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 第三十一章 第四話 晩餐2

 ポットの中身が空になり、一滴も水が出なくなると、俺は掴んでいたリピードバードを解放する。


 彼のお腹は、たくさんの水を飲まされた影響で膨らみ、全体的に丸みを帯びていた。


「デーヴィッドさん、あなた辛党だったのですか?」


 ケモ度二のウサギのメイドであるフランが、少し引いた感じで尋ねる。


「そうだけど、フランは知っていて俺に激辛料理を食べさせてくれたんじゃないのか」


 俺の質問に、メイドは無言で首を横に振る。


 どうやら彼女は、俺が辛党であることを知らなかったようだ。


 だとしたら、何で彼女はあんなに激辛料理を用意してくれたのだろうか。


 フランの行動理由が分からないでいると、彼女の背後に二人のケモノが現れた。


 二人ともケモ度二のウサギだが、一人は料理人の恰好をしており、もう一人はフランと同じメイド服を着ている。


 料理人とメイドは、表情は笑顔であるが、額に青筋を立たせていた。


 けれどそんな二人に、フランは気づいていない様子だ。


 背後にいるケモノのことを彼女に伝えるべきか悩んでいると、料理人が拳を作り、フランにげんこつを当てる。


「痛い! 誰なんですか、いきなり私の頭を殴るやつは!」


「私だが」


 フランが振り返った瞬間、彼女は固まったようにピタリと動きを止める。


「お父さん、お母さん」


 どうやら彼女の後ろに立っていたのは、フランのご両親のようだ。


 そう言えば、メイドのほうは一度だけ見たことがある。


 こうして見ると、二人ともフランに似ていた。


 どうしていきなり彼女の両親が、ここにやってきたのだろうかと思っていると、父親のほうが俺に向けて深々と頭を下げる。


「この度は、娘のフランがご迷惑をおかけしました。私が丹精込めて作った料理に辛み成分を含むソースなどを混ぜ、激辛料理にしていたようで、本当に申し訳ありません」


 料理人がいきなり謝罪した理由を述べる。


「本当に申し訳ございません」


 続いて母親であるメイドまでが、俺に対して頭を下げてきた。


「なぜこのようなことをしたのかはこれから聞き出し、二度と同じようなことを繰り返さないようにきつい罰を与えますので、どうか許してくれませんでしょうか」


 料理人が罰を与えると言った瞬間、フランの顔色が悪くなる。


 どんな罰なのかはわからないが、相当キツイものなのだろう。


 確かに、どうして俺だけが激辛料理になっていたのかはわからない。


 その理由も知りたい。


 だけど辛党の俺は、寧ろあの状況を楽しんでいた。


 次にどんな激辛料理が出てくるのだろうとワクワクしていた。


 なので、激辛料理に対しては何も不満はない。


 別に俺の中で不快な気持ちになってはいないのに、フランが罰を与えられるのは何だか可哀そうな気分になる。


 仕方がない。


 ここは彼女を助けるとしよう。


 もしかしたら、後で激辛料理を振舞ってくれた理由を話してくれるかもしれない。


「頭を上げてください。別に私は、全然嫌な気持ちにはなっていませんので」


 頭を上げるように言うと、フランの両親は頭を上げた。


 王様の前だったので、一人称を私に変え、口調を丁寧にする。


「これは彼女なりのもてなし方だったのですよ。私が辛党なのを知っていた彼女は、私を喜ばせようとして、こっそりと料理を激辛に変えていたのです。別にいたずらや悪意があってのことではなかったので、お仕置きだけは止めてもらえませんか」


