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幕間物語 アリスのハッピーハロウィン

 今日、十月三十一日は何の日でしょうか?


 そうです!十月三十一日と言えば、衆議院議員総選挙の日!


 皆さんは投票に行きましたか?


 もちろん私は行きました!


 今回の選挙は政権交代をかけた大事な選挙。


 選挙には私たちの血税である税金が使われているので、投票しにいかないと損することになります。


 なので、今回行かなかった人は、次の選挙は損をしないために投票に行きましょう!


 って、そっちかい!


 そう思ったあなたは正しい。


 私はそのツッコミを待っていた!


 十月三十一日と言えば、日本でも馴染みつつあるハロウィンの日です!


 と言う訳で、本日は予定を変更して幕間物語、アリスのハッピーハロウィンをお届けします。


 張り切りすぎて長くなりました。


 実質二日分のボリュームになっています。


 話の内容はオケアノス編が終わった後になっています。


 まだオケアノス編の執筆中なのですが(笑)


 なるべく投稿していない話に触れないように、ネタバレ回避を意識して執筆しましたが、物語の都合上どうしても触れないといけない部分がありましたので、一部ネタバレがあります。


 ですが、大したネタバレではないはずなので、ご安心ください。


 前置きが長くなりましたが、幕間物語、アリスのハッピーハロウィンをお楽しみください。

 これはある大陸の街に、デーヴィッドたちが立ち寄ったときのできごと。


 アリスの視界に入ったのは、不思議な光景だった。


 建物の周囲には、カボチャを繰り抜いて目と口を作った状態で置かれている。


「変わった街なのです」


 今まで見たことのない街に、アリスは驚く。


 すると、自分たちのほうに四人の子どもたちがやってきた。


「トリック・オア・トリート」


 自分とあまり変わらない年頃の男女が、聞きなれない言葉を言う。


 何が起きているのかがわからず、アリスは困惑していた。


「トリート」


 すると、デーヴィッドが子どもたちに対して言葉を返し、カレンのほうを見る。


「カレン、そう言えばアイテムボックスにお菓子があったよな。あれを渡してくれ」


「わかったわ」


 金髪ミディアムヘアーで低身長の女の子が、バスケットの中に手を入れる。


 そして、丸い缶を取り出すと、蓋を開けてデーヴィッドに渡した。


「はい、この中から好きなものをひとつとって」


「ありがとう」


「やったーおいしそうなクッキー!」


 子どもたちは嬉しそうに缶の中に入ったクッキーを吟味し、ひとつ選ぶ。


「よし、皆次の大人を探しに行くぞ」


「おー!」


 クッキーをもらった子どもたちは、自分たちから離れていく。


「この世界にもハロウィンがあったんだ」


 薄い水色のウエーブのかかったセミロングの女の子が、聞きなれない言葉を呟く。


「エミお姉ちゃん、ハロウィンって何なのです?」


 意味を知らないアリスは彼女に尋ねた。


「一言で言うとお祭りかな?子どもたちがお菓子を貰ったり、大人も仮装をして盛り上がるのよ」


「エミの世界では仮装するのか!」


 エミの説明に、デーヴィッドが驚く。


「え、この世界って仮装しないの?」


「当たり前だろう。ハロウィンは子どもたちが楽しむためだけのお祭りなんだから」


「えー、それじゃあつまらないじゃない」


「郷に入っては郷に従え、この世界のルールなんだから、それに従わないと浮いてしまうぞ」


「それじゃあつまらないわよ。この世界に新しい風を吹かせましょう。昔の常識に囚われてはダメ。新しいことに挑戦しないと、世界は発展しないわ。確かに簡単には受け入れてもらえないけど、それでもやらないよりかはマシよ」


