表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

222/243

第三十章 第二話 魔王セミラミスとの関係

 前回よりも早い時間で冥府の島に辿り着いた。


 相変わらずこの島の空気はどんよりとしており、いるだけで気分が悪そうになる。


 視界の先にジュラの森が見え、森の入り口に辿り着く。


 俺は手綱を引いて四頭の馬を止めた。


 昨日実際に森の中に入ってわかったことだが、森の中は足場が悪い。


 馬車で森の中に入ることはむりがある。


 なので、今回もここで馬車を降り、徒歩で森の中を歩くことになる。


「どうにか冥府の島に着いたわね。デーヴィッド、体調のほうはどう?」


 カレンが、赤い瞳のある可愛らしい目で俺を見る。


「まだ毒の成分が体内に吸収されていないみたいだ。今のところ気分はまだ悪くない」


 義妹に笑顔を向けて嘘を吐く。


 本当は若干の吐き気を感じている。


 毒の初期症状が出始めているのだろう。


 御者席から降りると、一羽のリピートバードが俺の頭の上に舞い降りる。


『どうにかここまでこられたな。それでは行くとするか』


「カレン、後のことは頼んだ」


「うん」


 義妹が返事をすると、彼女は俺の頭で羽を休めているレックスに顔を向ける。


「レックス、ちゃんとデーヴィッドを見張っていなさいよ。何かあったらすぐに連絡して」


『分かっておる。俺様に何度も同じことを言わせるな』


「それじゃ行ってくる」


 助手席に座っているカレンに、森の中に入って行くことを告げると、俺はレックスを頭の上に乗せたまま、一人で森の中に入って行く。


 小石が転がり、木の根っ子が地面から出ているという環境の悪い山道を歩き続ける。


 昨日はけっこう山奥のほうまで入り込んだと思っていた。


 だが、セミラミスの言葉を聞く限り、山の中腹だったのだろう。


 詳細な場所は分からないが、山の中で城を構えているのであれば、山頂にあるはず。


 理由としては、高い場所なら見晴らしもよく、攻められても守りやすいからだ。


 だけど、思い込みはよくない。


 時間制限がある以上は、確実に城に向かう必要がある。


「レックス、悪いが山の上から城らしき建物が見えないか見て来てもらえないか」


『仕方がない。見て来てやろう』


 彼にお願いをすると、リピートバードは俺の頭から飛び降りる。


 そして両翼を羽ばたかせて揚力を得ながら徐々に上昇をしていくと、俺の目からは彼の姿が見えなくなった。


 しばらくして空に舞い上がったレックスが戻ってくる。


『空から見た感じだと、城は見えなかった。だが、不自然なほど山頂には木が密集している。山頂にやつの根城があると思ってもいいだろう』


 山頂にセミラミスがいる可能性が高いことを告げられ、俺はこのまま山を登ることにする。


 山道を歩いていると、一本の木に矢印が書かれてあることに気づく。


 書かれてあった矢印は、チョークや絵の具などで書かれてあるわけでもなく、木を削って書かれたでもなく、矢印の形に焼き焦げていたのだ。


 俺は木に描かれた矢印に触れてみる。


 熱などは感じられず、逆にひんやりとした冷たさが伝わってきた。


 このことから、この矢印は大分前に描かれたことがわかる。


『おそらくヘラクレイザーによるものだろう。これはマーキングと言うものだ。ヘラクレイザーは出力を変えることでレーザーの威力を変えることが可能だ。こんなふうに文字を書くこともできる』


