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第二十八章 第四話 カルデラ王との謁見

 今回のワード解説


指球……前足、後ろ足の指の根元に存在する、小さ目な5つの肉球。

 カレンとレイラによる妹対決が終わると、俺はアナとカレンの三人で、彼女の実家に向かう。


 アナは例の作戦を決行し、俺の腕に自信の腕を絡ませた。


「ねぇ、こっちの方角にはお城しかないのだけど、アナスタシアのご両親って、お城で働いている人なの?」


 後方から義妹の声が耳に入る。


 監視役としての仕事をしているのか、彼女は一歩後ろを歩いていた。


「そうです。今から向かうのはお城です」


「そう、わかったわ」


 アナの返答に、カレンは淡々と答える。


 おそらく義妹は、アナがこの国の姫であることには気づいてはいないだろう。


 彼女の正体がわかったとき、カレンはどんな反応をしてくれるのだろうか。


 俺が彼女の期待を裏切ってしまった分、できることならカレンがいいリアクションを取ってほしい。


 城門につながる坂を歩くと門が見え始める。


 大きな扉の前には、二人の門番が見張りをしていた。


 一人はケモ度三の牛型のケモノ、もう一人はケモ度二の虎型のケモノだ


「おい、そこのお前たち。一旦止まれ」


 俺たちに気づいた牛型のケモノの男が、足を止めるように言ってきた。


「見るからに怪しい奴だ。一人はローブにお面をつけていやがるし、男と後ろの女は人間の血が濃ゆそうだ」


 見張りの一人が、不審者を見るかのように鋭い視線を送ってくる。


「俺たちは城に用事がある。ここを通してくれ」


「だめだ。お前たちのような怪しい人物を、城の中に通すわけにはいかない。観光なら他所でしろ」


 用事があるので城に通すようにお願いするも、虎型のケモノの男が拒む。


「そこを何とか」


「ダメなものはダメだ。聞き分けが悪いと、牢屋にぶち込むぞ」


 再度お願いをするも断られる。


 俺は横にいるアナに視線を向ける。


 お面を被っているので、彼女の表情がわからない。


 お面の内側では、彼女はどんな表情をしているのだろうか。


 話し合いで解決できない以上は、アナにお願いするしかない。


「アナ、頼めるか」


「言われなくとも分かっていますよ」


 絡めていた腕を放すと、アナは一歩前にでる。


「おい、それ以上近づくと、本当に牢屋にぶち込むぞ」


 虎型のケモノの男が警告をする。


「このわたしを牢屋にぶち込む?門番風情が、やれるものならやってみなさいよ」


「このやろう。俺たちをバカにしやがって」


「牢屋にぶち込んでやる」


 彼女の挑発に乗ってしまった二人の門番が、握っていた槍を上段に構える。


 そのまま振り下ろして、棒の部分で殴打しようとしているのだろう。


 門番たちは跳躍をすると、槍を振り下ろす動作に入ろうとする。


 その瞬間、アナは被っていたフードを外し、お面も顔から取った。


「姫様!」


「戻って来られたのですか!」


 牢屋にぶち込もうとした人物が、自分たちが仕えるべき相手だったことを知り、男たちは視線を合わせる。


 すると、二人は狙いを変えて槍を横薙ぎに振った。


 棒の部分が自分の相方の顔面に当たり、門番たちは仰向けの状態で倒れる。


「アハハハハ」


 同士討ちを行った二人を見て、アナは右手の指球(しきゅう)を一本伸ばして倒れている彼らに向けながら、左手をお腹に持ってくると笑い出した。


「アナ、いくら何でもやり方がエグくないか?」


「人を見た目で判断するのがいけないのです。彼らにもいい教訓になったでしょう」


 俺は倒れている二人のケモノに視線を向ける。


 彼らは本気で気絶させるつもりで殴ろうとしていたようだ。


 門番たちは白目をむき、意識を失っている。


「あ、今のでカレンさんにはバレてしまいましたね。そうなんです。実はわたし、この国のお姫様だったのですよ」


 両の手を斜め上空に持って行きながら、自分がこの国の姫であることアナは告げる。


「そんなこと、城に向っている段階で気づいていたわよ」


 義妹の言葉に、アナは石化魔法を食らったかのように動かなくなった。


 よくよく考えれば、王都オルレアンにガリア国、何かと城と王族に縁がある。


 そのことから、彼女なりに推察していたのだろう。


