第二十八章 第六話 アームレスリング大会開催
翌日、俺たちはアームレスリング大会に参加するために、カルデラ城に来ていた。
「たくさんの人が来ているのです!」
城に集まったケモノ族を見て、アリスが指を差す。
大会に参加しに来たのか、それとも観客として来ているのかはわからない。
けれどもの凄い数のケモノがいる。
「大会に参加する人はこちらに来てください」
ケモノの群れの中から、大会関係者と思われる人の声が聞こえてきた。
「それじゃあ行ってくるよ」
「頑張ってくださいなのです。デーヴィッドお兄ちゃん、ライリーお姉ちゃん」
アルビノの少女の声援を受け、俺とライリーは声が聞こえたほうに向っていく。
どうやら観客のほうが多かったようだ。
呼び声に集まったのは十数人のケモノだった。
ケモ度二、ケモ度三のケモノがこの場にいる。
皆腕に自信があるようで、牽制するように己の筋肉を見せびらかしている。
「なんだよあいつ、人間の血が濃いじゃないか」
「それに華奢な身体つきだぜ、あいつと戦うやつは楽勝だな」
「いや、逆に難しいぜ。普通にすれば腕の骨が折れてしまう。子どもを相手にするように、手加減をしなければならない」
「ダハハハ」
俺たちを見て、大会の参加者たちがひそひそ話をしてくる。
けれど空気の振動が伝わり、俺の耳に彼らの声が届いてくる。
「ライリー、挑発に乗るなよ」
俺は隣にいる前髪を作らない長い黒髪の女性に言う。
「わかっている。今のうちに見下しておけばいいさ。あたいたちに負けたとき、いったいどんな顔をするのだろうねぇ」
喧嘩腰になりやすい彼女を心配して声をかけたのだが、冷静に状況を判断してくれている。
「それでは今から受付を始めます。一列に並んで、この紙に名前を記入してください」
受付担当のケモノの指示に従い、俺とライリーは列に並ぶ。
用紙に自分の名前を書き、受付を済ませる。
すると城の敷地内にある闘技場の通路に案内された。
ここから闘技場内を見ることができる。
リングの上に、アームレスリング専用台が置かれ、観客席には満員ではないのかと思うほどの人数が見物に来ていた。
「それでは今大会の出場選手の入場です」
大会のレフリーだと思われるケモノがリングに上がり、選手入場を知らせる。
『ついに始まりました。第二十七回アームレスリング大会。実況はわたくしケルビがします』
俺たちは一列に並んだまま闘技場内に入った。
すると、観客たちから熱い声援が送られると共に、どこからかエコイングボイスを使ったかのような声が、闘技場内に響く。
その人物は、闘技場のリングに近い場所に設置されてある長いテーブルの椅子に座り、手には筒状の先に丸いものがついている物体を握っている。
あれは知識の本で呼んだことがある。
マイクというもので、エコイングボイスのように声を響かせることができるものだ。
エミたちの世界から持ち込まれたもので、この世界では魔道具として扱われている。
アリスが自身の手をマイクに見立てていたが、実物を見るのは初めてだ。
「それでは、続いて王様からのご挨拶があります」
リングに上がると、王様からの挨拶があると聞かされる。
俺たち参加者は、王様がいる場所に注目した。
「諸君、遠路遥々よく来てくれた。第二十七回に相応しい晴天でなによりだ。己の力を思う存分出し切ってくれ。そして今回は優勝賞金十万ギルとしていたが、新たに副賞を付け加えることにした。なんと、優勝者には我が娘、アナスタシアとの結婚をさせ、私の跡を継いでもらう」
王様の言葉に、この場にいる全員がどよめく。
『おおーと!これは意外過ぎる展開だ!まさか優勝者にはアナスタシア姫様と結婚ができ、この国の王様になれると言う!なんとも羨ましい限りだ』
「アナスタシアこちらに」
王様に促され、アナが俺たちに姿を見せる。
彼女はローブ姿ではなく貴族のドレスに着替えていた。
お姫様を見ていると、彼女と目が合う。
「あ、デーヴィッドさーん!頑張って優勝してください!わたし応援していますから!」
アナは大きな声で、俺に声援を送ってくる。
その瞬間、観客や出場者の視線が俺を射抜く。
『な、なんと!デーヴィッド選手、アナスタシア姫様とお知り合いなのか?お手元の資料には何もデーターがありません。どうやら初参加のようです。彼はいったい何者だ!』
「あいつ、姫様と知り合いなのか」
「姫様に応援されるとか羨ましい」
「あいつだけは瞬殺させる」
出場者が次々と負の感情を口に洩らす。
