第二十七章 第五話 アリスのお役立ち作戦 前編
今回はアリスがメインとなっています。
なので三人称で書いています。
デーヴィットの隣に座りながら、アリスは老犬の言葉に耳を傾ける。
孫娘を救ってほしいとは、どういうことなのです?
まだ小さいアリスは、彼の言っている言葉の意味を理解することができない。
「わかりました。何とかしてみましょう。では、お孫さんの様子を確認したいので、お会いさせてもらってもよろしいですか?」
さすがはデーヴィットお兄ちゃん。
今ので、おじいさんが何を言いたいのかがわかったみたいなのです。
「そうですな。実際に見てもらったほうがいいでしょう」
犬型のケモノ族が立ち上がると、ソファーに座っていたデーヴィットとエミも立ち上がった。
二人に続いてアリスもソファーから立つ。
「では、こちらです」
老犬は部屋から出ると、アリスも彼の後をついて行く。
廊下を歩いて家の奥へと進むと、犬型のケモノが突き当りにある扉を開け、自分たちを部屋の中に入るように促す。
皆と一緒に部屋の中に入り、デーヴィットはベッドの前に移動した。
彼に続いてアリスもベッドを覗く。
そこにはおじいさんの孫娘と思われるケモノが、穏やかに眠っていた。
何も苦しんでいる様子ではないように見える。
助けてくれとはどういう意味なのです?
ベッドに眠る女の子を見て、アリスは首を傾げる。
「具体的にどんな症状なのですか?」
「実は、三年ほど前から眠ったまま目覚めないのです。医者には原因不明の昏睡状態だと言われ、手の施しようがないと言われました」
眠っている女の子が、三年もの間目が覚めないと聞き、アリスは驚く。
冬眠という言葉をアリスは知っている。
冬になり、食べ物が少なくなる時期を見越し、秋の間にたくさん食べ、冬はずっと眠ってその期間をやりすごすというものだ。
だけど冬眠にしては寝すぎだ。
そんなに寝ていて身体は大丈夫なのです?
アリスはそんなことを考える。
「わかりました。一度対策を考えますので、今日のところはこれで帰らせてもらいます」
「お願いします。孫娘が目を覚ましたあかつきには、お礼として馬車をあげましょう」
老犬が頭を深々と下げる。
デーヴィットが踵を返して女の子の部屋を出て行こうとしたので、アリスも彼の後を追った。
おじいさんの家を出ると、アリスたちはアナスタシアの案内でこの村の宿屋に向かう。
村の宿屋だからか、今まで泊まった宿屋に比べるとこぢんまりとした印象だった。
扉を開けてデーヴィットが中に入る。
彼に続いてアリスも中に入った。
玄関のすぐ目の前が受付になっており、宿屋の女将と思われるふくよかな女性が声をかけてくる。
「いらっしゃい。何名様ですか?」
「八名です。一部屋何人まで泊まることができますか?」
「最大で三人までですね」
「なら、四部屋分お願いします」
デーヴィットの言葉にアリスは疑問に思う。
どうして四部屋も取る必要があるのです?最大三人が泊まれるのであれば、三部屋で十分なのに。
皆の名前を心の中で言いつつ、アリスは自身の指を使って人数を確認する。
やっぱり三部屋で十分なのです。
デーヴィットお兄ちゃんは計算を間違っているのです。
これは教えてあげなければならない。
そう思ったアリスは、彼の手を引っ張った。
「うん?どうしたアリス?」
デーヴィットの手を引っ張ったことで、彼が尋ねる。
「デーヴィットお兄ちゃん計算間違っているのです。八人なら三部屋で十分じゃないですか。四部屋だと、一部屋分損するのです」
計算が間違っていることを伝えると、何故か彼は苦笑いを浮かべた。
どうしてデーヴィットお兄ちゃんは、あんな顔をするのです?わたしは何も間違ったことは言っていないはずなのに。
「そうよね。アリスちゃんの言うとおりよ。デーヴィット、計算間違っているわ」
「うむ。アリスの言うとおりだ。正確な計算をしなければならない」
アリスに続き、エミとレイラが援護射撃をするかのように、計算ミスをしていること指摘する。
「あのなぁ、俺は敢えて四部屋を取っているんだ。アリスはともかく、この意味が分からないわけがないだろう」
二人がアリスと同じ意見であることを言うと、デーヴィットは小さく息を吐く。
そして身体を屈めると、アリスと同じ目線にした。
「アリスの言っていることは間違っていないよ。それは正しい。だけど、計算だけではどうすることもできない壁のようなものがあるがあるんだ」
「なら、その壁を壊せば計算どおりになるのですね!どこにあるのです?カレンお姉ちゃんに頼んで、その壁を壊してもらうのです」
壁があるから計算どおりにはならない。
そう思ったアリスは、思ったことを口に出す。
すると、デーヴィットは再び苦笑いを浮かべ、困り顔を作っていた、
「あはは、これは参ったなぁ」
乾いた笑い声を上げ、彼は右手を後頭部に持っていくと、茶髪のマッシュヘアーの髪を触る。
どうしてデーヴィットが困っているのかがわからず、アリスは首を傾げた。