 そんなに仮装がしたいのか、エミは必死になってデーヴィッドに訴えかける。


「わたしも仮装がしたいのです」


 アリスもエミの意見に賛成し、デーヴィッドに訴える。


「でも、仮装をするにしても、突然すぎて何もないよな」


「オケアノス大陸にいたときに使った、ケモノ族変装セットを使えばいいのではないでしょうか?」


 長い金髪の髪を持つエルフのタマモが、オケアノス大陸にいたころに使っていたケモ耳カチューシャのことを言ってきた。


「確かにあれなら仮装をしていても、ケモノ族ということで誤魔化せられるかもしれぬな。余も久々にあれをつけてみたい」


 クラシカルストレートの赤い髪の女性のレイラが、右手を腰に置き、仮装をしていても誤魔化せられることを告げる。


「まぁ、それなら問題ないかもしれないな。アナのご両親が協力してくれたお陰で、少しはケモノ族のことが広まっているだろうし」


 デーヴィッドが懐かしい人物の名前を出す。


 アナとは、ケモ度二のケモノ族の女性の名だ。


 耳はキツネ、手は猫、モフモフの尻尾は犬という珍しいケモノ族で、オケアノス大陸にいたころは行動を共にしていた。


 彼女の問題が解決したことで、今は一緒にはいない。


 アリスたちは、着替えるために街の公衆トイレに向かう。


「はい、これがアリスの分ね」


「ありがとうなのです」


 アイテムボックスから着替えを出してくれたカレンに、アリスはお礼を言う。


 個室に入ると、アリスは着ているローブを脱ぐ。


 そして綺麗に折りたたみ、荷物置き場の上に置く。


 続いて彼女は、白い尻尾が縫い付けてあるローブを着て、頭に白い猫耳カチューシャを嵌める。


「これでよしなのです」


 着替えを終えたアリスは、トイレから出る。


 しかし、まだ他の人は着替え終わっていないようだ。


 彼女は、女性陣が着替え終わるのを待つ。


「アリスちゃん早いわね」


 二番手で出てきたのはエミだった。


 彼女は頭にうさ耳カチューシャを嵌め、兎の丸い尻尾が縫いつけてあるスカートに着替えていた。


 少し遅れて別の扉が開かれる。


 中から出てきたのはカレンだ。


 彼女は垂れ耳の犬のカチューシャを嵌め、スカートからはモフモフの尻尾が出ている。


「アリスとエミがいるってことは、あとはタマモと、ライリー、それにレイラのようね」


 三人で待っていると、ふたつの扉が同時に開かれた。


 扉から出てきたのは、タマモとライリーだ。


 タマモはキツネ耳のカチューシャに、モフモフのキツネの尻尾をつけ、ライリーはオオカミのケモ耳カチューシャを頭に嵌め、ズボンからオオカミの尻尾が出ていた。


「お待たせしました」


「どうやら残りはレイラだけのようだねぇ」


 レイラを待つだけとなり、トイレの個室から魔王が出てくるのを待つ。


「遅いわね。着替えるのにどれだけ時間をかけるつもりかしら」


 腕を組みながら、カレンがレイラの入った個室に顔を向け、ポツリと言葉を洩らす。


 しばらく待つと、ようやくレイラがトイレから出てきた。


 しかも、トイレの水が流れる音と共に。


「待たせたな。では、デーヴィッドのところに向かうとしよう」


 何事もなかったかのように、レイラは彼女たちに声をかける。


