第二十四章 第四話 獣人族の誕生と歴史
今回のワード解説
クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。
ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。
「それでは、タマモに引き続き、獣人族について話すが、だいたいの説明はタマモが語ってくれた。今の説明につけ加えるとするならば。獣人族たちに対して過去の歴史について尋ねるようなことをしてはならない」
「それってどういうことなの?」
エミが首を傾げて尋ねる。
「このような表現は獣人族に対して差別的な言い方になってしまうが、適切な言葉が思いつかないのであえてこのような表現をさせてもらう。獣人族は可愛そうな存在だからだ」
「デーヴィットさん、獣人族が可哀そうな存在とはどういうことなのですか?」
「もともと、この世界の歴史には獣人族は存在していなかった。彼らがこの世に誕生したのは今から千六百年ほど前だ」
「千六百年前だと言うと、貴族などの金持ちが奴隷を持っているのが当たり前だった時代ね」
カレンが右手人差し指を顎に乗せ、歴史を思い出すように言う。
「そう、今も奴隷制度は存在するが、当時のように厳しくはなかった。貴族やその他の金持ちはたくさんの奴隷を抱え、労働力としてこき使っていた」
『まるで今の俺ではないか。さんざんデーヴィットにこき使われている。やりたくもない仕事を無理やりやらされているだからな』
再びレックスが話の腰を折ってくる。
俺はいい加減にしてもらおうと笑みを浮かべながら彼を見た。
「レックス、いい加減にしてくれないとまた仕事を頼むよ。今度は城にいる母さんにだ。母さんは城からは出ない。かなりの重労働になるぞ」
『ヒッ!レ、レイラ助けてくれ、あの男が労働基準法を無視しやがる』
意味の分からないことを言いながら、レックスは助けを求めようと、赤髪のクラシカルストレートの女性に向かう。
「鳥如きがレイラ様に近づくな」
彼がレイラの胸に飛び込もうとする寸前、彼女の隣に座っていたランスロットが、片手で鳥の身体を鷲掴みにした。
「おのれ、ランスロット。お前まで俺とレイラの仲を邪魔する気か」
「サンキュウ、ランスロット。悪いが話が終わるまでそいつの嘴を塞いでくれないか」
「まぁ、いいだろう」
「悪かった……もう……余計な……ことはしゃべらない……から……許して」
黙らせるようにお願いをすると、彼は手に力を入れたようで、レックスの声が次第に弱く、小さくなっていく。
「だそうだが、どうする?レックスは目から涙を流しているぞ」
反省の言葉を述べている彼を解放するべきか、ランスロットが俺に尋ねる。
「泣いている相手を虐めるのはよくない。解放してくれ」
ランスロットに離すように言うと、彼は手を放して鳥を解放する。
レックスの身体は重力に引っ張られ、台の上に落下した。
『いつか……この屈辱を晴らして……やる』
気を失ったのか、レックスは声を上げなくなった。
身体が僅かに上下に動いているところを見ると、死んではいない。
うるさいやつが大人しくなったところで、俺は続きを話すことにする。
「当時は緩い奴隷制度で、金持ちが奴隷を持っていたが、とある貴族が娯楽間隔で奴隷の人間と、動物をまぐわさせた。その結果、誕生したのが半人半獣の獣人だ。そしてその噂を聞いた貴族たちが面白がり、自分たちのところでも獣人を作った。それが獣人族の祖先だ」
「過去のできごととは言え、聞いていて気分がいい話ではないわね」
顔を俯かせながら、カレンはポツリと言葉を漏らす。
「確かにそうだな。まだ獣人族の歴史については、ほんの最初のほうを語っただけだけどどうする?」
カレンがあまり聞きたくなさそうな表情をしていたので、中断したほうがいいのかを彼女に尋ねる。
「続きを話して。これから獣人族の大陸に行くのだから、最後まで聞いていたほうがいいと思う」
続きを話すように促され、俺はアリスがいたことを思い出して彼女のほうを見る。
白髪のセミロングの幼女は、内容を理解していないようで、キョトンとしていた。
これならこのまま話を続けても問題ないだろう。
