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第二十五章 第二話 エドワード伯爵のエルフ拉致監禁問題の裏側

 今回のワード解説


 読む必要がない人は、とばしてよんでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。


グリップ…… バット・ラケットやゴルフのクラブ、一眼レフカメラなどの握りの部分。また、その握り方。


交感神経……交感作用を媒介する神経という意味で、副交感神経とともに自律神経系を構成し,脊髄から出ておもに平滑筋や腺細胞を支配する遠心性神経のこと。


立毛筋……毛を皮膚の表面に垂直に立てて、いわゆる鳥肌をつくる筋で、交感神経の支配を受ける。

 軍服を着た男が、インペリアルの髭である口の端を引き上げながら、こちらにやってくる。


 俺は思わず身構えた。


「おや、どうして身構えるのです?そうか。この前までは敵同士でしたな。いやいや、魔物の策略だったとはいえ、互いに刃を向けたことは水に流してくれませんか?」


「それ以上は近づかないでください!」


 長い金髪に大きな耳を持つエルフの女性が俺の横に来ると、緑色の瞳のある目で彼を睨みつける。


「げ!エルフ!」


 伯爵はタマモの顔を見るなり、驚愕した表情を見せる。


 どうやら認識阻害の魔法による影響で、俺たちのことを忘れていたとしても、自身が行った罪は覚えているようだ。


「どうした?お前たちの間に何かあったのか?」


 俺たちの間に漂う何とも言えない微妙な空気を感じ取ったのか、女王陛下が声をかけてきた。


 顔を前に向けたまま、眼球だけを動かして周囲を見る。


 この場には行商人と思われる男性が五人いる。


 何かがあった場合は、彼らが巻き込まれる可能性がでてくるだろう。


「モードレッド、悪いが行商人たちを別室に移動させてくれないか」


 最悪の展開を考えていた俺は、銀の鎧を身につけている女王陛下に、行商人は席を外してもらえるようにお願いをした。


「わかった。ガウェイン、彼らを別室にお連れしろ」


 願いを聞き入れてくれた彼女は、癖毛の茶髪の男性に、行商人たちを連れて行くように言う。


「御意。皆さん、申し訳ないのですが、こちらまで来てもらっても構いませんか」


 この場に居た五人は、何が起きたのかが理解できていない様子で、互いに顔を見合わせる。


 だけど王の命令に背く訳にはいかないと思ったのか、彼らは無言のままガウェインの指示に従い、この場から離れる。


「ちょっと待ってくれ。落ち着いて話し合おうではないか」


 エドワード伯爵は、額から冷や汗を流しながら、足を一歩前に踏み出す。


「近づかないでくださいと言いましたよね。(まじな)いを用いて我が契約せしドライアドに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイヴィースネーク」


 タマモが素早く呪文を詠唱すると、空いていた窓から城の中にツタが入ってくる。


 そして瞬く間に男の身体に絡みつき、彼の動きを封じた。


『本当は亀甲縛りをしたいのだけど、あのオッサンにしても逆にキモくなるだけだから止めたわ。ねぇ、デーヴィットなら萌えるから後でやってもいい?』


 いい訳がないだろう!


 脳に直接響くドライアドの言葉に対して、俺は心の中で叫ぶ。


 シリアルな雰囲気が壊されたような気がして、俺は若干の脱力感を覚える。


「いきなり拘束するとは卑怯な!俺はただ話し合おうとしただけではないか」


「それ以上は口を開かないでください。(まじな)いを用いて我が契約せしドライアドに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイヴィーウイップ」