 空気を読んでいるようで、皆何も言わずに女性用のトイレから出て行く。


 外に出ると、デーヴィッドが待っていた。


 彼は犬耳のカチューシャをつけ、エクステで耳を隠している。


 その姿を見て、アリスはフードの中に手を入れ、自分も耳を隠す。


 一応ケモノ族のつもりでいる。


 それならばケモノ族になりきらなければ。


「デーヴィッド、どうであるか余の恰好は?」


 レイラがヒョウのケモ耳と、漆黒のドレスから出ている尻尾をデーヴィッドに見せる。


「どうって言われても、オケアノス大陸にいたころはさんざん見ていたから見飽きている。今更感想なんて言われてもなぁ」


 返答に困ったようで、デーヴィッドは右手を後頭部のほうに持っていく。


「見飽きているとしても、久しぶりに着たのだ。少しは褒めてほしいぞ」


 期待した反応とは違ったようで、レイラは頬を膨らませる。


「皆着替えたことだし、町中を歩こうか」


 来たばかりの街中を見て回ろうとデーヴィッドが言いだす。


 そして彼は踵を返して先を歩き出した。


 彼に続いて他の女性陣も歩き始め、アリスは最後尾に並んでついて行く。


 当たりを見渡しながら歩いていると、窓のショールームに並べてある人形が視界に入った。


 気になったアリスは足を止め、赤い瞳で人形を見つめる。


 人形は長い黒髪の可愛らしい少女を象っている。


 頭にはツバが広く、先端に向かうほどクラウンが細くなっている黒い帽子を被っていた。


 いわゆる魔女の帽子というやつだ。


「可愛いお人形さんなのです。エミお姉ちゃん、タマちゃん見てくださいなのです」


 視線をショールームに向けたまま、アリスは姉のような存在である二人の名前を言う。


 そして左手を横にして手招きをした。


 数秒経っても返事がない。


 不思議に思ったアリスは視線をショールームから外し、顔を横に向ける。


 歩道には、仲間たちの姿がどこにも見当たらなかった。


「エミお姉ちゃんたちがいないのです!」


 アリスは走り、急いでデーヴィッドたちを探す。


 彼らはケモノ族の恰好をしている。


 間違いなく目立つので、見つかるはずだ。


 首を左右に振りながら、仲間を探す。


 けれど、どこにも見合ったらない。


「どうしよう。迷子になってしまったのです。エミお姉ちゃんに怒られるのです」


 以前、アリスは一人で行動したことがある。


 そのときにエミは、もの凄く心配をしていた。


 それ以来、勝手に一人で行動をしないと約束したのだ。


 エミの怒りが頂点に達する前に見つけなければならない。


 焦りを感じつつも、アリスは必死になって探す。


「キャッ!」


 前を向いて走っていなかったので、彼女は何かにぶつかった。


 反動で小さい身体は尻餅をつく。


「いたたなのです」


「痛い。どこみていやがる」


「何を言っているのよ。前を向いていなかったあんたが悪いじゃない」


「大丈夫?どこかケガしていない?」


「お互い前を向いていなかった。つまりこれは喧嘩両成敗」


 尻餅をついた衝撃で両の目を瞑っていると、文句を言う声、その声に対して文句を言った人物が悪いと主張する声、アリスを心配する声、冷静に状況を分析している声が耳に入る。


