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第二十七章 第四話 生活魔法に挑戦、今日から洗濯担当になりました

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして読んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


アルキルエーテル硫酸エステル塩……界面活性剤に入っている成分。


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


界面活性剤……分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質の総称。


脂肪酸ナトリウム……水酸化ナトリウムで鹸化したものはナトリウム石鹸(脂肪酸ナトリウム)と呼ばれる。


水軟化剤……水軟化剤(グルコン酸塩)とは、ガラスなどの食器のくもりを防ぐ成分のことです。


直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩……合成洗剤の主成分として用いられる代表的な界面活性剤。


弁別能力……2つ以上の異なる刺激の間の差異を感知する作用。


ポリオキシエチレン脂肪酸メチルエステル……液体洗浄剤に使用される非イオン界面活性剤である。


ポリオキシエチレンアルキルエーテル……合成界面活性剤で、油になじみやすい性質をもった親油基(アルキル基)の炭素の数と、水になじみやすい性質をもった親水基の酸化エチレンの数が異なる物質の総称です。



 道沿いを歩き、俺は周囲を見渡しながら歩く。


 村の中はケモ度が一から三のケモノ族が歩いていたり、井戸端会議をしたりしている姿が見られるも、目的の人物は見つからない。


「ケモ度というものがあるにしても、余には皆同じに見えてしまう。どこにアナスタシアがいるのかが分からぬ」


 俺の隣を歩いていたレイラが、首を左右に振って周囲を見渡しながら、ポツリと言葉を洩らす。


 彼女の言うとおりだ。


 見慣れてしまえば違いがわかるのかもしれないが、どのケモノも皆同じに見えてしまう。


 弁別能力が向上すれば、違いがわかるのだろうが。


「アナはローブを来ているから、今はそれで見分けよう。もしかしたら、今も尋ね人の張り紙を取っているかもしれないし」


 探す条件を絞り、ローブを着ている人物に限定して捜索を開始する。


「あれ、アナスタシアじゃない?ローブを着ているし、手には張り紙のような紙を持っている」


 カレンが右方向に指を差し、アナだと思われる人物を見つけたと言う。


 俺は首を曲げて右側を見ると、家の間の通路を歩くローブ姿のケモノが視界に入る。


 背中しかわからないが、身体からはみ出たところには、紙のようなものが見えた。


 それだけでは情報不足なので、俺は足を止めて様子を窺う。


 すると、たくさんの紙を抱えていたようで、数枚の紙を地面に落としてしまっていた。


 その紙を取ろうと、ローブ姿のケモノが振り向いた。


 人間に近い容姿だが少し毛深く、頭にはキツネの耳がついている。


 紙を拾おうとした手は猫の手だった。


 間違いない。


 アナだ。


 俺は彼女に近づき、声をかける。


「アナ、こんなところにいたのか」


「あ、デーヴィットさんに皆さん。まさかこんなにわたしの捜索願の張り紙があるなんて思ってもいませんでした」


 回収作業で疲れているようだ。


 彼女の表情からは疲れが見える。


 俺は身体を屈めると地面に落ちた紙を拾う。


 全部裏面になっており、ひっくり返さずにそのままの状態でアナに渡す。


「ありがとうございます。はぁー、後でゴミ箱に捨てておかないと」


「早くアナのご両親がいるところに向わないといけないな」


「そうですね」


 仲間たちをほっといて二人で会話をしていると、アナのお腹から空腹を知らせる音色が奏でられる。


「カレン、さっき買ったやつを取ってくれないか」


 義妹に先ほど買ったものを取ってもらうようにお願いをすると、彼女はバスケットの中に手を突っ込む。


 そして団子の入っているパックを取り出して俺に手渡す。


「はい」


「ありがとう」


 カレンから受け取った団子の入っているパックを、今度はアナに見せる。


「村の中にあった茶屋で買った団子だけど、アナは団子食べられる?」


「わたし甘いもの大好きなんですよ。ありがとうございます」


 俺から団子のパックを受け取ると、彼女は蓋を開けて中に入った団子を手に取る。


 団子は一口サイズの大きさのものが、みっつ串に刺さっているというオードソックスのものだ。


 みたらし、ヨモギ、きなこの三種類がそれぞれ一本ずつ入っている。


「いただきます」


 食べる前の挨拶を言うと、アナはみたらし団子の串を持ち、一口食べる。


「うーん。噛み心地が抜群でもっちもち!たっぷりのタレがしっかりと絡んでくれて、だしの香りがスーッと抜けていくのを感じます」


 よほど美味しかったのだろうか。


 アナは串を持っている手を頬にもっていき、うっとりとする。


 だが、みたらしのついた団子を持つ手を頬につけたせいで、団子がローブのフードにつき、タレが付着してしまっている。


「タレがフードについてしまっているぞ」


「にゃー!」


 フードにタレがついていることを指摘すると、彼女は悲鳴を上げる。


 耳はキツネ、手は猫、尻尾は犬と言う、ケモノ族の中でも変わった容姿のせいで、どれが一番血が濃ゆいのかがわからないが、驚いた声の鳴き方からして、案外猫が近いのだろうか。