「最初は貴族たちの間でブームとなっていたが、当然流行り廃りはある。貴族たちは獣人を誕生させることに飽きてしまった。すると、貴族たちは変わってしまう。今まではペット感覚で身近に置いていたが、飽きてしまうとその容姿がおぞましく感じられた。人とも獣とも違う中途半端な存在におぞましさを感じ、迫害の対象となった」
「なんて身勝手なのですか!あのような愛くるしい存在を誕生させておいて、必要がなくなったら扱いを酷くするなんて!」
俺の説明を聞いて怒りの感情が爆発したのか、タマモが台を強く叩くと立ち上がり、身を乗り出す。
「落ち着け、興奮しすぎだ。タマモが怒ってもどうしようもない。過去に起きた歴史なのだから」
彼女を宥めると、タマモは我に返ったようで、一度咳払いをすると着席しなおす。
当時の貴族たちに対して怒りたい気持ちもわかる。
初めて獣人族の歴史を知ったとき、俺も彼女のような反応をしてしまった。
「続きを話すが、迫害を受けた獣人たちは自分たちが住める土地を探した。海を渡り、辿り着いたのがオケアノス大陸だ。そこには運よく人族は住んでおらず、彼らはやっと安寧の地を手に入れたというわけだ」
「なるほどねぇ、過去のできごとだから今はどうなっているのかは知らないけど、それだとヤバイんじゃない。エルフの森に行ったときのように攻撃されてしまうかもしれないわ」
腕を組みながら、エミがエルフの森に入ったときのことを言う。
「あれは伯爵が同胞を攫っていたからです!あの事件がなかったら、穏やかに出迎えていました」
エミの発言が気に障ったのか、タマモが抗議の声を上げた。
「だが、どちらにしろ何かしらの対策は取るべきであろう。何も考えないで向かえば、最悪の展開が起きたときに対処のしようがない」
何か対策を取るべきだとレイラは言う。
「それは分かっている。レイラの言うとおりだ。そこでだアレを使ってみようと思う。カレン、アイテムボックスを貸してくれ」
カレンからバスケット型のアイテムボックスを受け取り、俺は蓋を開けて中に手を突っ込む。
そして二つのカチューシャを取り出した。
ひとつは猫耳、そしてもう一つはキツネ耳がついている。
「それは、フロレンティアの町のバザーで買ったやつですね。荷物になるので、アイテムボックスの中に入れていたのですが」
俺が取り出したケモ耳カチューシャを見て、タマモが説明口調で語ってくれた。
「そう。悪いが、もう一度このカチューシャをつけてくれるか」
猫耳のほうをアリスに渡し、キツネ耳をタマモに手渡す。
受け取った彼女たちは何も言うことなく、素直にケモ耳カチューシャを頭に嵌めてくれた。
「言われた通りに頭に装着しましたが、これをどうするつもりですか?」
どうするつもりなのかをタマモに問われたが、俺は彼女の言葉を無視してじっくりとキツネ耳のカチューシャをつけているエルフの女性を見る。
「そんなに見つめられると恥ずかしいのですが」
ジロジロと見られ、恥ずかしい思いをしたのか、彼女は頬を朱色に染める。
耳の位置は悪くない。
本物を再現しているかのようにピッタリだ。
だけどエルフ特有の長くて大きい耳が邪魔している。
「なぁ、髪で耳を隠すことってできるか?もちろんカチューシャの耳のほうではないからな」
誤解しないように一応注意をしつつ、彼女にお願いしてみる。
「こういう感じでよろしいでしょうか?」
俺の指示に従い、タマモは金色の長い髪を触り、自身の耳を覆い隠す。
ぱっと見は隠れているので、細かく観察しなければエルフの変装だとバレなさそうだ。
「アリスもこんな感じで耳を隠せるか?」
「やってみるのです」
アリスにもタマモと同じようにしてもらえるようにお願いをすると、彼女もどうにか隠すことができた。
アリスとエミは同じ髪形のセミロングだ。
彼女も上手く隠せれるということは、エミも問題なく自身の耳を隠すことができるだろう。
そしてライリーとレイラも同じ理由で問題ないはず。
あとは女性陣の中で髪型が違うカレンだが。
「アリス、そのカチューシャをカレンに渡してくれないか?」
「はいなのです。カレンお姉ちゃんどうぞなのです」
頭に嵌めていた猫耳のカチューシャを、アリスは取り外してカレンに渡す。
