効果だ。


 睡眠状態に入ると、胃や腸の働きが低下して、消化不良を起こしやすくなる。


「ふぁーあ」


 横になるだけなら、大丈夫。


 そう思っていたが、俺は眠気を感じて思わず欠伸を洩らす。


「ヤバイ、急に眠くなってきた」


 糖質を取りすぎたせいで、高血糖になってしまっているようだ。


 食後の血糖は緩やかに上昇していく。


 しかし、通常はインスリンというホルモンが正常に分泌され、2時間程度で普段の血糖に戻る。


 だが、こう言った調節機能がうまく働かなくなる、あるいは追いつかない状態になると、食後過血糖を引き起こす。


 急激な眠気の他に、精神的に不安定になるなどの症状を引き起こすことがあるのだ。


 このままでは寝入ってしまう。


 俺は上体を起こし、両の頬を叩く。


 眠らないように気をつけようと思い、俺は机の上に置いてある一冊の茶色の本を手に持つ。


「久しぶりに、もう一度読み直してみるか」


 知識の本(ノウレッジブックス)のページを開きながらベッドに戻ると、背凭れに背中を預け、書かれてある内容を読む。


 ページを捲り、内容を読み直す。


 だが、何度も読んでいるお陰で内容は覚えており、集中して読むことができない。


 再び眠気が発生すると、俺はどうしようもないほど寝たいという気持ちが強くなった。


 身体によくないと分かっておきながら、俺はベッドの上で横になると瞼を閉じる。


 どのくらい眠っていたのだろうか。


 ベッドが軋む音と、かけ布団が剥されたことで、俺は目を覚ました。


『あら、起こしちゃった。まぁ、起きてくれたほうが、都合がいいわね』


 目覚めたばかりで視界が若干ぼやけ、頭がぼんやりとしていたが、頭の中で響く声を聞いた瞬間、すぐに覚醒した。


 上体を起こし、周囲を見る。


 俺の横には、キツネ耳のカチューシャを頭に嵌めた長い金髪のエルフがいた。


 俺としたことが、食後の眠気のせいですっかり忘れていた。


 これまでの流れからすると、夜の(おそ)い時間帯に、ドライアドがタマモの身体を使って、俺の部屋に訪れる可能性が高かったというのに。


「何しに来た」


 俺は虚ろな目をしているエルフに問う。


『何って、言わなくても分かっているでしょう。約束どおりに、いいことをしに来たのよ』


「そんなことは、俺は望んではいない」


『またまた。本当は期待していたんじゃないの。その証拠に、身体のほうは正直になっているわよ』


 身体を乗っ取られたエルフの女性が、俺の股間を指差す。


 俺のズボンは少し膨らみを見せていた。


「これは若い男の生理現象だ!」


 レム睡眠のタイミングで脳の中枢神経が興奮して、その情報が脊髄神経を通って陰茎に伝わり、体内に一酸化窒素が放出されることで、陰茎深動脈とバルブのような役割を持つ螺旋動脈が緩み、海綿体に大量の血液が流れることで、海綿体が大きくなってしまったときに目が覚めたから、このような状態になっている。


 けして期待して身体が反応していたわけではない。


 右手を額に当てながら、俺は意識を失っているタマモを見る。


「あのなぁ、タマモはいつ目覚めるのか分からないじゃないか。変なタイミングで意識が覚醒したら俺のほうが困る。だからさっさと部屋に戻れ。それにあのときのようにレイラが乱入してくるかもしれないだろう」