 ゴミを見るような冷ややかな視線を伯爵に向けると、タマモは再び呪文を詠唱。


 彼を拘束していたツタの一本が男から離れると、鞭のようにしなやかに動き、勢いよく伯爵の顔面に叩きつける。


「ギャン!」


 そうとう勢いよく当たったようで、伯爵の顔面にはツタの跡がくっきりと残り、赤く腫れている。


「顔は、顔だけは止めてください。やるのであれば尻を!」


 顔面を思いっきり叩かれて頭が可笑しくなったのか、エドワード伯爵は尻を叩くように彼女に要求してくる。


「どうしてあなたの言うことを聞く必要があるのですか?そんなに顔が嫌なら、熟れたトマトのように真っ赤になるまで叩き込んであげますよ」


「お前たち、その男が生理的にも気持ち悪いのは認めるが、それ以上攻撃しては、ブサイクな顔が更に酷くなる」


「女王陛下、助けるならもっと気の利いたセリフを言ってください」


「黙れ!俺は元々からお前が嫌いだ。実際お前がどうなろうと構わないが、玉座の間を汚しては、メイドたちが可哀そうだろうが」


「俺よりもメイドの心配をしている!」


「それで、このクズがお前たちに何をしたんだ?」


 モードレッドがこちらに向かてくると、振動で金髪のポニーテールが揺れた。


「その男は、ワタクシの同胞の女性を攫い、性奴隷として売買しようとしていたのです」


「よし、今からこの男の首を斬り落とすぞ」


 タマモが説明をすると、女王陛下は淡々とした口調で男の首を斬ることを宣言し、剣のグリップを握って鞘からロングソードを抜く。


「ちょっと待ってください!これには事情があるのです!」


「事情もクソもあるかよ。お前がクズだということは最初から知っていたが、まさかそこまで落ちぶれていようとはな」


「お願いだから話を聞いてくだされ」


 伯爵は目に涙を溜めながら懇願してくる。


「まぁ、いいだろう。とりあえずは、今直ぐに首を斬ることは止めておこう」


「ありがたき幸せ!」


 モードレッドのご機嫌取りをしようとしているのだろうか。


 エドワード伯爵は、大袈裟な態度で彼女に礼を言う。


「いいからその理由を話してくれ」


 彼の一言を聞く度に嫌気がさしているのか、女王陛下は右手を額に置きながら、理由を語るように促す。


「信じてもらえるかわからないのですが、俺って一応伯爵ではありますが、落ちぶれ貴族でしょう?亡くなられたアルテラ王の厚意で、どうにか平民にならずにすんでいますが」


「前口上はどうでもいい。結論から話せ」


「全てあの男のせいなのです。ロンドン大陸から来たという男が、俺にいい商売があると言ってきて、これに成功すれば貴族として、もう一度成り上がれると言ってきたのです。ご先祖様が築き上げてきた栄光を、俺の代で失いたくない思いでやってしまった所存なのですよ」


 早く本題に入るようにモードレッドは促すと、エドワード伯爵は、エルフを攫って商売を行おうとした理由を述べる。


「ロンドン大陸だぁ?どうして別の大陸に住む人間が、お前のところに来るんだよ」


「それは俺にもわかりませんよ。急にふらっとやってきて、儲け話をすると、いつの間にかいなくなっていたのですから」


「顔は?どんなやつだった」


「それが、フードを被って、仮面をつけていたので、容姿のほうは全然分かりません。ただ、声が低かったので、男だということだけは分かっています」


「たく、全然使えないじゃないか」


 苛立ちを感じているのか、モードレッドは頭を掻き毟る。


「面目もございません」


「というのが、こいつの言い訳だがどうする」


 女王陛下が、エドワード伯爵をどうしたいのか尋ねてきた。


 俺はタマモに視線を向ける。


 これは伯爵とエルフ族の問題だ。


 判断は俺ではなく、エルフ族の長の娘であり、巫女のタマモに一任すべきだ。


 目で彼女に訴えると、タマモは一歩前に出る。


「理由はわかりました。ですが、どんなわけがあろうと、エルフの女性を拉致して販売しようなどと言語道断。そう簡単には許すことができません」


「本当に申し訳ないと思っております」


 拘束されたまま、エドワード伯爵は頭を下げると、床に顔を近づける。


 土下座をして誤っているつもりなのだろう。


「頭を下げても許すわけにはいきません。あなたのせいで多くの同胞の心に傷がつき、今も苦しんでいるのですよ」


「そこを何とか!命だけは取らないでいてくだされば、靴を舐めますので!」


 頭を下げたまま、エドワード伯爵はとんでもない発現をする。


 彼の言葉を聞き、頭の中で想像でもしたのだろうか。


 彼女の腕は緊張と興奮、それにストレスによって交感神経が乱れたようで、脳が緊張状態となり、反射的に立毛筋が逆立ち、ひとつひとつの毛穴が収縮して、周囲の皮膚が盛り上がってしまっている。


『タマモの手、鳥肌が立っている。何を想像したのかしら』


 クスクスと笑い声を漏らすドライアドの声が、俺の脳内に響く。


 必死になって生きようとする彼の態度を見ると、なぜか憐れんでしまう。


 伯爵とタマモの問題だから、口出しをすべきではないと考えていたが、俺は彼女に声をかけることにした。


「なぁ、タマモ、彼を助けてやれないか?」


「どうしてそんなことを言うのですか!あの男が女性エルフにしてきたことを、忘れたわけではないでしょう!」


 俺の言葉が衝撃的だったのだろう。


 彼女は驚いた表情をすると、緑色の瞳のある目で睨んでくる。


「確かに伯爵がしたことは覚えているし、許せない。だけど殺したからと言って、それで本当にタマモの気が晴れるとは思えない。復讐を果たしたことで残るものは負の連鎖だけだ」


「ならどうしろと言うのですか!」


「彼にはロンドン大陸に向って情報を集めてもらう。そして、エルフを売買しようとした男の尻尾を掴ませるんだ。伯爵だって一応被害者だ。なら、あの計画を企てた男にこそ、本当の罰を与えるべきなのではないのか」


