第二十七章 第七話 アリスの捜索 前編
今回はエミがメインになります。
なので、三人称で書かせてもらっています。
今回のワード解説
励起状態……量子力学系の定常状態のうち,基底状態以外のものをいう.電子状態,振動状態,または回転状態のどれか一つだけに注目している場合には,電子励起状態,振動励起状態などともいう。
時は遡り、アリスが群山に登ったころ、エミは二度寝から目を覚ました。
「ふぁーあ。よく寝た」
上体を起こして大きく口を開けて欠伸をしながら、エミは伸びをする。
そのタイミングで、隣に寝ていたクラシカルストレートの女性も目を覚ましたようだ。
彼女と同様に口から欠伸が洩れていた。
「おはようレイラ」
「おはようなのだ。エミ」
互いに挨拶を交わし、エミはアリスが寝ていた布団に視線を向ける。
布団にはアリスの姿がいなかった。
「ねぇ、レイラ。アリスちゃん知らない?」
「先ほどまで眠っていた余が知っているわけがなかろう。トイレにでも行っているのではないか?」
「それもそうね。あたし、顔を洗いにトイレに行ってくるわ」
「それなら余もいこう。目やにがある状態で、デービッドに顔は見せられないからな」
二人は洗面所を使いに一階にあるトイレに向かう。
トイレの中にある個室を覗くと、どこにもアリスの姿がなかった。
トイレにはいない。
ならば、誰かの部屋にでもいるのだろうか。
エミは一度洗面所で顔を洗う。
皮膚感覚が敏感な顔に冷たい水が刺激したことにより、脳の活動レベルが上がったお陰で、彼女の目は完全に覚めた。
顔を洗い終え、エミはレイラと一緒に自分たちの部屋に戻る。
しかしアリスはいなかった。
直ぐに部屋から出ると、隣の部屋のドアノブを回す。
鍵はかかっていなかったようで、扉は簡単に開いた。
「アリスちゃんいる!」
部屋の中に入り、エミはこの部屋に泊まっているカレンたちにアリスがいないか尋ねた。
「この部屋にはいないわよ。デーヴィットたちの部屋にいるんじゃない」
「ありがとう」
礼を言い、エミは更に隣の扉の前に移動すると、ドアノブに手を置いて回して見る。
この扉も鍵はかかっていなかった。
エミは急いで部屋の中に入ると、この部屋に泊まっている茶髪のマッシュヘアーの男に、アリスがいないかを尋ねる。
「アリスちゃん来ていない?」
「いやこっちには来ていないが、カレンたちの部屋にいるんじゃないのか?」
エミの問いにデーヴィットは答えるも、彼は隣にいるのではないかと言う。
「カレンたちの部屋にもいないから訊いているのよ」
「何だって!まだ探していないところはあるのか?」
「だいたいの場所は探したわよ。でも、どこにもアリスちゃんの姿は見当たらなかったわ」
「わかった。俺は村の外を探してくる。エミは女将さんに目撃情報がないかを訊いてくれ」
「なら、わたしもデーヴィットさんと一緒に外を探しましょう」
彼と同室になったケモノ族の女性、アナスタシアが自分も捜索に加わることを告げる。
三人は部屋を出ると、騒ぎを聞きつけてやってきたようで、廊下でカレンたちと出くわす。
「アリスさんはいたのですか?」
長い金髪に偽者のキツネ耳をつけているタマモが尋ねてきた。
「それがデーヴィットの部屋にもいなかったのよ。今から周辺を探してみるわ」
「それなら、ワタクシたちも探しましょう」
「いや、タマモたちは部屋で待機をしていてくれ。もしかしたら擦れ違いで戻ってくるかもしれない」
タマモが自分たちも探すと言い出すが、擦れ違いのことも考えて、彼女たちは部屋で待機するようにデーヴィットが言う。
「わかりました。では、ワタクシたちはここでアリスさんが戻ってくるのを待ちます」
キツネ耳カチューシャをつけたタマモが了解すると、エミたちは急いでカレンの捜索に向かう。
一階に降り、ちょうど廊下を箒で掃除していた女将さんが視界に入ったので、エミは彼女にアリスのことを尋ねる。
「すみません。白い髪で、ローブを着ている女の子を見ていないですか?」