俺はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「で、では、選手の皆さんは一度控室のほうに戻ってください。順番がきましたらお呼びしますので」
レフリーに促され、俺は控室に向かう。
「おい、そこのお前!」
背後から何者かに声をかけられ、右肩を掴まれる。
振り返ると、そこには長身のケモノがいた。
ケモ度二のトラ型の男だ。
「俺に何か?」
「お前、アナスタシア姫とはどういう関係だ?」
どういう関係だと聞かれ、俺は一瞬考える。
素直に事実を言っていいものだろうか?しかし、どこで城の関係者に聞かれているかわからない。
バカ正直に話せば、トラブルを引き起こす可能性もあるだろう。
ここは演技をするべきだ。
「アナは俺の彼女だ。だから彼氏を応援するのは普通のことだろう」
「か、彼女!ふざけるな!俺はレフ島の管理を任せてある子爵の息子だぞ!彼女は俺のものになる予定だったんだ!彼女を俺のものにしなければ、俺は!」
彼の言葉を聞き、俺はピンとくる。
目の前にいる男は、アナのお見合いの相手だったのだ。
おそらく、お見合いに成功すれば爵位を上げてもらえると親が言い、期待に沿うように命令されているのだろう。
「なら、この大会に勝てばいいだろう。俺を倒し、優勝してみせろ。お前が優勝したのなら、俺はルールに則り、いさぎよく身を引いてやろう」
瞬時に考えた言葉を、俺は言う。
このような言いかたをすれば、彼も納得してくれるだろう。
それに城の関係者が立聞きしていたとしても、欺けるはずだ。
「いいだろう。それなら多くの人が見ている前で恥をかかせてやる。無様に負けるお前の姿を見れば、アナスタシア姫も目が覚めるだろうよ」
彼は言葉を吐き捨てると、わざとらしく肩をぶつけてきた。
「デーヴィッド選手、ファンゴ選手、闘技場までお越しください」
係のケモノが俺の名を叫ぶ。
どうやら俺が一番手らしく、控室に行く前に出番が来た。
闘技場の廊下を抜け、リングに立つ。
すると反対側の通路から対戦相手が現れた。
ケモ度三のイノシシ型のケモノだ。
「貴様が相手か。まさかこの大会に参加しているとは思わなかったぜ。昨日の借りは返してやる」
リングに上がるなり、彼は俺を睨みつけてきた。
対戦相手は、昨日エミたちに絡んでいたガラの悪い三人組の一人だ。
「ああ、昨日俺たちの前でゴリラの男と熱いキスを交わしていたやつか」
「思い出されるな!俺はあの後すぐに家に帰って、しっかり歯磨きをしなければならなくなったんだぞ!」
「歯が綺麗になってよかったじゃないか」
「よくない!今日はテメ―をギッタンギッタンのベッコベコのへなちょこにしてやるからな!」
対戦相手のファンゴが人差し指を俺に向けてくる。
ケモ度が三でも、彼の手はアナとは違い、人間に近い手をしている。
「デーヴィッド頑張って!」
「デーヴィッドお兄ちゃんファイトなのです!」
「デーヴィッドよ。そなたなら優勝すると余は信じておるぞ」
仲間の声援が耳に入り、俺は彼女たちの声が聞こえたほうに顔を向ける。
アリスはいつものようにローブを羽織っていたが、それ以外はいつもの服装とは違っていた。
生地が短く、おへそが丸出しの服を着ていた。
ネックラインがⅤネックになっているので、スッキリとした可愛らしさと爽やかな印象をもつ。
そして丈の短いスカートをはいており、手にはポンポンを持っている。
「フ、フレー、フレー……デーヴィッドさん」
エミ、カレン、レイラは恥かし気もなく手や足などを動かしてはいるが、タマモは恥かしいようだ。
動きが小さく、遠慮しているように見える。
『もし優勝したら、あの日の夜のときみたいに、タマモの身体を使っていいことをしてあげるわ』
距離がそんなに離れていなかったのか、俺の脳内にドライアドの声が響く。
レイラたちの応援は凄く嬉しかったが、精霊の応援だけは反応に困った。
『デーヴィッド選手、彼は何者なのだ。可愛らしい女性たちから応援を受けているぞ』
場を盛り上げるためか、ケルビはカレンたちのことを言う。
そのせいで、会場内にいる男たちから突き刺さるような視線が送られた。
「ああくそう。むかついてくるぜ。アナスタシア姫だけではなく、連れの女たちにも応援されていやがる。どうしてお前のような人間の血が濃ゆいやつがモテやがる」
俺に送られる声援が気に入らないのか、ファンゴは堂々と悪態を吐く。
しかし、彼の言った言葉に対して訂正したい部分がある。
心の中で何度もつぶやいていることだが、別に俺はモテていない。
たまたま男女比に差があるだけだ。