 ドライアドと初めてであったとき、彼女はタマモの身体を使って夜這いをしてきた。


 けれど、レイラが乱入してきたお陰で行為にいたることはなかった。


『せっかくのⅮTを卒業させてあげようかと思ったのに』


「余計なお世話だ! 俺は操られているタマモの気持ちを無視してまで、己の欲望を満たそうとはしない」


『DTは本当に、くだらないところでプライドが高いのよね。困ったものだわ』


 ドライアドの感情に連動しているのか、タマモの身体は肩をすくめる。


「そんなことわかっているよ。何度もチャンスを逃している自覚はある」


 植物の精霊と会話をしながら、このままではマズイと思った。


 さっきから話の内容が下ネタ気味になっている。


 話題を別のものに変えないと。


「なぁ、どうしてドライアドはタマモの身体を一時的に乗っ取ることができるんだ? 君の生まれもった能力なのか?」


 彼女に問うと、タマモの身体は首を横に振る。


『ワタシの能力ではないわ。もしそんな力を持っていたのなら、真っ先にデーヴィッドに乗り移って色々と身体を弄っているもの』


 ドライアドの言葉を聞いた俺は、苦笑いを浮かべつつも、心の中で安堵する。


 確かに彼女の言うとおり、ドライアドという精霊の力であったのなら、タマモ以外にも乗り移って大変なことになっていただろう。


「となると、タマモ自身の能力というわけか」


『そうなるわね』


「でも、タマモは無自覚だ。つまり、その力に気づいたドライアドが、彼女に目をつけて身体を乗っ取った」


『その通りよ。でも、簡単には乗り移れない。色々と条件がいる』


「条件?」


 言葉を洩らすと、意識のないタマモの身体は右手を上げて人差し指だけを伸ばす。


『第一に彼女と相性がいいこと。どの精霊でも、タマモの身体を一時的に自由にすることはできないわ。魂の波長と言っていいのかしらね? そういうのが合わないと、身体を支配することができないのよ』


「つまり、タマモはムッツリスケベだからドライアドと相性がいいと」


 俺の言葉に、タマモの身体は首を縦に振る。


 冗談のつもりで言ったのだが、正解だったことを知ると、言わなければよかったと思ってしまう。


『第二に、身体を乗っ取るには精霊の精神力が消耗される。それは莫大な量なの。だから頻繁にはタマモの身体を使って動き回ることができない』


 今度は中指を伸ばし、第二の条件を言う。


『この二つの条件が重ならない限り、タマモの肉体を自由にすることができないわ』


 ドライアドの説明に、俺は納得した。


 これまで一緒に生活した中で、ドライアドがタマモの身体を乗っ取ったのは三回だ。


 一回目が、フロレンティアの町で俺を夜這いしに来たとき。


 二回目がアリシア号で、オケアノス大陸に向っている最中に、嵐に遭ったとき。


 そして三回目が今だ。


 これまでいくらでも、俺を夜間に襲う機会はあった。


 だけど彼女がそれをしなかったのは、そんな理由からだったのだ。


「でも、どうしてタマモはそんな能力を持っているんだ?」


『それ本気で言っている?』


 虚ろになっている目をジト目に変え、緑色の瞳でこちらをみてくる。


「待ってくれ。すぐに思いだす」


 まさかあんなことを言われるとは思っていなかった俺は、右手を前に突き出し、左手を額に置く。


 そして脳の記憶を司る海馬から、エルフの森やエルフの里での記憶を引っ張り出す。


 タマモはエルフの里の長であるフォックスさんの大事な一人娘。


 彼女はその後継者だ。


 そして里の民たちからは、タマモ様や巫女様と呼ばれていた。


「そうか。巫女だからか」


『そう、彼女は生まれながらに巫女になれる素質を持っていた。巫女は神楽を舞ったり、祈祷をしたり、占いをしたり、神託を得て他の者に伝える役割があるわ。神と交信し、時には身体に憑依させることもある。彼女の身体は霊的なものが憑りつき易いのよ』