「あ、あの子?うーん、今朝は見ていないわねぇ」
女将は持っていた箒をカウンターに立てかけると、右手を頬に当て、左手を右肘に置きながら考えるポーズをとる。
そしてどこかで見たことがないか考えていた様子であったが、どうやら見てはいないようだ。
「そうですか。ありがとうございます」
顔を俯かせ、エミは表情を暗くさせる。
「アリスちゃん、どこにいるのよ」
女将には聞こえないぐらいの声音で、ポツリと言葉を洩らす。
「あ、でも、その子と関係あるのかはわからないけど、今朝扉の鍵が開いていたのよ。確か夜中に鍵をかけていたと思うのだけど、かけ忘れかしら」
扉の鍵がしていなかった。
普通に考えれば、アリスが外に出るために鍵を開けたと考えるのが普通だ。
アリスは外に出たと考えるべき。
でも、どうして一人で外に出たのだろうか。
彼女が何も言わないで外出する理由に心当たりはない。
自分も外を探したほうがいいだろう。
そう思ったエミは、玄関の扉を開けて外に出る。
宿の外に出た瞬間、目の前にデーヴィットがおり、互いに驚く。
彼の後ろにはアナスタシアもいた。
「ビックリした。エミだったか」
「それはこっちのセリフよ。アリスちゃんが戻ってきたのかと思ったじゃない」
「悪い。エミは女将から何か訊けたか?」
エミが文句を言うと、デーヴィットは詫びの言葉を言い、彼女に何か情報を得ていないか尋ねる。
「女将さんはアリスちゃんを見ていなかったわ。でも、鍵が開いていたことから考えれば、アリスちゃんが外に出たのは間違いないと思うの」
「そうか。俺たちも村の中を探してみたが、どこにもいなかった。たぶん、村の外に出たのだと思う。つないでいた馬の一頭がいなくなっていた」
「それって誘拐なんじゃないの!」
「いや、それはない」
「どうしてそう言いきれるのよ!」
アリスがいなくなったことで、動揺と驚きで興奮してしまっているようだ。
彼女は語気を強めてデーヴィットに詰め寄る。
「落ち着けって。あんまり興奮していると冷静さを失う。見えるはずのものが見えなくなるぞ」
「デーヴィットさんの言うとおりです。馬をつないでいた場所には、馬が暴れた形跡がありませんでした。これを考えるに、アリスさんは自分の意志で馬に乗り、どこかに向ったのだと思われます」
アリスが攫われた可能性は低いことをアナスタシアが説明すると、エミは少しだけ安心する。
攫われたわけではない。
それだけで少しは気持ちにゆとりができるが、安心しきることはできない。
まだアリスの行方が分かっていないのだ。
「あたしにはアリスちゃんが、一人で村から出る理由に心辺りはないわ。デーヴィットたちは何か知らない?」
「いや、俺も全然わからない」
何か心当りがないか尋ねるが、デーヴィットは首を左右に振る。
「あのう。確信は持てないのですが、アリスさんの向かった場所に心辺りがあります」
自信がないからだろう。
アナスタシアは遠慮気味に右手を上げ、アルビノの少女が向かった場所に心当たりがあることを言う。
「本当!それはどこよ!」
語気を強めながらケモノ族の女性に問うと、彼女は顔を俯かせながら可能性を語る。
「馬の足跡を見る限り、東に向っていることがわかります。もし、昨夜のわたしたちの会話を聞いていたのだとしたら、刺激茸を探しに向かったのではないかと」
アナスタシアが可能性を語ると、エミはデーヴィットを押しのけて横を通ろうとした。
しかし、デーヴィットは彼女の腕を掴む。
「放してよ。アリスちゃんが一人で山の中にいるのかもしれないのよ。アリスちゃんは戦えない。もし、魔物に遭遇したら命を失うかもしれない」
「そんなことはわかっている。だからと言って、冷静さを欠いた状態で山に向っても、アリスを見つけることは困難だ。まずは皆にこのことを知らせて救出作戦を考えないと」
黒い瞳のある目で、デーヴィットがエミを見つめる。
「わかったわ。確かにデーヴィットの言うとおりね」
納得すると、デーヴィットは掴んでいたエミの腕を放す。
