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第三十章 第四話 魔王との価値観の違い

 傷が癒えたアイスヒュブリーデは起き上がり、俺を見る。


 ファイヤーボール程度では敵を消滅させることができない。


 なら炎の威力を上げ、巨大な炎を当てれば済む。


 単純に考えればそのような結論にいたるだろう。


 だけど、現実はそうはいかない。


 魔物の素早さを考えれば、外す可能性のほうがでかい。


 敵の動きを封じ、最終的に炎を当てる方法を考えなければ。


 頭の中で考えていると、俺は閃いた。


 これなら、アイスヒュブリーデを消滅させることができる。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーターカッター」


 空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


 そして今度は水の塊が加圧により、直径一ミリほどの厚さに形状を変えると、俺の合図と共に飛ばす。


 細くなった水は魔物の顔面にヒット。


 水圧により氷の頭部は吹き飛ばされ、細かく砕けた氷が敵の周辺に飛び散る。


「よし、予想どおりだ」


 俺は水の攻撃を続け、アイスヒュブリーデを氷の塊に変えると続けて呪文を唱える。


(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーアロー」


 矢の形状をした炎を複数生み出し、地面に転がっている氷の塊に向けて放つ。


 炎の矢が氷に触れると、氷の気温がゼロ度以上に上昇。


 水分子同士の隙間ができ、運動するための熱エネルギーが高くなったことで、形状を維持することができずに水へと変化した。


  そしてその水も、百度を超える高熱により沸騰。


 水分子の集団が激しく動き、猛烈なスピードで空間を飛び回って気体へと変化した。


「ほう、体積が大きいのなら、細分化させればいいというわけか。中々考えるな。では、これならどうだ?」


 セミラミスが指を鳴らすと、再びアイスヒュブリーデが出現した。


 一度攻略された魔物をもう一度生み出すのは、バカのすることだ。


 けれど彼女の冷静な口調から考えるに、何か裏があると思うべき。


 セミラミスを見るが、色白の顔からは、何を考えているのか読み取れなかった。


 様子を窺っていると、アイスヒュブリーデの周辺の地面が、氷で覆われ出す。


 周辺の気温が下がったようだ。


 呼吸をすると息の中にあった水蒸気が急に冷やされ、目に見える細かい水の粒になっている。


 それにより吐く息が白く見えだす。


 身体が寒さを覚え、気温差によるストレスから、交感神経が乱れたようだ。


 脳が緊張状態となり、反射的に立毛筋が逆立ち、ひとつひとつの毛穴が収縮して周囲の皮膚が盛り上がってしまった。


 俺の腕は鳥肌が立っている。


 寒さで身動きを封じようとしているのだろう。


 空気が冷たくなっていく。


 このままでは、かじかんで呪文を唱えられなくなる可能性もでてくる。


(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーボール」


 右手を上げ、上空に炎を生み出す。


 これで俺の周辺は少しマシなはずだ。


「早くアイスヒュブリーデを倒す。(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーターカッター」


 空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


「同じ手が通用すると思っているのか!」


 セミラミス声を荒げると、アイスヒュブリーデの口から冷気が吐き出された。


 俺が魔法で水を加圧するよりも早く、敵の放った冷たい気体が水の塊に触れてしまったようだ。


 水の気温が下がり、水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなったようで、水分子は結合して氷になってしまっている。


 これでは、先ほどのように氷の獅子の身体を破壊して、消滅させることができない。


 アイスヒュブリーデが、俺に向けて再び口から冷気を放つ。


 魔物の冷気に触れた瞬間、俺は眠気に襲われる。


 自律神経が乱れて体温調整が上手く働かず、その結果覚醒を促したり、感情をコントロールしたりするセロトニンの分泌が抑えられた。


 そしてその代わりに睡眠を調整しているメラトニンの分泌量が増え、脳の機能を低下させられている。


 俺は脳の覚醒を促すために、右手で左手の甲を抓る。


 神経を通して脳に痛みの情報を届けるが、この程度の痛みでは覚醒しきれていない。


 心の中で眠るなと訴えるが、俺の意思とは裏腹に、瞼が重くなっていく。


(まじな)いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」


 このまま微睡(まどろ)もうとしたとき。


 呪文の詠唱を唱えたカレンの声が聞こえた。


 視界が狭まる中、アイスヒュブリーデの身体が砕け、残骸が地面に落下するのが見えた。


 物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することが可能だ。


 アイスヒュブリーデの動いた際に生じる振動に合わせ、同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、やつの身体が疲労破壊を起こしたようだ。


「デーヴィッド大丈夫」


 意識が朦朧とする中、金髪ミディアムヘアーで低身長の女の子が俺のところにくると声をかけてくる。


「いや、大丈夫じゃない。眠い」


「ライリー!デーヴィッドが眠りかけているわ、早く回復魔法を!」


 俺は耐えることが難しい眠気を感じる中、正直に話す。


 すると、義妹がライリーの名を呼んだ。


「任せな!(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウエークアップ」


 ライリーが呪文を唱える声が聞こえると、俺は眠気が吹っ飛ぶ。


「あれ?何で皆いるんだ?」


 俺の周辺にはカレン以外にも、ライリー、レイラ、タマモ、それにレックスがいる。


「何を言っているのよ、元々からその作戦だったじゃない。デーヴィッドたちが先に行って、あとから私たちが合流する手筈になっていたでしょう」


「あー、そう言えばそうだったような気がする」


「どうやら一度眠りかけたことで脳が働いていないようだねぇ。仕方がない。この呪文も唱えるとするか。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アクティブブレイン」