 木から手を離してもう一度矢印を見た。


 この大陸の裏の支配者はセミラミスだ。


 その配下であるヘラクレイザーが残した矢印、これから考えるに誘導しているようにも見える。


「レックスはどう思う?俺はこっちに来いと訴えているように見える」


『俺様も同感だ。虎穴に入らざれば虎子を得ず。敵の誘いに乗るべきだと思う』


 俺たちの意見は一致し、矢印が向いている方角に向けて進路を変更する。


 少し歩くと、同じように矢印の刻印が描かれていた。


 道を間違えないように、五メートル間隔で矢印がある。


 導かれるままに歩くと、俺は足を滑らせてしまい転倒してしまう。


『おい、大丈夫か』


「大丈夫だ。足を滑らせただけだ」


『顔色が悪いじゃないか。もう毒の効果が出始めているぞ』


「そんなこと言われなくとも分かっている。力尽きる前に城に辿り着いてみせるさ」


 毒の影響で身体に力が入りにくくなっている。


 けれどまだ大丈夫だ。


 この程度の進行具合なら、意識を失う前に城に辿り着けるはず。


 体調不良に耐えながらも、山道を歩いて行く。


 すると、視界の先に建物が映った。


 あの建物がセミラミスの根城。


 城と言っていたから、カルデラ城のように大きいイメージをしていたが、一階の部分しかない。


 城とは彼女なりの表現だったのだろう。


 城に近づくと門が見え、俺はそっちに向かう。


 門を押してみると鍵はかかっておらず、簡単に開いた。


『まるで首里城の中にいる気分だ』


 俺の横を飛んでいるレックスが、ポツリと言葉を洩らす。


 聞きなれない建物の名だ。


 おそらく前に彼がいた世界での、城の名なのだろう。


 石畳を歩いていると、前方から足音が聞こえてくる。


「わらわは一人で来いと言ったはず。どうして一人で来ない?」


 灰色のソフトウルフの髪を、ミディアムほどの長さでパーマをかけ、色白で赤いドレスを着た女が、唇と同じ青い瞳で俺を見る。


「何を言っている。俺は言われた通り一人で来た。リピートバードは一人ではなく、一羽だ。別に可笑しいところはないだろう」


 俺はレックスが言っていた頓智を彼女に言う。


「ふ、確かに貴様の言うとおりだ。ひとまず一本取られたとでも言っておこうか」


 セミラミスが一笑すると、俺の横でホバリング飛行をしているレックスを見る。


「久しいな。再会するのは役五十年振りだろうか」


『もうそんなに経つのか。俺様はこないだのように思える。せっかく新たな魔物を生み出す手助けをしたと言うのに、クレームばかり告げられたことは忘れていないぞ』


「それはわらわの納得するものが作れない貴様の落ち度であろう。クライアントの要望に応えることができないのが悪い。魔物はわらわたち魔王にとって子のようなもの、せっかくこの世に産み落とすのであれば、ビジュアルは大事であろう」