三人は宿屋で待機しているレイラたちに、事情を説明することにした。
宿屋の中に入り、階段を上って二階に向かうと、廊下にいたタマモたちがこちらに気づいて駆け寄ってくる。
「どうでしたか?アリスさんは見つかりましたか?」
タマモの問いにエミは首を横に振る。
「まだ見つかっていない。でも、この村の東にある群山っていう山にいる可能性が高いわ」
「それで、今から救出作戦を考えることにした。ひとまず俺が使っている部屋で話そう」
廊下でするような話ではない。
デーヴィットが自分の部屋で会議を開くことを言うと、エミは彼の部屋に向かった。
元々が三人部屋ということで、七人がひとつの部屋に入ると狭苦しさを感じる。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
円を描くように全員が座り、デーヴィットが口を開くのを待つ。
「アリスの救出作戦だが、ふたつの班に分けようと思う。ひとつは群山に向かう班、もうひとつは予想が外れたときのために、村でアリスの帰りを待つ班だ」
「どうしてふたつに分ける必要があるんだい?捜索なら、人数は多いほうがいいに決まっているじゃないか。全員で向かうべきだとあたいは思うのだけどねぇ」
デーヴィットがふたつの班に分けることを言うと、ライリーが異を唱えた。
「確かに捜索するのなら人数は多いほうがいい。だけど、群山にいることは確定していない。そんな中、全員で向かってむだ足になるのは避けたい。救出班の当てが外れた場合、村に残ったメンバーで別の場所を探してもらいたい」
「借りに救出班の当てが外れた場合、その連絡はどうするのよ?」
班をふたつに分ける理由をデーヴィットが語ると、今度は彼の義妹が連絡手段について尋ねる。
「それはレックスに頼む」
『どうして俺様がそんな面倒なことをしなければならない』
「頼む。これはレックスにしか頼めないことだ」
連絡係を頼まれたレックスは、いつものように拒否をした。
すると、デーヴィットは彼に向けて頭を下げ、レックスにしかできないことだと言う。
『チッ、わかった。やってやろう。そんなに真摯にお願いをされては、こっちの調子が狂う』
普段とは違うお願いのされ方に、出鼻をくじかれたのだろう。
レックスは舌打ちをすると協力することを告げる。
「ありがとう。それで、群山についてだけど、詳しい説明をお願いできるかな?アナ」
デーヴィットが鳥に礼を言うと、今度は山についての詳しい情報を教えてもらうようにケモノ族の女性に促す。
「はい。群山はあまり人が入らない山です。そのため成長した木が枝を伸ばし、太陽光を遮っているので、昼間でも暗く感じてしまいます。そして魔物もいるのですが、一番気をつけてほしいのがヘラクレイザーと言う魔物です」
『ほう、ヘラクレイザーがいるのか。気をつけろよ。あの女が言うとおり、危険な魔物だ』
アナスタシアが山とそこに住む魔物について説明をする。
すると、レックスも知っているようで、危険な魔物であることを主張した。
「ヘラクレイザーについて知っていることがあれば教えてくれ」
『よかろう。何せあの魔物は、セミラミスに頼まれて作った魔物なのだからな。俺の世界にいたヘラクレスオオカブトという昆虫をモデルにしてある』
前置きを語ると、彼はヘラクレイザーについて詳しく語る。
彼は途中で余計な話をしていたが、彼の説明を纏めるとこうだ。
カブトの角は、胸と頭部の皮膚が固くなって伸びたものだが、ヘラクレイザーは口の下に頭角がある。
そのため頭角ではなく顎角と呼ぶ。
そして、身体の色素には個体差があり、複数の色をしている。
ヘラクレイザーは体内の筋肉の細胞が変化して生まれた発電板から電気を発生させ、体内に高電圧を加えることができる。
これにより、複合ガスを溜めている管に電気が送り込まれ、放電するとガス内の原子が外部からエネルギーを吸収。
低いエネルギーから高いエネルギーに移り、励起状態になるとエネルギー差に相当する光を放出し、その光を体内で集光さる。