 アリスは目を開けると、目の前には自分とあまり変わらない年代の四人組の子どもがいた。


 彼らには見覚えがある。


 数十分前に、デーヴィッドからお菓子を貰ったあの子どもたちだ。


「猫耳と尻尾!もしかして噂のケモノ族」


 アリスの容姿を見て、紫色のロングヘアーの女の子が声を上げる。


 この声は確か、アリスを心配してくれた人だ。


 アリスは頭が曝け出していることに気づき、急いでフードを被る。


「どうしてフードなんか被るのよ。なんか怪しくない」


 文句を言っていた人物に対して注意をしていた声の女の子が、アリスの態度を見て怪しむ。


「当たり前の行動だ。白い髪に赤い瞳、それに色白の肌を見て間違いない。彼女はアルビノだ。アルビノは肌が弱い。そのため直射日光を避ける傾向にある」


 ボーダー柄のTシャツに、ズボンにサスペンダーをつけている坊ちゃん刈りの男の子が、かけている眼鏡のブリッジを、右手人差し指で上げながら彼女の行動理由を言う。


「そんなことどうでもいいんだよ。ぶつかったのなら謝れよ!」


 アリスにぶつかった男の子が、彼女に謝るように言ってくる。


「ごめんなさいなのです。急いでいたので気づかなかったのです」


「ほら、あの子も謝ったのだから、あんたも謝りなさいよ」


 アリスが誤ると、彼女を怪しんだ女の子が、文句を言った男の子に謝るように言う。


「わかったよ。俺のほうこそ悪かった。これでいいだろう」


「いいわけないでしょう。ちゃんと謝りなさい」


 一度アリスを怪しんだ女の子が、文句を言ってきた男の子の頭を叩く。


 そしてしっかりとした謝罪をするように促す。


「痛い。痛い。わかった。ちゃんと謝る。前を見ていなくてごめんなさい」


 文句を言ってきた男の子がしっかりと謝罪の言葉を言うが、彼は納得していない様子だ。


「私、リリィって言うの。あなたは?」


 紫色のロングヘアーの女の子が、自分から名乗る。


 そしてアリスに名前を尋ねてきた。


「わたしはアリスなのです」


「アリスね。あたしはアビゲイル。皆からはアビーって呼ばれているわ」


 アリスを怪しんでいた女の子が、栗色のミディアムヘアーの髪を手で払い除けながら自分の名を言う。


「僕はアレキサンダー。たくさんのことを知っている。皆からはハカセと呼ばれている」


 坊ちゃん刈りの男の子が、再び眼鏡のブリッジを上げながら自分の名前を教える。


「そして、この愛想の悪いのがラッシュよ」


 アビーが文句を言った男の子を指差しながら、彼の名前を言う。


「おい、自己紹介ぐらい、俺にさせろよ」


「それでどうしたの?急いでいたって言っていたけど」


「それが皆と逸れてしまったのです。早く戻らないと怒られるのです」


 アリスは顔を俯かせながら事情を説明する。


「それはまずいわね。ここで会ったのも多少の縁。こうなったら、あたしたちでアリスの家族を探すわよ」


 どうやら皆という言葉を、家族だと勘違いしたようだ。


 アビーは腕を組むと、デーヴィッドたちを探すと言ってくれる。


「そうね、それがいいわ」


「なら、この僕の頭脳を披露しよう。僕の頭があれば、君をご家族のもとに送り届けることなど造作もないだろう」


「おい、何を勝手なことを言っているんだよ。今日はハロウィン!大人たちからたくさんのお菓子を貰う日だぞ。こんなやつに構っている暇はないだろう」


 三人が協力してくれる意思を示してくれる中、ラッシュだけは反対意見を言う。


「うわー、ラッシュ、それはマジでないわー。空気が読めないにもほどがある」


「ラッシュ君、それはあまりにも薄情よ。同じ立場になって考えてみてよ。心細いに決まっているじゃない」


「ラッシュ一人いなくても問題ない。僕の頭脳があれば一人いないぐらいのハンデを覆せる」


 協力しないことを言うラッシュに対して、三人は覚めた視線を彼に向ける。


「じょ、冗談だって。もちろん探すのに協力するって」


 突き刺さるような視線に耐えきれなくなったのか、ラッシュは乾いた笑い声を上げながら協力してくれると言ってくれた。


「でも、どうやって探してくれるのです?」


「人を探すにはまず聞き込みからだ。大人たちに尋ね、ついでにお菓子を貰おう。そうすれば一石二鳥だ」


「さすがハカセ!こういうときはいつも頼りになるわね」


「よし!それじゃあ聞き込みを開始だ!」


 情報を提供してもらうついでに、お菓子を貰うと聞いたからだろう。


