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第二十八章 第二話 眠り姫の目覚め

 今回のワード解説


徐波睡眠……睡眠 状態で、脳波に大きくゆるやかな波が現れる 深い眠り 。


ノンレム睡眠……レム睡眠以外の、深い睡眠の時期。非レム睡眠。徐波睡眠。


レム睡眠……睡眠の一つの型で、身体は眠っているが、脳は覚醒(かくせい)に近い状態にある睡眠をいう。

 翌日、俺たちは馬車を譲ってもらう交渉をしていた老犬の家に向かった。


 扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。


 しばらく待つと、扉が開かれて家主が顔を出した。


「この間のかたですね。お越しくださったということは、孫娘を目覚めさせる方法が見つかったのですか?」


「はい。これはあくまでも可能性のひとつなので、確実とは言えないのですが、試してみようと思いまして」


「わかりました。では、お上がりください」


 犬型のケモノに招き入れられ、俺は家の中に入った。


 廊下を歩き、突き当りにある部屋の扉を開ける。


 部屋の中に入り、周囲を見渡す。


 以前来たときと何も変わった様子はない。


 ベッドで今も眠り続けているアンリーの寝顔も、何も変わってはいない。


 穏やかに寝息を立てていた。


「カレン。アイテムボックスの中に入れていたアレと、コップを出してくれ」


「わかったわ」


 義妹にあるものを手渡すように言うと、彼女はバスケットの中に手を入れる。


 そして赤い液体の入った容器とコップを取り出し、俺に手渡す。


「ありがとう」


 カレンにお礼を言い、容器の蓋を開けて中に入っている赤い液体をコップに注ぐ。


 この液体はアリスが採取してくれた刺激茸のエキスだ。


 これを彼女に飲ませれば、おそらく目を覚ますはず。


「誰か手伝ってくれないか?」


「わかりました。ではワタクシがお手伝いをいたしましょう」


「余も手伝おう」


 女性陣にお願いをすると、金髪で髪の長いエルフと、クラシカルストレートの赤い髪の魔王が一歩前に出る。


「俺が刺激茸のエキスを飲ませるから、二人は彼女の身体を支えてやってくれ」


「わかったのだ」


「了解しました」


 タマモがベッドの布団を剥ぐと、レイラがアンリーの身体をゆっくりと起き上がらせる。


 そしてタマモがアンリーの顎を下げ、口を少しだけ開けさせた。


 二人が支えているうちに、俺はコップの縁を犬型のケモノの女の子に近づける。


 そしてゆっくりと赤い液体を飲ませた。


 零さないをように気をつけていたつもりだったが、それでも刺激茸のエキスが口から零れ、端から流れ落ちる。


 それを見たエミが彼女に近づき、口の端から流れ落ちる液体を拭く。


 コップ一杯分のエキスを飲ませ、様子を見る。


「何も反応しないのです」


「さすがに魔法とは違うし、直ぐに効果が出る訳ではないわよ」


 予想していたのと違っていたのか、アリスは何も変化が起きないことに不安そうな顔をして呟く。


 そんな彼女に、カレンがすぐに効果が出る訳ではないことを教える。


 数秒経ったころ、ゆっくりとアンリーが瞼を開けた。


「ふあー!よく寝た感じがします。とても気持ちがいい」


 目が覚めた早々、彼女は大きく口を開けて欠伸をしながら腕を天井に向けて伸びをする。


 そして俺と目が合った。


「あれ?どなたですか?ここはアンリーの部屋ですよ」


「アンリー!目が覚めたのか!」


 見守っていた老犬が目覚めた孫娘を見て、歓喜の声を上げる。


 そして彼女に近づくと優しく抱きしめた。


「お、おじいちゃん!いったいどうしたの!」


 アンリーは状況が呑み込めていない。


 突然祖父が抱きしめてきたことに対して、困惑しているようだ。


「お前は三年もの間眠っていたのだ。でもよかった。本当によかった」


 老犬のケモノが孫娘に対して、三年間眠っていたことを教える。


「お孫さんの目が覚めて本当によかったのです」


 目の前に繰り広げられる光景を見て、アリスが感動したのか、目尻から流れ出る涙を拭っていた。


 上手くいくかはやってみないと分からなかったが、上手くいったようだ。


 睡眠に入ると、最初に深い眠りに入る。


 これを徐波睡眠と言う。


 この期間に入ると、成長ホルモンの分泌が最も多くなり、細胞の増殖や組織の損傷の修復を進める。


 その後、八十から百分程度のサイクルで浅い睡眠のレム睡眠と深い睡眠のノンレム睡眠が繰り返される。


 そして時間の経過と共に、ノンレム睡眠の時間が長くなり、最後のノンレム睡眠の後に覚醒するのだ。


 けれど、アンリーは三年もの間眠ったまま。


 それはつまり、睡眠時にレム睡眠とノンレム睡眠が交互にならずにレム睡眠を維持したままということになる。


 採取した刺激茸の成分を調べると、ノンレム睡眠を促す性質があることがわかった。


 そこで、刺激茸のエキスを作り、飲ませることを考えたのだが、上手くいってよかったと思う。


「本当にありがとうございました。お礼の馬車は家の裏にある倉庫の中にありますので持っていってください。鍵は開いています」


「こちらこそありがとうございます。お陰で助かりました」


 お互いに礼を言い、俺は踵を返して女の子の部屋から出て行く。


 廊下を歩いて玄関に向かい、扉を開けて外に出た。


 家の裏に回ると、老犬の言ったとおりに倉庫がある。


 扉を開けて中に入ると倉庫の中に馬車があった。


 父さんから譲り受けた馬車よりも大きい。


「大きい馬車ね。どのくらい広いのかしら」


 俺の後ろから入ってきたカレンが、馬車を見て感想を口に出す。