「デーヴィットよ。年貢の納め時というやつである」
「そうそう。アリスちゃんを論破できない段階で、デーヴィットの負けは決まったものよ。男らしく諦めたほうがいいわ」
もしかしたら、何か余計なことを言ってしまったのかもしれない。
彼の反応を見てそう思ったアリスは、口を開こうとした。
すると、レイラとエミがデーヴィットに諦めるように言う。
「はぁー分かったよ。俺の負けだ。アリスにはかなわないなぁ」
小さく溜息をつくデーヴィットの姿を見て、アリスは申し訳ない気持ちになる。
本当は一人でのんびりと休みたかったのかもしれない。
それを計算が間違っていると指摘したせいで、彼をがっかりさせてしまった。
「ごめんなさいなのです」
そのように考えてしまったアリスは、本当の兄のように慕っている彼に、小さい声で謝った。
「アリスのせいじゃないから気にしないでいいよ」
デーヴィットはアリスの白い髪の上に手を置くと、優しい手つきで頭を撫でる。
「すみません。それじゃあ三部屋でお願いします」
「三部屋ですね。それにしてもお若いっていいですね。私も主人を惚れさせるのに手を焼いたものです」
「あはは、そうですか」
アリスは顔を上げると、乾いた笑い声を上げながら苦笑いを浮かべているデーヴィットの姿が視界に入った。
彼は宿泊料金を支払うと、部屋の鍵を受け取る。
「それで部屋割りなんだけど」
「デーヴィットと相部屋になるのは余である」
「あたしも、あたしも!デーヴィットと同じ部屋がいい」
デーヴィットが部屋割りの話をすると、レイラとエミが勢いよく右手を上げ、彼と同じ部屋がいいと主張する。
先ほど自分が余計なことを言ったせいで、彼を困らせてしまった。
お詫びに何かしてあげたい。
だけど、断られたときのことを考えると嫌だった。
きっと胸が張り裂けそうな思いをするだろう。
「レイラとエミか。他にいないのなら、ひとつの部屋は俺たちの三人で決めるが」
このままでは決まってしまう。
今はあとのことを考えている場合ではない。
部屋が同じでなければ、お詫びをする機会すら失ってしまう。
アリスはデーヴィットのズボンを引っ張る。
「アリスも……デーヴィットお兄ちゃんと同じ……部屋がいいのです」
少し遠慮気味に、自分も彼と同じ部屋に泊まりたいと勇気を振り絞って告げる。
「アリスも俺と同じ部屋がいいか。それじゃあ公平性を期すために全員でジャンケンをするぞ」
「え、どういうこと」
「ちょっと待つのだ。急に言われても心の準備が」
「誰がデーヴィットの相部屋になっても文句をいうんじゃないよ。それが公平性というものだ」
「待ってくださいなのです」
「ジャンケンポン」
ジャンケンの合図を出されたので、アリスは慌ててグーを出す。
結果は、デーヴィットはチョキを出していた。
自分は彼に勝った。
つまり、勝者はデーヴィットと同じ部屋になれる。
そう思ったが、現実は彼女の期待をいとも簡単に裏切った。
「ちょうど三、三、二に別れたな。同じ手の形の人同士で、部屋に泊まってくれ」
予想していなかった彼の言葉に驚きつつも、アリスは自分と同じグーの人を探す。
部屋割りのメンバーを見て、彼女は落ち込む。
赤いクラシカルストレートに漆黒のドレスを着ている人と、薄い水色の髪にウエーブがかかっている人が同じグーを出していた。
偶然にも、デーヴィットと同じ部屋がいいと主張していた三人が相部屋になる。
まずいのです。
レイラお姉ちゃんはともかく、喧嘩中のエミお姉ちゃんと同じ部屋なのは、とても気まずいのです。
アリスは小さく息を吐く。
「まさか余がデーヴィットと同じ部屋になれなかったのは不服ではあるが、公平性を期した結果だ。運がなかったと割り切るしかない」
「まぁ、レイラの言うとおりよね。運がなかったと思うしかないわ。でも、まさかアナスタシアがデーヴィットと同じ部屋になるとは思わなかったわね」
そう、意外にもアナスタシアが彼と同じチョキを出していたのだ。
彼と一緒の部屋になれなかったのは残念だが、ジャンケンで決まった以上は仕方がない。
アリスも諦めることにした。
部屋割りが決まり、デーヴィットがタマモとエミに部屋の鍵を渡す。
「アリスちゃん行きましょう」
エミに声をかけられ、アリスは彼女の後ろをついて行き、自分たちが泊まる部屋に向かう。
階段を上って二階に上がり、右から三番目の部屋の前に来た。
エミが鍵穴に鍵を差し、ロックを解除するとドアノブを回して扉を開ける。
部屋は畳の部屋になっており、イグサのいい香りが漂ってきた。
「畳の部屋なのね。うどん屋もあったし、オケアノス大陸に住むケモノ族って、日本よりなのかしら」
内装をエミが口にすると、彼女は襖を開ける。
襖の先は押し入れになっていたようで、布団が収納されてあった。
「なんだから修学旅行を思い出すわね。なんだか変なテンションになってきたわ」
聞きなれない言葉をエミが言うと、アリスは気になった。
修学旅行って何なのです?
