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第二十四章 第六話 女王陛下と書庫

 馬車が暴走するというトラブルがあったが、どうにかガリア国の城下町に着いた。


「なんと、これがあの城下町なのか!話は聞いておったが、実際に見るとここまで酷いとは!」


 城下町の様子を見るなり、レイラが驚きの声を上げる。


 三日前、この町ではメフィストフェレスの魔法により、多くの民や兵士が犠牲になった。


 その惨劇の痕がまだ痛々しく残っており、一部の建物は崩壊し、壁には血痕のあとが残っている。


「アリスさん見てはいけません。手を引っ張ってあげますから、フードを深く被っていてください」


「わ、わわ、見えないのです」


 アリスに悪影響を齎すと判断したのだろう。


 タマモはフードの縁を掴むと、アリスの目元まで隠す。


「さすがにお店はやっていないと思う。セプテム大陸で探すなら、フロレンティアの町に戻って探したほうがいいと思うのだけど」


 周囲を見渡し、町の様子を窺ったエミが、フロレンティアの町に向かうことを提案する。


「俺もできることならそっちがよかったけど、フロレンティアまでは馬車を使っても片道三日以上かかってしまう。三日後に来るフォーカスさんとの合流には間に合わない」


「とにかく歩いてみないかい?このまま突っ立ていても、ただ時間をムダに消費するだけさ」


 ライリーが先に進むように促す。


 彼女の言うとおりだ。


 このまま留まっていても、変わらない風景が広がるばかりだ。


 奥のほうに歩いていれば、何か違ったものが見えるかもしれない。


「とにかく城のほうに向って歩いてみようか」


 城のある方角に向うことを仲間たちに告げ、俺は再び歩き出す。


 野営地で皆を探していたときには、モードレッドの姿が見えなかった。


 おそらくガリア国に帰っているかもしれない。


 俺が困ったときには力を貸してくれると、彼女は約束してくれた。


 なら、事情を話せば協力してくれるかもしれない。


 城に向けて歩いていると、中央広場に人だかりができているのが見えた。


 遠目から見た感じだと、生き残った城下町の民とガリア国の兵士たちのようだ。


「慌てないでください。物資は十分に用意してあります。順番に並んでください!」


 茶髪で癖毛の男が、民たちに並ぶように指示を出している声が聞こえてくる。


 ここからでも聞こえるということは、相当大きな声を出しているのだろう。


 俺は彼に近づく。


「あ、皆さん」


 俺が声をかけるよりも早く、男は自分たちに気づくと駆け寄ってきた。


「ガウェイン、これは城下町の民への配給かな?」


「そうです。女王陛下……いえ、皆さんにはモードレッドと言ったほうが伝わりますね。彼女の指示で、城の食糧庫に残っている食料を配っているのですよ」


 ガウェインは俺から視線を外すと、遠くを見るように目線を変える。


「あの男は来ていないようですね」


「あの男?」


「ランスロットです。私は彼が本者のランスロットではないことを知り、怒りに身を任せたせいで負けました」


 俺はそこにいなかったので、どんなことが起きていたのかはわからないが、想像することはできる。


 きっと、衝撃過ぎて感情がぐちゃぐちゃになっていたはずだ。


「彼を殺した魔物を恨んでいるか?」


 レイラの前だと分かっているが、俺は聞かずにはいられなかった。


 ガウェインは腕を組み、視線を落とす。


「正直に言うと複雑な心境です。友とすれば当然許せないのですが、騎士として考えれば、殺した相手よりも彼が弱かったから、負けてしまったと割り切れることもできるので」


 彼は組んだ腕を元に戻すと、左手を腰に置く。


「彼に会ったのなら、ギネヴィアが感謝していたことをお伝えください。あの戦いを通して、彼女の止まっていた時間が再び動き出しました。さすがにランスロットのことは簡単には忘れられないでしょうが、時間が経てば彼女の心の傷は癒えていくと思いますので」


「了解した。ランスロット卿には余から伝えておこう」


 話を聞いていたレイラが、ランスロットに伝えることを言うと、彼は笑みを浮かべる。


「そういえば、皆さんはどのような要件でガリア国に来たのですか?女王陛下にお会いしに来られたのでしょうか?」


「実は――」


 俺はガウェインに、オケアノス大陸に向かうこと、獣人族に警戒されないように、変装をするためのアイテムを探していることを説明する。


「そうでしたか。なら、早ければ明後日には物資を運んでくる行商人たちが来ることになっています。もしかしたら皆さんが求めている物を持って来てくれているかもしれません」