「なるほど、だからなのか」


『ねぇ、さっきも言ったけど、彼女に憑依しているときは、ものすごく精神力が消費してしまうのよ。無駄口を叩く暇はないわ。だからそろそろ本題に入りましょう』


「だから断るって言っているだろう」


 俺に覆いかぶさるようにして、タマモの身体が距離を詰めてくる。


 彼女の両肩に手を置き、これ以上は近づかないように彼女の身体を押す。


『何で拒むのよ』


「さっきも言っただろう。タマモの意思に関係なく行為に及ぶわけにはいかない」


『ワタシは魅了と誘惑を司る精霊、あなたの意思なんて関係ないわ。ワタシは自分の欲望の赴くままに性欲を満たす』


「お前は植物の精霊でもあるだろうが!」


 お互いが相手の肩を掴み、押し合いをしている。


 力だけでは俺のほうが上のはずだが、何故か彼女のほうが押していた。


 タマモはドライアドに身体を支配され、意識がない状態だ。


 つまり、無意識による行動なので、脳のリミッターが外れている状態に近い。


 俺は押し倒される形になり、タマモの身体は俺に跨る。


『うふふ、今後新たに機会が得られたときのためにも、少しばかりデーヴィッドを調教しようかしら』


 空いている窓からツタが入ってくると、タマモはそれを掴む。


『女王様ごっこを始めましょうか』


 妖艶な笑みを浮かべながら、緑色の瞳で俺を見る。


 そしてツタを鞭のように扱い、床を叩いた。


『このツタの威力は、あなたも知っているでしょう。伯爵のときは手加減をしたけれど、本来は相手を麻痺させて動きに制限をかけることができる』


 ドライアドの言葉に、俺は歯を食い縛る。


 あのツタは意外と強力だ。


 鞭のように扱うことで、強い衝撃を与えることができる。


 その結果、脊髄にて下位運動ニューロンにシナプスチャージし、前角細胞を興奮させたことで、末梢神経として感覚線維と併走。


 神経筋接合部にいたることで、筋繊維を興奮させる。


 それにより、ダメージを受けた身体は小規模の運動麻痺を起こす。


『さぁ、これであなたの身体はワタシのものよ』


 ツタを振り上げた瞬間、タマモの動きが止まった。


『あーあ、時間切れか。もう、デーヴィッドが拒むから、いいことができなかったじゃないの。まぁ、それなりにおしゃべりをして、楽しい時間を過ごせたからよしとしますか。頑張りなさいよ』


 最後の応援メッセージの意味が分からなかったが、その言葉を最後に、ドライアドの声が聞こえることはなかった。


「アレ? どうしてワタクシはこんな態勢で眠っていたのでしょうか?」


 どうやらタマモの意識が戻ったようで、彼女の虚ろとなっていた目が元に戻る。


「そもそも、どうしてワタクシはツタなんかを持っているのでしょうか」


 目覚めたばかりだからか、彼女は俺の存在に気づいていないようだ。


「タマモ、悪いが退いてくれないか」


「デーヴィッドさん……って、どうしてワタクシはあなたに跨っているのですか! しかも、ツタを持っているこの状況、まるで女王様プレイをしているみたいではないですか」


 タマモは急に羞恥心を覚えたようで、顔を赤くさせる。


 そして恥ずかしさを隠すための行いなのか、ツタを俺に叩きつけてきた。


「ガハッ」


 元々魔法により鞭の効果を得たツタだったからか、まだその効力が残っていたようだ。


 俺の上半身に触れた瞬間、衝撃で服が破けて上半身の肌が露出した。


「何で服を脱ぐのですか」


 タマモが視線を逸らした瞬間、再び俺に向けてツタを叩きつける。


「いて!」


 理不尽に思いながらも、胸に痛みを感じた俺は、思わず両目を閉じる。


 そして再び目を開いて胸を見ると、ツタが触れていた箇所が赤くなっていた。


 タマモはたちあがり、急いで俺の部屋から出て行く。


『今回の女王様プレイで絆が深まるといいわね』


 なるか!


 去り際にドライアドの言葉が脳に響く。


 俺は咄嗟に心の中で叫んだ。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 残りの物語を逆算していると、あと十話もなかったです。


 少しづつ終わりが近づいて来ておりますが、最後までお付き合いいただけたらと思っております。


 物語の続きは明日投稿する予定です。

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