もし、俺が本当にモテていたのなら、今の俺はDTではなかったはず。
「それでは勝負を始めます。ルールは魔法禁止、どちらかの手がタッチパットに触れたほうの負けです。グリップバーから手を離したり、エルボパットから肘が出たり、浮いたりしたらいけません。両足を浮かせることや、自分の腕が自分の身体に当たらないようにしてください。ケガの原因になります。勝負は一発勝負。では、バーを握ってください」
レフリーの指示に従い、俺は左手でグリップバーを握る。
そして右肘をエルボパットに置いた。
対戦相手も同じように準備ができたことを確認し、俺はしっかりとファンゴの手を握る。
そして自分の親指の第一関節を、人差し指と中指に入れた。
「両者準備が整いましたね。それでは私の合図で始めてください。レディーファイト――」
勝負は一瞬で終わった。
俺がファンゴの腕を押し、圧勝した。
「と言ったら初めてください」
勝ったと思った瞬間、レフリーが今のは前振りだったことを告げる。
ぬか喜びをした俺は、気が抜けたことで足を滑らしてしまい、台に額をぶつけてしまう。
「アハハハハ。ざまぁみろ。何?今の勝ったと思った?お前、この大会は初めてのようだな。あのレフリーは、最初は引っかけてくるんだよ。アハハハハ」
ファンゴがバカみたいに笑ってくる。
何も知らない俺を見て、優越に浸っているようだ。
『おーと、今年もやはりありました。今大会初出場のデーヴィッド選手。レフリーのことを知らないせいで、赤っ恥を掻いているぞ!』
実況を担当しているケルビが余計なことを口走っている。
カレンたちのほうを見ると顔を赤らめ、俺と目を合わせようとはしなかった。
「あー、今のはノーカンと言うことで、仕切り直しをさせてもらいます」
再びやり直すことになり、俺は一度深呼吸をする。
感情に流されるな。
ここで自分を見失えば本当に負けてしまう。
呼吸を整え、左手でグリップバーを握り、右肘をエルボパットに乗せる。
そしてファンゴの手を握りなおす。
「両者準備が整いましたね。それでは私の合図で始めてください。レディーファイトと言ったら初めてください。レディーファイト!」
今度はタイミングを間違えることなく、俺は彼の手を押し倒す。
「何!」
ファンゴが驚くがもう遅い。
彼が声をあげた瞬間には、イノシシの手がタッチパットに触れていた。
『なんということでしょう。デーヴィッド選手がファンゴ選手をめくった。華奢な身体に油断してしまったのか!』
ケルビが結果を報告すると会場内にどよめきが走る。
それほど俺が弱そうに見えたのだろうか。
「さすがデーヴィッドである」
「やったーなのです!デーヴィッドお兄ちゃん」
俺が勝ったことを喜んでくれているようだ。
レイラとアリスが観客席から声をかけてくる。
「絶対に陰で魔法を使っていただろう。そうじゃなければ俺が負けるはずがない」
負けたことがよほど悔しかったのだろう。
ファンゴはインチキを使ったと、根も葉もないことを言う。
「負けたのに認めないとか見苦しいって。いいか。アームレスリングはここじゃなくてここで勝負するんだ」
俺は一度腕を指差し、その後自身の頭に向ける。
アームレスリングは腕力が強い人が勝つと思われている人が多いが、実は最も必要なものは姿勢とテクニック。
これさえ分かっていれば、腕力があるだけの相手に負けることはない。
俺は踵を返すとリングから離れ、控室に戻って行く。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。
ついに登録者数が七十人になりました!
本当にありがたいことです。お陰で執筆活動も頑張ることができます!
底辺脱出まであと三十人!
新規の登録者がいない日もありますが、最近は一日一人登録していただけております。
この調子でいけば、今年中には登録者数が百人になってくれるかもしれないですね!
願望ですが、できれば今年中に底辺を脱出できるのなら、したいものです。
底辺を脱出できるかはそもそも私次第なので、今後も頑張って努力していきます。
一日の読者人数ですが、下回るときもありますが、大体百人を超えるようになってきました。
本当にありがたく、あなたに感謝しています。
役七割の読者が登録していることになりますが、まだ登録されていない読者にも、登録してもらえれるように頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
物語の続きは明日投稿予定なので、楽しみにしていただければ幸いです。