 俺の言葉に、フランの両親は顔を見合わせる。


「わかりました。時期国王となられるあなた様がおっしゃるのであれば、今回は注意するだけに留めましょう」


 罰を与えないことを料理人が言うと、フランは顔を綻ばせる。


 そして俺を見ると、指を向けてきた。


「今回は助かりましたが、これで私が認めるようなことは一切ないので、自惚れないでくださいよ……痛い!」


 フランが言葉を放つと、彼女の頭にもう一度げんこつが落ちた。


「お前、次期国王様になんて言い方をする」


「もう一度、メイドの作法を一から叩き込む必要がありますね」


 フランの両親が会釈程度に軽く頭を下げると、この場から離れていく。


「お母さん、襟首を持って引っ張らないでください。ちゃんと自分で歩きますから」


「そういう訳にはいきません。そんなことをすれば、あなたはまた逃げるでしょうが」


 彼女たちの声が遠ざかっていく中、俺たちは夕食を再開した。


 だけど、俺の肉は既にレックスに食べられているので、何もない。


 仕方がないので、皆が食事を終えるのを待つことにしていると、俺のところにアルビノの少女が来た。


 彼女は右手にフォーク、左手には肉が盛られてある皿を持っている。


「デーヴィットお兄ちゃんのお肉、鳥さんに食べられたのでわたしのを分けるのです」


 彼女の優しさに胸を打たれながらも、俺は断ろうと思った。


 彼女は成長期だ。


 できるだけたくさんの栄養を取らせてあげたい。


「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だよ」


 俺は優しい口調で、彼女の申し出を断る。


「わたしのお肉を食べてくれないのです」


 断られるとは思っていなかったのだろう。


 アリスの両の目尻に涙が溜まり、今にも泣き出しそうになる。


「ちょっとデーヴィッド、アリスちゃんのお肉が食べられないって言うの。もし断るって言うのならわかっているでしょうね」


 泣き出しそうになるアリスを見て、エミが脅迫まがいなことを言ってくる。


 さすがにアリスを泣かしてまで、自分の意志を貫き通すほど冷たい男ではない。


「ありがとう。いただくよ」


 お肉を貰うことをアリスに告げると、彼女は顔を綻ばせる。


 そしてフォークに一切れの肉を刺すと、俺の顔に近づけた。


「デーヴィッドお兄ちゃんあーんなのです」


 小さい女の子の行動を見て、俺は苦笑いを浮かべる。


 さすがにアリスから、あーんされるとは思わなかった。


 できることなら恥ずかしいので、それだけは断りたかった。


 しかし拒めば、また泣きそうな顔をするかもしれない。


 俺は羞恥心を覚えながらも、口を開けてフォークに刺さった肉を口に含む。


 肉は柔らかく、脂が乗っていた。


 数回咀嚼しただけで、肉は溶けたかのようにみるみる小さくなっていく。


「デーヴィッドお兄ちゃんどうなのです?美味しいですか?」


 アリスが尋ねてきたので、俺は口内に残っている肉を飲み込む。


「うん。とても美味しかったよ。ありがとうアリス」


「はいなのです」


 肉の感想とお礼を言うと、アルビノの少女は自分の席に戻っていく。


 視線を前に戻すと、エミが俺の皿の上に肉を乗せようとしていた。


「あたしのも分けてあげるわよ。肉一切れぐらいじゃあ、物足りないでしょう」


「では、ワタクシのも分けましょう。どちらかと言えばベジタリアンなので」


「なら、余の肉も分けようではないか」


「デーヴィッドは魔王戦で活躍しているからねぇ、頑張ったご褒美としてあたいのも分けてやるよ」


「私はもうお腹いっぱいだから、残りはデーヴィッドにあげるわ」


「なら、わたしのも一切れあげますね」


 エミに続いて、女性陣が俺の皿に肉を入れてきた。


 皆から少しずつ分けてもらったとは言え、それなりの量になっている。


「ありがとう。皆」


 仲間たちに礼を言うと、俺は皿の上にある肉を食べ始めた。


 皆から分けてもらった肉は、どれも美味しく感じられた。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 久しぶりに連日で登録してもらえて嬉しいです。


 物語の続きは明日投稿する予定です。

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