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第二十六章 第一話 アナスタシアがデーヴィットを恋人にした理由

 今回のワード解説


指球……前足、後ろ足の指の根元に存在する、小さ目な5つの肉球。



 女性陣を目の前にして、俺は額から冷や汗を流していた。


「というわけで、デーヴィットさんの彼女となりました。アナスタシアです。今後ともよろしくお願いします」


 俺の隣にいるケモノ族の女性が、俺の左腕に自身の右腕を絡ませ、左手を上げながら元気よく挨拶をする。


「へぇー、あたしたちが違う部屋だということをいいことに、夜中に女を連れ込んで恋人を作ったんだ」


 薄い水色のウエーブのかかったセミロングの女の子が俺にジト目を向けてくる。


「いや、だから」


「別に、恋愛は人それぞれだからいいのだけど、どうして相談してくれなかったの、お・に・い・ちゃ・ん」


 弁明をしようとすると、金髪ミディアムヘアーで低身長である俺の義理の妹は、普段は呼ばない呼称で俺のことを言いながら、エミと同じ眼差しを向ける。


「デーヴィットさんに恋人が!ということは、夜はお楽しみをなさると言うことなのですか。それは不潔です!アリスさんの性教育にはまだ早いかと」


「だから俺の話を聞いて!」


 何を想像しているのだろうか。


 長い金髪のエルフの女性、タマモは頬を朱に染めながらとんでもないことを口走る。


「性教育ってなんなのです?」


「アリスは知らなくていいことだから!お願いだから君は純粋なままでいて!」


 白い髪に色白の肌を持つ少女が、首を傾げながら性教育とは何なのかを問うてくる。


 俺は弁明をしたいのに、つい慌ててツッコミまがいな返答をしてしまう。


「デーヴィットよ。そこの泥棒猫を燃やし尽くしてもいいか?そなたの心を奪った罪を、身をもって思い知らさなければならぬ」


「頼むから俺の話を聞いてくれ!そしてレイラ、物騒だから炎を消して!」


 赤い髪のクラシカルストレートの女性が、自身の魔力で生み出した炎を上空にかざしながら、俺に尋ねる。


 俺の話を聞かない彼女たちに、頭を悩ませる。


「アハハハ、デーヴィットモテるねぇ、見せつけてくれるじゃないか」


 他の女性陣とは違い、前髪を作らない長い黒髪の褐色の肌を持つ女性は、俺を責めるのではなく、笑っていた。


「この状況を楽しむぐらいなら、俺の弁明に協力してくれよ。ライリー、絶対にわざとだろう」


 助け船を出してくれる素振りをみせない彼女に、俺は困り果てた。


 同じ状況に陥っているのにも関わらず、何故かアナスタシアは皆に笑顔を向けたままだ。


 俺と協力して事情を説明してくれるようには見えない。


 おそらく、彼女が説明するよりも、それなりに信頼関係を築いている俺が説明するほうが、皆も納得してくれると判断しているのかもしれない。


 俺は彼女たちの傍にいるリピートバードに視線を向けた。


「なぁ、レックスは俺と同じ部屋にいたから、夜中に何が起きたのか分かっているよな。昨夜のことを皆に説明してくれよ」


『悪いが俺は昨夜のことは何も分からない。どうやら酷く疲れていたようでな。さんざん眠っていたはずなのに、深い眠りに陥っていた』


 レックスの言葉に、俺は絶対にわざと知らないふりをしているのだろうと思った。


 彼は俺のことを嫌っている。


 わざと困らせるようにしているのだろう。


「お前絶対に嘘だろう。同じ部屋にいてあれだけ暴れたのだから知らないはずがない」


「あ、それはわたしが睡眠魔法を使ったからではないでしょうか?部屋に侵入した際に、お二人に魔法をかけましたので。まぁ、デーヴィットさんにはあまり効果がなかったようですか」


