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第二十九章 第一話 民の目を欺く策

 アームレスリング大会に優勝した俺は、カルデラ城を訪れていた。


 レイラたち女性陣は城下町の宿屋に行ってもらい、俺だけがいる。


 心配してくれた彼女たちは、最初は俺について行くと言っていたが、これは俺の仕事だ。


 確実に不穏な空気になると分かっている中、皆を連れて行くわけにはいかない。


 廊下を歩き、玉座の間につながる扉を開けて中に入る。


「デーヴィッドさーん」


「うわっ」


 入室するなり、カルデラ王国の王女様が俺に飛びついてきた。


 咄嗟のことだったので、俺は彼女の身体を支えてあげることができずに、その場で転倒してしまう。


「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」


「わかった。わかったから退いてくれ」


 押し倒している状態の彼女に、俺は離れてもらうように言う。


「あ、ごめんなさい。嬉しくってつい」


 アナは笑顔を向けてくると、離れてくれた。


 起き上がった俺は、立ち上がって玉座を見る。


 高級な素材で作られた椅子には、彼女の両親である国王夫妻が座っている。


「デーヴィッドよ。よくぞ優勝した……と言えばいいのだろうか」


 この国の王は、顔を俯かせながら俺に言ってくる。


 きっと俺が優勝するとは思っていなかったのだろう。


 彼の頭の中では、優勝するのはアナのお見合い相手であるタイガになっていたはずだ。


 そうでなければ、今のように歯切れを悪くして言葉を言わない。


 そんなの、今の俺にはどうでもいい。


 これでアナのお見合い計画はなくなった。


 あとは彼を説得するだけ。


 王様に近づき、俺は深々と頭を下げる。


「嘘を吐いていました。本当はアナスタシア姫とはお付き合いしていません」


「何?それはどういうことだ」


 カルデラの王は、低い声で問うてきた。


 下げた頭を上げて彼を見る。


 王様は鋭い視線を向けていた。


「真実を今からお話します」


 俺はガリア国でアナと出会ったこと、彼女にお願いされて協力していたことを話した。


 当然お見合いが嫌で、城を抜け出したことも言った。


「この馬鹿者が!」


 事情を説明すると、王様はいきなり怒鳴りつける。


 しかし、彼は俺に言ったのではない。


 俺の後ろに控えていたアナに言ったのだ。


「どれだけ王族の恥じをかかせれば気が済む!それでもこの国の王女か!」


「貴男、デーヴィッドさんの前ですよ」


 静観していたお妃様が、夫に落ち着くように言う。


 妻の一言で我に返ったのだろう。


 王様は一度咳払いをすると、俺に視線を向けてきた。


「娘が迷惑をかけたな。そなたにはあとで詫びの品を送ろう」


「いえ、そんなものはいりません。私が望むことは、どうかアナスタシア姫様の言葉に耳を傾けてほしい。ただそれだけです」


 俺はなるべく冷静に、波風が立たないように気をつけながら言葉を選ぶ。


「アナスタシア姫様は、ただお見合いが嫌という理由だけで、このお城を抜け出したと言う訳ではありません。アナスタシア姫様は、外の世界に興味を持っていました。この広い世界に興味を持ち、更なる見聞を広めたい。けれど、見合いをして身を固めてしまっては、それは叶わない。そう思った彼女は、自分自身の向上のために自らの意思で、お城を飛び出しました」


 即興で作った作り話を、王様に聞かせる。


 王族の窮屈さを、俺は知っている。


 だからアナの気持ちもわからなくはない。


 だけど、いずれは王族の血を引く彼女は、女王としてこの大陸の民を導かなければならない使命を持っている。


 けれど、それまではできることなら自由にしてやりたい。


「お願いします。もう少しだけ、アナスタシア姫様を自由でいさせてくれませんでしょうか」


 もう一度王様に向けて頭を下げる。


「アナよ。デーヴィッドが言っていることは本当なのだろうな」


「は、はい!」


 自由になりたいからだろう。


 アナは俺の作った嘘に合わせ、返事を返す。


「デーヴィッドよ、頭を上げるがよい」


 王様に促され、下げていた頭を上げる。


「若い頃は、私もアナのように外の世界に憧れていた。けれど、この国を統べる者として身勝手な行動はできなかった。だけどアナには行動力がある。見聞を広めたいという気持ちもよくわかる。ただ自分かってな私利私欲のために、城を抜け出したのではないことも分かった」