「ああ、どうしよう。これお母さまからいただいた大事なローブなのに」


「直ぐに洗えば綺麗に落ちるわよ。というわけでデービッド、お願い。魔法で洗ってあげて」


 直ぐに洗濯をすれば汚れが落ちるとカレンが言うと、俺に魔法でどうにかしろと無茶振りを言ってきた。


「簡単に言ってくれるけど、契約している精霊と条件が揃わない限りは難しいぞ」


「デーヴィットは思いつかないんだ。あたしは既に綺麗にする方法を頭の中に浮かんでいるわよ。ただ精霊がいないからできないだけだけど」


 薄い水色のウエーブのかかったセミロングの女の子が、右手で口元を隠しながら俺を挑発してくる。


 いいだろう。


 その挑発に乗ってやる。


 俺だってカレンの探査魔法やウエポンカーニバルの原理を思いついた実績があるんだ。


 あんな汚れぐらい魔法で簡単に落としてやる。


「デーヴィットなら大丈夫よ。頑張って」


「ええ、デーヴィットさんならできると、ワタクシも信じております」


 カレンとタマモが俺のことを応援してくれた。


 期待されている以上は、頑張ってみなければ。


 俺は脳の記憶を司る海馬から、知識の本(ノウレッジブックス)に書かれてあった知識の内容を引っ張り出し、過去に読んだ内容を思いだす。


 これならいける。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーター」


 空気中にある水分子のプラスの電荷と、酸素側のマイナスの電荷が磁石のように引き合い、水素結合を起こす。


 これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の球体を作る。


 その水をアナのローブについた汚れに付着させた。


 今生み出した水は、不純物の混じっていない純水だ。


 これなら、水軟化剤はいらない。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとノームに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ローンドゥリー・ディタージェント」


 ウンディーネとノームの力を使い、洗濯洗剤に必要な成分であるポリオキシエチレン脂肪酸メチルエステス、アルキルエーテル硫酸エステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシンエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ナトリウムを生み出し、水の球体に挿入。


