第一章 第一話 失恋と始まり
「モモさん、あなたのことが好きです。正式に俺とつき合ってください!」
村の酒場からの帰り道。
俺、デーヴィッド・テーラーは好意を寄せている相手、モモさんに自分の想いを告げた。
前髪を切り揃えたポニーテールに、ナチュラルメイクをしている童顔の容姿の彼女は、俺の言葉に一瞬驚くも、優しい笑みを浮かべている。
緊張で心臓の音が鳴りやまない中、返事を待つ。
「ありがとう。あなたの気持ちはとてもうれしい。だけどおつき合いできません。私、他に気になる人がいるの。だから、もうお互いに会うのは控えましょう。デーヴィッドはとても優しい人よ。きっとあなたに好意を抱いている人はきっといるはずだから……だから恋愛を諦めないでね」
彼女の優しい言葉の中に隠された鋭い刃に胸を切り裂かれる思いをしながらも、俺はここで涙を流す訳にはいかないと思い、冷静な自分を演じながらモモさんに最後の言葉を伝える。
「俺のほうこそありがとう。二回も誘って悪かったね。モモさんのお陰で、俺は色々と成長することができた。モモさんに対して感謝しかないよ。出会えて本当によかった。頑張ってね。陰ながら応援しているから」
俺の言葉にモモさんは軽く頭を下げると、俺に背中を向けて歩き始め、この場から離れて行く。
彼女の後姿が見えなくなるまで見送ると、俺は勢いよく両手で頬を思いっきり叩く。
「よし、気合は入れ直した。今考えれば、彼女が俺に対して気持ちが覚めている傾向が出ていたところもあった。今回の反省を生かし、次につなげればいい」
とは口で言ったものの、どこが決定打になったのかは判断できていない。
確かに、恋人候補から外されるようになった可能性のある場所はいくつか思い当たる。
だけど決定打になった場所がピンポイントで分からなければ、同じ過ちを繰り返してしまう可能性だって出てくるのだ。
「本当、恋愛って難しいな」
反省をしながら帰路につき、家の扉を開ける。
「ただいま」
「お帰り、ねぇ、どうだった? 今日のデート! 成功した? 失敗した?」
家内に入ったところで金髪の少女が話しかけてきた。
長めの前髪は、縦ラインや毛先のランダムな動きがこなれ感と軽やかさを上昇させており、低身長では似合わないはずのミディアムヘアーが彼女の一部として馴染ませている。
大きく可愛らしい目で、彼女は俺を見つめていた。
「カレン、悪いが飲み疲れているんだ。話はまた明日にしてくれ」
今は結果を報告している余裕がない。
俺は二階にある自分の部屋に向かおうとして彼女を横切り、階段に足を乗せた。
「その様子だとやっぱり振られたんだ。だから言ったじゃない。告白するのは早いって。二回目のデートって、女性は自分に対する愛を再確認するために、とりあえず二回目のデートまではOKするけど、二回目のデートで覚めるようなことをしたら、恋人候補から外されるのよ」
背後からカレンの上擦った声が聞こえる中、彼女の言葉に対して反論することもなく、部屋へと向かう。
二階に上がって自分の部屋に入ると、俺はベッドに横になって右腕を額の上に乗せる。
頭の中で、先ほどカレンが言った言葉がリピートされた。
確かに彼女の言うとおりかもしれない。
二回目のデートをOKしてくれたことで、どこか安心をしてしまっていたのは確かだ。
気づかないところで、あの子の好感度を下げるようなことを言っていたのだろう。
帰る前に切り替えたはずなのに、今も未練たらしくモモさんのことを考えている自分がいることに気づいた。
「モモさんが気になっている人って誰だよ」
激しく後悔をする中、俺は時間が戻れたのなら、あの時の選択を変えていたのなら、また違った未来が訪れていたのだろうかと考えてしまう。
「起きていたら考えたくないことを考えてしまう。もう寝よう」
俺は両の瞼を閉じ、中々寝つけない夜を過ごしながらも、朝が訪れるのを待った。
翌朝、目が覚めると睡眠不足と軽い二日酔いを感じた。
だけど、のんびりベッドで寝ている時間はない。
今日から俺は、母校の一時教師として後輩たちに魔学を教えなければならない立場なのだ。
瞼を擦りながら上体を起こす。
着ていた服を脱ぎ捨て、箪笥から取り出した服に着替え、鏡の前で身だしなみのチェックを行う。
茶髪のマッシュヘアーの髪が跳ねていた。
寝癖を直して部屋から出ると一階に降りる。
「おはよう。カレンから聞いたぞ。昨日は残念だったな」
「いくら成人しているからといっても、まだ十六歳なのですから、焦らずゆっくりと次の相手を見つけていけばいいわよ」
一階に降りると、カレンの両親が声をかけてきた。
二人の言葉から、あれは夢ではなく、現実に起きたことだと改めて認識させられる。
「おはようございます。もう大丈夫ですので、変な心配はしないでください」
カレンの横に座り、容易された朝食を食べ始める。
今日の朝食は焼き立てのパンにカボチャのスープだ。
「デーヴィッドを拾ったときはまだ小さな赤ん坊だったのに、いつの間にか恋に目覚めるような青年になっていたのだな」
義父の言葉に俺は一旦食事を止め、彼に視線を向ける。
「これも、捨てられていた俺をおじさんが拾ってくださったお陰です」
お礼を言うと、義父は過去を懐かしむような遠い目をしだした。
「あのときはそう。まだ私が二十五歳のころだったな。嵐の中、村に戻ろうとしていたら、荒れていた川の中で揺り籠が流されていた。もしやと思って取ったら、ずぶ濡れになっていても泣くどころか笑っておった赤ん坊がいた。それがデーヴィッドだった」
「そうでしたね。お父さんがいきなりデーヴィッドを連れて来たときは驚きましたけど、そのときはまだカレンが生まれていなかったので、私たちは神様が恵んでくださったと思っていましたね」
「お父さん、お母さん。昔話をするのもいいけど、早く切り上げないとスープが冷めてしまうよ」
「そうだった。自然の恵みに感謝して、温かいうちに食べないとな」
カレンが注意を促すと、義父と義母は微笑みながらスープを飲み始める。
俺も食事を再開して数分後に朝食を食べ終わると、食器を重ねたところでカレンが声をかけてきた。
「ねぇ、デーヴィッド。今日の授業は大丈夫なの?ちゃんと教えられる?」
「何だ心配しているのか? 立ち直ったって言えば嘘になるが、仕事のときはきちんと切り替えるよ」
心配してくれるカレンにうれしさを感じ、つい彼女の頭に右手を置き、わしゃわしゃと撫でる。
「そんなんじゃない。デーヴィッドが集中できていなくて、不祥事を起こしたら、身内である私が恥をかくことになるから、それが嫌なだけよ」
若干頬を朱に染めながら、カレンは俺の腕を払いのけると、俺に背を向けて階段に歩いて行く。
「ついでに私の食器も片づけておいてね」
自分かってに振る舞うカレンに苦笑いを浮かべながらも、俺は心の中で彼女に対してありがとうと呟く。
「そろそろ時間じゃない? 片づけは私がやるから、デーヴィッドは学校に向かいなさい」
「分かりました。ありがとうございます。おばさん」
義母に礼を言い、俺は扉を開けて新たな職場であるラプラス学園に向けて歩きだす。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
また明日、続きを投稿しますので楽しみにしてください。
何か変だと思うところや、誤字脱字などが見つかりましたら是非教えていただければ幸いです。
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この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。
なので、面白くなっていることが間違いなしです。
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