「それじゃあ」


 王様の言葉を聞き、アナは顔をほころばせる。


「しばらくの間はむりに結婚しろとは言わない。お見合いの件も白紙に戻そう。だけどアナはこの国の姫だ。いずれは伴侶とともにこの国を収めなければならない。そのことは覚えておくように」


「ありがとうございます」


 アナが父親に礼を言うと、彼は首を横に振った。


「お礼を言うのは私ではない。デーヴィッド殿だ」


「ありがとうございます!デーヴィッドさん!」


 勢いよくアナが飛びついてくる。


 今度は彼女を支えることができ、転倒することはなかった。


「ゴホン、デーヴィッド殿。娘を自由にすることにしたが、ひとつ問題があることには気づいているかね?」


 王様が一度咳払いをすると、俺に問うてきた。


 彼が言いたいことは、ある程度分かっている。


 俺は軽く頷くと、王様が言いたいであろうことを口にする。


「はい。優勝したことで、世間には私がこの国の次の統率者だと思われているでしょう」


「そうだ。そなたはそれだけ注目を集めてしまった。アナの願いを聞き入れるためとは言え、引くに引けない状態になっている。そのような状況下で、そなたは今後どのように民衆の目を惑わすつもりだ?」


「惑わす必要はありません。私が死ねばいいだけです」


 王様の質問に即決して答える。


「ええー!」


 俺の回答を聞いたアナは、両の頬に手を持って行きながら驚きの声をあげた。


「デーヴィッドさん。いくら何でもそこまでする必要はないですよ。あなたが死ぬぐらいなら、わたしは自由にならなくていいので」


 アナが俺の服の袖を引っ張る。


 王様も信じられないものを見たかのように、目を大きく見開かせた。


 さすがに誤解を招くような言いかたをしてしまったようだ。


 これはすぐに訂正しないといけない。


「アナ、誤解だ。本気で死ぬつもりはない。これはあくまで策の一環にすぎない」


「本当ですか?」


「本当だ。俺にはやらないといけないことがある。それを達成するまでは死ぬつもりはない」


 彼女は本気で焦っていたようだ。


 目尻には涙が溜まっており、今にも零れ落ちてしまいそうだ。


「策とはどういうつもりだ?教えてくれ」


「つまり、こういうことです」


 王様に促され、俺は頭に嵌めていたカチューシャを取り、続いて頭につけているエクステを外す。


「な、何と!」


 本当の姿を曝け出したことにより、王様はかなり驚いてしまっているようだ。


 空いた口がふさがっていない。


「あわわわ、デーヴィッドさん。今外しちゃって本当にいいのですか?」


 ありのままの姿を見せたことで、アナは再び慌てだす。


「王様、すみません。まだ嘘を吐いていました。私はケモノではなく人間です。私の正体は、王都オルレアンの王子、デーヴィッド・テーラーです」


「デーヴィッド殿は人族だったのか?」


「はい。訳あってこのオケアノス大陸に来なければならなくなり、ケモノ族たちから情報を得るために、変装をしていました」


 俺は母さんの隠された秘密を知るために、この大陸に住む魔王セミラミスの居場所を探していること、ケモノ族に配慮するために変装をしていたことを告げる。


「なるほど、そうであったか。事情は分かった。つまり死ぬというのは、獣人に変装したデーヴィッド殿が死んだことにすると言うことだな」


 王様の問いに無言で頷く。


 オケアノス大陸にいる間は、アナの婚約者を装う。


 だが、セミラミスから母さんの秘密を教えてもらい、この大陸に用がなくなれば変装をする必要がなくなる。


 そしたら、ケモノ族のデーヴィッドは死んだことにすればいいというわけだ。


「わかった。確かにそれなら、何かと問題が起きることはないだろう。この大陸にいる間は、私の後継者に成りすましてくれ。魔王という者が本当にこの大陸にいるのかはわからないが、何かの情報が入り次第、そなたに教えることを約束しよう」