 ラッシュは急に張り切り出し、右腕を上に向ける。


 こうしてアリスを加えた五人は、大人たちにデーヴィッドたちを見かけていないかを尋ね、そのついでにお菓子を貰った。


「トリック・オア・トリートなのです」


「トリート。はい、お菓子をあげるわね」


 街の大人たちにハロウィンの挨拶をしながら、アリスはお菓子の入った袋を貰う。


「ありがとうなのです。おばちゃんあのですね、大人のケモノ族を見かけなかったです?わたしの保護者なのです」


「ケモノ族?うーんどうだったかしら?」


 お菓子をくれたおばちゃんは、右手を頬に当て、左手を右肘におきながら考えるポーズをする。


「ごめんなさい。たぶん見かけていないわ」


「そうなのですね……ありがとうなのです」


 少し落ち込み気味でありながらも、アリスはお礼を言う。


 さっきからこの調子なのだ。


 道行く大人に声をかけ、デーヴィッドたちの情報提供をしてもらおうとするが、何ひとつ手がかりがない。


「エミお姉ちゃんたちどこに行ったのです」


 ポツリと言葉を洩らすと、彼女のもとにリリィがやってきた。


「アリスちゃん、ケモノ族の情報が入ったわよ。中央広場の噴水前にいるのを見たって」


「本当なのです!ありがとうなのです」


 デーヴィッドたちが見つかったと知り、アリスは喜ぶ。


 すぐに彼女たちは中央広場に向かった。


 噴水の前には確かに一人いた。


 だが、アリスと同じようにローブを着ており、フードで頭を覆っている。


 辛うじてローブから猫の手が出ており、ケモノ族であることはわかった。


「ねぇ、あれがアリスの探していたケモノ族なの?」


 アビーがアリスに尋ねてきた。


 彼女は首を横に振る。


「違うのです。でも、どこかでみたことがあるような気がするのです」


 アリスは決心すると、ゆっくりとローブの人物に近づく。


 すると、お祭りに使うお面が顔につけてあるのが見えた。


 その人物が何者なのかわかった彼女は、思い切って声をかける。


「もしかしてアナスタシアお姉ちゃんなのです?」


「うわー!ビックリした。いきなり声をかけないでくださいよ……って、アリスさんじゃないですか。あなたがここにいるってことは、デーヴィッドさんたちもいるのですか?」


 予想どおり、噴水前にいたのはケモノ族のアナスタシアだった。


「そうなのです。でも、皆と逸れてしまったのです。だから何か情報をくださいなのです。じゃないと悪戯するのです」


「アリスさん。さっきわたし言いましたよね。あなたがいるってことは、デーヴィッドさんたちもいるのですかって。つまり、わたしはデーヴィッドたちの居場所を知らないわけです」


「なら悪戯するのです」


 デーヴィッドたちの居場所を知らないとアナスタシアは言うと、アリスは彼女の被っているフードを外す。


 そして晒されたキツネ耳を触った。


「や、やめてください。耳は弱いって……前に言っていなかったですか」


「止めてほしいのなら、デーヴィットお兄ちゃんたちを探すのに協力するのです」


「あっ、わ、わかりました。探すのを……手伝います」


 弱点の耳を触られたからか、アナスタシアは色っぽい吐息を洩らす。


 そして彼女に協力すると言った。


「これで捜索隊が増えたのです」


 アリスはガッツポーズを決めた。


 そしてアナスタシアの手を握り、リリィたちのところに戻る。


「あのう、その人は、アリスちゃんの探していた人なのですか」


 恐る恐るリリィが聞いてくる。


 彼女の気持ちも分からなくはない。


 アナスタシアは、初めて会ったときと同じように怪しい恰好をしているのだ。


「探している人ではなかったのですが、一応知り合いなのです。アナスタシアお姉ちゃんが入れば、わたしの保護者も見つかるのです」


 リリィたちに説明をすると、アリスはローブのポケットからトランクスを出した。


「これはデーヴィットお兄ちゃんのパンツなのです。この匂いをアナスタシアお姉ちゃんに嗅いでもらうのです」


「どうしてそんなものを持っているのですか!」


 アリスの言葉を聞いたアナスタシアは、両手を頬に当て、驚愕する。


「洗濯物が落ちていて、後でカレンお姉ちゃんに渡すつもりだったのですが、すっかり忘れていましたのです。デーヴィットお兄ちゃんから聞きましたよ。わたしが群山に一人で向かったとき、臭いで居場所を特定したらしいじゃないですか」