 固まって動かなくなったアナの肩に俺は手を置く。


「ドンマイ」


「どうしてこうも上手くいかないのですか!わたしの苦労はいったい!」


 声をかけたことで、オケアノスの姫は正気に戻ったようだ。


 彼女は顔を上に向けると、声を荒げる。


 俺に続き、カレンにも驚かせることに失敗したアナは、再び落ち込んでしまった。


「なぁ、元気だせよ」


「元気を出せと言われて元気が出るほど、ケモノの心は単純ではないですよ」


 彼女が元気にならなければ、いくら俺がサポートしたところで、国王陛下たちの言葉に言いくるめられる可能性が高い。


 どうにかして元気を取り戻してもらわなければ。


「まだ俺とカレンだけだ。レイラたちがいる。チャンスは残されているぞ」


 まだ可能性が残っていることを教える。


 すると、落ち込んでいたアナの目に光が宿った。


「そうでした。まだチャンスがあります。よーし、今度は上手く驚かせるぞ」


 俺の言葉に、アナは元気を取り戻す。


 言いかたが悪いが、チョロかった。


「それでは、お父様たちを説得しに行きましょう」


 アナは再び俺の腕に自信の腕を絡ませてくる。


 彼女の隣を歩きながら、俺たちは城につながる門を潜った。


 家出王女が戻ってきたと言うことで、城内は慌ただしかった。


 俺たちは玉座の間に通され、国王夫妻が来るのを待っている。


「ねぇ、いつまでこの態勢をキープしていないといけないのよ」


 隣にいるカレンが小声で尋ねてきた。


 俺とカレンは、片膝をついて頭を下げている。


 俺たちはケモノ族に成りすましているために、身分を明かすことができない。


 そのため、扱いは庶民と変わらないのだ。


「王様たちが来て、頭を上げていいと言われてからだ。俺も父さんと初めて謁見したときはこうだった」


 小声でしばらくはこのままでいないといけないことを告げる。


 反対側にはアナもいたが、彼女は普通に立っていた。


 まぁ、この国の王女なのだから当然の行動ではある。


 この玉座の間には、見張り役の兵士が数人壁沿いに控えている。


 さっきから視線を感じ、変な緊張感を覚えていた。


「待たせたな、旅の者よ。顔を上げ、楽にするがいい」


「ありがとうございます」


 王様と思われる人物から楽にするように言われ、俺は顔を上げると立ち上がった。


 玉座には、アナのご両親が座っていた。


 キツネと猫を足して二で割ったような容姿のケモノ族の男性と、犬型のケモノ族の女性だ。


 アナが持っていたチェキに写っていた人物と同じ容姿をしている。


 違うところを敢えて言えば、写真よりも少し老けているところぐらいだ。


 間違いない。


 あの二人がアナのご両親である国王夫妻だ。


「いなくなった娘をよくぞ連れてきた。礼を言う」


「勿体なきお言葉」


「お主、名前は何という」


「デーヴィッドと申します。私の隣にいるのが妹のカレンです」


 相手はこの国の王。


 なので、俺は一人称を私に変え、口調も丁寧にした。


 そして隣にいるカレンを紹介する。


「お初目にお目にかかります。王様、カレンと申します」


 義妹を紹介すると、カレンはスカートを軽く摘まみ、右足を少し下げて軽く頭を下げてから、挨拶をした。


 複数のことを同時にやらないようにすることによって、優雅さを演出することができる。


「旅の者と聞いていたが、それなりにいい育ちをしているようだな」


 カレンの行動を見て、王様は俺たちをただの旅人から、育ちのいい平民へとワンランク上げたようだ。


「娘をつれてきた褒美をやろう。何が欲しい、言ってみろ」


 アナの父親から望みのもの言うように促され、俺は唾を飲み込む。


 ここでアナのお見合いをなかったことにしてほしいと言えばいい。


 そうすれば、俺は彼女たちの協力を得て、魔王セミラミスの情報を得ることができる。


「私が望むものは――」


「はーい!デーヴィッドさんが望むのはわたしです。だって、わたしの恋人なんですもの」


「へ?」


 隣に立っていたアナが、いきなり口を挟んできた。


 そして俺の代わりに望みを言う。


 彼女の言葉を聞いた俺は、錆びたブリキのおもちゃのようなぎこちない動きで、首を横に向けてアナを見る。


「ね!」


 彼女と目が合うと、アナは片目を瞑って俺にウインクをする。


 何でお前が言うんだ!