 ライリーが契約している精霊に指示を出すと、俺の頭の中がクリアになったような気がした。


「ありがとう。お陰で頭の中がスッキリしたような気がする」


 ライリーに礼を言うと、俺はセミラミスを見る。


「確かにお前の言うとおり、調子に乗っていたみたいだ。なら、ここから仕切り直しといこうか」


「仲間が来てしまったか。いずれ来るとは思っていたが、それまでに捉えることができなくて残念だ」


「セミラミスよ。貴様がメフィストフェレスを使い、オルレアンとガリア国の戦争を引き起こすように命じた。これに間違いはないな」


 レイラが一歩前に出ると、青色の瞳でオケアノスの魔王を見つめる。


「オルレアンの魔王レイラか。その通りだ。わらわが二国の戦争を考え、人間同士で争わせた」


「どうしてそのようなことをした」


「どうしても何も、決まっておろう。魔物は人間を亡ぼすために存在している。その使命に従ったにすぎない。貴様だって最初は魔物を生み出し、大陸に住む人間共を殺していたではないか」


「確かにそうであるが、余は人間というものがどういうものなのかを思い出したのだ。確かに人という生き物は欲望の塊だ。私利私欲のために平気で他人を騙し、奪い、心を傷つける。しかし、そればかりではない。中には正しい心を持っている人間もいる。人族と言う理由だけで、無差別に殺していいものではないのだ」


 レイラは右手の人差し指をセミラミスに向けた。


「言いたいことはそれだけか」


 彼女の言葉を聞いたセミラミスは、氷のように冷たい視線をレイラに送る。


「なに!」


「確かに貴様が言うことも一理ある。だが、それは少数であろう。貴様が戦った人間の中で、精霊を消滅させなかったやつはおるのか?もちろん、貴様の仲間を除いてだ」


「そんなのいるに決まっているだろう、ギネヴィアである。彼女は上級精霊のジンと契約を交わしておった。その他にも、三体の精霊を使役しており、誰も消滅させてはいなかった」


 レイラが、魔物のほうではないランスロットの婚約者の名を言う。


 しかし、セミラミスは表情を変えることがなかった。


「他には?」


 淡々とした口調で他にもいるのかと尋ねられると、レイラは顔を俯かせて口を閉ざした。


「ほらみろ、思いつかないではないか。精霊使いは、精霊を道具のようにしか思っていない。使い捨ての道具だ。消滅すれば、次と契約すればいい。その程度の認識だ」


「それは違うわ!」


 静観していたエミが声を張り上げると、セミラミスを睨む。


「確かに精霊の力は便利よ。だけど、すくなくともあたしは精霊を道具だと思ったことは一度もないわ。あたしはこの力で仲間を助けたし、逆に助けられもした。精霊は共に歩むパートナーよ!」


「そうです。ワタクシの契約しているドライアドも、シルフも家族の一員です。道具と思ったことなど一度もありません」


「タマモの言うとおりよ。私も精霊は家族の一員と思っている」


「精霊は便利だが、さすがに道具と思ったことは、あたいの人生の中で一度もない」


『そうよそうよ!ワタシは道具ではないわ。逆にデーヴィッドをオモチャ代わりにして弄っているのだから!』


『ドライアド、そのような言いかたをしたら、後でデーヴィッドに怒られるのではないですか?まぁ、私も彼とは協力関係にあると思っています』


 ライリーに続いて、精霊のドライアドとウンディーネまでもが、自分たちの考えを主張した。


「皆の言うとおりだ。俺たちは精霊を大事にし、共に歩むパートナーだと思っている。確かに道具扱いする人間がいるのは事実だ。だけど、それはそいつらの価値観によるもの。全ての人間が精霊を道具などと思ってはいない!」


 次々に精霊は大切な存在だと言う俺たちに、セミラミスは顔を引き攣らせて、一歩後退する。


「何が家族だ! 何がパートナーだ! 人間の本質は悪そのもの。わらわはこの世に誕生してから人間の醜さを嫌と言うほど見てきた! 人間は身勝手な生き物、自分の都合でものごとを考える自己中心的な生き物だ!」


 声を荒げると、セミラミスは空中に浮遊を始める。


「貴様たちの顔を見ていると気分が悪くなる。今から本気で貴様たちを葬ってくれる!」


 オケアノスの魔王が叫ぶ。


 その瞬間、彼女の身体に変化が起きた。


 パーマがかけられてあるソフトウルフの髪に隠れていた耳が、髪の間から出てきた。


 しかし耳は顔の横ではなく頭部にあり、キツネのように尖ったケモ耳をしている。


 そして彼女の背後から三本もモフモフの尻尾が現れた。


 今の彼女の姿は、ケモノ族だ。


「さぁ、決着をつけるとしようか」


 青い瞳でセミラミスが俺たちを見下ろす。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 前回と同じでブックマークが増えたと思ったら、消えて代わりに評価ポイントがもらえるということが起きたようです。


 まぁ、今回の作品は諦めて次につなげると決めたので、精神的ダメージはあんまりないです。


 寧ろ、今回の失敗をかてにして、次回作のやる気に火がついている状態なのですよね。


 今日なんか、仕事をしながら次回作のプロットを考えてしまいました。


 早く次の物語を書くためにも、今の物語を完結に導くべく、今後の執筆活動も頑張っていきます。


 というわけで、今日のあとがきはここまで!


 物語の続きは明日投稿する予定です。

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