「デーヴィッドさん、余計なことを言わないでください!」


 アナスタシアは、再び叫び声のように声を荒げる。


「お願いするのです。このパンツで、わたしを皆のところに導いてくださいなのです」


 アリスは頭を下げ、アナスタシアにお願いをする。


「はぁー。わかりました。やるだけやってあげます」


 良心が刺激されてしまったのだろう。


 アナスタシアは小さく息を生きを吐くと、匂いを嗅ぐことを了承してくれた。


 アリスはデーヴィッドのトランクスをアナスタシアに渡す。


 パンツを受け取った彼女は、頬を朱に染めながら鼻を近づける。


「クンクン、洗濯物のいい匂いがしますねぇ。お日様の香りがします……って全然他の匂いがしないじゃないですか!本当にデーヴィッドさんのパンツなのですか!」


 匂いを嗅いだパンツから、他の匂いがしなかったようだ。


 アナスタシアは声を荒げる。


「これじゃあ、公衆の面前でパンツの匂いを嗅ぐ変態ではないですか!」


「そんなぁ、それじゃあ皆と会えないのです?」


 アリスは目を潤ませながらアナスタシアに問う。


「うっ、だ、大丈夫ですよ。今ごろアリスさんがいないことに気づいて探していると思います。なのですぐに見つかりますよ」


 今にも泣きそうな表情を見せるアリスに、心が痛んだのかもしれない。


 アナスタシアは焦って彼女を励ます。


「と、とにかく、巻き込まれてしまった以上は、最後まで面倒を見ます。デーヴィッドさんたちが見つかるまでは、わたしが協力しますので」


「ありがとうなのです。頼りにしているのです。アナスタシアお姉ちゃん」


 アリスがお礼を言うと、再びアナスタシアが小さく息を吐く。


 その後様々な人から話を聞くも、中々有力な情報がなかった。


 その代わりにアリスの手には、食べきれないほどのお菓子の山が積み重なっている。


 空がオレンジ色に染まりつつあり、夕方になっていた。


「全然デーヴィッドさんたちが見つからないじゃないですか。これじゃあ本当にこの街にいるのか怪しいものです」


 長時間に渡って情報を集めても、デーヴィッドたちにつながる手がかりが手に入らないことに対して、アナスタシアは怪しさを感じた。


 彼女の気持ちもわかる。


 ここまで探しても見つからないのは可笑しい。


「どうしよう。このまま皆に会えなかったら」


 寂しい気持ちが強くなったのだろう。


 アリスの目尻からは涙が流れ始めた。


「大丈夫よ。アリスちゃんのご家族はきっと見つかるわ」


「そうよ。あたしたちがいるのだもの、その内見つかるわ。もし、今日中に見つからなければ、あたしの家に泊まりなさい。お父さんとお母さんには、あたしから言っておくから」


「すまない。僕の計算では、既に見つかっているはずなのに、こうも数式が合わないことが起きるなんて」


 リリィとアビーが励ましの言葉を言い、ハカセが謝る。


「ありがとうなのです。それとハカセは謝らなくっていいのです。一緒に探してくれて感謝しかないのです」


「ほら、こいつをやるから元気を出せ」


「え、いいのですか?」


 ラッシュが一枚のシールをアリスに手渡してきた。


「でも、それはラッシュが喜んでいたやつではないですか」


 彼が渡してきたのは、チョコ菓子についているおまけのシールだった。


 大人から貰ってパッケージを開けてみると、中々でないシークレットだったのだ。


 それを見たラッシュはとても喜んでいた。


 その光景を覚えているだけあって、アリスはすぐに貰うわけにはいかなかった。


「いいんだって。もらっておけ。運がよければまた手に入る。そいつをお守り代わりに持っていろ。そのシールのキャラは、幸運をもたらす女神様だ。持っているだけで願いが叶うって言われている」