 俺とタマモはしばらく見つめ合う。


 視線を逸らしたほうが負け、そんな気がして、俺は彼女から目線を動かすことができなかった。


 目を逸らすのを我慢していると、タマモのほうが根負けしたようで、目線を下げると溜息をついた。


「わかりました。確かにデーヴィットさんの言うことにも間違いはありません」


 どうやら理解してくれたようだ。


 タマモはツタで拘束された伯爵に顔を向ける。


「デーヴィットさんに感謝をしなさい。今彼が言った言葉を聞きましたね。ロンドン大陸に向かい、真の黒幕を探るのですよ」


「ありがとうございます。デーヴィット王子。このエドワード、命を救ってくださった御恩は一生忘れません」


 どうにか一つの問題を解決に導くことができ、俺はホッとする。


「カレン、アイテムボックスを貸してくれ」


「いいけど、何を取り出すの?言ってくれれば私が出すけど」


「なら、例の計画書の紙を出してくれ」


 カレンがバスケットの中に手を突っ込み、一枚の紙を取り出すと俺に手渡す。


 あのときエミが握りつぶしていたので、皺がよっていたが、どうにか読むことはできる。


 この計画書には、媚薬の調合法と、取引先の奴隷商の名前も書いてある。


 奴隷商、アガルタ。


 聞いたことのない店名だが、どこの奴隷商なのだろうか。


「エドワード伯爵、奴隷商アガルタについて何か知っているか?」


「アガルタは俺にエルフ売買計画を持ちかけた男が紹介してくれた奴隷商だ。ロンドン大陸に本店がある」


 ロンドン大陸に奴隷商の本店がある。


 普通に考えれば、彼の言っていた仮面の男はアガルタの関係者と見ていいだろう。


 俺はもう一度、計画書に目を通す。


「もう一つ聞きたいことがある」


「何ですか?何でも聞いてくだされ」


「お前がエルフたちに使っていた媚薬だが、あれはどうやって手に入れた?」


「あれは原材料であるナマコに牛の睾丸、サフランを混ぜて作ったものです。完成したものは一度仮面の男に渡し、数日後に帰ってきたものを使用していました」


 伯爵の説明を聞いて俺は納得した。


 彼が言った原材料は、この契約書に書かれてあるものだ。


 ナマコは精のつく食品であり、強壮にも効果がある。


 そして牛の睾丸は、精力増強作用がある。


 最後のサフランは、調味料として使われているが、媚薬としても重宝されているのだ。


 だが、媚薬というのはあくまで失った精力を補う程度の効力しかない。


 作り話のように、催淫効果がないのが普通だ。


 ということは、何も変哲もない媚薬に仮面の男が手を加えたことになる。


 そうでもしなければ、捕らえられていたエルフたちがあんなにも従順になっているわけがない。


 仮面の男に奴隷商アガルタのあるロンドン大陸、そっちも気になるが、俺はオケアノス大陸の魔王から、母さんの隠している秘密を聞かなければならない。


 しかし、セミラミスからは、いつまでに来るようにとは言われていなかった。


 別に後回しにしても構わないかもしれない。


 さて、どちらを優先すべきか。


 少し考えてみると、俺は先にオケアノス大陸に向かうべきと判断した。


 元々は罪を償うために伯爵が向かうことになっている。


 そっちのことは彼に任せよう。


 だけど、彼一人で本当に大丈夫なのだろうか。


 何故か一人で向かわせるのはよくない気がしてきた。


 俺は振り返ると、クラシカルストレートの女性に視線を向ける。


「なぁ、ジルとランスロットを伯爵に同行させようと思っているが大丈夫か?」


「問題なかろう。余が命令を下せば、ランスロット卿もジル軍師も、首を縦に振るはずである」


「ありがとう。あとで伝えておいてくれ」


 レイラにお願いごとを言うと、俺は再び伯爵のほうを見る。


「エドワード伯爵、君にジルとランスロットをつける。明日にでも三人でロンドン大陸に向かい、アガルタ奴隷商のことについて調べてくれ」


「わかりました。この拾った命、デーヴィット王子のために使わせてもらいますぞ」


 ツタで身体を縛られたまま、エドワード伯爵は胸を張った。


 これで一応話は纏まった。


 そろそろ商人たちを呼んで来てもいいだろう。


「モードレッド」


「わかっている。ガウェイン、扉の前で待機しているだろう。商人たちを連れて来てくれ」


「了解しました」


 扉越しにガウェインの声が聞こえ、遠ざかっていく足が耳に入る。


 しばらくして席を外してもらっていた五人の商人たちが戻ってきた。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 そして、ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます。


 今日で四日連続でブックマーク登録をしてもらっております。


 さすがに四日連続はないだろうと思っていたので余計に驚いています。


 まぁ、さすがに四日まででしょう。


 五日連続は夢を見すぎなような気がしますね。


 ですが、これも毎日読んでくださっているあなたがいるからこその結果だと思っております。


 本当に心から感謝しております。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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