 どうしてレックスが知らないのか、アナスタシアがその理由を説明する。


 確かに、俺は一度目を覚ましたが、直ぐに激しい眠気に襲われて眠ってしまった。


 それが睡眠魔法によるものだとしたら、レックスは嘘を言っていないことになる。


 彼の方を見ると、目を細めて俺を睨んできた。


 心の中で、レックスにごめんと謝る。


「まぁ、まぁ、茶番はこの辺にして、デーヴィットの話を聞こうじゃないか。どうせ皆もあいつに彼女ができるとは本気で思っていないだろう?」


「まぁ、そうね。驚かせた罰として、少し困らせようと思ってやったことだけど、そろそろ真面目に話を聞きましょう」


「そうね。カレンの言うとおり、そろそろ本題に入らないと。今日はフォーカスさんと合流して、オケアノス大陸に向かう日だから」


 ライリーがそろそろ真面目に話を聞くように促すと、ようやくカレンたちも話を聞く姿勢を見せてくれる。


 だけど一言余計だ。


 今は縁がないだけで、いずれは俺にだって彼女ができる。


「なんと、あれはおふざけであったのか!余は本気にしていたぞ」


 皆が俺を困らせるためにふざけていたという中、一人だけ本気だったことを知り、俺は更に冷や汗が流れた。


 レイラは本気で彼女を消し炭にするつもりでいたらしい。


 俺は苦笑いを浮かべながら、昨夜何が起きたのかを彼女たちに説明する。


「なるほど、それでアナスタシアはデーヴィットの彼女って言い張っているのね」


 説明を聞いたカレンは腕を組み、赤い瞳で俺を見てくる。


「でも、交換条件とは言え、どうしてデーヴィットを恋人にしたいのよ?」


 エミが恋人にした理由を尋ねてくる、それはまだ俺にも聞かされていない。


 実は約束をしたあとに、再び睡眠魔法の効果が現れたようで、気がついたら眠っていた。


 質問をされると、アナスタシアは周囲を警戒するように辺りを見渡す。


 そして手招きをするとカレンたちをこちらに引き寄せ、小声で説明してきた。


「それはですね。わたし、実は家で娘なんです」


「「「「「家出!」」」」」」


「家出なのです!」


「声が大きいです。何のために小声で話していると思っているのですか」


 アナスタシアは右手の指球(しきゅう)をひとつ伸ばし、口元に持っていく。


「アナスタシアお姉さんの手は猫さんみたいなのです」


 彼女の手を見て、アリスは動物の手であることに気づく。


「ええ、わたしの父は猫とキツネ型のハーフで、母は犬型なのです。その二人の間に生まれたわたしは、耳はキツネ、手は猫、尻尾は犬という変わった獣人……ではなかったですね。ケモノ族なのです」


 目の前にエミがいるからなのか、アナスタシアは言い直した。


「ゴホン。話を戻しましょう。わたしが家出をした理由なのですが、両親から見合いを勧められておりまして。それが嫌で、家を飛び出してこのセプテム大陸まで来たのです」


 家出をした理由をアナスタシアは教えてくれたが、スケールがでかい。


 家出の範囲を超えている。


 普通は別の大陸まで家出することはない。


 そうとう見合いを嫌がっていることが伝わってきた。


「なるほどねぇ、家出の理由を聞いて、どうして契約をしてまでデーヴィットの彼女になりたいのか分かったわ」


「テンプレというやつよね。お決まりすぎてあまり驚きはしないけど。でも、移動距離のスケールのでかさには、さすがのあたしも驚かされたわ」


 カレンとエミは、アナスタシアが何をしたがっているのかが理解できたようで、何度も頷く。


「アナスタシアさん、あなたの気持ちは凄くわかります。ワタクシも実は、お父様の跡を継ぐのですが、過去に何度も婿殿はまだ決まらないのかと言われて、嫌気がさしたことがあります。ですが、ワタクシにはそこまでの行動力がなく、結局家出をすることができませんでした。ですので、あなたには尊敬の念を抱いております」