 これにより、これらの物質は界面活性剤へと変化した。


 そして皮脂や油などの汚れのついた衣類は、界面活性剤が水と一緒に汚れと繊維の間に入り込む。


 汚れは繊維から引き離され、水中に取り出された。


 水中に取り出された汚れは、表面に界面活性剤が付着していることで、これらがバリアになって再び繊維に付着することを阻止。


 汚れを吸収した水の球体が、中央に汚れが集まっているのを確認してから、ローブから離した。


 汚れた水を地面に捨てると、続いて呪文を唱える。


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよフロー」


 風の魔法を発動させると、アナの周囲の気圧に変化が起こった。


 濡れたローブ付近の周辺の空気の密度が重くなり、それ以外の空気の密度が軽くなる。


 すると、気圧に差が生まれ、気圧の高いほうから低いほうへ空気が押し出されて動いたことにより、微風が吹き出す。


 優しい風が渦を巻くように吹いたことにより、濡れた箇所はあっと言う間に乾く。


「これで……いいか」


「ありがとうございます」


 初めての試みであったが、どうにか生活魔法の洗濯を成功させることができたようだ。


 上手くいくかわからない試み、むちゃ振りではあったものの、なんとかなったことに安堵の息を吐く。


 精神を集中させたことで、一気に疲れがでてきた。


 カレンに初めて探査魔法をお願いしたときも、彼女はこんな気持ちだったのだろうか。


 もしそうなら、今度からはむちゃ振りをお願いしたときは労ってやらなければ。


「さすがデーヴィット。作れない魔法なんてないわね」


 義妹の褒める声が耳に入り、俺は振り返る。


 彼女は俺が魔法に成功したことを喜んでいるのか、とてもいい笑顔だった。


 タマモが俺のところにくると、彼女は右手で俺の左肩に手を置く。


「魔法の成功おめでとうございます」


 エルフの女性までが俺のことを褒める。


 カレン、タマモ、この二人が喜んでいる姿を見て、俺は何となくいやな予感がした。


「今日から洗濯当番をお願いします。あなたが魔法を使ってくだされば、ワタクシたちの負担は軽くなります」


 彼女の言葉に俺は苦笑いを浮かべる。


 二人が喜んでいたのは、俺が生活魔法の一部を習得したことで、家事の負担を減らせられるからだ。


 俺は少しだけ後悔をした。


 アナが団子を食べ終わるのを待ってから、俺たちは馬車を購入できそうな場所を探す。


 村に住むケモノ族の人に声をかけ、馬車を売ってくれそうな場所を聞いてみた。


 しかし、ここには日用品を売っている雑貨屋などはあるが、馬車を売っているところはないみたいだ。


 因みに、別の村には馬車を売っているところがないかを尋ねてみるが、カルデラ城のある城下町にしかないだろうとのことだった。


 その話を聞き、俺は困る。


 さすがに徒歩で城下町に向っては、アームレスリング大会には間に合わない。


 どうにかして馬車を手に入れる方法を見つけなければ。


「どうしたものかねぇ、馬車が手に入んないんじゃ大会には間に合わない」


 腕を組んだライリーが、俺が考えていたことを口に出す。


「今日のところは宿を取って、明日この村から出よう」


 今日は休み、馬車のことは明日考えることにすると、目の前に馬車が通りすぎる。


 それを見た俺は、可能性を見出した。


 あの馬車の持ち主と上手く交渉すれば、譲ってくれるかもしれない。


「皆は先に宿屋に向って。俺は寄るところがある」


 宿屋に向かうように伝え、俺は先ほど通った馬車を追いかける。


 馬車は二階建ての広い建物に停まっていた。


 俺は不審な行動と分かっておきながら、大きい建物の窓から室内の様子を窺う。


 家の中には年老いた犬型のケモノがいた。


 白い顎鬚のようなものが生えているところからすると、男性なのだろう。


 彼は、ベッドを見つめている。


 ベッドに視線を向けると、別のケモノが寝ているのが見えた。


 同じ犬型で、頭部の毛が長いところを見るに、女性だということがわかる。


 年老いた犬のケモノは口を動かし、寝ている女性に何かを言っているように見える。


 窓で遮られているせいで、声は聞こえることはなかったが、彼は悲しそうな表情をしていた。


『ねぇ、ねぇ。デーヴィットって覗きが趣味なの?だったら、こんなところじゃなくって、脱衣所やお風呂場を覗けば?』


 頭の中で、ドライアドの声が響く。


 そんな訳がないだろう!


 俺は心の中で突っ込むも、違和感に気づいた。


 うん?どうしてドライアドの声が聞こえる?精霊は契約者から離れることができないのに。


 一瞬だけ疑問に思ってしまったが、彼女の声が聞こえる理由に思い当たると、俺は背後を振り返る。


 そこには、タマモだけではなく、カレンたちもいた。


「どうして、タマモたちがついて来るんだよ」


「どうしてって言われましても、まだ宿屋の代金をいただいていないので、向かうわけにはいかないのですが」


 エルフの女性が、俺の後を追った理由を語る。


 確かに、彼女たちにはまだ宿代を渡していなかった。


 さすがに金もないのに先に部屋を用意してもらうわけにはいかない。


「ごめん。ごめん。忘れていたよ」


「急に一人で別行動をしてどうしたのよ。しかもよそ様の家の中を覗くなんて」


 カレンが厳しい目で俺を見てくる。


「いや、これには俺なりの考えというものがあってだな」


 どうしたものかと思っていると、部屋の窓が開けられた音が聞こえ、そちらに視線を向ける。


 さきほど部屋の中にいた老犬のケモノが俺たちに視線を向ける。


「どうかなさいましたか?私の家に何か御用でも?」


「あのですね。家の前に停めてある馬車を譲ってもらいたいのですが」


 俺は正直に彼の家の前で騒いでいた理由を語る。


 老犬は俺に視線をむけたまま逸らす気配を見せない。


「どうやらわけありのようですね。話だけ伺いましょう」


 そういうと彼は窓を閉め、部屋を出て行く。


 どうやら家の中に入れてもらえるようだ。


 俺たちは玄関に向かうと、扉が開かれて先ほどのケモノが姿を見せる。


「お上がりください」


「ありがとうございます」


 彼にお礼をいい、俺は家の中に入る。


 この家の持ち主はどうやら金持ちのようで、家の廊下には高そうな壺や絵画などが飾られてある。


「こちらのお部屋に入って、おかけになってください。すぐに戻りますので」


 部屋で待っているように告げると、彼は廊下を歩いて家の奥に向っていく。


 この部屋は応接室のようで、ガラス細工のテーブルを挟むように、牛の皮で作ったと思われるソファーが置かれてあった。


 ソファーには三人が座れるようになっている。


 皆で話し合った結果、俺とアリスとエミが座ることになった。


「お待たせしました。それではお話を伺いましょう。馬車の件でしたな」


「ええ、そうです。実は――」


 俺はこれまでの経緯と、なぜ馬車が必要なのかを年老いた犬のケモノに話す。


「そうでしたか。そういうことならお譲りしてもいいのですが、ひとつお願いがあります。孫娘のアンリーを救ってくれませんか?」


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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