彼女はエミに訊きたかったが、今は彼女と喧嘩をしており、仲直りをしていない。
そのため訊くに訊けない状態だ。
エミが仲直りをしたい素振りを見せているのは気づいている。
だけどあのとき自分が受けたショックはかなりのものだ。
そう簡単には許すわけにはいかない。
アリスは好奇心を抑えると部屋の壁に背中を預け、体操座りをして視線を床に向ける。
はぁー、わたしはいったい何をしているのでしょうか。
その日の夜、アリスは一階にあるトイレで用を足し、階段を上って自分の部屋に向かう。
廊下を歩いていると、扉から明かりが漏れていた。
完全に閉まってはいなかったようで、話声が聞こえてくる。
この声はデーヴィットとアナスタシアだ。
「つまり、その群山と呼ばれる山のどこかにあるという。刺激茸と呼ばれるキノコを調合して体内に投与すれば、目が覚めるかもしれないのだな」
「はい。あくまでも噂の範囲ですので、本当にあるのかは分かりません。キノコの傘は大きく、オレンジ色に星マークが描かれていると言われています」
「わかった。明日にでも、皆で探しに向かうとしよう」
「群山はこの村を出て東にある山です。村からも見えるので、場所はすぐにわかるかと思います」
この村の東にある群山と呼ばれる山に、刺激茸がある。
それを見つけることができれば、あの女の子を眠りから覚まさせることができるかもしれない。
ここは自分が探し出してデーヴィットに渡すべきではないのか。
そうすることで、彼をがっかりさせた責任を取ることができる。
アリスはそう考えた。
頭の中で、刺激茸を見つけてデーヴィットに渡すシーンを想像してみる。
頭を撫でられ、皆から褒められる。
とてもいい気分だ。
「よし。アリスが一人で見つけるのです。待っていてくださいなのです」
決断をするも、ひとつ問題がある。
いきなり自分がいなくなれば、きっと皆を心配をさせてしまう。
行動するのは明日の早朝だ。
もちろん書置きもすれば心配させることはないだろう。
アリスは作戦を実行するために一度部屋に帰った。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
ブックマーク登録してくださったかたありがとうございいます。
約一週間ぶりの登録だったので凄く嬉しいです!
そして気づいたかたもいるかと思いますが、作品名にサブタイトルを入れてみました。
その理由はもちろん!アクセス数を増やすための試み!
最近はアクセス数が少ないように感じられ、ブックマークが外されると言う負の連鎖が起きています。
この原因は私にある!面白いと思ってもらえるような内容になってはいない!
そんなことはわかりきっている!
だからコツコツと編集して過去の話の一部を改稿したりしていますが、それでも上手くいかない。
まだまだ努力が足りておらず、自分自身を責め、執筆の速度も遅くなる。
これはヤバイ!
どうにかしてモチベーションを上げるためにアクセスを増やさなければ。
そう思って、今回サブタイトルを加えてアクセス数アップを狙ってみました。
吉と出るか凶と出るかは、パンドラの箱を開けてみないと分かりませんね。
というわけで、モチベーションを上げるためにアクセス数を増やそうと思い、サブタイトルを入れてみた件でした。
それと最後に、今日も読んでくださったあなたには本当に感謝しています。
あなたは私の数少ない読者です。
何度も心が折れそうになることもありますが、今日もあなたが読んでくれる。
ここで止めれば裏切ることになるのだぞ!と自身に言い聞かせて頑張ることができています。
あなたの存在は私の中ではとても大きいです。
あなたが居てくれて本当によかったと思っています。
これからも私の作品をよろしくお願いいたします。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