「ありがとうなのです。大事にするのです」


「あんたっていいところあるじゃない。見直したわよ」


「痛い、痛い。背中を叩くなって」


 ラッシュの背中を、アビーが思いっきり叩く。


「あれ?何かがこちらに向っています」


 リリィが空に指を向ける。


 アリスも彼女が差したほうに顔を向けると、一羽のリピードバードがやってきた。


『アリス、ようやく見つけたぞ』


「鳥さん!」


『その呼び名で呼ぶな!』


 アリスの前に現れたのは、リピードバードに魂が乗り移ってしまったレックスだ。


 彼はアリスの前に舞い降りる。


「嘘、鳥が喋っている」


「あれはリピートバードと言って、人が言った言葉を相手に伝える鳥です。ですが不思議ですね。普通のリピートバードとは違う気がします」


「面白い、取敢えず捕まえろ!」


 ラッシュが捕獲するように言うと、リリィたちはレックスに飛びかかる。


『な、何をしやがる。は、放せ!』


 子どもたちにもみくちゃにされ、夕方の空にレックスの悲鳴の声が響く。


『こ、これだから下等生物のガキは嫌いなんだ』


 変わった鳥と触れ合い、ようやく満足をしたようだ。


 アビーたちはレックスから離れる。


『ひどい目に遭ったが帰るぞ。魔物のせいで街から離れていた。街の外で皆アリスが来るのを待っている』


「デーヴィッドお兄ちゃんたちは街の外にいるのですね」


 アリスは笑顔で声を上げる。


 魔物のせいで街から離れていた。


 どおりでいくら街中を探しても見つかるわけがないのだ。


「良かったな保護者が見つかって」


 鼻の先端を擦りながら、ラッシュがアリスに言う。


「はいなのです。これも皆が協力してくれたお陰なのです。それにこのシールの効果って凄いのです。貰った途端にお迎えが来てくれたのです」


「また明日も会える?」


 リリィが 明日も会えるのかアリスに尋ねる。


『そんな暇はない。魔物が来たことで予定が変わったのだ。すぐに次の街に向かわなければならない』


 アリスの代わりにレックスが答える。


『アリス直ぐに行くぞ。でなければ俺が怒られる』


「なら、怒られてくださいなのです」


『何でそうなる!』


「「「「「アハハハハ」」」」」


 レックスのノリツッコミに、子どもたちは笑った。


『よく見れば、アナスタシアもいるではないか。どうしてお前がここにいる?まさかまた家出か?』


「まぁ、そんなところです」


『どうする?お前も一緒に来るか』


「いえ、あたしは行くところがあるので」


『そうか。なら、お前が元気であったことを、デーヴィッド意外には伝えておこう』


 彼の言葉を聞き、後で痛い目に遭わなければいいのだけどとアリスは思った。


「それじゃあ、わたしは皆のところに帰るのです。ハッピーハロウィン」


「「「「ハッピーハロウィン」」」」


 アリスがこどもたちに挨拶をすると、ラッシュたちも挨拶を返す。


『ほら、行くぞ、俺について来い』


 アルビノ少女は彼らに手を振りながら、レックスの後ろをついて行く。


 子どもたちの姿が見えなくなると、アリスは手を振るのを止める。


 そして街の出入口に辿り着くと、デーヴィッド達の姿が見えた。


 たくさんのお菓子と街での思い出を腕に抱えながら、アリスは駆けだす。


 最初は皆に謝ろう。


 そして逸れた後のことを皆に話すんだ。


 皆と逸れて寂しい思いもしたが、それ以上にかけがいのない思い出と友達ができた。


 この記憶は、アリスが大人になっても心の中に残り続けるだろう。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 七夕の日も幕間物語を書こうとしたのですが、すっかり忘れていたので、今回リベンジができて良かったです。


 次のイベントはクリスマスになるのかな?


 と言う訳で、次の幕間物語はクリスマスに書こうと思います。


 その前にこの物語を書ききって、完結していた場合は書かない可能性が高いかと思います。


 いつ完結するのか私自身もよくわかっていませんが。


 と言う訳で、明日は昨日投稿した話の続きを投稿する予定です。

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