そして吐き出すように、口からレーザーを撃ち出す仕組みになっているとのことだ。
「それは確かに危険ね。レーザーを撃たれたら、瞬く間にやられてしまうわ」
レックスの説明を聞いたエミは、難しい顔をする。
「なぁ、ひとつ聞いてもいいか。そのビームは可視光線なのか?それともその範囲外なのか」
デーヴィットが少し顔色を悪くしながら鳥に尋ねる。
彼の気持ちは分かる。
もし、可視光線外のビームを放たれては、自分たちは避けることが不可能だ。
『個体差によって多少変わってくるが、可視光線だ。さすがに目に見えないビームを放ってしまえば、仲間を殺すことにもなりかねないからな』
ビームは可視光線だと教えてもらい、エミは安堵した。
目に見えないビームなんてチートにもほどがある。
「ヘラクレイザーのことは置いといて、救出班だが」
「あたしは群山に行くわよ。アリスちゃんがいるかもしれない以上は、絶対について行く」
デーヴィットが救出班のメンバーの話をすると、エミは力強い声でメンバーに入ることを彼に告げる。
「もちろんエミはメンバーに入れている。あと、探査魔法が使えるカレンもついて来てほしい。洞窟や建物の中ではないけど、たくさんの木が生えている山の中なら、ある程度は音が跳ね返ってくるはずだ」
「わかったわ。私も救出班ね」
「わたしも救出班でいいですか。一応この大陸出身なので、道案内ができます」
ケモノ族の女性であるアナスタシアが、猫の手を上げながらメンバーに加わりたいと言う。
「ありがとう。道案内はアナに任せる。これで四人になった。レイラたちは待機班でいいか?」
「デーヴィットが決めたことなら、余は文句を言わぬ」
「あたいもそれでいいよ」
「アリスさんが心配なので、ワタクシも救出班に加わりたいところですが、バランスを考えれば待機班にいるべきですね。わかりました。アリスさんのことはエミさんに任せます」
デーヴィットが三人に尋ねると、彼女たちは村に残ることを了承してくれた。
「これで決まりね。早くアリスちゃんを探しに行くわよ」
作戦会議が終わると、エミは一番に部屋から出る。
一秒でも早くこの村を出て、アリスのもとに向かいたかった。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。
ついに、登録者数が六十人を超えました!
一度六十人に達したことがあるのですが、その日は二人登録してくれました。
しかし翌日、登録者数が五十九人になっていた。
うん、まぁ、登録したものの、話しが合わなかったのだろうな。気にしない気にしない。
更に翌日、登録人数五十八人。
もう一人の人も合わなかったのだろう。
そう思うことにしよう。
数日後、登録者数を増やすために、タイトルにガリア国編完結の言葉を入れてみる。
登録者数が五十七人。
何でだー!
どうしてこうなった!何で減っていく!
こんな感じになり、六十人達成した際に書きたかったあとがきの内容がかけないまま、一週間以上が経ちました。
けれど、遂にようやく六十人を超えてくれた!
やっと温めていたあとがきを書くことができる!
というわけで、一週間の時を越え、本日書きたかったあのあとがきを書かせてもらいます。
私の作品を読んでくださる一日の読者人数の平均は八十数人!
つまり、今回の登録人数アップにより、雑に計算して八割以上のかたが登録してくださっていることになります。
本当にありがたいことです。
これも毎日読んでくださっているあなたがいるお陰です。
心よりお礼を申し上げます。
本音を言えば、分子も上げたいところですが、分母のほうも上がってほしいという願望が本音です。
一日の読者数の平均が百を超えるように、これからも頑張っていきます。
というわけで今回のあとがきはここまでとさせてもらいます。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