「まずは馬車の中を見よう」


 仲間たちに馬車の中を調べることを告げ、俺は馬車の扉を開けて中に入った。


 馬車の中は二人が座れる幅の座席が五つあり、十人ぐらいは座ることができる。


 試しに座ってみると、良質な素材が使われているようで、座った途端に軽く沈む。


 肌ざわりもよく、座り心地は抜群だった。


「座り心地がいいわね。これならお尻を痛めることがなさそうだわ」


 横からエミの声が聞こえ、俺は左を見る。


 何時の間にか俺の隣に彼女が座っており、満足気な表情をしていた。


 座席から立ち上がると、沈んだ座席はくぼみをつけていたが、直ぐに元の状態に戻った。


 馬車の奥に視線を向けると、カーテンが取りつけてある。


 あの先はどうなっているのだろうか。


 エミを横切り、奥に進む。


 カーテンを開けると、境界線の先は荷台になっているようで、木製の箱や小さな棚などが置かれてある。


 木箱はあの人の荷物なのだろうか。


 もし、大事な物が入っていたのなら困るだろう。


 俺は木箱の蓋を開けてみる。


 しかし、俺の心配は杞憂に終わった。


 木箱の中身は空であり、何も入ってはいない。


 他にも同じサイズの箱が複数あり、俺は念のために中を調べる。


 けれど、どの箱にも中身が入っていることはなかった。


 どうやら、既に中身は取り出されているようだ。


 木箱や他の箱も、荷物の収納には役に立つ。


 このままもらっていこう。


「俺は馬を連れてくる。アナ、君も来てくれ。ライリーは倉庫のシャッターを開けといてくれないか」


「わかりました」


「了解した」


 馬を連れてくることを言うと、アナとライリーは俺と一緒に馬車から降りる。


 一度倉庫から出ると、馬をつないでいる村の出入口に向った。


「馬車が壊れたときはどうなることかと思いましたが、これでどうにかなりますね」


「そうだな。これでアナのご両親がいるカルデラ城の城下町に行ける」


 最終目的地であるカルデラ城下町のことを言うと、アナは驚いた顔をして、黒い瞳で俺を見てきた。


「あれ!わたし、城下町に向かうって言っていましたっけ?」


 慌てた様子で彼女は俺に尋ねる。


「いや、アナは目的地の名前は出していない」


「ならどうして知っているのですか!エスパーですか!わたしの心の中を読んだのですか!」


 目的地を知っている俺に相当驚いたようだ。


 彼女は両手を頬に当て、口を大きく開けていた。


 アナが口走った言葉に、俺はつい吹き出してしまう。


「プッ。エスパーか。確かにそんな能力を持っていたら、色々と便利そうだな。だけど違う。これまでのアナの言動やご両親と一緒に描かれた絵の背景から、推察したにすぎない」


「そうだったのですね。よかった。わたしの心が読まれていなくて」


 俺がエスパーではないことに安堵したのか、彼女は右手を胸に当て、ホッとした表情を見せる。


 話していると、いつの間にか村の出入口に来ていた。


 木に括りつけていた手綱を外し、三頭の馬を村の中に入れる。


 レイラたちの待っている倉庫に戻ると、閉まっていたシャッターが開けられていた。


 開いたシャッター側から倉庫内に入り、馬と馬車を繋ぐ。


「これでよし。後は試運転だな。アナは助手席に座ってくれ。案内を頼む」


「わかりました」


 出発の準備を整え、俺は馬車の扉を開けて中にいる女性たちに声をかける。


 彼女たちが座席に座り、楽しそうに会話をしている。


「そろそろ出発するから」


「わかったのだ」


 レイラが代表で返事をすると、俺は扉を閉めて御者席に座る。


 そして手綱を握り、軽く上下に振った。


 俺の出発の合図が伝わったようで、三頭の馬はゆっくりと前進を始める。


 今のところは問題なさそうだ。


 心配なのは、村を出たところでスピードを出せられるか。


 馬車の大きさに比例して引っ張る馬の数を増やさなければならない。


 これだけの大きさだ。


 三頭では心もとない。


 歩行者の邪魔にならないように最初は鈍足にしていたが、そろそろ村を出る。


 妙な緊張感が俺の中にあり、手綱を握っている手が汗ばむ。


 十数秒後に村の出入口を過ぎ、俺は握っている手綱を少し強めに上下に動かした。


 振動が三頭の馬に伝わり、スピードを上げていく。


 やはり、四頭はいないと厳しそうだ。


 けれど俺が予想していたスピードよりも速い。


 これならアームレスリング大会が開催される日には間に合うだろう。


 俺たちを乗せた馬車は、カルデラ城下町に向かっていく。



 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 一日空いてのブックマーク登録ですが、ここまでくると、そろそろサブタイトルの効果があったのではないかなぁと思い始めています。


 この調子で、新規の読者にも気に入ってもらえるように努力していきます。


 現在、過去に投稿した話を読み直し、訂正すべき場所を書き直しているのですが、当初の私は描写がいまいちでしたね。


 読み直しつつ、どうしてここで顔の輪郭を伝える描写を書かない!


 ただジルが入ってきただけじゃあ、頭の中でジルの顔を思い描けれないじゃないか!


 と、心の中で、過去の自分自身にツッコミを入れていました。


 今後も地道ですが、多くの読者に読まれる作品作りをやっていこうと思います。


 というわけで、今回のあとがきはここまで。


 物語の続きは明日投稿予定なので、楽しみにしていただければ幸いです。

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