「私も二人みたいにしないといけないの?たぶん問題ないと思うけど」
「俺も女性に関しては問題が生じないと思うけど、念のために確認をしたいんだ」
「もう、しょうがないわね」
あまり乗り気ではない様子をみせるカレンだったが、しぶしぶといった感じで猫耳カチューシャを頭に嵌める。
二人と同じように耳にかけていた髪を外すと、手櫛で髪の毛を整えながら耳を隠す。
「どう?上手く隠れた?」
「ああ、問題ない。協力してくれてありがとうな」
「よし、次は余の番であるな。カレンよ、そのカチューシャを渡してくれないか?」
「いや、レイラはしなくていいよ。タマモと同じで髪が長いから、結果が見えている」
レイラが意気揚々とカチューシャを求めたが、俺は必要のないことを彼女に告げる。
「やってみないと分からないではないか。デーヴィットだって確認のために、カレンにカチューシャをつけさせたではないか」
俺の言葉に不満を感じたのか、レイラは抗議をし始めた。
ロングとセミロングとミディアムの確認がしたかっただけだ。
彼女のクラシカルストレートはロングに入る。
これ以上は確認してもほとんど結果は変わらない。
だけど、ここでむりに突き放してはレイラが何をしでかすのか分からない。
ここは彼女の気が済むまでさせたほうがいいだろう。
「はぁー、わかった。そこまで言うのならカレン、レイラに渡してくれ」
溜息を吐きつつ、レイラに貸すようにカレンに言う。
「うむ。それでこそ余のデーヴィットである」
カレンから猫耳カチューシャを受け取ると、レイラは頭につける。
そして皆と同じように赤い髪で耳を隠し、右手を丸めて招き猫のようなポーズを取る。
「どうニャー?こんな余も可愛らしいであろうニャー」
「レイラ様、とてもお似合いです」
「レイラ様に似合わないものなど、この世には存在しない」
彼女のポージングを見て、ジルとランスロットが彼女を褒める。
確かに似合ってはいるが、俺個人としてはもっと相応しいものがあるのではないかと考えてしまった。
白い猫耳は可愛らしさを表現できるが、彼女の魅力を引き立てるのであれば、もっと大人っぽいヒョウなどの動物の耳が似合いそうな気がする。
「まぁ、似合ってはいるが、レイラがその猫耳をつけても、アンバランスな感じに思える。レイラの魅力を引き立てるのであれば、別のケモ耳カチューシャを選んだほうがいいような気がする」
「そうで……あるか」
正直に話すと、レイラは暗い表情を作り、猫耳カチューシャを外す。
「デーヴィット、貴様!レイラ様が落ち込んでしまったではないか!」
彼女の反応を見て、ランスロットが声を荒げる。
「ランスロット卿よいのだ。デーヴィットは正直に言ってくれたのだ」
落ち込んでいる様子のレイラを見て、もう少しいいフォローをしてやるべきだったのではないかと、俺は反省した。
「なぁ、レイラ?」
彼女に声をかけようとすると、顔を俯かせていたレイラがパッと顔を上げる。
「ということは、デーヴィットが余に相応しいケモ耳カチューシャを選んでくれるということであるな。これはデーヴィットから誘われたデートである。善は急げだ。今直ぐ城下町に向かうぞ」
どうやら俺の言葉を自分の都合のいいように解釈したようだ。
椅子から立ち上がるなり、俺のところに来ると腕を引っ張る。
「ちょっ、待ってくれ」
「いいから今直ぐ向かうぞ」
強引に引っ張られ、俺はレイラと一緒に作戦会議のテントから出る。
そういえば、レイラはガリア国の城下町が半壊していることを知らない。
あのような惨劇が起きていながら、空いている店はあるのだろうか。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。
また一歩目標ポイントに近づくことができました。
これからも気に入っていただける人が増えるように頑張っていきます。
そして、トータルユニーク数が九千を超えました!
これも毎日読んでくださるあなたがいるからこそ、毎日投稿が実現できている結果だと思っています。
本当にありがとうございます。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