 しかもそれは俺が言いたかったことと微妙に違う!


 いくらお見合いをなかったことにしたくとも、その言いかただと誤解を生むだろうが!


 俺は心の中で叫ぶ。


 動悸が激しくなり、手から手汗が出てきた。


 彼女の言葉に、この部屋中にいた人がどよめく。


 無理もない。


 俺も第三者の立場になっていたのなら、同じような反応をしていたはずだ。


「兵士長、すまないが人払いを頼む」


 壁沿いに控えていたケモ度二の狼型のケモノに、国王陛下が人払いをするように言う。


「了解しました」


 王から下された命令に従い、兵士長のケモノは部下たちを引き連れ、この部屋から去っていく。


 この空間に俺たち五人だけとなると、再び国王陛下が口を開く。


「デーヴィッドと言ったな。アナの言ったことは本当か?」


 違う、今彼女が言ったことはすべてが事実ではない!


 そう言いたかったが、今更訂正をしても色々とややこしくなりそうだ。


 こうなってしまったのならば、その路線で行くしかない。


「はい。事実です。私はアナスタシアさんとお付き合いをさせてもらっています」


 俺は彼女の彼氏役を演じる。


「ならぬ!」


 付き合っていることを告げると、王様は感情的になって声を荒げる。


「確かにお主は見た目とは違い、育ちはいいだろう。だがな、王族というのは――」


「王族は血統に重きをおく。娘の婿となる人物は、親である私たちが決めなければならない」


 王様の言葉を遮り、俺は彼が言おうとした言葉を言う。


 どうやら当たっていたようで、王様は面食らった様子で俺を見る。


 今言った言葉は、父さんが俺に言ったセリフだ。


 種族が違っていても、王族というのはどこも似たような考えらしい。


 意外な言葉を聞かされて驚いていた王様だったが、表情を元に戻す。


 そして俺を見定めるように視線を向けてきた。


「どうしてそのことを知っている」


 鋭い視線を向けたまま、王様は俺に尋ねてくる。


「俺は、王都オルレアンの王子!…………の、親友だからだ」


 訊かれたので、俺は咄嗟にバカ正直に答えようとした。


 けれど、直ぐにそれはまずいことに気づき、慌てて言い直す。


「オルレアンの王子の親友だと。獣人族のお主が」


「確かに私はケモノです。私たちの祖先は、当時のガリア国の国王の好奇心により、奴隷との間で生まれました。そしてそのあと、命を狙われるようになりました。なので、信じられないのもムリはないでしょう」


 俺の言葉に国王は更に驚く。


 歴史の闇に葬り去られ、一般人は知らない事実なのだから。


「ですが、私たちの祖先を救ったのもまた、人間だったではないですか。当時のガリア国の王子の活躍があったからこそ、今の私たちは生きているのです」


「どうしてそのことまで知っている!」


 感情が高ぶっているのだろう。


 王様は玉座から立ち上がり、俺を見ながらどうして歴史の闇を知っているのかを問うてきた。


「私は最近王として就任されたモードレッド女王陛下とも親友なのです。ですので、彼女からそのことを教わりました」


 俺はガリア国の王とも知り合いだと彼に言う。


 これは間違ってはいない。


 俺が野営地の医務室で目が覚めたとき、モードレッドは去り際に俺に向けて親友と言ったのだ。


 王様は俺を見つめたまま無言になる。


 俺がどこかで嘘を吐いていないかを探っているのだろう。


 だけど俺が吐いた嘘は、アナと恋人関係であることと、自身がオルレアンの王子そのものであることだ。


 それ以外はすべて事実。


 この嘘を見破るのは至難の業だ。


「わかった。信じられないが、どうやらお主の背後には、二国がついていると見ていいだろう。だが、そう簡単には首を縦に振るわけにはいかない。なので、お主には明日開催されるアームレスリング大会に出場してもらう。もし、それで優勝することができれば、認めてやろうではないか」


「わかりました。では、その大会に出て優勝してみましょう」


 俺は語気を強めて、自身満々に答える。


 こうして、俺はアナとの約束を果たすために、アームレスリング大会に出場することになった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 今回はブックマーク登録はありませんでした。


 まぁ、そう簡単には増えないのが当たり前なので、気長に待つようにします。


 あとがきのネタが思いつかないので、最後の一言に移ります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただければ幸いです。

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