「ありがとうございます」


 俺は王様に礼をいい、軽く頭を下げる。


「この大陸にいる間はこの城に住んでくれ。そうでなければ民たちから怪しまれる。そなたの仲間も、特別に城に住むことを許可しよう」


「ありがとうございます」


 王様に再び礼を言う。


「アナよ、悪いが彼を部屋に連れて行ってくれないか。私は兵士長に、獣人たちを使って情報を集めるように言ってこなければならない」


「お父様、獣人ではなくケモノです!」


 王様が席を離れることを告げると、アナは彼に言葉の訂正を求める。


「そう言えば、デーヴィッド殿も言っていたな。そのケモノと言うのはいったい何なのだ?」


「ケモノと言うのは、獣人の新な呼び名です。獣人と言えば人と獣の間に生まれた醜い生き物だと思われてしまいます。暗黒の歴史を知らない人からすれば、獣人と言う生き物は人とは違う種族だと思っている人が多いのが現状です。なので、ここで言いかたを変えて意識改革を行えば、人族と獣人の間での溝が埋まっていくのではないかと考えています」


「なるほど、意識改革か。確かにこの大陸に住む民は、古い歴史を知らない者が多い。そなたの言うように呼び名を変えれば、また違った未来へと歩むことができるかもしれないな。民たちには、これからはケモノと呼ぶように促すとしよう」


 ケモノと呼ばせるようにする約束をすると、王様はお妃様と一緒に部屋から出て行った。


「それではデーヴィッドさん、行きましょうか。お部屋に案内します」


 アナが客室に案内してくれるとのことで、俺は彼女と一緒に玉座の間からて出て行く。


「それにしてもビックリしましたよ」


「何がだ?」


 廊下を歩いていると、隣を歩いていたアナが話しかけてくる。


「どうしてわたしが、見物を広めるために別大陸にいたことがわかったのですか?あれも前に言っていた観察力によるものなのですか?」


 不思議な顔をしてアナが尋ねてくる。


 どうやら俺が作った即興話は、事実だったようだ。


 噓も方便という言葉があるが、まさか嘘から出たまことになるとは思ってもいなかった。


「ま、まぁな。そんなところだ」


 ただの偶然だと片づけてしまうのは、なんだか格好悪い。


 そう思ってしまった俺は、思わず嘘を吐く。


「さすがデーヴィッドさん」


 彼女と話していると、客室に着いたようだ。


 アナが扉を開けて中に入るように促す。


 部屋は高級な素材で作られていると思われるベッドや箪笥、机などがある。


 だが、机には本が何冊も積まれて置いてあり、箪笥は開かれた状態でとても生活感があった。


「なぁ、もしかしてこの部屋って」


「はい、わたしの部屋です。今日からデーヴィッドさんのお部屋にもなります」


「何でそうなる!」


「だってデーヴィッドさんは、この大陸にいる間はわたしの婚約者じゃないですか。なら、同じ部屋で暮らしていないと変ですよ」


「確かにオケアノス大陸にいる間は、アナの婚約者ということになるけど、色々と問題があるだろう」


「大丈夫ですよ。ベッドはキングサイズになっているので、二人で寝ても狭くはないです。それに着替えなどもメイドに頼んで用意しておきますので」


 どうやらアナは、俺が言いたいことがわかっていないようだ。


「頼むから客室のほうに案内してくれ!」


 俺は思わず声を上げる。


 もし、アナと同じ部屋で暮らすことがレイラに知られば、冗談では済まされない。


 身の安全を確保するためにも、俺は客室に案内してもらうように懇願した。

 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 おそらくですが、ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 このような表現になってしまったのも、前日のポイントがうろ覚えであり、はっきりと覚えていないのです。


 私の記憶ガバガバすぎでしょう!


 たぶん登録してくださった人が増えていると思うのですが、最近は毎日投稿後に、二十四時間以内に一人は登録してくださっております。


 なので、もしかしたら私の願望が、脳の記憶を司る海馬に嘘の記憶を植え付けられ、自分の都合のいいように脳の記憶が書き換えられているかもしれません。


 それに昨日、作品を投稿したあとに、ストロングの缶酎ハイを飲んで酔っ払っていたので、余計に記憶に自信がありません。


 酔いに関しての話は、第十七章の第三話、二日酔いにはシジミ汁がいいって言うけど、あれは半分嘘だってよに書いていますので、酔いについて気になったかたは、もう一度そちらを読んでもらえればと思っていります。


 今日も酒を飲む予定なので、記憶違いが起きてもいいように、スマホのメモに現在のポイントを書いておこうと思います。


 というわけで、今日のあとがきはここまで!


 物語の続きは明日投稿する予定です。

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