 自分の境遇と重なる部分があったようで、タマモはアナスタシアの手を両手で包み込むように握ると、緑色の瞳で彼女を見つめる。


「そんなに見つめられると照れてしまいます」


 尊敬されていることを知ったアナスタシアは、照れくさそうに笑みを浮かべる。


「なぁ、三人はアナスタシアがこれからしようとしていることに気づいたんだよな?いったい何をしたがっているんだ?」


 家出をした理由だけを聞いただけでは、彼女が俺に何をさせようとしているのかを察することができなかった。


 そこで彼女たちに訊いてみたのだが、なぜか俺に視線を向けると三人は一斉に溜息をつく。


「これだから、デーヴィットは頭がいいのにバカだって言われるのよ」


「もっと、恋愛モノの物語を読んで学ぶべきです」


「寧ろ、これがデーヴィットらしいわよ。もし、今ので察することができたのなら、あたしたちは今ごろ関係が変わっていたかもしれないし」


 三人が俺にダメ出しをしてくる。


 何度も彼女たちに同じことを言われているが、本当にナゾナゾを出されている気分になる。


 一応恋愛の知識は知識の本(ノウレッジブックス)を呼んで、ある程度は知っているつもりだ。


 そして過去に食事デートをした際にも実践している。


 だけど、それでも俺には理解することができないのだ。


「つまりですね。わたしの彼氏のふりをして、両親を諦めさせてもらいたいのです。わたしはまだ結婚するつもりはないので」


 俺に何をしてほしいのか、その理由をアナスタシアは語ると、再び俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。


「だからって、何で今デーヴィットにくっついているのよ。恋人のふりをするのは、オケアノス大陸についてからでいいじゃない」


 彼女行動を見て、カレンが声を上げる。


「だって、今うちに練習をしておかないと、ボロが出るかもしれないじゃないですか。ねぇ」


「いや、俺に同意を求められても」


 アナスタシアが賛同するように言ってくるが、俺は困ってしまい、右手で頬を掻く。


「なぁ、アナスタシアに火傷を負わせるぐらいはしてもいいだろうか。頭では演技の一環だと分かっているのだが、どうもそなたにくっついているとことを見ると、モヤッとするのだ」


「ダメに決まっているだろう!」


 俺はつい声音を強めて言う。


「ダーリン優しい」


 ボロを出さないための訓練の一環なのだろう。


 アナスタシアは絡ませた俺の腕に、自身の頬を擦りつける。


「ダ、ダーリン!デーヴィットの未来の花嫁は余であるぞ!デーヴィットのことをそんな風に呼ぶではない!」


「お、落ち着け。これはあくまで演技だ。本気で言っているわけではない」


 右手を突き出し、俺は早まらないように彼女に言う。


「そうであるが、そうであるのだが、もう我慢できぬ!」


「ここで火炎魔法はやめ……て」


 再び叫び声を上げようとすると、レイラは俺の突き出した右腕に自身の腕を絡ませてきた。


「このモヤッとした気持ちが消えるまでは、しばらくこうさせるのだ」


 いじけたように頬を膨らませながら、彼女は青い瞳のある目で見つめてきた。


「両手に花とは見せつけてくれるじゃないか。似たような光景を前にもみたことがあるような気がするよ」


 二人に拘束された俺を見て、ライリーは茶化してくる。


 嬉しい反面、俺はどうしようかと思った。


 レイラは本気でも、アナスタシアは演技でやっている。


 それを彼女たちは理解しているはずなのに、なぜかカレンとエミとタマモの三人は、蔑むような目で俺のことを見ていた。


「両手に花で良かったじゃない。でも、何でかしら?レイラじゃないけど、何だかムカついてきた」


「本当にカレンさんの言うとおりです。男の欲望の塊を見せつけられているように感じます」


「ねぇ、デーヴィット。エレクタイルディスファクションがいい?それともエレクタイルディスファクションがいい?」


 どっちを選んでも結局選択肢は一緒じゃないか!


「嫌だ――!男としての機能を失いたくない!」


 俺は二人を振りほどくと、エミの視界に入らない場所まで全力疾走で逃げていく。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 いつの間にトータルユニーク数が一万を超えていました!


 本当にありがたいことです。


 これも毎日読んでくださっているあなたがいてくれるお陰です。


 毎日数人のかたが第一話を読んでくださっているのですが、一日の読者数が伸びません。


 つまり、私の書く物語のどこかに読むのを止めるポイントがあるということですよね。


 私個人の分析では、チート能力を持っているのに序盤でエレメント階級のオーガにボコボコにされていているから、読んでいてスカッとしないのかなぁと思っています。


 物語の続きの執筆に、過去に投稿した話の改稿などもありますが、少しずつでも多くのかたに続きを読んでもらえるように頑張っていこうと思います。


 明日も投稿予定なので楽しみにしていただけたら幸いです。

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