「明後日か。ありがとう」


「ガウェイン団長、最初に用意していた分の配給がなくなりそうです」


 彼の部下だと思われる兵士が、ガウェインに配給が少なくなっていることを告げる。


「わかりました。すぐに用意しましょう」


 兵士に返事を返すと、彼はもう一度俺たちに視線を向ける。


「私は今から城に配給を取りに向かうのですが、皆さんもよろしければ一緒に来てください。女王陛下もきっと喜びますよ」


 城に招待をしてもらえることになり、俺たちは彼の後ろをついていき、ガリア城に向かう。


 城下町は建物などが半壊や全壊などになっていたが、城には被害が出ていなかったのか、見た目は綺麗でどこにも攻撃を受けた痕跡がない。


 ガウェインが扉を開けて中に入るが、内部も荒らされてはいないようだ。


 カーブを描いている階段を上り、とある扉の前に案内される。


「ここが玉座の間となります。私は配給の物資を運びに行くので、ここから先は皆さんだけで行ってください」


 軽く頭を下げると、ガウェインは踵を返して俺たちから遠ざかる。


 俺は皆と目を合わせると、彼女たちは無言で頷く。


 そしてゆっくりと扉を開けた。


「ノックも声もかけないで、この部屋に入ってくるバカが入ってきたかと思ったが、デーヴィットたちじゃないか」


 中に入ると、玉座に座っていたこの国の女王が声をかけてくる。


 彼女は金髪の髪をポニーテールに纏め、銀の鎧を身につけながら、青い瞳で俺たちを見ていた。


「謁見の約束もなく、いきなり訪れてしまってすまない。モードレッド」


「俺とデーヴィットの仲だ。そんな細かいことは気にしない」


 モードレッドは立ち上がると、こちらに歩いてくる。


 周囲が物静かだからか、彼女が歩く度に鎧の振動でカシャーンと音が響く。


「今朝会ったばかりだが、よく来てくれた。歓迎しよう」


 ガリア国の女王が手を差し伸べる。


 俺は彼女の手を握り、握手を交わす。


 モードレッドは顔以外を鎧で覆っており、彼女の素肌ではなく、ガントレットの硬い感触が手に伝わった。


「なぁ、ひとつ聞いていいか?」


「どうした?言ってみろ」


「どうして鎧を着ているんだ?」


 今から訓練でも、戦をするわけでもないのに、身体の殆どを鎧で覆っている彼女に疑問を抱く。


「ああ、今の俺の恰好な。どうも、貴族の服っていうのが性に合わなくてよ、城の中では普段から鎧を着ていることが多かったから、こっちのほうが落ち着くんだ」


 鎧を着ていることの理由を聞き、俺は納得する。


「なぁ、オルレアンの王子から見て、今の俺はどうだ?王でありながら騎士の恰好をしていて変ではないか」


 自分の恰好が周囲からどう映るのかが気になっているようだ。


 彼女は若干頬を赤らめ、俺に尋ねてくる。


「別にいいんじゃないか。騎士王っていうのも全然ありだと俺は思う。寧ろ、男の俺からすれば憧れる」


「そうか。お前が言うのなら、問題なさそうだな」


 モードレッドは満面の笑顔を俺に向けると、彼女の白い歯が見えた。


「それでガリア城を訪れた理由は何だ?ただ俺に会いに来てくれただけではないだろう?」


「ああ、もちろんそうだ」


 俺はガウェインに話したことと同じ内容を、もう一度話す。


「なるほどな。わかった。検問所の兵士には、それ関係の品物を持っている場合は、無条件で城に通すように言っておこう。それにしても随分とマニアックな品物を求めているな」


「仕方がないだろう。獣人族は人族に対して友好的ではないのだから。魔王セミラミスの情報を得るためにも、獣人族の情報提供は必須だ」


「そうか。なら、俺からもひとつ提供できる情報がある。着いて来てくれ」


 俺の横を通り過ぎると、モードレッドは扉のほうに向っていく。


 彼女の後ろを歩き、導かれるまま一階の廊下を歩いていると、突き当りにある扉の前で彼女は止まる。


 扉の横にあるネームプレートには、書庫と書かれてあった。


 女王陛下が扉を開け、彼女に続いて俺も入る。


 書庫には多くの本棚が置かれ、びっしりと本が収納されてある。


 書庫の中はとても広い。


 オルレアンの城にも書庫は存在していたが、倍の広さがありそうだ。


 いったいどれだけの本が、この書庫内にはあるのだろうか。


 書庫内は誰もいないのか、シーンと静まり返っている。


「たくさんの本があるのです。でもどれも難しそうなものばかり。わたしが読めない文字もあるのです」


 沈黙を破るように、書庫内に入ったアリスが部屋の広さと本の数に驚き、はしゃぎだすと本棚に入っている本を見て回った。


「アリスさん、お行儀が悪いですよ。書庫内は静かにしませんと」


 子供らしい反応を示すアリスに対して、タマモが注意を促す。


「アリスちゃんじゃないけど、はしゃぎたい気持ちは分かるわ。もしかしたら、新しいデバフ系の魔法のヒントになるものがあるかもしれない」


 エミが書庫内を見て感想を口にする。


 確かに彼女の言うとおり、これだけの本があれば、もしかしたらエミやレックスの世界から持ち込まれた書物が眠っているかもしれない。


 それらを見つけることができれば、新たな魔法を誕生させることができるかもしれない。


「気になるのなら、本を読んでいてもいいぜ。俺が案内するのはこの先だからな」


 モードレッドが指を差した。


 彼女の手が向いている方向に視線を向けるが、その先にはただ壁があるだけで、扉などはない。


「この先って、別に扉があるわけではではないじゃないかい?どこに向かうっていうんだい?」


 俺が思った疑問を、代わりにライリーが尋ねてくれた。


「まぁ、見ていな。これから向かう場所は、ガリア国の王しか知らない禁書庫だ」


 モードレッドは壁に向かって歩くと、壁に手を置く。


「我がガリア国の王の名にて命ずる。隠された歴史を解き放ち、我に英知を授けたまえ」


 モードレッドが言葉を放った瞬間、壁が二つに分かれる。


 すると、地下への階段が出現した。


「親父の部屋を整理していたら偶然にもこの部屋のことを知ってさ。中に入ったら凄いものを見つけてしまった。闇の中に葬り去られたこの国の裏の歴史が奥に眠っている」


 地下へと通じる階段を見て、俺は唾を飲み込む。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 最初の目標人数まであと一人となりました。


 本当にありがたく、心から感謝しております。


 もっと多くの方に読んでもらい、気に入っていける作品作りを心掛けていきます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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