『ビジュアルが聞いて飽きれる。メフィストフェレスのどこにビジュアルがいいと言える』


「あの男は面白部門で作っただけだ。メフィストフェレスの時には、特に見た目は気にしていなかった」


 レックスが懐かしい名前を出してくる。


 そう言えば、メフィストフェレスの主はセミラミスだった。


 あの男の認識阻害の魔法には、トリックが分かるまでは苦戦をしたものだ。


「既にいない男のことなど、どうでもいい。しかしレックスよ、可愛らしい姿になったものだな。前の見た目よりも断然いいぞ。今ならわらわの配下として面倒を見てやろう」


『ふざけるな!誰が貴様のような毒婦の下につくものか。俺様はいずれ元の姿に戻ってみせる』


 話に割り込むタイミングがなく、二人の会話を静観して聞いていたが、そろそろ限界が近いようだ。


 目の前が暗くなり、一瞬だけブラックアウトをする。


 気がついたときには片膝をついていた。


『デーヴィッド!』


「そうであったな。時間ギリギリであったが、わらわのところに来てくれた。約束どおり、解毒剤をくれてやろう。これを飲め」


 視界がぼやけているが、彼女がドレスのポケットから何かを取り出したのが見えた。


 魔王の言葉が本当であれば、解毒剤なのだろう。


 彼女は取り出したものをこちらに向けて放り投げた。


 だが、飛距離が足りずに俺の手元までには届かない。


『バカ野郎が!』


 レックスが声を荒げると、地面に接触するギリギリでキャッチ。


 そのまま俺のところに持ってくる。


「すまない。わざとではなかった。ただ単に手元が狂っただけだ」


 セミラミスが謝罪の言葉を言う。


 口ではなんとでも言えるが、視界がぼやけている状況下では、彼女がどのような表情をしているのかがわからない。


 顔を見なければ、相手の本音を窺うことができない。


 レックスから受け取った解毒剤を手に取る。


 握った感じだと瓶のようだ。


 もし、レックスが間に合わなければ、確実に割れていただろう。


 蓋を開けると、鼻を摘まみたくなるような異臭が漂ってきた。


 本当に口に入れても問題ないのだろうか。


 しかしこれを飲まないと助からないのも事実。


 俺は勇気を振り絞って、中に入っている解毒剤を口に入れる。


 瓶の中身は液体だったようで、ドロリとした舌ざわりがあった。


 のどを鳴らしながら一気に飲み干す。


「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、」


 呼吸が荒くなり、身体が一気に熱を帯びる。


『おい、本当に解毒薬なのか。苦しそうだぞ』


「安心しろ。すぐには効果が出ないだけだ。時期によくなる」


 セミラミスの言葉は本当のようで、次第に吐き気が収まってきた。


 体温を下げるために流れ出た額の汗を右腕で拭い、立ち上がる。


「セミラミスお望みのとおり来てやったぞ。もう一つの約束を守れ」


 灰色のソフトウルフの女性を見つめ、もう一つの約束を守るように言う。


「貴様の母親の話であったな。よいだろう。話してやろう」


 セミラミスは目を細めて俺に視線を向けてくる。


「貴様は母親を何だと思っている?」


「そんなの決まっているだろう。精霊だ!」


 突然の質問に戸惑うが、俺は母親の正体を告げる。


 すると、魔王は俺の回答に驚いたようで、細めていた目を今度は大きく見開かせる。


「それは本気で言っているのか」


「ああ」


「ふははははは」


 真顔で答えると、セミラミスは突如大声で笑い出した。


 いったい何が可笑しい。


「そうか。あのお方は御子息にそう言っておるのか。彼女なりに考えがあってのことだと思っておったが、まさかそんなふうに嘘をついているとは」


「嘘だと!」


「そうだ。あのおかたは嘘を吐いている。あのおかたの正体は魔王だ」


 セミラミスは、ミディアムほどの長さであるソフトウルフの髪を触りながら、母さんの隠しごとを言う。


 彼女の白い指の間から髪の毛が零れるのを見ながら、俺は呆然と立ち尽くす。


 母さんの正体が精霊ではなく魔王だと。


 それは何かの間違いだ。


 俺の父親は人間。


 仮に母さんが魔物だったとしても、俺の容姿に父さんの特徴がある以上は、魔物の子ではない。


 魔王は精霊の残留思念を集めることで、魔物を生み出すことができる。


 しかし、俺は父さんから母さんの出産エピソードを聞いている。


 助産師が傍にいたのだ。


 出産の際に立ち会っている限り、俺は母さんのお腹の中から生まれた。


 それは間違いないはず。


 これは絶対に、セミラミスが俺を混乱させようとしている罠だ。


 俺が魔王の子であるはずがない。


「嘘を言ってもむだだ。俺はお前の言うことを認めない」


「そうか。では仕方がない。姉であるわらわが、聞き分けのない弟に真実だと認めさせようではないか」


「姉……弟……だと」


 セミラミスの言葉に、俺の頭は再び真っ白になる。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 今日、ブックマーク登録が増えた夢を見てしまいました。


 どんだけ気にしているんだよ!


 夢に出るとか気にしすぎだって!


 数日間ブックマーク登録がないのは、この前までは当たり前だったのに、一日一人のブックマークが一時的についたことで、期待してしまっている私がいるようです。


 でも、あのブクマブーストはいったい何だったのでしょうか?


 最初はサブタイトルの力なのかと思っていましたが、急に登録者数がピタリと止まると、謎になります。


 オカルト的な力でも働いたのでしょうか?


 原因がわからない以上は、神のみぞ知ると言ったところですね。


 というわけで、ブックマーク登録者が増えた夢を見た件でした。


 物語の続きは明日投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